67 / 73
受理不可
しおりを挟む
「じゃあ、ちょっと行ってくるから」
玄関で靴を履きながら、居間にいる両親へ向かって優里は大声で言った。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、優里!」
母親が慌てながら玄関へ小走りにやってきた。なにをそんなに慌てているのだろう。
「あなた、それで行くつもり?」
「それ……って?」
「その格好よ。それじゃ、いつも大学へ行くのと変わらないじゃない」
「ダメかなぁ……」
大学へはジャケット、ロンT、ストレートパンツ、そしてスニーカーだが、今日はスニーカーの代わりに革靴を履いた。それでも母親に言わせたら、いつもと変わらないらしい。
「聖吏もいつもと同じ格好で行くって言ってたから、大丈夫だって。それに、いまから着替えてたら遅れるし。じゃ、行ってきます! それと今日は神社の祭り、手伝えなくてごめん!」
「優里!」
これから聖吏と一緒に婚姻届を出しに役所へ行く。ネットで事前に調べてあるから、大丈夫。ただ書類は聖吏が用意をしてくれているらしく、まだ記入はしていない。現地で書けばいいやと思い、優里は少し早歩きで待ち合わせへと向かった。
役所へ行くと、すでに聖吏が待っていた。聖吏もいつも大学へ行くような格好で、少し安心する。たかが婚姻届を提出するだけなのだから、普段の格好で充分だ。それにネットで経験談を読むと、戸籍窓口に書類を渡すだけで数分で終わると書いてあったのがほとんどだった。
「聖吏!」
「……優里」
浮かない顔の聖吏。どうしたのかと聞いたら……「今日は受付できないらしい」と言った。
「えっ……そんなはずは」
婚姻届に関しては、日付の関係もあるから、24時間365日、受理だけはしてくれるとネットには書いてあったのだが。
「今日だけは無理って言われた。っていうか、張り紙がしてあった」
聖吏を信じていない訳じゃないが、ちゃんと目で見て確かめたくて、臨時窓口へ向かった。窓口へのドアには一枚の紙が貼ってあった。聖吏の言った通り、本日のみ婚姻届は受理できないと書いてある。
「なんで?」
しかも聖吏がネットで調べると、この役所だけの話ではなく、全国の役所で受付不可ということだ。
優里としては、別の日でも構わないのだが、聖吏と皇琥はどうするだろうか。そんなことを考えていたとき、よく知っている車が道路脇に停まろうとするのがちょうど目に入った。あれはーー。
「どうするか……」
ぼそっとひとり言をつぶやく聖吏に、車を見るように促した。運転席から出てきたのは、西辻だ。優里たちに気づいたのか、一礼をして近づいてきた。
「お迎えにあがりました、優里さん、聖吏さん」
「お迎え……って? それに皇琥は?」
「皇琥様が屋敷でお待ちです」
「いや、でも今日は婚姻届を出すはずで……」
「はい、存じております。しかし本日はどのお役所も婚姻届は受理されないかと」
落ち着いた西辻の態度から、この件は皇琥が噛んでいると察知した。聖吏もそれを感じ取ったようで、「優里、皇琥のところへ行くぞ」とだけ言って、車へ乗り込んだ。
玄関で靴を履きながら、居間にいる両親へ向かって優里は大声で言った。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、優里!」
母親が慌てながら玄関へ小走りにやってきた。なにをそんなに慌てているのだろう。
「あなた、それで行くつもり?」
「それ……って?」
「その格好よ。それじゃ、いつも大学へ行くのと変わらないじゃない」
「ダメかなぁ……」
大学へはジャケット、ロンT、ストレートパンツ、そしてスニーカーだが、今日はスニーカーの代わりに革靴を履いた。それでも母親に言わせたら、いつもと変わらないらしい。
「聖吏もいつもと同じ格好で行くって言ってたから、大丈夫だって。それに、いまから着替えてたら遅れるし。じゃ、行ってきます! それと今日は神社の祭り、手伝えなくてごめん!」
「優里!」
これから聖吏と一緒に婚姻届を出しに役所へ行く。ネットで事前に調べてあるから、大丈夫。ただ書類は聖吏が用意をしてくれているらしく、まだ記入はしていない。現地で書けばいいやと思い、優里は少し早歩きで待ち合わせへと向かった。
役所へ行くと、すでに聖吏が待っていた。聖吏もいつも大学へ行くような格好で、少し安心する。たかが婚姻届を提出するだけなのだから、普段の格好で充分だ。それにネットで経験談を読むと、戸籍窓口に書類を渡すだけで数分で終わると書いてあったのがほとんどだった。
「聖吏!」
「……優里」
浮かない顔の聖吏。どうしたのかと聞いたら……「今日は受付できないらしい」と言った。
「えっ……そんなはずは」
婚姻届に関しては、日付の関係もあるから、24時間365日、受理だけはしてくれるとネットには書いてあったのだが。
「今日だけは無理って言われた。っていうか、張り紙がしてあった」
聖吏を信じていない訳じゃないが、ちゃんと目で見て確かめたくて、臨時窓口へ向かった。窓口へのドアには一枚の紙が貼ってあった。聖吏の言った通り、本日のみ婚姻届は受理できないと書いてある。
「なんで?」
しかも聖吏がネットで調べると、この役所だけの話ではなく、全国の役所で受付不可ということだ。
優里としては、別の日でも構わないのだが、聖吏と皇琥はどうするだろうか。そんなことを考えていたとき、よく知っている車が道路脇に停まろうとするのがちょうど目に入った。あれはーー。
「どうするか……」
ぼそっとひとり言をつぶやく聖吏に、車を見るように促した。運転席から出てきたのは、西辻だ。優里たちに気づいたのか、一礼をして近づいてきた。
「お迎えにあがりました、優里さん、聖吏さん」
「お迎え……って? それに皇琥は?」
「皇琥様が屋敷でお待ちです」
「いや、でも今日は婚姻届を出すはずで……」
「はい、存じております。しかし本日はどのお役所も婚姻届は受理されないかと」
落ち着いた西辻の態度から、この件は皇琥が噛んでいると察知した。聖吏もそれを感じ取ったようで、「優里、皇琥のところへ行くぞ」とだけ言って、車へ乗り込んだ。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
モラトリアムの猫
青宮あんず
BL
幼少期に母親に捨てられ、母親の再婚相手だった義父に酷い扱いを受けながら暮らしていた朔也(20)は、ある日義父に売られてしまう。彼を買ったのは、稼ぎはいいものの面倒を嫌う伊吹(24)だった。
トラウマと体質に悩む朔也と、優しく可愛がりたい伊吹が2人暮らしをする話。
ちまちまと書き進めていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる