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ここは西の果て 恋する魔法姫は兄を身代わりに海を越える

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 その後、夕食が饗された。数種類の肉料理、スープに白いパン。リムは、意外にも落ち着いている。カトラリーにも動じない。
 「後でお話があります。」そっと席を外した。
 妹が、退出するのを待って、リムは
 「先生の実家って…。」とつぶやいた。
 「一応この国の、王族だよ。出稼ぎしてるけどね。」
 「俺、無礼なんじゃ…。」
 「気にしないでくれ。それに、今更だろ。」
 「そうですね…。あ、妹さん美人ですね。」 
 「騙されないようにな。食事は大丈夫か?食べられない物はないか?」
 「大丈夫です。美味しいです。」
 黙々と食べつつ、妹の要求とはなんだろうと考える。魔法を駆使して急がせる理由とは。
 「実は…。」と言いにくそうに切り出す。リムもいる。席を外します、と言っていたが、いいといった。
 「三日前、海洋調査団の代表が来たのです。私に、未知なる土地に向かう勇気と加護をとか言って。」
お綺麗な言葉で飾った、侵略行為…。力など貸せない。
 「代表は二人。彼らの一人は、典型的な鼻持ちならない貴族の男で、もう一人は従者でした。」
 「断ったのか。」
 「はい。」断ることはできる。力や加護を頼みに来る際、資格については通達してある。いくら貢物をもってこられても駄目なものは駄目なのだ。
 「で、何が気になっているんだ。」駄目、と断ったのなら、それでいいはずだが。
 「…。従者の方の死が見えたのです。」妹の顔は青ざめて歪んでいた。
 「私は、正しい選択をしたはずなのです。…けれど、今まで、こんなことはありませんでした。今まで、選択の先が見えることも、こんなに、こんなにむねが締め付けられることも。」
青ざめて歪んでいるのに。見たこともないほど美しかった。
 「どうしたいんだ。俺にどうしろと。」すべて打ち明けられた。恐らく父や母や兄にも打ち明けてあるのだろう。
 「私は、従者の方を追いかけます。」きっぱりと言い切る。
 「役目はどうするんだ?」三日前なら追いかけられるだろう。しかし、
 「お兄様にお願いします。」
 「待て待て待て。俺は男だ。」
 「一族の中で、私が唯一力の受け渡しできるのはお兄様だけなのです。」
 「一族の娘は?役目の他に社交もあるだろう?」
 「力の受け渡しの方が遥かに強いのです。」
つい、と白魚の手をのべて。
 「どうかお願いしますわ。お兄様。」ぐらりと。視界が揺らぐ。


 
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