植物の巫女は虐げられ追放されるも、実は彼女の知らない能力があった

紫宛

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第2話 婚約破棄

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イルフィルナがいつものように、日が出る前に霊峰に霊水を汲みに向かっていた。

王都には、教会の裏には標高900m程の霊峰がある。その半ばほどに、霊水を汲める滝と滝壺があり、巫女は毎朝必ず汲みに行く決まりがあった。

最初は登るのに2、3時間かかっていたけれど、今では1時間ほどで行って1時間半かけて帰ってくる。

教会に着く頃には日が登り、朝のお勤めが始まるのだが……今日は、いつも何かしら言ってくる人達が来ない。

「どうしたのかな?何かあったのかな?偉い人が来てるとか?」

私以外の巫女は、朝のお勤めは免除されている。それ以外にも教会内の清掃、庭の花の手入れ、民の相談相手などなど……他にも巫女がやる内容では無いけれど、私以外の巫女の食事作りや着替えの手伝い、荷物運び等も私がやっている。

仕方ない……みんな、貴族の出だから……
平民で孤児の出は、私だけだから……

それにしても、本当に誰もいないみたいに静か……

でもそこに、バタバタと足音を響かせて走ってくる数人の司祭様。

「こんな所にいたのか!イルフィルナ!」
「探したのだぞ!どこにいた?!」
「朝のお勤めをしてました」
「チッ……まぁいい!こっちに来なさい」

何をしていたなんて……朝の勤めに決まってるのに……何を今更言ってるのかな?

「早く!こっちに来なさい!」
「国王陛下及び王太子殿下が起こしになっている!急げ!お前なんかが待たせて良い相手じゃない!」
「は、はい!」

分かっています。
私なんかが、会って良い方々でも無い……のは、なのになんで殿下の婚約者なんてなってるのか、本当に不思議なんだけど?

教会の正面とは反対に進み、いくつかの角を曲がった先……

今まで1度も入った事の無い教会の奥の豪華な扉、その先にプフランツェ王国の国王陛下と王太子殿下のキルシュ様が座っていました。そして、キルシュ様の隣には聖の力が発言した巫女のセイクレイ様。

私が中に入ると殿下に睨まれました。

……何ででしょうか?私何かしましたか?何もした覚えは無いのですが……?

「イルフィルナよ、其方……」

私が殿下の視線の意味を悩んでる間に、陛下が話し始めていました。

「其方は、力を偽っていたそうだな?」
「はい?」

一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。陛下の言葉の意味を理解するのに、たっぷり10秒は考えたと思う。

「セイクレイから聞いた。そして司祭や大司教、他の巫女達にも確認を取ったが……巫女の修行をサボり続けた影響で、大した力は無いそうだな」

……どうして、そういう話になったのかな?
私は毎朝、修行中も今も霊峰に水を汲みに行ってるし庭の手入れもしてる。自然全てに感謝し、祈りも捧げてる。

それを、見てもいないのに……他の方々に聞いたと言うだけで「やってない」と断言される謂れは無いのだけど?

「私は修行をきちんと行っています。今も昔も」
「嘘をつくな」
「ついていません」
「お前は、霊峰に水を汲みに行っているとキルシュには言ったそうだが、実際には途中の川で水を汲んで霊水だと言ってるそうじゃないか」

その言葉に、キルシュ様は頷きますが……そんな訳ない。だいたい、他の巫女達の方が霊峰に登りもしない癖に…水道水で誤魔化したりしてるのに……

「そんなお前が、他の巫女達よりも力が強い筈がない。ましてや植物など……我が国はお前が生まれる前から実り豊かな国だ。お前が生まれたから、お前の力で豊かになっている訳じゃない」

まぁ、そうですね。
私は確かに巫女だけど、力を使ったことはありません。力を使わなくても実り豊かだし……

「だから、お前とキルシュの婚約を破棄する」
「はぁ」
「あぁ。これで、役立たずなお前との婚約は終わったな」

そう言ってキルシュ様は、隣に座るセイクレイ様の肩を抱き寄せました。

「えぇ、長かったですわね」

セイクレイ様も、キルシュ様に寄り添い満更でもなさそう。私には1度も触れなかったのに……まぁ当然だけど。

平民で孤児だし?役立たずだし、、、

「そして、お前をこの国から追放する」
「はい?」

何でそうなるの?

「お前には巫女としての能力はなかったと国民にも通知し、新たにキルシュの婚約者としてセイクレイを立たせる事が決定した」

あぁ、そういう事か……
私は多くの民達の相談に乗り、手助けをしてきた実績があります。それなりに信頼関係を築いてきています。

その私を断罪するには、役立たずというだけでは足りない。巫女としての能力はなかったと、巫女失格の烙印を押す必要があるという事ですね?
そして追放する事で、罪の重さを民に知らしめるという事。

罪は犯してないけど……

私は役立たずかもだけど、力も私が選んだわけじゃないし、強さだって……私は真剣に修行に励んできたし、遊びにも行ってない。食べ物だって、自由も無かった……それでも、誰かの役に立ちたいと頑張ってきたんだけど……まぁもういいか。

こんな国の為に、身を粉にして働く意味を見いだせない。出てけって言うなら喜んで出てくし!

「分かりました」
「ならば、今日中に出ていく事だな。荷物を持ち出すことは一切禁止する!」
「早く出て行きなさい。はっきり言うけど、平民と一緒の生活って嫌だったの。同じ空間にいるのも気に入らなかったわ」

でしょうね。
分かってましたよ。




そして私は、何の荷物も持たずに王都の大きな門をくぐり街を出ました。

「ま、良いか!ご飯には困らないし!どこ行こうかな?旅行なんて初めてで迷うなぁ」

行き先なんて決まってない。
風の吹くまま、気の向くまま……

きっとどこかで、気に入る国が見つかるかも?
もしかしたら、両親にも会えるかも?
まだ見ぬ国、見知らぬ土地、美味しそうな食べ物、知らない植物たち!

楽しみだな~
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