共鳴の彼方

月柳ふう

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終章

未来の波音

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 穏やかな波音が耳に届く。事件から1ヶ月が経ったこの別荘で、千影と一緒にいることがまだ少し信じられなかった。湊財閥が所有するこの美しい海辺の別荘は、全てを洗い流してくれるような静けさに包まれている。

「ずっとこうしていられたらいいのに……」

 そう心の中でつぶやきながら、知紘は手の中のアメトリンを見つめた。

 今回の事件と、双子事件。その発端となったのは、全てこの石だ。アメトリンに魅入られた櫂塚は逮捕されたものの、彼は半狂乱のままで、何も話さないらしい。まるでこの世にもう心を残していないかのようだ。そして、千影の叔父。再び行方をくらませた。警察も手掛かりを見つけられず、どこかに消えたままだ。

 事件は本当に解決したのだろうか?

 ふと、そんな疑念が心をかすめる。櫂塚も、叔父も、まだ闇の中に潜んだままだ。しかし、今ここでこうしていることだけが、自分にとっての救いだと思えた。

 知紘は、手の中のアメトリンを強く握りしめる。

 悪夢にうなされたのも、このアメトリンが原因だった。感情の共感や、過去と未来が見える力……そのどれも、人間が持つには過ぎたものであることは明白だった。この力に巻き込まれ、自分の精神も崩壊しかけた。それに、この石が全てを終わらせてしまう存在だったからこそ、研究が中止されたという事実にも、納得していた。

「千光……」

 千光が、自分に伝えたかったことは一体何だったのか。その疑問が、ずっとくすぶっていた。だが、もしかしたらそれは、千光の使命ではなく、今生きる自分自身が見つけなければならないものなのかもしれない。そして、千影との絆は、過去生に囚われるものではない。今、この瞬間を生きる二人の関係こそが、真実だ。

 知紘は小さく息を吐き出し、アメトリンを海に向かって放り投げた。夕日に照らされた石が、海へと吸い込まれるように消えていく。波にさらわれたその瞬間、胸の中にあった重荷が、解き放たれた気がした。

「これで、終わりだな」

 千影の声が横から聞こえる。彼もまた、この瞬間に事件の終わりを感じているようだった。

「うん……もう振り返らない」

 知紘は穏やかに笑う。手を繋ぎ、二人はゆっくりと浜辺を歩き出した。夕日が静かに海に沈んでいく。オレンジ色の光が二人を優しく包み込む。

「綺麗だな……」

 千影の横顔が、夕日の光に照らされていた。その光景が知紘の胸を温かくする。自分をここに連れてきてくれた千影に対して、感謝の気持ちが溢れてくる。

「ありがとう、千影……」

 その言葉に、千影が静かに頷く。

「俺も、ありがとう……知紘。君がいてくれたから、俺もここにいられる」

 千影が知紘をそっと抱き寄せ、二人の唇が静かに触れ合う。夕日が海に沈み、辺りが静けさに包まれる。まるでその瞬間、時間が止まったかのような感覚だった。

 **

 夜が訪れると、二人は別荘に戻った。窓からは波の音が聞こえてくる。静かなざわめきが、心を穏やかに包み込む。

 知紘は、千影の腕に身を預けながら、過去の出来事を思い返していた。苦しみ、混乱、恐怖。それらは今、まるで遠い記憶のように薄れていく。千影が隣にいることで、その痛みさえ和らいでいく。

「知紘……好きだ」

 千影の優しい声が耳元に響く。その声だけで、全ての不安が消え去っていくようだった。

「僕も……好きだよ、千影」

 二人は互いに見つめ合い、再び唇を重ねた。先ほどよりも深く、確かめ合うようにゆっくりと舌を絡ませた。千影の手が知紘の背中を優しく撫で、二人の身体は自然と引き寄せられていく。

「もう、離さない……」

 千影のつぶやきに、知紘は無言で頷いた。言葉はもう必要なかった。千影の体温が、熱が、全ての感覚を満たしていく。互いの鼓動が重なり、波の音と共にリズムを刻んでいく。

 愛し合う二人は、その夜、深い愛情の中で一つになっていった。過去の苦しみや不安は、波音に溶けて消えていく。この先の未来を優しく照らすかのように、夜空の星は瞬いていた。

「これからもずっと、君と一緒に……」

 その誓いは、希望に満ちていた。波の音と共に、二つの心と体は一つになり、過去も未来も共に生きることを誓い合った。
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