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第2話 見放された国(R15)
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眠るラフィーリアを起こさないよう気をつけながら、黒い髪の少年は抱き直した。
『ソル、向こうの様子……わかる?』
『ラフィーリアは?』
『大丈夫……起きない』
OKと声を上げ、ソルと呼ばれた白い鱗の獣は眼前に鏡を作り出した。
そこには、さっきまでいた聖国カテドラーラと4人の聖獣と透けた2人の人間が映し出されていた。
『さぁ、お楽しみの時間よの。いい加減、お前達も出て来たらどうかえ?』
『……』
『はぁ、やっとか!流石に全聖獣が出てきたら、ラフィーリアが恐縮すると思って我慢してたが……限界だったよ』
『俺じゃなくて、こいつがな?』と、黒と白の髪を靡かした男が顎でしゃくった先に居たのは……
怒りの形相で、レゴルとメラニーを睨む青髪の長身の男だった。
『……クヴェレ、殺してはならん』
『チッ』
黒い髪に黒い瞳の男性は、ため息を一つ吐き言葉を告げると、青髪の男が舌打ちで返し黒髪の男性は苦笑をもらした。クヴェルと呼ばれた男は、黒髪の男性の態度に仕方なく、引き下がる素振りを見せたのだった。
聖国カテドラーラ 首都上空に、異国情緒溢れる4人が降り立った。
そして……
『たく、どこで間違えちまったんだ?』
『仕方ありませんわ、オレリー。時代は流れる…という事なのでしょう』
ファーが付いたマントを身に付けた男性が、黒髪の男性の隣に姿を現した。さらに隣に、薄紫のドレスを身にまとった美しい女性が姿を表した。2人ともその姿は透けていて……人の姿をしているが、人間ではないようだった。
『俺が伝えた思いは……色褪せた……という事か……』
オレリーと呼ばれた男性は、『寂しいことだな』と俯き呟く。
「しょ、初代様っ!?」
「……っ?!っ!」
カテドラーラの現王が、男性を見て驚き声を上げると周りの国民が騒ぎ始め……王太子レゴルは、炎の聖獣ラヴァによって口を塞がれているため、声にならない声を上げた。
4人の聖獣にカテドラーラを建国した初代国王夫妻……前代未聞の光景に、教会の司祭は腰を抜かし若い神官は逃げ出す者もいた。
「せ、聖獣様!私は、聖獣様にお仕えする聖女、メラニーと申します!」
そんな中、先程ラフィーリアの処刑で大粒の涙を流した聖女が大声で聖獣に話しかけた。
『…………』
「お会い出来て光栄ですわ!ですが……」
メラニーは、「罪人に情けをかける必要は……」と言葉尻を濁し言った直後に全身を炎に包まれた。
「……え?ぁ……ぎゃあああぁ!」
「っ!……っ!」
『騒がしいやつよの、ラフィーリアに向けられた炎をお主に返しただけじゃろう?』
『遊んでないで、さっさと殺せ』
『馬鹿を言うでない!嘘をつき、ラフィーリアを嵌め殺さんとした報いは受けるべきじゃ!』
ラヴァの怒りの声に、誰も異を唱えることは無かった。この国を建国した初代オレリーでさえも……
聖なる炎に焼かれるメラニーを見たレゴルは恐怖に震え、腰を抜かし満足に歩くことも出来ず、父親である国王の足に縋りついている。
『確かに妾達の愛し子は、そこな娘に苦言を申したであろう。だが!それは言われても仕方なき事、其方らが礼儀を守っておれば言われなかった事じゃ!』
そう、ラフィーリアは何も嘘を言ってメラニーを貶めた訳では無い。
王太子に対する言葉遣いや礼儀。
婚約者のいる男性に2度目のダンスの誘い。
聖女は王族と同格として扱われる為、言葉や礼儀、礼節……を学ぶ必要がある。
けれどメラニーは、レゴルと共に怠け続けた。
だから、ラフィーリアはレゴルの婚約者として苦言を言い続けたのだ。
他国に示しがつかない……と。
