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第2話 キュアン
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ある日から急に、俺の生涯の主であるアリステラ様が変わった。
あの日……外出先で急にお倒れになり、急ぎ連れ帰り医者に診せたものの、一向に回復せず目を覚まされなかった……
お嬢様と仲の良い魔法士が駆け付けてくれたが、目を覚まされない理由は分からなかった。
それなのに、昨日急に目を覚まされた……
お嬢様がお倒れになってから、1週間後の事だった。
それまでは、魔法士のノクト様がお嬢様に魔法で栄養を送り、死なせないように力を貸してくれていた。
「あれ?ここは?どこ?」
「お嬢様っ!!」
「お嬢……さま?って誰っ?!」
目を覚まされたお嬢様は、俺達のことを何も知らないと言った。自分の事も、俺達の事も、何一つ知らないと言ったのだ……。
「お嬢様、気分転換に散歩でもしませんか?」
「……え?いや……」
言葉遣いも、態度も仕草も、以前のお嬢様と全く違った……
数日たったある日、ふと思ったのだ……
記憶喪失でも、今まで努力して身につけたものまで失うのか?……と。
そして、記憶喪失なんかじゃないと、疑惑が確信に変わったのは……
あの方の魂に刻まれたはずの、俺の名が無かったことだっ!
知り合いの魔法士を呼び、調べて貰ったら驚く事に別人の姿に変わったっ
黒髪に黒目のおかしな格好をした女だ
その瞬間俺は、我を忘れ魔法で剣を作り出し女に襲いかかろうとした。だが、魔法士の男ノクト殿に止められ、冷静さを取り戻り剣は消した。
だが、怒りは消えないっ
ノクト殿からも、怒りの炎が宿ったようだった。
俺達は、アリステラ様に恩があり忠誠を誓った仲だ。それなのに、この女に我が大切な主が乗っ取られるなどっ!
しかも、もうひとつの世界から来たなどとふざけた事を言うっ!自分は既に死んでて、この世界に飛ばされて知らない内にお嬢様の体に入っただと?
そんな話が信じられるかっ!?
嘘つきな女は、何をしでかすか分からない。
だから、ノクト殿が対策を考える間、俺達はこの女を屋敷の一室に閉じ込めることを決めた。
だが、体はアリステラお嬢様のもの、万が一にも怪我や病に侵させる訳にも行かない。
食事やある程度の運動…(散歩だな)はして貰わないと。
あの女の意思は関係ない、お嬢様の体なのだから……そう思っていた、その時は。
なんの進展もないまま数日が過ぎ、私も使用人もノクト殿も苛立ちが募ってきていた。
そんなある日、彼女は死んだ魚のような目をしていた。何かを思い悩み、考え込んでいるようだった。
食事は取るし、散歩にも行くが、心ここに在らずといった感じで常にボーッとしていた。
(何をそんなに考え込んでいるんだ?)
もしかして…俺は、彼女に強制しすぎたのではないだろうか?
お嬢様が大切なのは変わらないが、彼女の事を蔑ろにしすぎたのでは?
そんな日が続いて、流石に良くないと思った俺達は彼女に休息を与えることにした。
何かしたいことは無いか?
