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第22話 今の君を永遠に
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振り返ると、そこにはもう一人の俺が立っていた。しかしよく見るとそいつが身につけているのは、歴史の教科書で見たことのある中世の騎士の鎧だ。動くたびに鎧の金属音がガシャンと音をたてる。
「おい」
もう一人の俺が顎をしゃくって、こっちへ来いと合図した。どうやらドラを始め、ウィンさんやマティスさんには、こいつが見えていないらしい。そんな俺の考えを読み取ったのか、「ここは俺たちの記憶世界だ」とそいつが付け足すように言った。
「そうだ! なんで俺をここへ連れ込んだ!」
「それは違うな。お前が迷い込んだんだ」
「迷い込んだって! なんだよそれ!」
「たぶんだが、記憶を無くしているのではないか?」
「あ……」
「図星か」
そうだった。1年分まるまる抜けている記憶がある。
「思い出そうとするあまり、大昔の記憶にまで、その影響が及んだんだろう。それとあいつの能力のせいもある……」
「あいつって……ドラのことか?」
「ドラ? ああ、いまはそう呼ばれてるんだったな」
もう一人の俺は、俺と違ってやけに冷静沈着なやつだった。そういやぁドラが前世の俺は町の英雄って言ってたっけ。本人を目の当たりにして少し納得した気がした。
「あいつを頼む」
「え? あいつって?」
「シル……いや、ドラだ」
「いま何て言おうとした?! それってドラの 」
「焦る必要はない。そのうち思い出す」
そいつがふっと口角を上げながら俺の目をじっと見つめた。前世の俺は、いまの俺とは違って碧眼だった。海を思わせるその瞳に映る俺。自分自身の姿を見て、思わず視線を外した。
「一体なんのつもりだよ!」
「俺は約束を果たせなかった。それだけじゃない。あいつを守れなかった」
「どういうことだよ……」
「この先の記憶を見たいか?」
「この先って……ああ、こっから逃げるんだろ?」
「……」
前世の俺はため息をつくと静かに言葉を発した。
「なら結論から言う。俺たち……いや俺がここで死ぬ。そしてたぶんあいつも死ぬことになるだろう」
なんとなく分かってはいた気がする。いままで意味が分からなかったウィンさんやドラの言葉が、散らばっていたピースのように、カチリと音を立てて嵌まった気がした。
「驚いてないのか? まぁ、遅かれ早かれ思い出す記憶だ。ところで、いまお前とあいつのいる世界は平和か?」
「えっ……ああ、そうだと思うよ……」
「それならいい……」
もう一人の俺の口元は笑っているのに、碧眼の瞳には悲しさが溢れているように見えた。こいつは俺で、俺はこいつで……。もしも俺の記憶に対する不安がこの状況を作り出したのだとしたら。不安がなくなれば、元の世界へ戻れるのだろうか。もしそうなら……
「分かった! もう気にすんのやめるわ!」
降参したと言うように両手を上げた。すると次の瞬間、俺の周りの景色が割れるように飛び散った。
真っ暗闇に包まれ、俺自身の手足さえ見えない。当然、一緒にいたであろう、もう一人の俺やドラたちも暗闇に包まれ姿も声も聞こえなかった。
遠くで何かが煌めいた気がした。目を凝らすとその煌めがどんどん俺の方へ近づいているみたいで、光が徐々に強くなってきた。
あまりの眩しさに腕で顔を覆った。そして光が消えると、そこには見たことのあるドアがあった。
「ドア? これって……」
そう、俺の部屋のドアだ。なんでこんなところに。きっとこれはここを開けろってことなんだろうけど、開けたら知らない土地でした、ってのは勘弁してほしい。
ドアノブをつかみ、ふうっと息を吐いた。そしてゆっくりとノブを回し、ドアを開けた。
「家のリビング……で間違いないみたいだな」
登校途中で戻ってきた時の記憶が甦る。あのあと、ベッドに突っ伏して寝たんだっけ。でもあの時と違うのは……いまドラがソファの端にもたれかけるようにして眠っていた。