『王族とし、礼儀を重んじるのは当然のこと。相手を思いやり、常に相手の言葉に耳を貸し、真実を追い求めるよう伝えたはず。「良き国であり続けるよう努力せよ」とな』
初代は、冷たい視線を下にいる人間に向けた。
『国民もまた、長い年月で冷たい人間になったわね……』
『もはや、この国に留まる意味は無いのかもな。ソルレヴォネ様も離れた事だし』
『…………』
そう言いながらも悲しそうな顔をするオレリーに、リナリーは体を寄せた。本当は慰めたかったが、様々な思いや出来事を思い出していたオレリーに、かける言葉は見つからなかったのだ。
「あぁ、あ”あ”あ”」
『ああ、醜いのぉ。心も魂も…』
『おい、もう十分だ。醜すぎて吐き気がする。さっさと殺せ!』
『分かっておるわ。妾とて我慢ならぬゆえな』
そう言って、ラヴァは右手の親指を立てスっと横に動かした。すると、メラニーを燃やしていた炎がいっそう燃え上がり彼女は……灰と化した。
『あれもやるか?やるなら俺が殺るが?』
「……っ!!」
『辞めよ。アレに手を出せば、聖獣でおれなくなるぞ』
『チッ』
再び、黒髪の男性に止められ舌打ちをする青髪の男性。
『放っておけよ。どうせ勝手に自滅するだろ、真の聖女を害したんだからな』
『うむ、あの娘は聖女を偽った大嘘つき。ソルレヴォネを怒らせた馬鹿者』
死んで当然だと、青髪の男性クヴェレは言った。
・
・
・
『あはは、あいつ死んだねぇ』
『うん。ラフィーリアの立場を奪い、殺そうとした……報い』
『だね!それより、どこに行こうか?ラフィーリアが安心して、心休まる場所に連れて行きたいよねぇ?』
白い鱗の獣、黒い髪の少年は、未だ眠るラフィーリアの今後を考え託す場所を探し始めた。
『まさか、殺そうとするなんてさ。準備が間に合わなかったし!』
『うん。取り敢えず、竜人国が良いと思う……けど』
『……行ってみるしかないね……』
獣人や竜人が多くいる国……竜人国フルスターリ。
自分たち獣神や聖獣の愛し子であるラフィーリア……けど人間でもあるラフィーリアは、受け入れられないかも知れない。
なぜなら……
彼らは、大の人間嫌いなのだから……
『ソル、向こうの様子……わかる?』
『ラフィーリアは?』
『大丈夫……起きない』
OKと声を上げ、ソルと呼ばれた白い鱗の獣は眼前に鏡を作り出した。
そこには、さっきまでいた聖国カテドラーラと4人の聖獣と透けた2人の人間が映し出されていた。
『さぁ、お楽しみの時間よの。いい加減、お前達も出て来たらどうかえ?』
『……』
『はぁ、やっとか!流石に全聖獣が出てきたら、ラフィーリアが恐縮すると思って我慢してたが……限界だったよ』
『俺じゃなくて、こいつがな?』と、黒と白の髪を靡かした男が顎でしゃくった先に居たのは……
怒りの形相で、レゴルとメラニーを睨む青髪の長身の男だった。
『……クヴェレ、殺してはならん』
『チッ』
黒い髪に黒い瞳の男性は、ため息を一つ吐き言葉を告げると、青髪の男が舌打ちで返し黒髪の男性は苦笑をもらした。クヴェルと呼ばれた男は、黒髪の男性の態度に仕方なく、引き下がる素振りを見せたのだった。
聖国カテドラーラ 首都上空に、異国情緒溢れる4人が降り立った。
そして……
『たく、どこで間違えちまったんだ?』
『仕方ありませんわ、オレリー。時代は流れる…という事なのでしょう』
ファーが付いたマントを身に付けた男性が、黒髪の男性の隣に姿を現した。さらに隣に、薄紫のドレスを身にまとった美しい女性が姿を表した。2人ともその姿は透けていて……人の姿をしているが、人間ではないようだった。
『俺が伝えた思いは……色褪せた……という事か……』
オレリーと呼ばれた男性は、『寂しいことだな』と俯き呟く。
「しょ、初代様っ!?」
「……っ?!っ!」
カテドラーラの現王が、男性を見て驚き声を上げると周りの国民が騒ぎ始め……王太子レゴルは、炎の聖獣ラヴァによって口を塞がれているため、声にならない声を上げた。
