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第3話 竜人国
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小さくて優しい手の感触に、私の意識は浮上して行きました。暖かな風と光が、まるで私を受け入れてくれているような錯覚に陥ってしまう。
そんな訳……ないのに…………
聖女であるメラニー様を、私は2年に渡り虐めてきました。
意地悪な事を言ったり、態度も悪かったと思います。ただ、手を出すことはしてません。人の道を踏み外すような真似はしていません、決して。獣神様にも誓えます。
でも、いつの間にか私には……聖女様の暗殺疑惑がかけられていました…
階段から突き落とす
路地裏に誘い出し、ならず者に襲わせる
最後は……毒殺未遂
身に覚えは一切ありませんでした。
ですが、誰一人信じては下さいませんでした。
父も母も兄も……友人も……
そして……婚約者のレゴル様さえも。
当然ですよね?
私は、自身の醜い感情で聖女様を害していたんですもの。「人の道に踏み外した覚えはない」と言って誰が信じるの?という話です。
閉じていた瞼の裏から涙が零れてきます。
それ…でも、信じて欲しかった…
メラニー様が来るまで、私が聖女だったんです。レゴル様の婚約者として王妃教育をこなし、聖女として教会に殉じ人々の為に行動して来たんです。
聖女の証だって、偽物なんかじゃないっ
小さな誰かが、流れ落ちる涙を拭ってくれ私は閉じていた瞼を上げました。
そこには、心配そうに覗き込む黒い髪の少年と金の髪の少年がいました。
「だれ……?」
そのうちの一人は、あの時私を連れ出した男の子で……
『僕はソルだよ!』
『ボクは……レヴォネ』
聞いた事のある名前だった……
我が国の守り神 獣神ソルレヴォネ様……
獣神様だけど、その姿は金の龍だと聞いている。
教会にも、金の龍と金の龍を囲うように4匹の聖獣様を象ったレリーフが存在しています。
金の髪をした少年は、ソルと名乗り
黒の髪をした少年は、レヴォネと名乗った。
獣神様と関係があるのでしょうか?
確か、あの時……聖獣の一柱である炎の聖獣様が、何か仰っていた気がするけれど……?
傷の痛みで気を失い、あまり覚えては無かった。
「??」
そう言えば、杭に打たれた手や足の痛みが全然感じられませんが……
両手を顔の前に持っていき傷の具合を見ると、そこには……ある筈の傷がありませんでした。
『怪我は……治した』
『怪我は、レヴォネが治したよ!』
不思議そうに手を眺めていると、2人の少年が同時に答えてくれます。ゆっくりと体を起き上がらせようとしましたが……上手く出来ず、2人の少年が慌てて手を貸して下さいました。
「ありがとうございます」
『いいんだ!』
『いいよ……』
「怪我の手当までして下さり、感謝致します」
炎の聖獣様のお知り合いならば、この方々も聖獣様なのでしょう。失礼にならないよう気を付けないと……
『う~ん』
『……』
そう私が……丁寧な態度を心掛けると、2人は私の顔を見ながら首を傾げます。
『普通……がいい』
『他人行儀みたいでヤダ!』
「ですが、御二方は聖獣様でしょう?」
『……でもヤダ!』
金の髪をした少年が私に抱きつき『ヤダヤダ』と連呼してきます。黒の髪の少年も、金の髪の少年とは反対側に抱きつき『ふつう』と呟くように言いました。
『戻してくれなきゃ離さないから!』
『ずっと……のまま……』
『それも……良い』と黒髪の少年は、うっとりと言いました……
流石にそれは困ります。
ここがどこか分かりませんが……処刑場から逃げ出したのです。確実に追っ手がかかるでしょう…愛する聖女様を殺しかけた私を、レゴル様が許す訳ありませんから。
早く離れなければ…
「分かりましたわ。ですが、敬称はお許し下さいませ」
2人は顔を見合せ、『いいよ!』と言って下さいました。そして、ピッタリとくっついていた体を離してくださいました。
「ソル様、レヴォネ様」
『なに…?』
『なぁに?』
「今ここは、何処でしょうか?」
私が問いかけると2人は、また同時に『フルスターリだよ!』と答えました。
フルスターリ……竜人国。
この世界には、数多の種族が生きています。
最も多い人間、自然豊かな場所のみ住む妖精族やエルフ族、最も種類の多い獣人族、世界最強の力を持つと言われる竜人族、数は少ないけれど魔獣族や魔人族も存在していると言われています。
竜人国には、色々な種族が住んでいます…人間以外ですが。彼らは、人間を嫌っていますから。
人間は数が多く、彼らを捕まえ奴隷にしたり閉じ込め鑑賞すると言った行為を行ってきたため……です。
だから、私たちの国と彼らの国では国交はありませんでした。ですが近年、新たに王になったラファール・フルスターリ様は私たちの国と和平を結びたいと使者を送ってきました。
それで、私がよくこの国に来たものです。婚約者だったレゴル様の代理として。
仲がいいとは言いませんが、それでもある程度は面識がありますし、いきなり襲うようなお方でもありません。
『いや……?』
『ダメだった?』
不安そうな2人に笑顔で返し、大丈夫と答えました。
にしても、こんな長い時間この場所に留まっていたのに魔獣に襲われないなんて……
ただの森では無いのでしょうか?