ドラに近づいて起こそうとした瞬間、あいつの頬に涙が伝った。
「ハルぅ……どこ……」
小さな寝言だった。いまにも消え入りそうな小さな声。
ドラの頬に銀の髪がはらりと落ち、その髪と涙を優しく拭い、そっと頬にキスをした。そしてドラの名前。本当の名前を呟いた……。
「シルフィリード……俺はここだ」
するとドラがハッとして頭をあげ、俺を見つめ返した。
「ハルぅ……」
「ただいま」
エメラルドの瞳が涙で溢れそうになる。その前に俺はドラをぎゅっと抱きしめた。
「もう過去を気にしたりしないから。いまだけのお前を見てるから……」
「ハルぅ~」
子犬のようにわんわんと泣き出すドラ。当然、それを聞きつけた親父たちが書斎の方からリビングへとやってきた。
「悠ちゃん!」
「ただいま、親父。それと脩おじも」
「おかえり、悠。なんかいい漢になったな」
脩おじからの意外な言葉に急に照れ臭くなって、顔が熱くなった。でもさすがは脩おじ。なんでもお見通しって感じだ。
まあねと合図するかのように頷いてみせた。
俺はこの後みんなに俺がどこにいて、何をしたのかを話して聞かせた。当然ドラは終始驚いた顔をしていた。
「だから僕の名前を……」
ドラが嬉しそうにぼそっと喋ると親父が「ドラちゃんの名前って?」とすかさず俺に聞いてきた。
「あー、それは言えない約束なんだ。昔のこいつと」
「えーずるいー。お父さんも知りたい!」
なにを駄々こねてんだよ、この親父は……。
俺の呆れ顔を見たのか脩おじが俺たちに割って入った。
「アキ、それは聞いちゃ駄目だって」
「どうしてだよ、脩ちゃん!」
「本当の名前を知られるってことはドラゴンには支配られるのと一緒だからだよ」
不貞腐れた顔の親父が脩おじを睨みながら言い返した。
「なんで脩ちゃんがそんなこと知ってんだよ」
「あ、それは……」
頭を思いきり掻きながら、しまったと言うような顔を脩おじがしたのを俺は見逃さなかった。そして俺も畳み掛けるように聞いた。
「どうして脩おじは知ってんの?」
「んーそれはだね……はぁ、そのうち悠にはちゃんと説明しようと思ったことなんだけど……いい機会だからいま言う。もともと悠は俺の甥っ子だが、今回アキと結婚して、お前は俺の義理の息子になった。だからという訳ではないが、お前は正式な楪本家の跡取りってことになる」
「え、なにそれ……」
「あ、そうだった。脩ちゃんは楪の本家だもんね」
「え、そんなこと一度も言ったことねえじゃん、親父!」
「だっていま言うのが初めてだもん」
「で、なんかその重々しい跡取りって表現だけど……別に大したことじゃないんだよね?」
「俺もまだ当主じゃないから、実際になにをするのかはわからないんだけど……」
ここでチラッと脩おじが何故かウィンさんのいる方向へ視線を移した。
「ウィン、ちょっといいかな……」
「はい、脩さま」
台所で片付けをしていたウィンさんが俺たちのいるリビングへとやってきて、空いているソファへ腰をおろした。
「ウィン、悠が俺の跡継ぎになるのは知ってるよね」
「はい、心得ております」
「それで、どこまで話していいのか教えて欲しいんだ」
「それは私が決めることですか?」
「まぁたしかに君に聞くのも変な話なんだけどね」
脩おじはウィンさんに向かって優しく微笑んでいた。なにかを察したのかウィンさんが俺に向かって話し始めた。
「悠さまは王子の花嫁ですし、これほど偶然が重なるのも先にはないと思われます。ですので、全てを話してしまわれても問題ないはずです」
脩おじの口角が上がり、俺とドラに交互に目配せをした。
「アキには仕事柄、悪いと思っていたんだけど……楪家のご先祖はね、長年ドラゴンの存在を知っていて、その秘密を守ってきたんだ。ドラちゃんの卵を預かったのも実は偶然じゃない。悠に出合わせるために預かったんだ」
「ちょっと待って、脩ちゃん。ドラちゃんの卵って悠ちゃんが生まれるずーっと前のことでしょ?」