4人の聖獣にカテドラーラを建国した初代国王夫妻……前代未聞の光景に、教会の司祭は腰を抜かし若い神官は逃げ出す者もいた。
「せ、聖獣様!私は、聖獣様にお仕えする聖女、メラニーと申します!」
そんな中、先程ラフィーリアの処刑で大粒の涙を流した聖女が大声で聖獣に話しかけた。
『…………』
「お会い出来て光栄ですわ!ですが……」
メラニーは、「罪人に情けをかける必要は……」と言葉尻を濁し言った直後に全身を炎に包まれた。
「……え?ぁ……ぎゃあああぁ!」
「っ!……っ!」
『騒がしいやつよの、ラフィーリアに向けられた炎をお主に返しただけじゃろう?』
『遊んでないで、さっさと殺せ』
『馬鹿を言うでない!嘘をつき、ラフィーリアを嵌め殺さんとした報いは受けるべきじゃ!』
ラヴァの怒りの声に、誰も異を唱えることは無かった。この国を建国した初代オレリーでさえも……
聖なる炎に焼かれるメラニーを見たレゴルは恐怖に震え、腰を抜かし満足に歩くことも出来ず、父親である国王の足に縋りついている。
『確かに妾達の愛し子は、そこな娘に苦言を申したであろう。だが!それは言われても仕方なき事、其方らが礼儀を守っておれば言われなかった事じゃ!』
そう、ラフィーリアは何も嘘を言ってメラニーを貶めた訳では無い。
王太子に対する言葉遣いや礼儀。
婚約者のいる男性に2度目のダンスの誘い。
聖女は王族と同格として扱われる為、言葉や礼儀、礼節……を学ぶ必要がある。
けれどメラニーは、レゴルと共に怠け続けた。
だから、ラフィーリアはレゴルの婚約者として苦言を言い続けたのだ。
他国に示しがつかない……と。
『王族とし、礼儀を重んじるのは当然のこと。相手を思いやり、常に相手の言葉に耳を貸し、真実を追い求めるよう伝えたはず。「良き国であり続けるよう努力せよ」とな』
初代は、冷たい視線を下にいる人間に向けた。
『国民もまた、長い年月で冷たい人間になったわね……』
『もはや、この国に留まる意味は無いのかもな。ソルレヴォネ様も離れた事だし』
『…………』
そう言いながらも悲しそうな顔をするオレリーに、リナリーは体を寄せた。本当は慰めたかったが、様々な思いや出来事を思い出していたオレリーに、かける言葉は見つからなかったのだ。
「あぁ、あ”あ”あ”」
『ああ、醜いのぉ。心も魂も…』
『おい、もう十分だ。醜すぎて吐き気がする。さっさと殺せ!』
『分かっておるわ。妾とて我慢ならぬゆえな』
そう言って、ラヴァは右手の親指を立てスっと横に動かした。すると、メラニーを燃やしていた炎がいっそう燃え上がり彼女は……灰と化した。
『あれもやるか?やるなら俺が殺るが?』
「……っ!!」
『辞めよ。アレに手を出せば、聖獣でおれなくなるぞ』
『チッ』
再び、黒髪の男性に止められ舌打ちをする青髪の男性。
『放っておけよ。どうせ勝手に自滅するだろ、真の聖女を害したんだからな』
『うむ、あの娘は聖女を偽った大嘘つき。ソルレヴォネを怒らせた馬鹿者』
死んで当然だと、青髪の男性クヴェレは言った。
・
・
・
『あはは、あいつ死んだねぇ』
『うん。ラフィーリアの立場を奪い、殺そうとした……報い』
『だね!それより、どこに行こうか?ラフィーリアが安心して、心休まる場所に連れて行きたいよねぇ?』
白い鱗の獣、黒い髪の少年は、未だ眠るラフィーリアの今後を考え託す場所を探し始めた。
『まさか、殺そうとするなんてさ。準備が間に合わなかったし!』
『うん。取り敢えず、竜人国が良いと思う……けど』
『……行ってみるしかないね……』
獣人や竜人が多くいる国……竜人国フルスターリ。
自分たち獣神や聖獣の愛し子であるラフィーリア……けど人間でもあるラフィーリアは、受け入れられないかも知れない。
なぜなら……
彼らは、大の人間嫌いなのだから……
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