国を守護する聖獣は、聖女と呼ばれた少女より嫌われ者の悪女を望む

紫宛

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第7話 仕事

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「ナファールが、お前に頼みたい仕事があるそうだ」
「ナファール様が?」

私は、後ろで控えているナファール様に視線を移しました。ナファール様は、眼鏡を人差し指で押し上げると神妙な顔つきで話し始めました。

なので私も、自然と居住まいを正しナファール様のお話に耳を傾けたんです。

「実は……ラフィーリア様……」
「は、はい」

何を言われるのでしょうか?
そんなに難しいお仕事なのでしょうか?
国民の為に身を粉にして働けとかでしょうか?
何を言われても、働かせて頂けるのです。感謝し、自分に出来る全ての力をもって励みましょう。


「私の補佐をして下さい!」
「はい!お任せ下さ……え?」

何を言われたのか、一瞬分かりませんでした。
勢いで、返事してしまいましたが……

ナファール様の補佐?

無理無理!無理です!
私に出来るはずがありません!
お断りしなければ……

「ナファール様、流石に補佐は無理があると思います。私には分不相応です。……陛下は、国民の不安は無いと言いましたが…全員ではないでしょう?反感は必ず出ます」

そして、私の存在がフルスターリを混乱の渦に巻き込ませてしまう。人は、不安要素を排除する傾向にあります。

そして最終的には、私を排除するだけじゃなく、私を国へ滞在させた陛下、私を雇った宰相様へ恨みの念が向けられます。

カテドラーラがそうだったように……

「そうなったら、反乱が起きるかも知れません」
「貴方の心配は分かります。しかし、それを考慮した上でラフィーリア様にお話しています」

ナファール様は分かっていると仰いました。

「ラフィーリア様の外交術、交渉術、どれをとっても大変素晴らしい能力です。更に、王妃教育の賜物でしょうか…礼儀作法、外国語、マナー等も完璧、他国のマナーや情勢も熟知してらっしゃる」

……だからこそ、処刑されるのです。
聖女の件が本命でしょうが、カテドラーラの内情を知りすぎてしまったのも、処刑の理由だと私は思っています。

「……」
「ラフィーリア様が感じている不安が、分からない訳ではありません。同じ事が、全く起きないという保証もありません。ですが、起きない為の努力をしましょう。私達を信じてみませんか?」

起きない、と断言はなさらないのですね。

でも……努力をすると言ってくれました。
カテドラーラの様な事を起こさない為に、出来る努力はすると。

「貴方が信じて下さるなら、約束致します。もし何かあっても、必ず双方の言い分を聞きます。どちらか一方の言い分だけを信じ、貴方を処分したりはしないと」

ナファール様の強い瞳が私を捉えます。そして、気がつけばラファール陛下もゼファール様も、決意が宿ったような強い瞳で私を見ていました。

『僕達は、リアの意志に従うよ』
『リアの行く道が、ボクらの行く道…』

ソル様もレヴォネ様も、聖獣様達も私の答えを待ってくれています。急かさず……悩む時間を下さっている。

私は……



静かな空間に、時計の針の音だけが響いています。
ナファール様の提案から、何度自分の心に問いかけても、答えは同じでした……

「ナファール様」
「返事は、決まりましたか?」
「はい、時間を下さり感謝致します」
「良いのですよ。それで、貴方の答えは?」
「ご迷惑をおかけするかも知れませんが、よろしくお願い致します」

私は、深々とラファール様達に頭を下げました。
その瞬間、ラファール様達のお顔に安堵の表情が浮かびました。

もしかしたら、単純に私の身の振り方を心配して下さっていたのかも知れません。

「お疲れでしょうから、王城の客室に案内させましょう…リリィ!」
「はい、ナファール様」
「ラフィーリア様を客室にご案内しなさい」
「畏まりました。では、参りましょうかラフィーリア様」
「は、はい。ありがとうございます」

『リア、僕達は残るよ!』
『サリス……に、用がある』
『妾には無いがの!!』
『では、妾達はリアについて行くかの』

ソル様とレヴォネ様は、ファサリス様とお話があるそうで残ると言いました。何百年ぶりに会うのです、積もる話があるのでしょう。

ラヴァ様含め、聖獣様達が一緒に部屋に付いてきて下さるそうです。ここに来るまで、ソル様達がずっと傍に付いていて下さったからか、1人は不安だったので助かりました。



ラフィーリアが謁見室から出て行くと、ナファールは真剣な面持ちになりラファールに問いかける。

「陛下良いのですか?彼女にカテドラーラの事情を教えなくて……いずれ知られるとは思いますが…」
「今はいい、ゆっくり休ませてやれ。これから、嫌というほど知る事になる。今だけは、何も知らせず……」

ラファールは、ラフィーリアを思い顔を歪ませた。
この国が、他国と渡り合えるようになったのは彼女のお陰だ。

だから、力になってやりたい。

そう思うのは、何もおかしいことでは無いはずだ。

ナファールとゼファールは、ラファールの言葉の裏を読み取っていた。普段彼は、それほど他人に入れ込むタイプでは無い。ここまで気にする理由は一つだけ……だが、ラファールはまだその気持ちに気付いていなかった。


ソルとレヴォネ、ファサリスは謁見室を離れ、王城の外に行き、空高く飛びあがる。

『お主ら、偽の聖女を殺したのか?』
『……だとしたら?』
『簡単すぎたのではないかの?ただ殺すだけなど』
『あぁ、我らが、ただ殺すだけなど…ある訳なかろう?』

ソルとレヴォネの話し方が、少年ぽいものから威厳ある話し方に変わる。

『お主ら……』
『何度死のうとも、死ぬことは叶わぬ』
『死界に突き落としても、我らの怒りは収まらぬ』
『『偽りには偽りを持って返す、それこそが奴の運命…』』
『そうか……出なければおかしいと思うたわ。信に重きを置く其方が、裏切った者に寛大な処置など有り得ぬからの』

ソルとレヴォネは、静かに瞳を閉じ……再び開くと、目の前に大きな鏡が現れた。

そこに映し出されたのは……

死んだはずの、メラニーだった。
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