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本編
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「と、いうわけで最近は、向こうでも特に優れた茶葉を作ることを売りにした農園が、こちらの商会と専売契約を結ぶようになっているの。おかげで各商会は早く、優秀な茶園と契約しようと競争しているわ」
「ブラッドリー商会からも何人もの従業員があちらの国へ出向いていると聞きます」
シーズンももう始まろうかというある日。シンシアはブラッドリー家から馬車で少し行ったところにあるホールトン家の屋敷へ来ていた。
あの後、アデルの招待を受けたシンシアはあっという間に彼女と仲良くなった。商売の第一線で活躍するアデルはこれまで会ったどの女性とも違う魅力を持っていたし、一方アデルも素直で賢いシンシアのことを気に入った。
勿論アデルは商会の当主として日々各地を飛び回っているから、頻繁に、とは言えないが、時間のある時にはこうしてシンシアをお茶に誘って、最近の流行や財界の事情を教えてくれるようになった。シンシアにとっては頼れる姉がいるような感覚である。
今日の話題は海を超えて遠くにある、という茶の生産地についてだ。ひとしきり向こうの事情に聞いた後、シンシアはふと前から気になっていたことをアデルに質問した。
「あの、そう言えばトーマス様のご両親は茶園を訪ねようとされて、事故に遭われたのですよね」
「えぇ、そうよ。近頃は通信技術も発達したから当主自ら向こうに行くことは少なくなったのだけれど・・・・・あのお二人は旅が好きだったから。私も子供の頃お世話になったから、本当に残念だわ」
「はい・・・・・私もお会いしてみたかったです。ところで当時、そのブラッドリー商会の当主が変わった頃のことって覚えていらっしゃいますか?なんでもトーマス様がすごくお世話になったと感謝していたのですが」
「なんだか彼に感謝されると気味が悪いわね。でも・・・・・まあ、そうねいろいろ彼も大変だったのは事実ね。トーマスに聞けば色々教えてくれるんじゃないの?」
「トーマス様はこの話は、お気に召さないようで、はぐらかされてしまうのです」
そう言って困ったような顔をするシンシアにアデルは苦笑する。
「まあ、本当に色々あったから。トーマスが話したくなくなる気持ちもわからなくはないわ。まあ、気長に待ちなさい。トーマスはあなたのことを好いているはずだし、きっといつか教えてくれるわ。さ、それよりもカップが空ね。次はこのお茶を淹れましょうか」
そう言って話をかえるアデルにそれ以上何も言えなくなったシンシアは気持ちを切り替えて、目の前のお茶に集中することにした。
ライセル王国の夏は社交シーズンの真っ盛りだ。シンシアもお茶会だ、パーティーだとブラッドリー家の若奥様として忙しくしていた。
珍しく、何も予定がない日。シンシアは商会の本店で商品を見回っているとトーマスが上の階から降りてきた。
「あぁ、シンシア、そこにいたのか。ちょうど良い」
日々忙しい彼は普段シンシアが店に来ても合うことは殆ど無い。なんなら仕事外で店で会ったのはあのアデル様突撃事件以来ではなかろうか。どうしたのだろうか?といぶかしむシンシアにトーマスは更に話しかける。
「今度なんだが、少し高位の貴族のパーティーに呼ばれたのだが予定はあいているかい」
「え、えぇ少々お待ちになって」
シンシアはトーマスに示された日の予定を侍女に聞く。幸いその日はまだ何もない日だった。
「えぇ、問題ありませんわ。お供させていただきます。けど珍しいですわね、旦那様がご自身で予定の確認だなんて」
基本的に夫妻の予定を管理するのはブラウンの仕事だ。二人で出かけないといけない用事があったとしてわざわざトーマスが声をかけるのは、それこそ以前のトレシアの商人と話した時のような場合だけだ。そう思い至ったシンシアはもしかして、と思った。
「もしかして、旦那様?その高位の貴族って結構な方だったりされます?」