と聞いたら、本を読みたいと言ったので何冊か用意するよう使用人達に伝えた。更に食事もお嬢様の好きな物じゃなくて、彼女の好きな物を食べさせるようにと伝えた。
ただ最近の彼女は、殆ど話さなくなったから何が好きなのか嫌いなのか分からないが…
目も合わせなくなったしな……まぁ、当然だよな。自分を嫌ってる人間と目を合わせる奴なんていない…
事件が起きたのは、それから更に数日が経った時だ。ノクトが屋敷に駆け込み、何があったのか聞けば、この屋敷から膨大な魔力を感じたと言う。
どういう意味か問おうとした瞬間、地面が激しく揺れ光の奔流が天を貫いた。
「まずいっ!嫌な予感がする!」
「キュアン様っ!」
「どうしたっ?!」
「お嬢様がっ!アリステラお嬢様が居ません!」
「っ?!」
嫌な予感がした……
彼女と、二度と会えなくなるような……
「嫌だ……」
キュアンは、走り出していた。
彼女を助けないと、死なせたくないと、失いたくないと、強く強く思った。
何故そう思うのかは分からなかったけど…
走る速度を上げながら、彼女の事だけをキュアンは考えていた。
あの日……外出先で急にお倒れになり、急ぎ連れ帰り医者に診せたものの、一向に回復せず目を覚まされなかった……
お嬢様と仲の良い魔法士が駆け付けてくれたが、目を覚まされない理由は分からなかった。
それなのに、昨日急に目を覚まされた……
お嬢様がお倒れになってから、1週間後の事だった。
それまでは、魔法士のノクト様がお嬢様に魔法で栄養を送り、死なせないように力を貸してくれていた。
「あれ?ここは?どこ?」
「お嬢様っ!!」
「お嬢……さま?って誰っ?!」
目を覚まされたお嬢様は、俺達のことを何も知らないと言った。自分の事も、俺達の事も、何一つ知らないと言ったのだ……。
「お嬢様、気分転換に散歩でもしませんか?」
「……え?いや……」
言葉遣いも、態度も仕草も、以前のお嬢様と全く違った……
数日たったある日、ふと思ったのだ……
記憶喪失でも、今まで努力して身につけたものまで失うのか?……と。
そして、記憶喪失なんかじゃないと、疑惑が確信に変わったのは……
あの方の魂に刻まれたはずの、俺の名が無かったことだっ!
知り合いの魔法士を呼び、調べて貰ったら驚く事に別人の姿に変わったっ
黒髪に黒目のおかしな格好をした女だ
その瞬間俺は、我を忘れ魔法で剣を作り出し女に襲いかかろうとした。だが、魔法士の男ノクト殿に止められ、冷静さを取り戻り剣は消した。
だが、怒りは消えないっ
ノクト殿からも、怒りの炎が宿ったようだった。
俺達は、アリステラ様に恩があり忠誠を誓った仲だ。それなのに、この女に我が大切な主が乗っ取られるなどっ!
しかも、もうひとつの世界から来たなどとふざけた事を言うっ!自分は既に死んでて、この世界に飛ばされて知らない内にお嬢様の体に入っただと?
そんな話が信じられるかっ!?
嘘つきな女は、何をしでかすか分からない。
だから、ノクト殿が対策を考える間、俺達はこの女を屋敷の一室に閉じ込めることを決めた。
だが、体はアリステラお嬢様のもの、万が一にも怪我や病に侵させる訳にも行かない。
食事やある程度の運動…(散歩だな)はして貰わないと。
あの女の意思は関係ない、お嬢様の体なのだから……そう思っていた、その時は。
なんの進展もないまま数日が過ぎ、私も使用人もノクト殿も苛立ちが募ってきていた。
そんなある日、彼女は死んだ魚のような目をしていた。何かを思い悩み、考え込んでいるようだった。
食事は取るし、散歩にも行くが、心ここに在らずといった感じで常にボーッとしていた。
(何をそんなに考え込んでいるんだ?)
もしかして…俺は、彼女に強制しすぎたのではないだろうか?
お嬢様が大切なのは変わらないが、彼女の事を蔑ろにしすぎたのでは?
そんな日が続いて、流石に良くないと思った俺達は彼女に休息を与えることにした。
何かしたいことは無いか?
と聞いたら、本を読みたいと言ったので何冊か用意するよう使用人達に伝えた。更に食事もお嬢様の好きな物じゃなくて、彼女の好きな物を食べさせるようにと伝えた。
ただ最近の彼女は、殆ど話さなくなったから何が好きなのか嫌いなのか分からないが…
目も合わせなくなったしな……まぁ、当然だよな。自分を嫌ってる人間と目を合わせる奴なんていない…
事件が起きたのは、それから更に数日が経った時だ。ノクトが屋敷に駆け込み、何があったのか聞けば、この屋敷から膨大な魔力を感じたと言う。
どういう意味か問おうとした瞬間、地面が激しく揺れ光の奔流が天を貫いた。
「まずいっ!嫌な予感がする!」
「キュアン様っ!」
「どうしたっ?!」
「お嬢様がっ!アリステラお嬢様が居ません!」
「っ?!」
嫌な予感がした……
彼女と、二度と会えなくなるような……
「嫌だ……」
キュアンは、走り出していた。
彼女を助けないと、死なせたくないと、失いたくないと、強く強く思った。
何故そう思うのかは分からなかったけど…
走る速度を上げながら、彼女の事だけをキュアンは考えていた。
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