俺がドラの顔を見ると目をパチクリさせていた。
ウィンさんが小さく咳払いをし、みんなの視線がウィンさんへ移った。
「私が脩さまにお願いしたのです。その昔、王子から未来のことを聞いていましたので……」
そうだった。ドラは時を司るドラゴン。俺の記憶の中のウィンさんもドラが時を支配する力を持っていると言っていたっけ。
「でもいまの王子には時を旅する術はありません。悠さまとご一緒でない限りは……」
「え、俺と……?」
「はい、王子がそう決められました」
「……ドラが」
もう一度ドラを見るとソファの背もたれに深くもたれかけスウスウと寝息をたてていた。
「そういえば、ドラちゃん寝るまも惜しんでずっと悠ちゃんのこと探してたんだよね……」
親父がドラちゃんにブランケットを掛けながら言った。
「そう言うことなら、ここじゃなくてベッドへ連れていくよ」
俺はドラを抱きかかえて立ち上がった。
「ごめん、脩おじ。こいつをベッドに寝かせたいから、今日はこの辺で勘弁して。それと話は大体想像ついたから、俺でよければ後継のこと、よろしくお願いします」
コクッと頭を下げると、脩おじが俺の頭をいつものようにガシガシと掻いた。
「ああ、ありがとな。おやすみ」
「おやすみなさい」
リビングを後にし、俺たちの部屋へと向かった。
まったくドラのやつは、どこまでこの状況を知っていたのだろう。そういえば、記憶の中では800年前って言ってたような。そんなに長いこと待ってたなんて……俺には想像がつかない。
静かにドラをベッドにおろした。ドラの額へキスを落とすと、その瞬間に俺の名前をドラが呼んだ。
寝言……?
気づくと袖を掴まれていた。仕方なくそのままドラの横に寝転がった。そっとドラを抱き寄せる。鼓動が伝わってくるようで、ここに帰ってきたことをもう一度実感した。
この先、俺にはなにが起こるのかは分からない。たとえ過去や未来を知ることができたとしても、もうそんなことはどうでもいい。大事なのは、いまのお前だけを見つめていたいということだ。
それにもうお前ばかりに背負わせることはしない。これからは二人で共に……。
<了>
「おい」
もう一人の俺が顎をしゃくって、こっちへ来いと合図した。どうやらドラを始め、ウィンさんやマティスさんには、こいつが見えていないらしい。そんな俺の考えを読み取ったのか、「ここは俺たちの記憶世界だ」とそいつが付け足すように言った。
「そうだ! なんで俺をここへ連れ込んだ!」
「それは違うな。お前が迷い込んだんだ」
「迷い込んだって! なんだよそれ!」
「たぶんだが、記憶を無くしているのではないか?」
「あ……」
「図星か」
そうだった。1年分まるまる抜けている記憶がある。
「思い出そうとするあまり、大昔の記憶にまで、その影響が及んだんだろう。それとあいつの能力のせいもある……」
「あいつって……ドラのことか?」
「ドラ? ああ、いまはそう呼ばれてるんだったな」
もう一人の俺は、俺と違ってやけに冷静沈着なやつだった。そういやぁドラが前世の俺は町の英雄って言ってたっけ。本人を目の当たりにして少し納得した気がした。
「あいつを頼む」
「え? あいつって?」
「シル……いや、ドラだ」
「いま何て言おうとした?! それってドラの 」
「焦る必要はない。そのうち思い出す」
そいつがふっと口角を上げながら俺の目をじっと見つめた。前世の俺は、いまの俺とは違って碧眼だった。海を思わせるその瞳に映る俺。自分自身の姿を見て、思わず視線を外した。
「一体なんのつもりだよ!」
「俺は約束を果たせなかった。それだけじゃない。あいつを守れなかった」
「どういうことだよ……」
「この先の記憶を見たいか?」
「この先って……ああ、こっから逃げるんだろ?」
「……」
前世の俺はため息をつくと静かに言葉を発した。
「なら結論から言う。俺たち……いや俺がここで死ぬ。そしてたぶんあいつも死ぬことになるだろう」
