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第7話 再会と波乱の幕開け

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 ドラの匂いを追っている犬のラッキーのリードを引きながら亜が俺に向かって言った。

「大丈夫、見つかるって。ドラは賢いから、きっとどこかに隠れてるよ」
「……」

 亜に電話した時、昨夜のことを簡単に説明した。

「でも悠が怒るなんて、珍しいよな。オマエってさ、あんま怒んないからさ」
「そうか、そんなことないよ」
「悠も普通の人だった、ってことだよな。あはは」
「なんだよ、それ……」

 普通の人って、俺を一体なんだと思ってんだよ、まったく。
 怒らないわけじゃない、怒る必要がなかっただけだと思う。でもドラが生まれて、俺の中で何かが変わったのは確かだ。どこにいるんだよ、ドラ。
 ラッキーは住宅街を抜け、河原に向かっているようだった。

「やっぱ行き先は河原か……」

 亜も俺と同じことを思ったらしい。
 河原は地元でも憩いの場になっていて、緑が多い。もちろん川も流れているから、生き物が水を飲むにもちょうどいい。それに隠れようと思えば、そんな場所はいくらでもある。

 途中でラッキーがドラの匂いを見失いそうになるたび、俺は持ってきたドラお気に入りのブランケットをラッキーに嗅がせた。

 ちょうど河原に来たとき、今年は遅く咲いた桜が満開だった。そういえば、ドラをちゃんと外へ連れ出したことがなかった。見つかったらヤバいとか、他の人にバレたらとかしか考えていなかった。
 この桜をドラにも見せてやりたい。

「悠、こっち!」

 土手の草むらで、亜が手を振りながら俺を呼んだ。そばへ行ってみると、なにやら薄い皮のようなものを拾い上げて見せてくれた。

「なにそれ?」
「ドラの皮? 脱皮ってことだけど」
「脱皮? うそ、脱皮すんの?」
「蛇やトカゲは脱皮するし、ドラゴンも爬虫類っぽいから、すんじゃね?」

 手に取ってみる。薄い皮だ。それにドラの形になってるから、ドラので間違いないってことだよな。

「悠!」
「こんどはなに?」

 それは背の高い草に隠れるようにして横たわっていた。
 デカい。もうスポーツバックには入らない大きさ、というのが一目でわかる。あえていうなら、ここにいるラッキーと同じ大きさ。ちなみにラッキーはゴールデン・レトリーバーという種類の犬で、人懐っこくて賢い。そのラッキーとここに横たわっているドラゴンはほぼ同じ大きさだ。
 半日そこらで、この大きさに? でもドラゴンがドラ以外にもいるとは考えられない。それとも?
 すやすやと規則正しい寝息。それに体色がドラとは違う。ドラのは鮮やかなグリーンだったのに、目の前に横たわってるのは白く輝いていた。

「ドラ?」

 とりあえず呼んでみるが、反応はなかった。やっぱりドラとは違うドラゴンなんだろうか。
 そっと首の辺りを撫でてやる。こうするのがドラのお気に入りだからだ。

「くうぅ?」

 ゆっくりと瞼が開いて、ドラの瞳と同じ色のエメラルドグリーンが俺を見つめた。

「ドラ?」
「くうぅるるぅ」

 あれ、なんかいつもと違う鳴き声。
 横たわっていたドラゴンがゆっくりと体を起こした。なんだかめちゃくちゃ大きくなってるような気がする。

「オマエ、ドラ……だよな?」
「くううううぅ」

 つぶらな綺麗な瞳をパチパチさせている。そしていつもドラがするように俺の口をぺろっと舐めた。その瞬間、俺はドラの長い首に抱きついた。

「ごめんドラ……俺が……悪かった。一緒に帰ろ」

 涙が溢れて声がちゃんと出せない。それなのにドラは相変わらず愛くるしい声で「くうぅるるー」と鳴いていた。

 早朝ということもあり、ドラを人目に晒すこともなく無事に俺たちは家へ辿り着いた。案の定、家へ着くと親父がドラの大きさに腰を抜かした。

「え? これがドラちゃん?」
「くうううぅるるー」
「大きさも色も違うよ」
「そうなんだよなぁ。半日程度でこれだけ変わるって……ヘンじゃね?」
「そう言われてもね……ドラゴンがどんな生態だなんて僕だって知らないし」

 じつはこのドラの変化は、俺のせいだった。将来の花嫁からの拒絶は婚儀前の試練の一つらしい。そして迎えにいくというのも、試練のひとつだそうだ。

 もちろんこの試練がドラの魔力を増幅させるなんて、俺は知る由もない。知らない間にミッションをやらされていた訳だ。

 さらに驚いたのは、ドラが人の姿になったこと。そうなると結婚も近いらしい……。
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