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第12話 脩オジ

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 夏休み直前、親父の従兄弟であるシュウオジが家に遊びにきた。ドラの卵を化石のレプリカだと信じて、親父と母さんが結婚する時にご祝儀として贈った張本人だ。
 ドラが生まれた後、親父からドラのことを聞いて、ずっと会いたがっていた。

「久しぶり、悠。こっちがドラ? 初めまして」
「ども、脩オジ。そ、こっちがドラ。ドラ、親父の従兄弟で脩おじさん」
「初めまして……」

 ドラは俺の後ろに隠れながら挨拶をした。声も小さくて、いつもとちょっと違う。

「あれ、もしかして俺、嫌われちゃった?」
「多分、脩オジには初めて会ったからだと思う。そのうち慣れるよ」
「でもドラゴンの姿じゃないんだな」
「あ、うん最近、この姿ばっかだよな、ドラ」
「……うん」

 いつもは元気なドラなのに、今日に限って大人しい。腹の具合でも悪いのか?

「そうだ、脩オジがドラの卵を親父にプレゼントしたって聞いた」
「そう、アキが結婚するとき、俺が贈った」
「どこで手に入れたん?」
「あれはどこか砂漠の国を訪れた時だな。仕事柄珍しい物を探し歩くから、どこか小さな町の市場だったと思う」

 脩オジは貿易会社を経営している。世界各国を旅行し、そこで見つけた珍しい物を仕入れては売っている。
 ドラの卵を買ったのは、やはり仕事で訪れた先だった。化石のレプリカだと聞いて、即決したらしい。

「でもまさか本物の卵だったとは、驚いたよ。レプリカだと思ってたから」
「他にも、卵のレプリカってあったの?」
「うーん、どうだったかな。俺が買った卵だけな気がするよ。お店の人もこれ一点だけって言ってたような記憶があるし」
「ふーん、そっか」
「もしかしてドラに兄弟がいるかも?って思ったのか」
「そうは思ってないけど、でもなんで1個だけなんだろうって。もしかしたら他にもあるのかなって……」
「それって『お迎えが来る』ってドラが言ってるから?」
「なんだ、そこまで聞いてるんだ」
「まぁ、俺にも責任があるからね。アキにも色々と聞かれて思い出そうとはしてるんだ。けど、なんせ15年以上も前のことだからなぁ。それよりドラ本人はなんて言ってんの?」
「え、ドラ? それが教えてくんねぇんだよ。なぁ、ドラ」

 脩オジと俺は、俺の背後のドラに目を向けた。するとドラがきょとんとした顔で俺たちの顔を交互に見渡していた。

「それにしても綺麗な瞳だね。俺もいままで色んな人と仕事してきたけど、こんなに綺麗な瞳は初めてだ。人の姿とはいえ、やっぱり人間離れしてるな。そうだ、悠はドラの恋人なんだろ? 将来は結婚するって」
「恋人って!」
「アキが言ってたから」
「親父が!? それは……」
「ハルぅは僕の花嫁!」
「え、花嫁?!」
「うん」
「ドラ!」
「悠、女の子だったの?」
「脩オジ!」

 脩オジが俺を何度も揶揄った。それを見ていたドラがボソッと、か細い声で「性別は関係ない……ハルぅは僕の花嫁」と言った。

 ドラを見ると真っ赤な顔で俯いていた。俺も熱が顔に集中している。

「悠ちゃんもドラちゃんも、どうしたの? 二人とも顔が赤いよ。脩ちゃん、あんまり二人をイジメないでよ」

 そこへタイミング悪く親父がやってきた。さっそく親父たちは互いに挨拶を交わすと、俺たちに話を戻した。

「悠ちゃんは悩んでるんだよね、ドラちゃんとのこと」
「って、別にいいだろ」
「へぇ悩みって恋愛?」
「だから、もういいって。親父も脩オジもいい加減にしろよ!」
「でも悩みならいつでも相談に乗るぞ、なぁアキ」
「そうそう、僕たちは人生の先輩だからね」

 親父と脩オジは同い年ということもあって、子供の頃から仲が良い。しかも小学校から大学まで一緒に通っていた幼馴染でもある。

「そうだ、良い機会だから悠ちゃんに知らせておくよ」
「なんだよ、改まって」
「僕と脩ちゃん、来年、結婚するから」
「え? え? えーーー! 結婚?! 親父と脩オジが?!」
「うん」
「二人とも、よろしくな」

 いきなりの爆弾宣言。いきなりすぎて言葉が出ない。いつの間にそうなった?