なんとなく分かってはいた気がする。いままで意味が分からなかったウィンさんやドラの言葉が、散らばっていたピースのように、カチリと音を立てて嵌まった気がした。
「驚いてないのか? まぁ、遅かれ早かれ思い出す記憶だ。ところで、いまお前とあいつのいる世界は平和か?」
「えっ……ああ、そうだと思うよ……」
「それならいい……」
もう一人の俺の口元は笑っているのに、碧眼の瞳には悲しさが溢れているように見えた。こいつは俺で、俺はこいつで……。もしも俺の記憶に対する不安がこの状況を作り出したのだとしたら。不安がなくなれば、元の世界へ戻れるのだろうか。もしそうなら……
「分かった! もう気にすんのやめるわ!」
降参したと言うように両手を上げた。すると次の瞬間、俺の周りの景色が割れるように飛び散った。
真っ暗闇に包まれ、俺自身の手足さえ見えない。当然、一緒にいたであろう、もう一人の俺やドラたちも暗闇に包まれ姿も声も聞こえなかった。
遠くで何かが煌めいた気がした。目を凝らすとその煌めがどんどん俺の方へ近づいているみたいで、光が徐々に強くなってきた。
あまりの眩しさに腕で顔を覆った。そして光が消えると、そこには見たことのあるドアがあった。
「ドア? これって……」
そう、俺の部屋のドアだ。なんでこんなところに。きっとこれはここを開けろってことなんだろうけど、開けたら知らない土地でした、ってのは勘弁してほしい。
ドアノブをつかみ、ふうっと息を吐いた。そしてゆっくりとノブを回し、ドアを開けた。
「家のリビング……で間違いないみたいだな」
登校途中で戻ってきた時の記憶が甦る。あのあと、ベッドに突っ伏して寝たんだっけ。でもあの時と違うのは……いまドラがソファの端にもたれかけるようにして眠っていた。
ドラに近づいて起こそうとした瞬間、あいつの頬に涙が伝った。
「ハルぅ……どこ……」
小さな寝言だった。いまにも消え入りそうな小さな声。
ドラの頬に銀の髪がはらりと落ち、その髪と涙を優しく拭い、そっと頬にキスをした。そしてドラの名前。本当の名前を呟いた……。
「シルフィリード……俺はここだ」
するとドラがハッとして頭をあげ、俺を見つめ返した。
「ハルぅ……」
「ただいま」
エメラルドの瞳が涙で溢れそうになる。その前に俺はドラをぎゅっと抱きしめた。
「もう過去を気にしたりしないから。いまだけのお前を見てるから……」
「ハルぅ~」
子犬のようにわんわんと泣き出すドラ。当然、それを聞きつけた親父たちが書斎の方からリビングへとやってきた。
「悠ちゃん!」
「ただいま、親父。それと脩おじも」
「おかえり、悠。なんかいい漢になったな」
脩おじからの意外な言葉に急に照れ臭くなって、顔が熱くなった。でもさすがは脩おじ。なんでもお見通しって感じだ。
まあねと合図するかのように頷いてみせた。
俺はこの後みんなに俺がどこにいて、何をしたのかを話して聞かせた。当然ドラは終始驚いた顔をしていた。
「だから僕の名前を……」
ドラが嬉しそうにぼそっと喋ると親父が「ドラちゃんの名前って?」とすかさず俺に聞いてきた。
「あー、それは言えない約束なんだ。昔のこいつと」
「えーずるいー。お父さんも知りたい!」
なにを駄々こねてんだよ、この親父は……。
俺の呆れ顔を見たのか脩おじが俺たちに割って入った。
「アキ、それは聞いちゃ駄目だって」
「どうしてだよ、脩ちゃん!」
「本当の名前を知られるってことはドラゴンには支配られるのと一緒だからだよ」
不貞腐れた顔の親父が脩おじを睨みながら言い返した。
「なんで脩ちゃんがそんなこと知ってんだよ」
「あ、それは……」
頭を思いきり掻きながら、しまったと言うような顔を脩おじがしたのを俺は見逃さなかった。そして俺も畳み掛けるように聞いた。
「どうして脩おじは知ってんの?」
「んーそれはだね……はぁ、そのうち悠にはちゃんと説明しようと思ったことなんだけど……いい機会だからいま言う。もともと悠は俺の甥っ子だが、今回アキと結婚して、お前は俺の義理の息子になった。だからという訳ではないが、お前は正式な楪本家の跡取りってことになる」
