94 / 251
第94話
しおりを挟む
◆神坂冬樹 視点◆
夜になり姉さんとハルとビデオチャットをする約束の時間になった。もちろん、僕の隣には美晴さんがいてくれる・・・そして、またPCを挟んだ反対側にはみゆきさんが座ってこちらの様子を見ていた。みゆきさんについては、すっかりもうひとりの年齢が離れた姉という感じがしっくり来るまで馴染んできている。
「・・・と言うことで、また引っ越すつもりでいるし、二之宮には気を付けて欲しいんだ」
『わかった。たしかに冬樹の懸念も警戒もわかる。私達はそれだけ信頼を裏切ってしまっているからな』
「姉さんたちに悪意があるとは思っていないけど、そっちには美波もいるし、何かの拍子に美波、そしてその先の二之宮に話が行ってしまうかも知れないからいつどこへ転居するかは伝えないよ。
とりあえず、二之宮のストーカー行為を警戒して引っ越しを検討している以上の情報は共有しないし、僕も美晴さんもそっちへは当分行かないし、それ以外の場所でも当面は姉さんたちには会わないようにする」
『しょうがないよねー。フユの言いたいことはわかるもん。
今の美波ちゃんは、注意してても二之宮さんに何でも言ってしまいそうな感じだし、あたしも無意識に言ってしまうかもしれないもん。
知らない方が良いと思うよ』
『そうだな。人間誰しも間違えることがあるとは言え、ここのところの私達は間違えすぎているし、知らないことで迷惑をかけない様にリスクを減らす道を選ぶべきだな。情けなくもあるが・・・』
「私も夏菜ちゃんと春華ちゃんを信頼していないわけじゃないのだけど、美波がね・・・ほんと、ここまでどうしようもないとは思ってなかったわ。
側に居てくれるなら誰でも良いって感じになっているのが本当にダメよね。
だからこそ、ふたりには美波の側に居てもらいたいの・・・実の妹のことなのに押し付けてしまって申し訳ないのだけど」
『美波は私にとっても妹同然ですし、美晴さんが神坂の姉弟妹のことを見てくれてきたように、当然で自然のことですよ。
困った妹だとは思っていますけど・・・』
『そうだよ、美晴お姉。あたしにとっても美波ちゃんはもうひとりの双子の相方だよ。
間が悪かったから今はおかしな方向へ行っちゃっているけど、良いところもあるってわかっているから!』
「ふたりともありがとう」
『それにしてもフユさ、そんなに引っ越しとかして大丈夫なの?』
「その点なら全然問題ないよ。早く手放したい人から安く買っているからね。
この前まで住んでた秀優の近所のマンションは新しい買い主のローンも通ったから、引越し費用とか差し引いても500万円くらいの黒字になるよ」
『なんで、住んでいたのに利益が出るの?』
「前の売り主が現金が欲しいからと売り急いでて、早く買うなら安く売るって感じで売り出していたのをタイミングよく買ったし、僕は売り急いでいなかったから相場の価格で買い手を探しもらっていてその値段で買ってくれる人が居たって話」
『でも、安くするならフユの前に不動産屋さんが買っちゃえば良いんじゃないの?』
「不動産屋さんが買う場合は色々と制約があるから、買い取る場合は相当安くしないと赤字になってしまうんだよ。
例えると、ハルも時々お母さんにやってもらっているマンガやブルーレイを売る時と同じで、買取店に売ると新品で1000円の本でも買い取りが200円とかになるだろ?
でも、その本を買い取った店が店頭に出す時には800円とかになっていると思うんだけど、フリマサイトだと500円で売って1割の手数料をフリマサイトに支払うだけだろ?」
『そうだけど、それがどうして不動産でも同じなの?』
「同じだよ。不動産仲介って、フリマサイトみたいなもので、ここにこんな家を売りたい人がいますって不動産屋の専用サイトに登録してくれるけど、お金を払うのは買い主で、その人が出てくるまではいくら相場ならその値段だと言われても、それで欲しいという人が出てこないとお金にはならないんだよ。
また古本で例えるけど、この本なら500円で売れるだろうってフリマサイトに出しておいて、相場の金額なら1ヶ月とか待っていればその値段で買ってくれる人が出てくるのだろうけど、今すぐ今日にでもお金が欲しくて買い手をすぐに付けたかったら、相場より安く300円にするとかしてお得感を出すだろ?
