植物の巫女は虐げられ追放されるも、実は彼女の知らない能力があった

紫宛

文字の大きさ
上 下
7 / 9

第7話 両親

しおりを挟む
船が、砂浜から伸びている桟橋に近づく。
けれど、船は桟橋まで進むことは無かった。

「この船は大きいから、これ以上進むと岩礁にのりあげてしまうんだ」
「ここに碇を下ろして、手漕ぎボートで桟橋まで行くんだよ?」

と教えてくれたのは、ナイシャル様とナジム様と仰る方です。ナジム様もナイシャル様に仕えているんだと聞きました。あと、ハーリス様と仰る方もいました……今は居ません。なんでも、予定より早く帰る事になったから国に知らせを届けに行ったんだって。

「ボートは結構揺れるけど、ナイシャル様が一緒だから大丈夫!心配はいらないからね」
「は、はい!ありがとうございます」

揺れるボートに縄ハシゴを使って乗り移る時、遠くにいるクレーテを見つけた。遠くに居てもその存在感はとても強い。甲羅に沢山の木とか泉とか山とかあるから沈まないか心配してたら、かめさんだから海の中でも泳げるし精霊の力も使えるから溺れることは無いとナイシャル様が教えてくれました。

「ありゃ?やっぱり迎えに来てるみたいですねぇ」
「え?」

ナジム様が、桟橋の向こう側を見て一言呟く。その呟きに反応しナイシャル様が深いため息を吐いた。

まだ遠くて私には何も見えませんが……

「ナイシャル様のご両親がお迎えに来てるんですよ!

ナジム様が私を姫様と強く強調して呼んだ。

「??」

私は不思議に思ったけれど、ボートからナイシャル様の手が伸びてきたので考えるのを辞めました。ナイシャル様の手を取ってハシゴから足を離しボートに降り立つと、ボートが揺れて足がふらついてしまいましたが……私の手を引いたナイシャル様がそのまま抱きとめて支えてくれました。

「大丈夫か?立ってると危ない座ってろ」
「はい、ありがとうございます」

言われた通り私はボートに座り、ナイシャル様も隣に座りました。ナジム様とアーキス様は後ろに、それからボートを漕ぐ人の計6人が乗り込み桟橋に向けて進む。

すると、少しづつ砂浜が見えてきてナジム様が言ったお迎えが見えてきました。

金の髪をした綺麗な女の人と、白い髪で褐色の肌をした男性が立っていて、その後ろに多くの人が立っていました。

2人の男女は、どことなくナイシャル様に似てる気がします。それに……ナイシャル様も、あの男性も、プフランチェでは見かけない白髪。

私も同じ……
もしかしたら、シャムス・サハラーァでは普通なのかも知れない。私の両親は、この国の出身なのかも!なら、会えるかも知れない……

私を愛し、連れて帰ろうと必死になってくれた人だって街の人に聞いたもの。その時、……イルーシャって赤ん坊だった私に両親は叫んだって聞いたもの。

プフランチェの教会の人に、イルフィリアって名付けられたけど、両親が叫んだイルーシャって名前……私は本当は、そっちを名乗りたかった……

「ナイシャル~!!!!」

桟橋について船から下りると、浜辺から女の人が走ってきていた。女の人は、プフランチェで見かけるような服装ではなく、女性なのにズボンを履いている。プフランチェの貴族女性が見たら、はしたないと罵るんだろうな。

「おかえり!無事だったようね。……」
「分かっております、母さん。イル」
「はい、ナイシャル様」

何か目線で訴える女性にナイシャル様は、仕方なさそうな顔をして私を呼ぶ。そして、彼の隣に移動すると女性を紹介された。

「イル。こちらは俺の母、リュナ・マイヤ・サハラーァ」

……はい?

「それから、今こっちに向かって歩いてきている男性が俺の父、ソゥ・シャムス・サハラーァだ」
「あなたが、ナイシャルからの報告にあったイルちゃんね!」

…………は?い?

いま、ナイシャル様はなんて言いましたか?

リュナ・マイヤ・サハラーァ?
ソゥ・シャムス・サハラーァ?

それって……この国の………………

「な、ナイ、ナイシャル様、は、……」

ゆっくりと、ナイシャル様の方に首を回す。
ナイシャル様は、「黙っててすまんな」と言って、本当の名前を教えてくれました。

ナイシャル・ネヒスト・サハラーァ

ナイシャル様は、シャムス・サハラーァの次期国王……

高位貴族なんてもんじゃない……国のトップだったなんて……私不敬じゃない?!

「っ!すみません!知らなかったとはいえ、無礼で不敬な態度っ!わたし処罰されますか……?」
「は?処罰なんてする訳ないだろう?俺が話さなかったんだからな」
「で、でも……!」
「……イルーシャちゃん」

……え?

「その名前、どうして知ってるんですか?」
「イル?イルこそ、知ってるのか?自分がイルーシャだって」
「ナイシャル様もどうして知ってるんですか?この名前は私と私の両親しか知らないはずなのに……
街の人に聞いたんです、私の両親の事。必死で私を連れ帰ろうしてくれて、最後に「イルーシャ」って赤ん坊だった私に叫んだって」

私はナイシャル様の言葉を疑問に思いつつも、話し始めた。自分が旅行中だった平民の男女との間に生まれたこと、自分の本当の名がイルーシャだということ、教会に引き取られる際、両親は強く反対し私を連れて帰ろうとしたこと、プフランチェの王家が登場した事で強制的に国を出されたこと……私の髪色がプフランチェでは珍しく、ナイシャル様達を見てシャムスに両親が居るかもしれないこと、居るのなら会ってみたいこと、自分の生い立ちを全て話した。

さすがに、プフランチェでどんな生活をして居たのかとかは話せなかったけど。

「イルーシャちゃん!私が、私がお母さんなの!」
「はい?……い、いいえ、私の両親は平民だと聞いてます」
「違うわ!15年前、私とソゥはお忍びで結婚記念日旅行をしていたの……その途中であなたを身ごもり、仕方なくプフランチェで産むことになったの…まさか、子を奪われるなんて思わなかったわ」
「え……」

本当に?本当に、この方が私のお母さんなんですか?

「額に聖痕が現れなければ、あなたを奪われる事なんて無かったのに……」

この15年、どれだけ辛かった事かと王妃様は仰った。

「イルは、父さんと母さんにそっくりだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ、誰に聞いても同じ事を返すだろうよ。お前は父さんと母さんの子で俺の妹だってな」

……それで、ナイシャル様は優しかったんですね。私が妹だと分かったから、ずっと優しかったんだ。

でも、私は頭が混乱して……
ナイシャル様がお兄さん?
ナイシャルのご両親がシャムス・サハラーァの王様と王妃様でナイシャル様は王子様?
王様と王妃様が私のお父さんとお母さん?
だから、ナジム様達は私をと呼んだの?

何が何だか……え?
どういうこと……?あれ?
グルグル……頭がグルグルして、何も考えられない。なんか、目の前が暗くなってきてる気がするし……どうなってるの?

「イル……シャ?イルーシャ!」

ナイシャル様の声も遠い……

ふと気が付くと、私の体は吸い込まれるように地面に倒れそうになっていた。けれど、倒れる前に誰かに抱きとめられる感覚……頭の上から聞こえるのはナイシャル様の声と、私の母だと言ったリュナ様の声……

「イルーシャちゃん!どうしよう?あなた!早すぎたかしら?!やっぱり!」
「取り敢えず、ここで話しても仕方ない。宮殿に連れて帰るぞ!急げ!」

ふわりと抱き上げられて、どこかに移動する気配……

「黙ってて、悪かったな……」

小さく、消え入りそうな声で私に呟くナイシャル様の声を最後に私は意識を手放した。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?

桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」 やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。 婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。 あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?

悪役令嬢は蚊帳の外です。

豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」 「いえ、違います」

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。 ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。 そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。 始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め… ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。 誤字脱字お許しください。

処理中です...