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第111話

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神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆

敬老の日の翌日、連休が明け平日になったので美晴みはるさんと病院へ行き医師せんせいに相談した。


「医者としてはリスクが有ることは勧められないですし、リスクが大きそうなことは止める事が大前提です。
 でも、心の問題は十人十色でどうしたら一番良いのかがわからないものでもあります。
 風邪や感染症などの病気なら栄養を摂って薬を飲んでゆっくり休んでなどと言ったセオリーが万人に有効ですけど、心の場合はその人の大事なものの優先順位で大きく変わりますからね。
 リスクが見えているので正直なところ勧めたくはないのですけど、岸元きしもとさんの妹さんがどうしても気になってしまうというのでしたら次の精神的な負担になることもリスクとして考えて、やってみるのも良いかと思います」


通り一遍の反対をされるかとも思ったけど、姉さんやハルとのビデオチャットで悪化が見られていないことなどもあり、思っていたよりは否定されることもなくやってみても良いのではないかという見解をしてもらえた。


「あと、神坂さんたちの状況を考えると、岸元さんの大学の夏休みが終わる前に様子見をしていた方が良いというのもあると思います。
 やはり、今の神坂さんの状況だと新しいことをするのであれば最初は岸元さんに側で見ていてもらいたいですからね」


たしかにここのところずっと一緒にいたから失念していたけど、美晴さんは大学生で今は夏休みなだけでもうすぐ明けるから1人で過ごすことも考えないといけない。

美波みなみと過ごすようにするにしても、最初は美晴さんに一緒に居てもらって僕がちゃんと普通でいられるのかを見届けてもらいたい。




医師せんせいから懸念はあるけどやってみても良いという見解をもらったので、美波と向き合うことにしようと美晴さんと申し合わせた。



◆岸元美波 視点◆

3連休が明けた火曜日、先週までと同様に二之宮にのみやさんがうちに来て一緒に勉強をしている。今は学校へ通っているわけではないので休日を合わせる必要はないけど、メリハリを付けるためにと言うことで平日は勉強をメイン、休日は息抜きで遊んだりしつつも勉強もやるというスタイルで慣れてきた。

やっぱり、ひとりじゃないのは甘えが出にくいし心強くもある。


昼食休憩で食事を食べ終わり、休みつつ二之宮さんと雑談をしていた時にお姉ちゃんから電話がかかってきた。


「あっ、お姉ちゃんから電話だ・・・ごめん、ちょっと出るね」


「はい、どうぞ。私のことはお気になさらないでください」


「ありがと。
 ・・・はい、美波です」


『もしもし、美晴です。今お話しても大丈夫?』


「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」


『うん、冬樹くんがね、美波と一緒に勉強をしないかって言っているのだけど、どうかしら?』


「え?
 冬樹が?
 一緒に勉強を?」


『そう、最近ビデオチャットでもやり取りしたけど、春華ちゃんたちとは関係が良くなってきているのに、美波とは上手くいかない感じになってしまったでしょう。
 せっかく冬樹くんの病状が良くなってきているのに、美波とだけ距離が離れたままなのは良くないなって思ってくれているの。
 それだったら学校へ登校していない者同士で一緒に勉強すれば良いのではないかって感じね』


「そう、冬樹がわたしとの事を考えてくれているんだね」


『そうよ。美波のことをこれからも長い付き合いになる大事な幼馴染みだと考えてくれているわよ』


「まぁ、お姉ちゃんと付き合うなら長い付き合いになるよね」


『別にそういう意味で言っているわけじゃないのよ?』


「まぁ、わかった。それって、わたしだけ?」


『そうね。病状が良くなってきていると言っても不安定な状況には変わらないし、美波だけが良いわね』


「わかった。それで、冬樹はいつからが良いって?」


『それは美波の都合で良いけど、冬樹くんは明日からでもどうかって言ってくれてるわよ。
 それに、平日に拘らず休日でも良いって』


「うん、わかった。すぐには決められないから後で返事をするね」


『わかったわ。それじゃあ、決めたら連絡をちょうだいね』


「うん、それじゃあ。バイバイ」


お姉ちゃんとの電話を切ってから二之宮さんに向かって話をした。


「・・・ってことで、冬樹と勉強をしたいから二之宮さんには申し訳ないのだけど、一旦今日までで今後は時間が合う時って事にしてもらえないかな?」


「岸元さんの気持ちはわかりますし、大丈夫ですよ。
 まずは、岸元さんがしっかり神坂君との関係を修復してくださいね」


「ありがとう。わたしが冬樹との関係を戻したら絶対二之宮さんも仲良くなれるようにするから!」


「ええ、それはぜひ期待させてもらいますね」



◆二之宮凪沙なぎさ 視点◆

岸元さんが冬樹から一緒に勉強をしようと呼びかけを受けてそちらを優先したいと打診してきた。

先約である私への配慮ではあると思うし、私は一歩引いて後押しをしたけど、恐らく私が先約だからと言ったところで冬樹を優先したのは容易に想像できる。

その話を私へした時の岸元さんの表情は私への優越感がチラついていて、気持ちを隠しきれなかったのだろうと感じられた・・・非常に腹立たしい。



最終的には私が冬樹と結ばれることになるにしても、その様な振る舞いをされたことは忘れられないと思う・・・
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