不動産仲介業者は売手と買手から手数料をもらえるから、そこはフリマアプリと違うけど、ユーザー同士で結びついて売買契約をしてその場を用意したフリマサイト運営に手数料を払うのと同じようなものなんだけど、買い取りは違って不動産を持つこと自体が不動産屋さんにとっては売れ残りが出た時に損になるリスクがあるし、保有しているだけで税金も掛かるし、火災保険なんかにも入らないといけないけど、それらを全部負担しないといけなくなるから高くなってしまうので大幅に安く売られていないと買えないんだよ。
更に言うと、不動産屋さんが買い取った物件を売る時は会社のブランドイメージもあるから今まで誰かが使っていた家をそのまま売るわけにもいかなくてリフォームとかリノベーションをするのだけど、それをしたところでしょせんは中古住宅だから価値が極端に上がるわけでもないし、これらの費用も織り込んで買取価格は下げるんだよ。
古本屋でも、シュリンクしたりして見栄えを良くするでしょ?」
『ひぇえ、途中で脳が拒否しちゃったよ。まぁ、フユはそういった不動産を買う時に安くできるテクニック的なもので安く買えてたってことなんだよね?』
「ざっくり言うとそうだね」
今日は1時間くらいビデオチャットをしていたけど、悪い感じがちっともしない。気持ちが良い方向へ進んでいるのだろうと期待できるし、こういうところは血の繋がった姉妹だなと思うし、なんだかんだ言って信頼できると思っている。
精神科の医師がおっしゃる深層心理のメカニズムはよくわからないけど、信頼を裏切られたといういじけた気持ちの現れではないかのかなとビデオチャットを行うようになって思うようになっている。
あと、姉さんとハルには引っ越すことの匂わせはしたけど、具体的に決まったことはおろかするかどうかも明言を避けておいたし、その意図も汲んで理解を示してくれている。
◆岸元美晴 視点◆
夏菜ちゃん春華ちゃんとビデオチャットをやるようになって、冬樹くんの一人称が以前使っていた『僕』になることが多くなってきた気がする。
このあたりは変に自覚をさせて悪影響が出ると嫌なので本人には触れないようにしているけど、冤罪事件の全容が見えてきていることと、夏菜ちゃん春華ちゃんへの信頼感が戻ってきている雰囲気が良く作用している様に思う。
このままもっと前の様な冬樹くんに戻ってくれたら良いなぁ。
夜になり姉さんとハルとビデオチャットをする約束の時間になった。もちろん、僕の隣には美晴さんがいてくれる・・・そして、またPCを挟んだ反対側にはみゆきさんが座ってこちらの様子を見ていた。みゆきさんについては、すっかりもうひとりの年齢が離れた姉という感じがしっくり来るまで馴染んできている。
「・・・と言うことで、また引っ越すつもりでいるし、二之宮には気を付けて欲しいんだ」
『わかった。たしかに冬樹の懸念も警戒もわかる。私達はそれだけ信頼を裏切ってしまっているからな』
「姉さんたちに悪意があるとは思っていないけど、そっちには美波もいるし、何かの拍子に美波、そしてその先の二之宮に話が行ってしまうかも知れないからいつどこへ転居するかは伝えないよ。
とりあえず、二之宮のストーカー行為を警戒して引っ越しを検討している以上の情報は共有しないし、僕も美晴さんもそっちへは当分行かないし、それ以外の場所でも当面は姉さんたちには会わないようにする」
『しょうがないよねー。フユの言いたいことはわかるもん。
今の美波ちゃんは、注意してても二之宮さんに何でも言ってしまいそうな感じだし、あたしも無意識に言ってしまうかもしれないもん。
知らない方が良いと思うよ』
『そうだな。人間誰しも間違えることがあるとは言え、ここのところの私達は間違えすぎているし、知らないことで迷惑をかけない様にリスクを減らす道を選ぶべきだな。情けなくもあるが・・・』
「私も夏菜ちゃんと春華ちゃんを信頼していないわけじゃないのだけど、美波がね・・・ほんと、ここまでどうしようもないとは思ってなかったわ。
側に居てくれるなら誰でも良いって感じになっているのが本当にダメよね。
だからこそ、ふたりには美波の側に居てもらいたいの・・・実の妹のことなのに押し付けてしまって申し訳ないのだけど」
『美波は私にとっても妹同然ですし、美晴さんが神坂の姉弟妹のことを見てくれてきたように、当然で自然のことですよ。
困った妹だとは思っていますけど・・・』
『そうだよ、美晴お姉。あたしにとっても美波ちゃんはもうひとりの双子の相方だよ。
間が悪かったから今はおかしな方向へ行っちゃっているけど、良いところもあるってわかっているから!』
「ふたりともありがとう」
『それにしてもフユさ、そんなに引っ越しとかして大丈夫なの?』
「その点なら全然問題ないよ。早く手放したい人から安く買っているからね。
この前まで住んでた秀優の近所のマンションは新しい買い主のローンも通ったから、引越し費用とか差し引いても500万円くらいの黒字になるよ」
『なんで、住んでいたのに利益が出るの?』
「前の売り主が現金が欲しいからと売り急いでて、早く買うなら安く売るって感じで売り出していたのをタイミングよく買ったし、僕は売り急いでいなかったから相場の価格で買い手を探しもらっていてその値段で買ってくれる人が居たって話」
『でも、安くするならフユの前に不動産屋さんが買っちゃえば良いんじゃないの?』
「不動産屋さんが買う場合は色々と制約があるから、買い取る場合は相当安くしないと赤字になってしまうんだよ。
例えると、ハルも時々お母さんにやってもらっているマンガやブルーレイを売る時と同じで、買取店に売ると新品で1000円の本でも買い取りが200円とかになるだろ?
