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第10話 お迎え
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廊下へ出る直前に亜とドラの話し声が聞こえ、とっさに柱の影に隠れた。
「まじドラなん?」
「うん、そうだよ」
「へえ~人の姿になるとイメージ違うな」
「そう? どんなふうに?」
「ドラゴンって、なんかこう、もっとイカついのかと思ってたし。ドラみたく可愛い系って想像してなかったからなぁ」
「可愛い系?」
「あ、まぁ、気にしなくていいよ。それより悠、遅えな。悠~、早く来いよ!」
呼ばれて仕方なく廊下へ出た。俺を見たドラの顔がぱっと明るくなった気がした。「ハルぅ~くうぅ」と首を傾げながらいつもと変わらない声で俺を呼んだ。昨日までドラゴンだったドラの面影が重なる。
「ドラ……」
なんて言えば良いんだろう。言葉が続かない。頭の中が真っ白ってこういうこと言うんだな。
「悠、帰れよ。せっかく迎えが来たんだからさ」
「亜?」
ドラを見るとグリーンの瞳をキラキラさせながら、なにかを期待している顔だった。それに、何度もうんうんと頭を縦にふっていた。
どう返事をすればいいんだろう。結局は俺次第なんだろうけど……。
おもわずドラの視線から目を外した。するとドラが——。
「パパさんが! 結婚は……お互いが好きじゃないとダメって……だから僕……待つよ。ハルが僕のこと好きになってくれるまで」
「えっ……」
もう一度、ドラの顔を見た。真っ赤になって俯いていた。
「ドラ……」
「僕……人間のこと少し学んだから……それに無理矢理は……僕も嫌だから……」
「決まりだな」
「亜? 何が決まりなんだよ」
「家出終了ってこと」
「あ……そう……だな」
ドラが顔をあげ、再び笑顔になった。ころころと表情を変えるドラに、俺も自然と笑顔になった。
「帰ろっか、ドラ。迎えに来てくれて、ありがとな」
「うん」
*
亜の家からの帰り道。ドラと並んで歩いて帰った。
そういえが、こうしてドラと外を歩くのは初めてだ。ドラがドラゴンだった時はカバンの中に入れたりだったし、入らなくなってからは、もっぱら自宅の庭でしか過ごしてない。
隣のドラは……。ってあれ、さっきまで隣にいたのに、いない!?
「ドラ?!」
「ここだよ、ハルぅ~。見てみて、お花いっぱい」
後ろを振り返ると、ドラが花壇の花に見とれていた。花の周りには蝶や蜂が飛んでいた。首をあちこちに動かして、虫の動きを追っている。
ドラは生まれてからまだ数ヶ月。見た目は俺と同じで会話もさほど幼いわけじゃない。でも経験値は人で言うなら幼児なのかもしれない。
「ハルぅ~、ほら鳥。頭に乗ったよ~」
ドラの頭の上にはスズメがとまっていた。
そういえば、庭で遊んでいた時にも、鳥たちがよくドラの背にとまっていたっけ。
ドラだからなのか、もしくはドラゴンはみな、昆虫や動物に好かれる体質なんだろうか。獰猛って印象が強かったが、あれは作られたイメージだったんだなと今更ながら思った。
しばらくドラが遊んでいるのを見ていた。見ていると心が和む。こんなにも純粋な生き物が俺と結婚をしたがっているのが不思議だった。亜の家でドラが言った言葉を思い出す。「ハルが好きになってくれるまで待つよ」
「ドラ、帰るぞ~」
ドラが俺のほうへ駆け足でやってきた。ただ何度も目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうドラ。興味があるのは分かるが、よく一人で亜の家へ来れたもんだ。
ふらふらと離れようとするドラの腕をとっさに掴んで、手を握った。ドラがびっくりして俺を見つめた。
「ハルぅ?」
