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本編

第9話 幻滅

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「嘘だろ……」

シルヴァンは村長宅の扉の前でジークベルトとともに警護をしながら呟いていた。

「どうした?シルヴァン」
「団長……あれは、本当に聖女ですか?」
「本人がそう言っている。力も本物だ」
「ですよね」

聖女を見て、挨拶を交わした時に思ったのは……俺の1番嫌いな人種と同じということだった。

正直、幻滅した。
あれは、無いわ。

レオン殿下に挨拶をした時も胸を強調し、まるで娼婦のようだ……いや毒婦か?
俺や団長、レオン殿下を見る目が……なんと言うか、もう、獲物を見つけた獣のようだった。

団長も顔には出さないが、嫌悪感を抱いているようだ。レオン殿下も、笑顔が凍りついていたな。

あぁ、そう言えば、シュリを睨んでいたな。
シュリとは初対面だろう、なぜ睨む?
わけが分からん。

まぁ良い、聖女として仕事をキチンとしてくれれば……は、無理だろうなと思う。
俺達を見る他の女と同じ反応だからな。

シュリだけは違ったが……俺達と関係を持ちたいとか、そういうんじゃなかった。
まぁ、見られてはいるがな…嫌な視線じゃない。

「シュリは、大丈夫だろうか?聖女に睨まれていた気がするが」
「聖女様の世話係ですからね……シュリなら、仕事は真面目にするでしょうけど…」
「心配だな」
「ええ」




村長宅では

「では村長、聖女候補アーリアは連れて行くが構わないな」
「はい、どうぞよろしくお願いします」

おかしいな……もう少し抵抗があるかと思ったが……村長の顔色を伺うと、額の汗をしきりに拭っている。

何か隠し事でもあるのか?

「レオン様ぁ、よろしく、お願い、しますぅ」

猫撫で声で話しかけられ、彼女の手が私の手に触れた瞬間、払い除けそうになるのを必死に耐えた。

「聖女候補殿、王都まで間、不便が無いよう貴殿の世話係に侍女を付ける。シュリ」
「はい」
「彼女の名はシュリ、道中彼女が貴方の世話をするのでよろしく頼む」

シュリを紹介すると、彼女は射殺さんばかりにシュリを睨んだ。

(なぜ?)

「シュリと申します。よろしくお願いします聖女候補様」

シュリは最初、目を輝かせ聖女候補を見ていたが、会話が進む度に次第にその瞳に輝きは失っていった。

村長がこの娘を差し出すのに戸惑いがない理由も何となく分かった。
恐らく、男漁りが酷いのだろう。
私たちに向ける視線が、貴族や侍女の視線と同じだからな。

(はぁ、こんな女と一緒の馬車とか最悪だ……)

チラッとシュリに目線を送り、世話係だからと理由をつけて同乗させることに決めた。

馬車に乗り込む際、シュリにも乗るよう命じた。嫌そうな顔をするシュリに、口パクで『処罰』と言えば、溜息をつき「後で怒られたら庇ってくださいよ」と小声で言ってきた。

私の我儘なのだから、当然シュリにお咎めがないようにするさ。

にしても、聖女候補筆頭となるこの少女には……幻滅したな。




レオン王太子殿下に馬車に乗れと命令されれば、断る訳にもいかないが、無駄と知りつつも抵抗を試みてみた結果『処罰』と口が言ったので……仕方なく馬車に乗り込んだ。

聖女アーリアが先に乗った。
殿下は私にもエスコートしてくれ、アーリアと反対側に乗り込むと殿下は私の隣に座った。

隣に座った殿下に「後で怒られたら庇ってくださいよ」と訴えると「分かっている」と返してくれた。

馬車の中、アーリアはしきりにレオンに話しかけている。私はガン無視だ。

良いけどね……

でも、私の知っている聖女アーリアじゃない気がするんだよね。
攻略対象に愛され、大聖女になり、多くの民に慕われるアーリア。

今目の前にいる少女と、ゲームのアーリアを比べてみる……が、掛け離れている。
ゲームのアーリアは、あんな、胸を強調し手当り次第に誘惑なんてしなかった。

当たり前だけど……。

ゲーム内のアーリアは、私たちプレイヤーの分身で決まった言葉しか話さない。
でも、でも!攻略対象達は、アーリアの頑張りに感動し恋愛になるんだよ?!

こんなんじゃなかった!絶対!



考えられる事と言ったら……彼女も転生者だと言うこと。
例え転生者でも、聖女として行動してくれるなら、応援するんだけどなぁ。

今の状態じゃ……応援出来ないよ。





それにしても……アーリアの胸元に目が行く。馬車が揺れる度に揺れる、大きい胸に目が釘付けになる。
元々大きいのに、強調するから更に大きいと言うか谷間が……

これは、違う意味で男達が放っておかないかも……と思い、隣のレオン殿下に目線を送ると、目が笑っていなかった!!

話す声は柔らかく、笑顔なのに!
目が細められ、全く笑ってなかったの!

怖かった……見ちゃいけなかったわ。


そうそう、私さアーリアの胸が大きかったから、R18の世界かな?って思ったんだけど…関係なかったよね!だって、そういうのが無かったら子供なんて出来ないんだから。

私にとっては、いま生きているこの世界が現実なんだもん。結婚したいし子供も欲しいから……ね。

だから、ゲームと似た何かが起きても、ゲームと一緒では無かったんだ。

うん、納得した。


ごめんなさい。

ゲームのキャラとしか見てなくて……これからは、ちゃんと一人一人見るよ!

ゲームのキャラとしてじゃなく、1人の個人として。私は初めて「天翼と黒竜の花嫁」と言うゲームとしてじゃなく、この世界に生まれた一人の人間として……周りを見ることが出来た。

ヒロインとかモブとか関係なく、誰でも自分が主人公だよね。
私も、好かれるように頑張ろ!
もしかしたら、もしかするかもだもんね!
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