わざわざトーマスが直接、しかも早めに伝えるということは名家出身のシンシアでも出席がかなりの重荷になる、ということだろう。そう思ったシンシアにトーマスは苦笑いする。
「あぁ、ボルドー卿の名前は知っているかい」
その名を頭の中で反芻したシンシアは昔覚えた貴族名鑑を思い浮かべ、悲鳴を上げそうになった。
「侯爵様ですわよね。それも由緒正しき、社交界の重鎮の」
ボルドー侯爵はライセル王国でも非常に有名な貴族の一人だ。そもそも爵位自体上から2番めだし。その古さだけで子爵くらいの扱いはしてもらえるレイクトン家よりも更に古い家柄だ。何なら現王太子とも懇意だという。そんな雲の上の人が、一応財界ではトップ扱いとは言え、一庶民をパーティーに呼ぶのか。震えるシンシアにトーマスはまあ落ち着け、と声をかける。
「確かに由緒正しき貴族だし、失礼は出来ないが、そこまで気負う必要はない。シンシアは上位貴族に対する対応も完璧だ、とブライトやアデルに聞いているし、パーティーと言っても小さなものだ。なにより彼は友人だ」
「ゆ、友人ですか?」
プライベートは比較的謎に包まれているが、そう友達が多いわけでもないらしいトーマスの友人が侯爵と聞いて唖然とするシンシア。そんな様子に笑いを噛み殺しつつ、トーマスは続ける。
「あぁ、友人であり恩人だ。以前この商会を継いだ当初、財界からは反発も多かったと言っただろう。その時アデル同様にいち早く私の味方となってくれたのがボルドー卿だ。さらに遠巻きに見ている貴族たちも多い中で、積極的にブラッドリー商会を重用してくれ、まだ社交界のつながりが少なかった私を各方面へ紹介してくれた。今の私があるのは彼のおかげと言っても良い」
「そんなことがあったのですね」
「そう、結婚してすぐの頃から早く妻を紹介しろ、と言われていて、あれこれとごまかしていたのだが・・・・・」
「ごまかしていたの・・・・・ですか?侯爵様に」
「まぁ、そうかな。最近シンシアはアデルと仲が良いだろう。彼女に紹介して、私に紹介出来ないことはないだろう?と言われてしまってな。半ば強引に招待状を押し付けられてしまった」
トーマスの友人たちは招待状を押し付けるのが好きなようだ。いずれにせよそれなら余計に失礼は出来ない。シンシアは慌てて屋敷に戻り当日のことを、侍女と相談するのだった。
「ブラッドリー商会からも何人もの従業員があちらの国へ出向いていると聞きます」
シーズンももう始まろうかというある日。シンシアはブラッドリー家から馬車で少し行ったところにあるホールトン家の屋敷へ来ていた。
あの後、アデルの招待を受けたシンシアはあっという間に彼女と仲良くなった。商売の第一線で活躍するアデルはこれまで会ったどの女性とも違う魅力を持っていたし、一方アデルも素直で賢いシンシアのことを気に入った。
勿論アデルは商会の当主として日々各地を飛び回っているから、頻繁に、とは言えないが、時間のある時にはこうしてシンシアをお茶に誘って、最近の流行や財界の事情を教えてくれるようになった。シンシアにとっては頼れる姉がいるような感覚である。
今日の話題は海を超えて遠くにある、という茶の生産地についてだ。ひとしきり向こうの事情に聞いた後、シンシアはふと前から気になっていたことをアデルに質問した。
「あの、そう言えばトーマス様のご両親は茶園を訪ねようとされて、事故に遭われたのですよね」
「えぇ、そうよ。近頃は通信技術も発達したから当主自ら向こうに行くことは少なくなったのだけれど・・・・・あのお二人は旅が好きだったから。私も子供の頃お世話になったから、本当に残念だわ」
「はい・・・・・私もお会いしてみたかったです。ところで当時、そのブラッドリー商会の当主が変わった頃のことって覚えていらっしゃいますか?なんでもトーマス様がすごくお世話になったと感謝していたのですが」
「なんだか彼に感謝されると気味が悪いわね。でも・・・・・まあ、そうねいろいろ彼も大変だったのは事実ね。トーマスに聞けば色々教えてくれるんじゃないの?」
「トーマス様はこの話は、お気に召さないようで、はぐらかされてしまうのです」
そう言って困ったような顔をするシンシアにアデルは苦笑する。
