上 下
2 / 6

第2話 意外と平気な王女

しおりを挟む
1日目

カヴァル北部、カーヴェル地方。
ここはセンシェルと隣接する地方です。昨日昨日カヴァルの王子ソル様に輿入れした街がある地方になります。

本来なら、ソル様の住まいがある首都で行うべきなのですが、事情があるらしくて……

(まぁ、敵国の姫を首都に入れたくないですわね……)

輿入れした際は、センシェルの衣装でしたので、とても動きにくかったのですが、カヴァルの衣装を着たら途端に動きやすくなりましたの!

独特な衣装で、祖国で着たら「恥知らず」と噂されてしまうような格好ですのよ。

チョリと呼ばれる長袖の上着に、ハーレムパンツと呼ばれるズボンを穿いて、腰に布を巻いた衣装です。頭にはレースのショールを被り装飾で止めて……私的には結構可愛いと思いますの、ね?カヴァルの衣装って素敵ですの!

まぁ、口にはしませんけどね!
彼らにとって私は大っ嫌いな敵国の王女、と認識してもらわないといけませんの!

バリバリと嫌われますのよ!常に警戒してもらわないといけませんからっ




……そう言えば、子供の頃に来た時は、長袖のワンピースにハーレムパンツだったわ。
あれも、結構可愛いかったと思いますの。それを着て、街をふらついていた時に『暁の君』に会いましたのよ。

アマルは昔を懐かしむように天を仰ぎ、……かぶりを振って思考を現実に引き戻した。

(昔を考えていても仕方ありませんの。今は、この戦争を回避する事だけを考えなければ)

陛下から渡されたのは、象すらも殺せる強力な毒ですの。毒術師※1が作り出したものですのよ。渡された日から、中和剤の研究をしましたが……成功したかどうかは確かめられませんでしたの…

一応持って来てますけど、成功するかどうか分からない賭けをするよりも、使わない選択をした方が確実ですの。

たとえ、それによって私が死ぬことになっても……

……7日目の夜までにソル様を殺せなければ……毒術師により、刻まれた毒紋※2が私の体を蝕む事になる。



「さて、と」

今日はカーヴェル地方に住まう地龍に会いに行くとソル様が言っていましたの。
街から数時間で着くと言っていました。地龍様の様子を、一頭一頭見るそうですのよ。

「アマル姫、準備は出来たか?」
「ええ」
「なら、出発する。無理そうなら、早々に言え」
「仕方ありませんわね!本当に、なぜわたくしがこんなに合わなくてはいけませんの?!」
「嫌なら、無理について来なくても構わない」
「そういう訳にも行きませんのよ!」

少し傲慢な態度で接すれば、ソル様は嫌悪感を露わにし、侍従のラシードも嫌な顔をした。

けれどソル様は、嫌悪感を露わにしても、付いて行くと言った私を見て溜息をつき「少しでも辛かったり、具合が悪くなったら直ぐに言え。遅くなると皆に迷惑がかかる」と言い聞かすように告げましたの。

……優しいわ……
嫌悪感を抱いている筈なのに、わざわざ言わなくても良いのに。そこらで、野垂れ死にでもさせとけばいいのに……それをしないんだもの

彼の傍に控えてる侍従ラシードは、仕方なさそうにかぶりを振って私をひと睨みし去って行った。

うん、彼には完全に嫌われてますの。



街を出て、2時間ほどが経った。

砂漠って本当に歩きにくいですの……センシェルから街へは、そんなに砂漠化してなかったから馬車で来たし、実際歩くと砂が熱くて歩きにくいわ。

まぁ、私は大丈夫なんだけど……

と、アマルが振り返るとそこには……肩で息をしながら、額の汗を拭う私の侍女アイシャがいた。

「ちょっと、大丈夫ですの?!」
「……は、はい」
「全く、役立たずですの!」

もう!従者なのに情けないわね、この程度でへばるなんて。

ソルからしてみれば、王女が泣き言も言わずに付いてくる事の方が驚きで。それは、彼の周りにいた者達全員の意見でもあった。

「ほら、しっかりしなさいですの!」
「も、申し訳、ありません。姫様」
「……ソル様、わたくし疲れましたわ。休んでもよろしくて?」

上から目線を心掛けて、アマルはソルに言った。別に侍女の心配をしてる訳じゃないのよと、私が疲れたのよという意味を込めて。

「あぁ、構わない。みな、止まってくれ」
「そんな!ひ、姫様!私なら、大じょ……「良いから!貴方は休んでなさい!」」
「は、はい。申し訳ありません」

私の味方は貴方しか居ないの、ここで倒れてしまっては困るのよ。貴方がいなくなってしまっては、私を監視する者しか居なくなる……っ。

だからお願い!無理しないでっ……

その様子を、ソルやラシードが注意深く観察している事にアマルは気付いていなかった。


────

※1 毒術師
この物語では、毒を操る人間を表します。毒を作り出したり、人間の体に時限式の毒の模様を与えたり出来ます。

※2 毒紋
この物語では、毒術師によって人間の体に刻まれた模様を表します。期限を与えられ、それまでに目的を達成できなかった場合、発動します。解除は毒術師のみ可能です。
今回のアマルの場合……期限内に目的を達成→王に報告→毒術師により解除。
という段階です。そのため、例えギリギリに目的を達成しても、死ぬ可能性が高いです。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...