「悠ちゃーん?」

 放心状態の俺の目の前で手を振る親父。ドラも不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。

「ちょっと悠ちゃんには、ショッキングだったかな?」
「これは、情報が追いついてないって顔だな」



 親父の爆弾宣言の夜。俺は眠れず、ひとり縁側で涼んでいた。
 そこへ脩オジがグラスを二つ持って現れた。渡されたのは冷えた麦茶。夏の夜でも気温はそこそこにあって、冷たい麦茶が喉を潤してくれた。どうせなら心も潤してくれればいいのに。

「昼間の件、驚かせて悪かったな」
「いや、別に……」
「なんだか悠らしくないな」
「まぁ、色々と驚いたから」
「全くの予想外?」
「ゼロパーセント」

 脩オジが笑いを堪えるかのように口元を手で抑えたが、笑い声は漏れていた。それを見て、俺もつられて頬の筋肉が緩んだ気がした。

「ドラは?」
「寝てる。親父は?」
「同じく寝てる」

 そしてとうとうお互い笑い出した。脩オジがやっと笑ったなと俺の頭をガシガシと撫でながら言う。
 小さい頃、俺が親父に怒られたりすると同じようにして脩オジが励ましてくれたのを思い出した。
 親父と同じくらい俺は脩オジを信頼しているし、大好きだ。だから二人が結婚すると聞いて、驚いたが、やっぱり一番は嬉しかった。

「アキにもちゃんと伝えろよ。悠がどう反応するのか一番知りたいのはアキだからな」
「うん、分かってる」

 脩オジが親父とのことを話してくれた。中学生の頃から親父が好きだったこと。でもそれを言わずにいたこと。そして5、6年前、とうとう親父に気持ちを告白し、付き合い、そして来年結婚する。
 だから脩オジは独身だったんだと納得した。脩オジは会社経営するくらいのやり手だ。外見もイイし、頭も良く、男の俺からみても格好良いし、男女問わずモテると親父からは子供の頃から聞いていた。なのに、なぜ結婚しないのだろうとずっと不思議だった。
 話の最中、俺は脩オジと亜の姿が重なった。『言わないつもりだった』という言葉が心に刺さる。
 親父は脩オジから告白されたとき、どんな気持ちだったのだろう。今度機会があったら聞いてみよう。

「ハルぅ……」

 背後からドラの眠そうな声が聞こえてきて振り返った。目を擦りながら、ふらふらして近づいてきた。前のめりに倒れそうになるのを俺が支えた。

「ドラ、起きたん」
「だってハルがいないから……」

 俺の肩に頭を乗せたドラがすやすやと寝息をたて始めた。眠いなら起きてこなくてもいいのに。

「ほら、上行くぞ」
「んんん……」

 動く気配がない。まじ寝てるっぽい。

「ったくしょうがないな……ちゃんと掴まってろよ」

 俺にしがみつかせるようにして、ドラを抱っこした。そして脩オジにおやすみと言って二階へあがった。
 ドラをベッドに寝かせ、俺も隣にごろんと横になった。ドラが俺の腕に手を絡ませ、頭を顔に擦り付けてくる。ドラのいい香りがした。髪もふわふわで、くすぐったいが気持ちいい。そしてこんなのはいつものことなのに、今夜はなんだか慰められた。
 脩オジが親父に抱いていた気持ちが亜に重なり、正直俺の気持ちは沈んでいたからだ。
 それにドラのことだって。真っ直ぐ俺に気持ちをぶつけてくるドラ。俺はどうしたらいいのだろう。
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