『聖域だよ!』
『ソルと、作った』
「え?」
聖域は、聖獣様が作る神聖な空間です。カテドラーラの王都と東西南北、それぞれ聖獣様の住まう場所に聖域が存在しています。
魔獣や悪しきものを寄せ付けない鉄壁の守りです。
「わざわざ、聖域を作ってくださったのですか?」
『『うん!』』
「ありがとうございます」と感謝を伝え、2人の頭を優しく撫でました。ソル様の髪は、ふわふわした髪質で、レヴォネ様の髪はしっとりとした髪質でした。ずっと撫でていたくなります。
ですが、やはり早くたつ必要がありそうなので、そうそうに切り上げ……
「そ、そんな不服そうな顔をなさらないで…」
『もっと……』
『もっと撫でてっ』
「後で、撫でますから……ね?」
『うー』
『絶対だよ!』
「ええ」
2人と手を繋ぎ聖域を出ると、目の前にフルスターリの王都が見えました。かなり近くまで連れてきてくれたみたいです。
『行こう?』
『行こう!!』
ソル様とレヴォネ様が、私の手を引き歩き始めました。
ラファール様……
聖獣の聖女を害した話は聞かされてるはず……私を受け入れてくださるでしょうか?それとも、私をカテドラーラに引き渡すでしょうか?
分かりませんが…行くしかありませんわね。
笑顔で私の手を引いて下さる、ソル様とレヴォネ様に勇気づけられて……私は竜人国フルスターリに入りました。
そんな訳……ないのに…………
聖女であるメラニー様を、私は2年に渡り虐めてきました。
意地悪な事を言ったり、態度も悪かったと思います。ただ、手を出すことはしてません。人の道を踏み外すような真似はしていません、決して。獣神様にも誓えます。
でも、いつの間にか私には……聖女様の暗殺疑惑がかけられていました…
階段から突き落とす
路地裏に誘い出し、ならず者に襲わせる
最後は……毒殺未遂
身に覚えは一切ありませんでした。
ですが、誰一人信じては下さいませんでした。
父も母も兄も……友人も……
そして……婚約者のレゴル様さえも。
当然ですよね?
私は、自身の醜い感情で聖女様を害していたんですもの。「人の道に踏み外した覚えはない」と言って誰が信じるの?という話です。
閉じていた瞼の裏から涙が零れてきます。
それ…でも、信じて欲しかった…
メラニー様が来るまで、私が聖女だったんです。レゴル様の婚約者として王妃教育をこなし、聖女として教会に殉じ人々の為に行動して来たんです。
聖女の証だって、偽物なんかじゃないっ
小さな誰かが、流れ落ちる涙を拭ってくれ私は閉じていた瞼を上げました。
そこには、心配そうに覗き込む黒い髪の少年と金の髪の少年がいました。
「だれ……?」
そのうちの一人は、あの時私を連れ出した男の子で……
『僕はソルだよ!』
『ボクは……レヴォネ』
聞いた事のある名前だった……
我が国の守り神 獣神ソルレヴォネ様……
獣神様だけど、その姿は金の龍だと聞いている。
教会にも、金の龍と金の龍を囲うように4匹の聖獣様を象ったレリーフが存在しています。
金の髪をした少年は、ソルと名乗り
黒の髪をした少年は、レヴォネと名乗った。
獣神様と関係があるのでしょうか?
確か、あの時……聖獣の一柱である炎の聖獣様が、何か仰っていた気がするけれど……?