「あんま寄り道してっと親父が心配する。とりあえず帰るぞ……またこんど一緒に遊びに行こう」
「うん」
そのまま手を繋いで俺たちは家路へと急いだ。
「まじドラなん?」
「うん、そうだよ」
「へえ~人の姿になるとイメージ違うな」
「そう? どんなふうに?」
「ドラゴンって、なんかこう、もっとイカついのかと思ってたし。ドラみたく可愛い系って想像してなかったからなぁ」
「可愛い系?」
「あ、まぁ、気にしなくていいよ。それより悠、遅えな。悠~、早く来いよ!」
呼ばれて仕方なく廊下へ出た。俺を見たドラの顔がぱっと明るくなった気がした。「ハルぅ~くうぅ」と首を傾げながらいつもと変わらない声で俺を呼んだ。昨日までドラゴンだったドラの面影が重なる。
「ドラ……」
なんて言えば良いんだろう。言葉が続かない。頭の中が真っ白ってこういうこと言うんだな。
「悠、帰れよ。せっかく迎えが来たんだからさ」
「亜?」
ドラを見るとグリーンの瞳をキラキラさせながら、なにかを期待している顔だった。それに、何度もうんうんと頭を縦にふっていた。
どう返事をすればいいんだろう。結局は俺次第なんだろうけど……。
おもわずドラの視線から目を外した。するとドラが——。
「パパさんが! 結婚は……お互いが好きじゃないとダメって……だから僕……待つよ。ハルが僕のこと好きになってくれるまで」
「えっ……」
もう一度、ドラの顔を見た。真っ赤になって俯いていた。
「ドラ……」
「僕……人間のこと少し学んだから……それに無理矢理は……僕も嫌だから……」
「決まりだな」
「亜? 何が決まりなんだよ」
「家出終了ってこと」
「あ……そう……だな」
ドラが顔をあげ、再び笑顔になった。ころころと表情を変えるドラに、俺も自然と笑顔になった。
「帰ろっか、ドラ。迎えに来てくれて、ありがとな」
「うん」
*
亜の家からの帰り道。ドラと並んで歩いて帰った。
そういえが、こうしてドラと外を歩くのは初めてだ。ドラがドラゴンだった時はカバンの中に入れたりだったし、入らなくなってからは、もっぱら自宅の庭でしか過ごしてない。
隣のドラは……。ってあれ、さっきまで隣にいたのに、いない!?
「ドラ?!」
「ここだよ、ハルぅ~。見てみて、お花いっぱい」
後ろを振り返ると、ドラが花壇の花に見とれていた。花の周りには蝶や蜂が飛んでいた。首をあちこちに動かして、虫の動きを追っている。
ドラは生まれてからまだ数ヶ月。見た目は俺と同じで会話もさほど幼いわけじゃない。でも経験値は人で言うなら幼児なのかもしれない。
「ハルぅ~、ほら鳥。頭に乗ったよ~」
ドラの頭の上にはスズメがとまっていた。
そういえば、庭で遊んでいた時にも、鳥たちがよくドラの背にとまっていたっけ。
ドラだからなのか、もしくはドラゴンはみな、昆虫や動物に好かれる体質なんだろうか。獰猛って印象が強かったが、あれは作られたイメージだったんだなと今更ながら思った。
しばらくドラが遊んでいるのを見ていた。見ていると心が和む。こんなにも純粋な生き物が俺と結婚をしたがっているのが不思議だった。亜の家でドラが言った言葉を思い出す。「ハルが好きになってくれるまで待つよ」
「ドラ、帰るぞ~」
ドラが俺のほうへ駆け足でやってきた。ただ何度も目を離すとすぐにどこかへ行ってしまうドラ。興味があるのは分かるが、よく一人で亜の家へ来れたもんだ。
ふらふらと離れようとするドラの腕をとっさに掴んで、手を握った。ドラがびっくりして俺を見つめた。
「ハルぅ?」
「あんま寄り道してっと親父が心配する。とりあえず帰るぞ……またこんど一緒に遊びに行こう」
「うん」
そのまま手を繋いで俺たちは家路へと急いだ。
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