【本編完結】許婚ダブルブッキング?!それって、ありですか?

月柳ふう

文字の大きさ
上 下
26 / 73

静かなひととき(2)※

しおりを挟む
 テラスのリクライニングに仰向けに寝っ転がりながら、優里も聖吏と同じようにガラス屋根を見つめた。

 降り注ぐ雨は、リズム良くパラパラとガラスを打ち続けている。もし天気が良ければ、ここからは星空が見えるのに。

 聖吏の様子が気になって、首だけ動かして視線を向けた。端正な横顔。そして意外と、まつ毛が長いことに気づいた。青い瞳は真っ直ぐに上を見ている。そして鼻筋から口元を見たとき、とっさに視線をずらした。少し半開きになった口元が色っぽく見え、昼間のキスを思い出したからだ。このままだと、あらぬことを事を想像すると思い、話題を振ってみることにした。

「なぁ聖吏…、なに考えてんだよ。さっきから雨ばっか見て……」
「ん? 別に大したことじゃない。ただ……」
「ただ……?」
「……」

 優里に向けた聖吏の顔が、少し赤いように見えた。何を考えていたのだろう。

「結婚式って来月だろ?」
「あ、うん。そうみたい…だね。2週間後だって……」
「なんか他人事だな」
「だって、実感なくて…」
「……つまり、来月って……その、だな」
「あれ?」
「ほら、よくちまたでいうだろ……って」
「結婚、来月、巷で言う、あれ……、って、あー!」

 気づいた瞬間に顔が沸騰するんじゃないかというくらい、熱くなった。

 来月は六月。そう、巷で六月に結婚といえばーー。

 ーージューンブライド。

「優里は……、その…六月の花婿……いや、花嫁…だな」
「は、花嫁って!」

 なぜか花嫁と言うパワーワードに気恥ずかしくなって、反射的に顔を反対方向へ振った。でも聖吏の様子が気になって、もう一度、首を聖吏の方へ向けると、すぐ真横に聖吏がいた。

 顔が近い。

 聖吏が髪を撫で、両手で優しく顔を包みこんできた。真正面には深い青色の瞳。

 目が離せない。

 高鳴る心臓と、雨がガラス屋根を打ち付ける音。その両方の音しか聞こえない世界にいるような感覚に陥った。

 その二つの音の世界にそっと入り込むように、聖吏が耳元でささやいた。

「優里……愛してる」
「っ!」

 こくっと優里が頷き、小さな声で答えた。

 「……俺も……愛してる」

 優しくチュッと唇にキスが落とされた。この人と結婚するんだ、という実感がじわじわと湧いてくる気がした。

 両腕を聖吏の首にまわし、ちょっと力を込めて頭を引き寄せる。優里も首を少し持ち上げ、唇が触れ合った。聖吏が優里の頭とリクライニングチェアの隙間に腕を滑らせ、頭を支えた。相手の存在を確かめるように、ゆっくりと顔の角度を変え、口づけを交わす。聖吏の舌が優里の舌先を絡めとる。

「んっ!……ん……、しょ…う……り」

 つい、声が出てしまった。このテラスの近くの居間では二人の両親が話していると言うのに。でもきっと彼らは結婚式や、もう一人の許婚のことで話が盛り上がっていて、優里と聖吏のことなど気に留めていないだろう。

 舌を絡ませながら、徐々に上体を起こした。手を首から背中へ移動させ、しっかり抱き合った。いまや上半身はピッタリと密着している。

 やばい。これは、やばすぎる。

 聖吏も同じことを思ったのか、ほぼ同時に唇を離した。口元からは互いを繋ぐ銀の糸が垂れた。

「はぁ……聖吏、俺、やばいっ……かも」
「ああ、俺もだ……」

 このまま部屋へ直行したい。でもーー。

「……部屋……行くか? それとも俺の家……」

 聖吏の家には、いまは誰もいない。けど、このタイミングで(両親たちの会話に参加してない二人)、家を抜け出すには、少々面倒になりそうだ。それに外は雨。

「……部屋、でいいよ」

 手を繋いで、テラスからそっと抜け出した。居間の前の廊下を静かに通り過ぎ、なるべく音を立てないよう階段をのぼった。そして優里の部屋へと滑り込むようにして入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ

pino
BL
恋愛経験0の秋山貴哉は、口悪し頭悪しのヤンキーだ。でも幸いにも顔は良く、天然な性格がウケて無自覚に人を魅了していた。そんな普通の男子校に通う貴哉は朝起きるのが苦手でいつも寝坊をして遅刻をしていた。 夏休みを目の前にしたある日、担任から「今学期、あと1日でも遅刻、欠席したら出席日数不足で強制退学だ」と宣告される。 それはまずいと貴哉は周りの協力を得ながら何とか退学を免れようと奮闘するが、友達だと思っていた相手に好きだと告白されて……? その他にも面倒な事が貴哉を待っている! ドタバタ青春ラブコメディ。 チャラ男×ヤンキーorヤンキー×チャラ男 表紙は主人公の秋山貴哉です。 BLです。 貴哉視点でのお話です。 ※印は貴哉以外の視点になります。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

水面に流れる星明り

善奈美
ファンタジー
 齢千歳の白狐九尾狐の千樹が保護したのは、まだ幼い男の子だった。だだの人間の童だと思っていた千樹。だが、一向に探しにくる人間がいない。おかしいと思い頗梨に調べさせたところ陰陽師の子供であることが分かる。何より、その母親が有り得ない存在だった。知らず知らずのうちに厄介事を拾ってしまった千樹だが、それは蓋をしていた妖に転じる前の記憶を呼び起こす者だった。    今は閉鎖したサイト、メクるで公開していた作品です。小説家になろうの方にも公開しています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...