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第1話 結婚相手
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「悠ちゃ~ん、それじゃあ留守番よろしくね。父さん、寂しい」
いつもの朝の光景。
親父は仕事へ行く前、俺に必ずハグしないと出掛けられない。
「俺、もうすぐ15だし。留守番くらい大丈夫だって」
「でも父さんは心配なんだよ」
「あ~はいはい、わかってるって。今日は大事な会議があるんだろ。ほら遅刻すんぞ。行ってらっしゃい」
いい加減、ハグはやめてほしいんだが、この前それを言ったら泣かれた。
仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
母さんは俺が3歳のとき病死した。それ以来、親父が男手ひとつで俺を育ててくれた。母さんがいない寂しさを俺には味合わせないというポリシーが親父にはあって、そのおかげで俺は他の子たちの母さんを見ても羨ましいとは思わなかった。何不自由なく大事に育ててくれた親父には感謝しかない。だからというわけではないが、出掛ける前のハグは許した。しかし俺の名前にちゃん付けはやめろって言ったんだが無視された。
親父が出掛けたあとは嵐が去ったような静かさだ。
「さてと、今日は何すっかな」
いまは春休み。休みが明けたら、俺は中3になる。中学最後に待っているのは、修学旅行に体育祭、文化祭、そして受験が控えてる。旅行や行事はいいとして、受験は正直気が重い。
「そんじゃ、まずは親父の書斎でも掃除すっか。埃だらけだろうし」
親父の書斎にはガラクタが多い。本人は貴重な遺跡だというが、俺にはガラクタにしか見えない。ちなみに親父は考古学者。土掘って骨を見つけるのが仕事、かと思いきや、ほとんどがデスクワーク。お宝発見なんて映画だけの話と親父は言っていたが、ほんとそれには同意しかない。一攫千金なんて夢だな。
棚には所狭しとガラクタ、いや遺跡が置かれている。そんな大事な物なら、もっとちゃんと閉まっとけよ。壊れないよう、はたきで埃を叩いていく。
ガタッ!
「え? 何いまの?」
ガタッ!ガタッ!ガタタタタタッー
「ひえーなんなんだよ」
音のする棚を覗いてみると、奥で何かが動いた気がした。マジかよ。生き物がいるなんて聞いてないぞ。
もう一度、棚を覗いて見た。すると俺の鼻先を何かが舐めた。
「ひぇー」
驚いた拍子に後ろにひっくり返った。マジで何、いまの。
「くうぅ」
「え?」
か細くて、弱々しい鳴き声が棚の中から聞こえた。
「くうぅー」
正直怖い。でもこの時の俺は、なぜか助けなくちゃという気持ちのほうが勝っていて、急いでごちゃごちゃの棚からガラクタを取り出した。そしてようやく鳴き声のする主に辿り着いた。
「マジかよ……」
「くうぅー」
俺の両手の中に収まるくらいの大きさ。ぐったりして横たわっている。
生きてる?
そしてなぜか耳を生き物に当てて、生きてるか確かめようとした。すると、耳をペロッと舐められた。
「ひやぁ~」
そこはくすぐったい。舐められた瞬間、ゾクゾクと全身に鳥肌がたった。
「くうぅー」
「はぁ、お前ってさ、やっぱアレだよな?」
言葉の通じない相手に言ってもしょうがないのに、言わずには言われない。
俺の手のひらの上で横たわる生き物。それはどこから見ても、ドラゴンだった。伝説の生き物だよな、これ。ゲームや映画の中でしか見たことない。
小さなドラゴンは手のひらの上で体を起こし、俺をじっと見つめた。長い首を伸ばし、俺の口をペロッと舐めた。犬がペロッと舐めるように。
この時の俺は知らなかった。これがコイツとの婚約の儀式だということを。そしてコイツが生まれて最初に見た者が、コイツの生涯の結婚相手になることを。
いつもの朝の光景。
親父は仕事へ行く前、俺に必ずハグしないと出掛けられない。
「俺、もうすぐ15だし。留守番くらい大丈夫だって」
「でも父さんは心配なんだよ」
「あ~はいはい、わかってるって。今日は大事な会議があるんだろ。ほら遅刻すんぞ。行ってらっしゃい」
いい加減、ハグはやめてほしいんだが、この前それを言ったら泣かれた。
仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
母さんは俺が3歳のとき病死した。それ以来、親父が男手ひとつで俺を育ててくれた。母さんがいない寂しさを俺には味合わせないというポリシーが親父にはあって、そのおかげで俺は他の子たちの母さんを見ても羨ましいとは思わなかった。何不自由なく大事に育ててくれた親父には感謝しかない。だからというわけではないが、出掛ける前のハグは許した。しかし俺の名前にちゃん付けはやめろって言ったんだが無視された。
親父が出掛けたあとは嵐が去ったような静かさだ。
「さてと、今日は何すっかな」
いまは春休み。休みが明けたら、俺は中3になる。中学最後に待っているのは、修学旅行に体育祭、文化祭、そして受験が控えてる。旅行や行事はいいとして、受験は正直気が重い。
「そんじゃ、まずは親父の書斎でも掃除すっか。埃だらけだろうし」
親父の書斎にはガラクタが多い。本人は貴重な遺跡だというが、俺にはガラクタにしか見えない。ちなみに親父は考古学者。土掘って骨を見つけるのが仕事、かと思いきや、ほとんどがデスクワーク。お宝発見なんて映画だけの話と親父は言っていたが、ほんとそれには同意しかない。一攫千金なんて夢だな。
棚には所狭しとガラクタ、いや遺跡が置かれている。そんな大事な物なら、もっとちゃんと閉まっとけよ。壊れないよう、はたきで埃を叩いていく。
ガタッ!
「え? 何いまの?」
ガタッ!ガタッ!ガタタタタタッー
「ひえーなんなんだよ」
音のする棚を覗いてみると、奥で何かが動いた気がした。マジかよ。生き物がいるなんて聞いてないぞ。
もう一度、棚を覗いて見た。すると俺の鼻先を何かが舐めた。
「ひぇー」
驚いた拍子に後ろにひっくり返った。マジで何、いまの。
「くうぅ」
「え?」
か細くて、弱々しい鳴き声が棚の中から聞こえた。
「くうぅー」
正直怖い。でもこの時の俺は、なぜか助けなくちゃという気持ちのほうが勝っていて、急いでごちゃごちゃの棚からガラクタを取り出した。そしてようやく鳴き声のする主に辿り着いた。
「マジかよ……」
「くうぅー」
俺の両手の中に収まるくらいの大きさ。ぐったりして横たわっている。
生きてる?
そしてなぜか耳を生き物に当てて、生きてるか確かめようとした。すると、耳をペロッと舐められた。
「ひやぁ~」
そこはくすぐったい。舐められた瞬間、ゾクゾクと全身に鳥肌がたった。
「くうぅー」
「はぁ、お前ってさ、やっぱアレだよな?」
言葉の通じない相手に言ってもしょうがないのに、言わずには言われない。
俺の手のひらの上で横たわる生き物。それはどこから見ても、ドラゴンだった。伝説の生き物だよな、これ。ゲームや映画の中でしか見たことない。
小さなドラゴンは手のひらの上で体を起こし、俺をじっと見つめた。長い首を伸ばし、俺の口をペロッと舐めた。犬がペロッと舐めるように。
この時の俺は知らなかった。これがコイツとの婚約の儀式だということを。そしてコイツが生まれて最初に見た者が、コイツの生涯の結婚相手になることを。
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