「え、なにそれ……」
「あ、そうだった。脩ちゃんは楪の本家だもんね」
「え、そんなこと一度も言ったことねえじゃん、親父!」
「だっていま言うのが初めてだもん」
「で、なんかその重々しい跡取りって表現だけど……別に大したことじゃないんだよね?」
「俺もまだ当主じゃないから、実際になにをするのかはわからないんだけど……」
ここでチラッと脩おじが何故かウィンさんのいる方向へ視線を移した。
「ウィン、ちょっといいかな……」
「はい、脩さま」
台所で片付けをしていたウィンさんが俺たちのいるリビングへとやってきて、空いているソファへ腰をおろした。
「ウィン、悠が俺の跡継ぎになるのは知ってるよね」
「はい、心得ております」
「それで、どこまで話していいのか教えて欲しいんだ」
「それは私が決めることですか?」
「まぁたしかに君に聞くのも変な話なんだけどね」
脩おじはウィンさんに向かって優しく微笑んでいた。なにかを察したのかウィンさんが俺に向かって話し始めた。
「悠さまは王子の花嫁ですし、これほど偶然が重なるのも先にはないと思われます。ですので、全てを話してしまわれても問題ないはずです」
脩おじの口角が上がり、俺とドラに交互に目配せをした。
「アキには仕事柄、悪いと思っていたんだけど……楪家のご先祖はね、長年ドラゴンの存在を知っていて、その秘密を守ってきたんだ。ドラちゃんの卵を預かったのも実は偶然じゃない。悠に出合わせるために預かったんだ」
「ちょっと待って、脩ちゃん。ドラちゃんの卵って悠ちゃんが生まれるずーっと前のことでしょ?」
俺がドラの顔を見ると目をパチクリさせていた。
ウィンさんが小さく咳払いをし、みんなの視線がウィンさんへ移った。
「私が脩さまにお願いしたのです。その昔、王子から未来のことを聞いていましたので……」
そうだった。ドラは時を司るドラゴン。俺の記憶の中のウィンさんもドラが時を支配する力を持っていると言っていたっけ。
「でもいまの王子には時を旅する術はありません。悠さまとご一緒でない限りは……」
「え、俺と……?」
「はい、王子がそう決められました」
「……ドラが」
もう一度ドラを見るとソファの背もたれに深くもたれかけスウスウと寝息をたてていた。
「そういえば、ドラちゃん寝るまも惜しんでずっと悠ちゃんのこと探してたんだよね……」
親父がドラちゃんにブランケットを掛けながら言った。
「そう言うことなら、ここじゃなくてベッドへ連れていくよ」
俺はドラを抱きかかえて立ち上がった。
「ごめん、脩おじ。こいつをベッドに寝かせたいから、今日はこの辺で勘弁して。それと話は大体想像ついたから、俺でよければ後継のこと、よろしくお願いします」
コクッと頭を下げると、脩おじが俺の頭をいつものようにガシガシと掻いた。
「ああ、ありがとな。おやすみ」
「おやすみなさい」
リビングを後にし、俺たちの部屋へと向かった。
まったくドラのやつは、どこまでこの状況を知っていたのだろう。そういえば、記憶の中では800年前って言ってたような。そんなに長いこと待ってたなんて……俺には想像がつかない。
静かにドラをベッドにおろした。ドラの額へキスを落とすと、その瞬間に俺の名前をドラが呼んだ。
寝言……?
気づくと袖を掴まれていた。仕方なくそのままドラの横に寝転がった。そっとドラを抱き寄せる。鼓動が伝わってくるようで、ここに帰ってきたことをもう一度実感した。
この先、俺にはなにが起こるのかは分からない。たとえ過去や未来を知ることができたとしても、もうそんなことはどうでもいい。大事なのは、いまのお前だけを見つめていたいということだ。
それにもうお前ばかりに背負わせることはしない。これからは二人で共に……。
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