傷の痛みで気を失い、あまり覚えては無かった。
「??」
そう言えば、杭に打たれた手や足の痛みが全然感じられませんが……
両手を顔の前に持っていき傷の具合を見ると、そこには……ある筈の傷がありませんでした。
『怪我は……治した』
『怪我は、レヴォネが治したよ!』
不思議そうに手を眺めていると、2人の少年が同時に答えてくれます。ゆっくりと体を起き上がらせようとしましたが……上手く出来ず、2人の少年が慌てて手を貸して下さいました。
「ありがとうございます」
『いいんだ!』
『いいよ……』
「怪我の手当までして下さり、感謝致します」
炎の聖獣様のお知り合いならば、この方々も聖獣様なのでしょう。失礼にならないよう気を付けないと……
『う~ん』
『……』
そう私が……丁寧な態度を心掛けると、2人は私の顔を見ながら首を傾げます。
『普通……がいい』
『他人行儀みたいでヤダ!』
「ですが、御二方は聖獣様でしょう?」
『……でもヤダ!』
金の髪をした少年が私に抱きつき『ヤダヤダ』と連呼してきます。黒の髪の少年も、金の髪の少年とは反対側に抱きつき『ふつう』と呟くように言いました。
『戻してくれなきゃ離さないから!』
『ずっと……のまま……』
『それも……良い』と黒髪の少年は、うっとりと言いました……
流石にそれは困ります。
ここがどこか分かりませんが……処刑場から逃げ出したのです。確実に追っ手がかかるでしょう…愛する聖女様を殺しかけた私を、レゴル様が許す訳ありませんから。
早く離れなければ…
「分かりましたわ。ですが、敬称はお許し下さいませ」
2人は顔を見合せ、『いいよ!』と言って下さいました。そして、ピッタリとくっついていた体を離してくださいました。
「ソル様、レヴォネ様」
『なに…?』
『なぁに?』
「今ここは、何処でしょうか?」
私が問いかけると2人は、また同時に『フルスターリだよ!』と答えました。
フルスターリ……竜人国。
この世界には、数多の種族が生きています。
最も多い人間、自然豊かな場所のみ住む妖精族やエルフ族、最も種類の多い獣人族、世界最強の力を持つと言われる竜人族、数は少ないけれど魔獣族や魔人族も存在していると言われています。
竜人国には、色々な種族が住んでいます…人間以外ですが。彼らは、人間を嫌っていますから。
人間は数が多く、彼らを捕まえ奴隷にしたり閉じ込め鑑賞すると言った行為を行ってきたため……です。
だから、私たちの国と彼らの国では国交はありませんでした。ですが近年、新たに王になったラファール・フルスターリ様は私たちの国と和平を結びたいと使者を送ってきました。
それで、私がよくこの国に来たものです。婚約者だったレゴル様の代理として。
仲がいいとは言いませんが、それでもある程度は面識がありますし、いきなり襲うようなお方でもありません。
『いや……?』
『ダメだった?』
不安そうな2人に笑顔で返し、大丈夫と答えました。
にしても、こんな長い時間この場所に留まっていたのに魔獣に襲われないなんて……
ただの森では無いのでしょうか?
『聖域だよ!』
『ソルと、作った』
「え?」
聖域は、聖獣様が作る神聖な空間です。カテドラーラの王都と東西南北、それぞれ聖獣様の住まう場所に聖域が存在しています。
魔獣や悪しきものを寄せ付けない鉄壁の守りです。
「わざわざ、聖域を作ってくださったのですか?」
『『うん!』』
「ありがとうございます」と感謝を伝え、2人の頭を優しく撫でました。ソル様の髪は、ふわふわした髪質で、レヴォネ様の髪はしっとりとした髪質でした。ずっと撫でていたくなります。
ですが、やはり早くたつ必要がありそうなので、そうそうに切り上げ……
「そ、そんな不服そうな顔をなさらないで…」
『もっと……』
『もっと撫でてっ』
「後で、撫でますから……ね?」
『うー』
『絶対だよ!』
「ええ」
2人と手を繋ぎ聖域を出ると、目の前にフルスターリの王都が見えました。かなり近くまで連れてきてくれたみたいです。
『行こう?』
『行こう!!』
ソル様とレヴォネ様が、私の手を引き歩き始めました。
ラファール様……
聖獣の聖女を害した話は聞かされてるはず……私を受け入れてくださるでしょうか?それとも、私をカテドラーラに引き渡すでしょうか?
分かりませんが…行くしかありませんわね。
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