でも、その本を買い取った店が店頭に出す時には800円とかになっていると思うんだけど、フリマサイトだと500円で売って1割の手数料をフリマサイトに支払うだけだろ?」
『そうだけど、それがどうして不動産でも同じなの?』
「同じだよ。不動産仲介って、フリマサイトみたいなもので、ここにこんな家を売りたい人がいますって不動産屋の専用サイトに登録してくれるけど、お金を払うのは買い主で、その人が出てくるまではいくら相場ならその値段だと言われても、それで欲しいという人が出てこないとお金にはならないんだよ。
また古本で例えるけど、この本なら500円で売れるだろうってフリマサイトに出しておいて、相場の金額なら1ヶ月とか待っていればその値段で買ってくれる人が出てくるのだろうけど、今すぐ今日にでもお金が欲しくて買い手をすぐに付けたかったら、相場より安く300円にするとかしてお得感を出すだろ?
不動産仲介業者は売手と買手から手数料をもらえるから、そこはフリマアプリと違うけど、ユーザー同士で結びついて売買契約をしてその場を用意したフリマサイト運営に手数料を払うのと同じようなものなんだけど、買い取りは違って不動産を持つこと自体が不動産屋さんにとっては売れ残りが出た時に損になるリスクがあるし、保有しているだけで税金も掛かるし、火災保険なんかにも入らないといけないけど、それらを全部負担しないといけなくなるから高くなってしまうので大幅に安く売られていないと買えないんだよ。
更に言うと、不動産屋さんが買い取った物件を売る時は会社のブランドイメージもあるから今まで誰かが使っていた家をそのまま売るわけにもいかなくてリフォームとかリノベーションをするのだけど、それをしたところでしょせんは中古住宅だから価値が極端に上がるわけでもないし、これらの費用も織り込んで買取価格は下げるんだよ。
古本屋でも、シュリンクしたりして見栄えを良くするでしょ?」
『ひぇえ、途中で脳が拒否しちゃったよ。まぁ、フユはそういった不動産を買う時に安くできるテクニック的なもので安く買えてたってことなんだよね?』
「ざっくり言うとそうだね」
今日は1時間くらいビデオチャットをしていたけど、悪い感じがちっともしない。気持ちが良い方向へ進んでいるのだろうと期待できるし、こういうところは血の繋がった姉妹だなと思うし、なんだかんだ言って信頼できると思っている。
精神科の医師がおっしゃる深層心理のメカニズムはよくわからないけど、信頼を裏切られたといういじけた気持ちの現れではないかのかなとビデオチャットを行うようになって思うようになっている。
あと、姉さんとハルには引っ越すことの匂わせはしたけど、具体的に決まったことはおろかするかどうかも明言を避けておいたし、その意図も汲んで理解を示してくれている。
◆岸元美晴 視点◆
夏菜ちゃん春華ちゃんとビデオチャットをやるようになって、冬樹くんの一人称が以前使っていた『僕』になることが多くなってきた気がする。
このあたりは変に自覚をさせて悪影響が出ると嫌なので本人には触れないようにしているけど、冤罪事件の全容が見えてきていることと、夏菜ちゃん春華ちゃんへの信頼感が戻ってきている雰囲気が良く作用している様に思う。
このままもっと前の様な冬樹くんに戻ってくれたら良いなぁ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
166
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる