植物の巫女は虐げられ追放されるも、実は彼女の知らない能力があった

紫宛

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第4話 ナイシャル(ナイシャル視点)

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15年前

両親が、お忍びの結婚記念日旅行に行ったあと……母さんのお腹の中に妹がいることが判明した。父さんは急いで帰ることを提案したそうだが、母さんはまだ大丈夫と言って旅を続けたそうだ。

しかし、妹が産まれる前にシャムス・サハラーァに戻って来るはずだった両親は、プフランチェで足止めを食らった。

お忍びの旅行だった両親は、本来の身分を隠しシャムス・サハラーァの貴族の名を借りていた。プフランチェは多くの巫女を有するため入出国が厳しく制限されていることは知っていたが、それでも数日で国を出れると思っていたんだ。

王都への出入りが厳しいだけで、国を出るのに厳しい検問があるなんて……しかも、母さん達が国を出られなかった理由が妊娠中だったからなんて、その時は誰も思わなかった。

母さん達は仕方なく宿に泊まり、教会で妹を産んだ……
それが、悲劇の始まりだった……


生まれた子は、額に聖痕を持っていたのだ。
両親は、聖痕を持って生まれた子を愛おしそうに抱きしめ名を与えたと聞く。

イルーシャ

俺の妹。

だが、両親は子を抱きしめ名を告げた瞬間に!教会に!奴らに!子を奪われた!
父さんが剣を取り、教会の奴らに剣先を向け子を取り戻そうとしたけれど、プフランチェの王が出てきた。

両親を平民と罵り、子はプフランチェの巫女として育てると言いきったそうだ。当然、両親は強く反対した。イルーシャはシャムス・サハラーァの血を引くと、連れて帰る……と!

だが、子を連れて行くのなら、プフランチェは今後一切シャムス・サハラーァとは取り引きしないと言い出した……

かつて……植物の巫女を有していたプフランチェは、多くの希少な植物を多く栽培している。資金は高いが、それに見合うほど効能の高い薬草が取れるプフランチェと敵対するのは、国民を殺すことになると……両親は泣く泣くプフランチェを出る事になった。

必ず、イルーシャを国に連れ戻すことを心に誓って……



だが、月日は流れ……とうとう、15年の時が過ぎてしまった。あの日から両親は、俺は、シャムス・サハラーァの国民達は女神を恨んだ。

何故イルーシャに聖痕を与えたのかと……女神が聖痕を与えなければ、イルーシャが奪われる事など無かった……と。

シャムス・サハラーァの女神への信仰が薄れ、西の国シャムス・サハラーァに巫女が生まれなくなった。巫女が生まれなくなった事が原因で、我が国は水不足に悩まされる事になったが……

それでも、俺達は女神に許しを乞う事はなかった。





プフランチェの隣に位置するラ・メール国。

そこで俺は、プフランチェの情報を集めていた。それは、シャムス・サハラーァがプフランチェに戦争を仕掛けようとしているからだった。

従者と共に身分を隠し、ラ・メール国で情報を集めていると、目の前で少女が当たりを見回しながら歩いていた。こっちに向かって歩いてきたかと思えば、急に方向転換をし路地裏に入ろうとする。

先程から嫌な視線を少女に向けている輩もいる。
俺はどうにも放っておけなくて、少女に話しかけた。

振り向いた少女は、真っ白い髪に赤紫色の瞳をした可愛い少女だった。

「!」

フードで隠されて、髪色は最初分からなかったが……

(あぁ、こんな所で会えるとは……)

髪色は、父と……
瞳は、父と母を合わせたような……

間違えるはずがない……

「ナイシャル様……この御方は……」
「あぁ、間違いない……」

小声で、従者と話す。

「父さん達にも報告しないとな……泣くほど喜ぶぞ」





✾✾✾✾✾


ラ・メール国で出会った少女は、イルフィルナと名乗った。母さん達が付けた名ではなく、プフランチェの教会のヤツらが勝手につけた名を少女は名乗っていた。

腹立たしかった……だから、本当の名を教えてあげたかった。だけど、本当の名は……母さん達がきっと伝えたいだろうから、俺が今告げることは出来なかった。

だから、イルフィルナとイルーシャ……両方の名に入っている「イル」と、愛称にして呼ばせてもらうことにした。

俺の事は、兄と呼んで欲しいが……まだ本当の事を告げてないのに、兄と呼んでもらうのは違うよな……と諦めたさ。


船の甲板でイルーシャは、楽しそうに海を眺めていた。

「イル」
「あ、ナイシャル様!」
「あまり身を乗り出すな、落ちるぞ」
「大丈夫ですよ!落ちても船に使われてる木材達が助けてくれますから!」

そういう問題ではないんだがな……
イルーシャは、植物の巫女だと言った。

だが、プフランチェで巫女失格の烙印を押され追放されたと話してくれた。婚約者もいたそうだが、王様から破棄を告げられたのだと……

イルーシャは、悲しそうに額の聖痕を見せてくれた。イルーシャの額には、聖痕の上から失格の焼印を押されていた。

その上……教会でのイルーシャの扱い!巫女の仕事じゃないじゃないか!15歳だと言うのに、そう見えないのも!傷だらけなのも!

……イルーシャを連れ戻せるなら戦争は回避……そう思ったのは一瞬だった。

戦争は不可避だ!
あんな国、滅びてしまえ!

イルーシャは、教会から薬草の種を盗み出しラ・メール国で売って西の国……シャムス・サハラーァに行くと言った。元々、イルーシャを何とか説得し国に連れて行こうと思っていたからちょうど良かった俺は、自分の出自を明かし、イルーシャが望むなら連れていくと約束した。だが、見返りがなければ納得しないだろうと思ったから、条件として薬草を求めた。

そしたらイルーシャは、タダで薬草を譲ると言った。こんな希少な薬草をだ!売れば、白金貨1枚でも安いくらいの薬草をだ!

『シャムス・サハラーァという国は、砂だらけで植物が少ないと書物で知りました。その国なら、私を必要としてくれるかな?って思って』と語るイルーシャに、涙したのは俺だけじゃないはずだ。

イルーシャがプフランチェでどういう扱いを受けてきたのか、この場にいた誰もが瞬時に理解した。

因みにこの船は、シャムス・サハラーァ王家所有の船だ。乗組員は全員シャムス・サハラーァの人間。

イルーシャに優しくするものはいても、傷付けるものは居ない。

『船に乗せて貰うので、植物は代金の代わりです!』と、俺が出した金を一切受け取らず、薬草を俺の手に押し付けて走っていった。




イルーシャの隣に立ち、優しく頭を撫でてやる。
彼女はもう、フードを被ってはいない。
フードは、額の失格の烙印を隠すために被っていたんだそうだ。

巫女失格……それは、力を悪事に使用し、自らの欲望の為に使用し、故意に人を傷付ける為に使用した者達に押される罪の烙印。

罪の烙印を押されたものは、精霊は離れ女神の加護を失い全ての力を失くすと聞く。
だが、イルーシャは一切の力を失っていなかった。

それは、女神が彼女に罪はないと無実だと確信し、力を奪っていないからじゃないのか。
精霊も離れてはいないそうだ。ただ、目覚めたばかりだから、力が安定せず沢山寝ないといけないのだとイルーシャは語った。



「シャムス・サハラーァ国が見えたぞーーー!」
「面舵いっぱぁい!帆を上げろ~!」
「停泊準備~!アンカー用意!」

シャムス・サハラーァ国がある島が見えてくると、船が一気に騒がしくなる。

「ナイシャル様」
「イル、こっちに来い……シャムス・サハラーァ国がよく見えるぞ」
「はい!」

先に従者を1人帰らせたから、報告が言ってるだろう。父さん達が、港に来てるな……絶対。

まぁ、気持ちは分からんでもないからな。仕事放り出してきてるだろうが、宮殿にいる奴らはみな優秀だから問題ないだろ……たぶん。

丸い目が、余計にまん丸くなり見開かれ凝視するようにシャムス・サハラーァ国を見ているイルーシャ。

……これからの毎日、楽しくなりそうだ。
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