「まあ、本当に色々あったから。トーマスが話したくなくなる気持ちもわからなくはないわ。まあ、気長に待ちなさい。トーマスはあなたのことを好いているはずだし、きっといつか教えてくれるわ。さ、それよりもカップが空ね。次はこのお茶を淹れましょうか」
そう言って話をかえるアデルにそれ以上何も言えなくなったシンシアは気持ちを切り替えて、目の前のお茶に集中することにした。
ライセル王国の夏は社交シーズンの真っ盛りだ。シンシアもお茶会だ、パーティーだとブラッドリー家の若奥様として忙しくしていた。
珍しく、何も予定がない日。シンシアは商会の本店で商品を見回っているとトーマスが上の階から降りてきた。
「あぁ、シンシア、そこにいたのか。ちょうど良い」
日々忙しい彼は普段シンシアが店に来ても合うことは殆ど無い。なんなら仕事外で店で会ったのはあのアデル様突撃事件以来ではなかろうか。どうしたのだろうか?といぶかしむシンシアにトーマスは更に話しかける。
「今度なんだが、少し高位の貴族のパーティーに呼ばれたのだが予定はあいているかい」
「え、えぇ少々お待ちになって」
シンシアはトーマスに示された日の予定を侍女に聞く。幸いその日はまだ何もない日だった。
「えぇ、問題ありませんわ。お供させていただきます。けど珍しいですわね、旦那様がご自身で予定の確認だなんて」
基本的に夫妻の予定を管理するのはブラウンの仕事だ。二人で出かけないといけない用事があったとしてわざわざトーマスが声をかけるのは、それこそ以前のトレシアの商人と話した時のような場合だけだ。そう思い至ったシンシアはもしかして、と思った。
「もしかして、旦那様?その高位の貴族って結構な方だったりされます?」
わざわざトーマスが直接、しかも早めに伝えるということは名家出身のシンシアでも出席がかなりの重荷になる、ということだろう。そう思ったシンシアにトーマスは苦笑いする。
「あぁ、ボルドー卿の名前は知っているかい」
その名を頭の中で反芻したシンシアは昔覚えた貴族名鑑を思い浮かべ、悲鳴を上げそうになった。
「侯爵様ですわよね。それも由緒正しき、社交界の重鎮の」
ボルドー侯爵はライセル王国でも非常に有名な貴族の一人だ。そもそも爵位自体上から2番めだし。その古さだけで子爵くらいの扱いはしてもらえるレイクトン家よりも更に古い家柄だ。何なら現王太子とも懇意だという。そんな雲の上の人が、一応財界ではトップ扱いとは言え、一庶民をパーティーに呼ぶのか。震えるシンシアにトーマスはまあ落ち着け、と声をかける。
「確かに由緒正しき貴族だし、失礼は出来ないが、そこまで気負う必要はない。シンシアは上位貴族に対する対応も完璧だ、とブライトやアデルに聞いているし、パーティーと言っても小さなものだ。なにより彼は友人だ」
「ゆ、友人ですか?」
プライベートは比較的謎に包まれているが、そう友達が多いわけでもないらしいトーマスの友人が侯爵と聞いて唖然とするシンシア。そんな様子に笑いを噛み殺しつつ、トーマスは続ける。
「あぁ、友人であり恩人だ。以前この商会を継いだ当初、財界からは反発も多かったと言っただろう。その時アデル同様にいち早く私の味方となってくれたのがボルドー卿だ。さらに遠巻きに見ている貴族たちも多い中で、積極的にブラッドリー商会を重用してくれ、まだ社交界のつながりが少なかった私を各方面へ紹介してくれた。今の私があるのは彼のおかげと言っても良い」
「そんなことがあったのですね」
「そう、結婚してすぐの頃から早く妻を紹介しろ、と言われていて、あれこれとごまかしていたのだが・・・・・」
「ごまかしていたの・・・・・ですか?侯爵様に」
「まぁ、そうかな。最近シンシアはアデルと仲が良いだろう。彼女に紹介して、私に紹介出来ないことはないだろう?と言われてしまってな。半ば強引に招待状を押し付けられてしまった」
トーマスの友人たちは招待状を押し付けるのが好きなようだ。いずれにせよそれなら余計に失礼は出来ない。シンシアは慌てて屋敷に戻り当日のことを、侍女と相談するのだった。
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