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オマケ ② (R15)
しおりを挟む一方で公爵家では……
「あなたっ!どういう事なの?!まだ……まだ、わたくしのリシアは、戻ってきませんの?!アギエルは、何をしてますの?!」
「落ち着きなさい…。アギエルがリシアにちゃんと謝罪すれば、彼女はアギエルを許してくれるさ……そしたら、辺境伯より公爵家を取るであろう」
アンティ公爵家は、国に忠誠を誓う一族であったが……ディルグバーグ辺境伯を、よく思っていない一族でもあった。
だから、アギエルが謝罪し愛を乞えば、血濡れの悪魔たる辺境伯よりも、国からの信頼も厚い公爵家を取ると……リシアは必ず戻ってくると、公爵は信じていた。
だが……、公爵家の元に辺境伯から一通の手紙が届いた。それは、アギエルとナターシャのした所業と、所業に見合った罰を与えたという内容だった。
「あなた……アギエルからのお手紙?わたくしのリシアが戻ってきますの?!いつ!!!」
妻は、アギエルがリシアに婚約破棄を突きつけてからおかしくなり始めていた。
アギエルとリシアの結婚は妻が強く望んだものだ。
リシアの母親との約束……それだけが原因じゃない。
妻は……
同性愛者なのだろう。
妻はそんなつもりは無いのだろうが、私の目から見ればリシアの母親を愛していたのだと分かる。
リシアの母親がどう思っていたのかは知らないし、妻に聞けば「何を言ってるの?貴方を愛してるわ」と答えるだけ。心のこもっていない「愛してる」の言葉だけだ。
リシアに執着するのも、母親にそっくりの彼女を手元に置いておきたいから。
ただ、それだけだろう……
「あなた!!アギエルは?!リシアは?!!?わたくしのリシアは、いつ戻ってきますの?!」
リシアは、戻っこない。
そう言ったら、妻はどういう反応をするだろうか……
感情的に叫び、自分が連れ戻しに行くと言うだろうか……もう、どうでも良い。
私はもう、疲れた……
妻の事も、アギエルの事も……
「アギエル……使えない子っ!あの悪魔に奪われるなんて!!わたくしが直接行って連れ戻してきますわ!!!」
私の手から、手紙を奪い取り……妻は屋敷を出ようとする。しかし、今の妻を外に出すのは少々問題だ…病院に入れるか、療養を口実に国から離れさせるしかない……
「妻を、私の別邸へ」
「畏まりました」
「リシアを連れ戻す」と叫びながら、騎士に連れられていく妻を横目に私は今後の事を考える。
アギエルが……ちゃんと謝罪し許しを乞えていれば、こうはならなかっただろう。…辺境伯からの手紙以外にも、王家からの書簡も届いている。
内容は、
アギエルとナターシャの行動の責任問題とリシアに対する賠償金だ。
アギエルは、廃嫡。
ナターシャは、スタリオン家が無くなっているから平民だな。アギエルと結婚したいなら、平民同士好きにすれば良い。
「アギエルが戻ってきても、屋敷には入れるな」
「畏まりました」
執事長に命じ、私は……
「アンティ公爵家も、これで終わりか……」
覚悟を決めた。
✾✾✾
辺境伯領を追い出された、元婚約者とナターシャは…ある町の入り口に捨てられた。
「ぅあぁあ、あ、あぁぁぁぅ……」
馬車に乗る前から、叫び声を上げていたナターシャは馬車に乗ってからはうめき声に変わっていた。
そして、ある町の近くに着くと蹴り飛ばされる勢いで捨てられた。
「クソっ、なぜ俺が……こんなっ!」
「あぅ、うあぁぁあ」
隣で呻くナターシャは、奴らに一体何をされたというのだ……くそっ!絶対に許さねぇ、父上に言ってとっちめてやるっ!!
だが、その前に馬車を拾わねぇと……平民の使う馬車に乗りたくはないが、仕方ないっ!
アギエルは、未だ呻くナターシャを連れて馬車乗り場に向かった。自分は貴族だ……平民より優先されるだろ。
と、アギエルは高を括っていた。
しかし、実際は……辺境伯家に手を出した愚か者として、噂と共に人相書きまで回され民にも知れ渡り、アギエルを優遇する者は誰一人いなかった。
そして……
「申し訳ありません、お客さん。もういっぱいでして……」
「ふざけるな!俺は公爵家の者だぞ!先に乗せろ!」
「……公爵家のお坊ちゃんを、粗末な私の馬車に乗せる訳にはいきません。他を当たって下さい」
と、ずっと断れ続けていた。
しかし、ナターシャが正気を取り戻し始めた頃…
「あ、アギエル……しゃま…こ、これ……」
上手く話せないナターシャは、宝石の着いたネックレスをアギエルに渡した。
「う、売れぇば……ぉ、かえ」
売れば、お金になるとナターシャは言った。
「ナターシャ、悪い。ありがとうな!」
ナターシャは、微笑むと胸を掴み苦しそうに、また呻き声を上げた。苦しみは、数時間と……ラミアは言ったが毒が消えるとは言っていない。
針が全身を刺す痛みは無くなるだろうが、毒は消えず度々苦しみがナターシャを襲った。
ナターシャに貰ったアクセサリーを売り、お金を作ったアギエルはその金を御者に渡し王都まで行くよう命じた。
「…この金額じゃ、王都まで行くのは無理さね」
何日かかると思ってるだい?と御者は言った。
「公爵家まで行けば、金はある!いいから出せ!」
と、アギエルは問答無用で馬車を出させた。
しかし、王都に着いたアギエルに待っていたものは……更なる絶望だけだった……
公爵家の門の前で、アギエルは膝を付き打ちひしがれていた。
門の内側には執事長がいて、俺は告げられた言葉を飲み込めずに門に縋り付き執事長に手を伸ばした。
「申し訳ありません、アギエル様。旦那様は、アギエル様を廃嫡にすると仰いました。戻って来ても、屋敷には入れるな……と」
「馬鹿な!父上に、父上に!合わせてくれ!頼む!!なぁ!」
泣いて喚いても、叫んで頼んでも執事長は首を縦に振らない。後ろから御者の視線が突き刺さる。
(くそっ!なんで……)
「頼む、執事長……」
「申し訳、ありません」
幼い頃から、執事長は俺の世話をしてくれた人だ。少なからず情があるはずだと、頼み込むがダメだった。
……仕方ない
御者の男を連れて公爵家を離れた。
御者の男は、何も言わずに着いてきたが…貴族街を抜けると殴りかかって来た。
「な、何をする!?!」
「金があると言うから、連れて来たのに!廃嫡?!金がない?ふざけるな!」
そう言って殴り、蹴られ……足の上を、馬車でわざと踏みつけて行きやがった。
バキボキと骨が砕ける音が響く。
「ぎゃああああっ!!」
「ざまぁねえな!野垂れ死ね、クソ野郎がっ!」
俺は、周囲に目を走らせ助けを求めた……が、誰も手を貸してくれない。
(何故だ……?!なんで、誰も助けない!平民は、貴族の為にいるんだろ!?)
砕けた足を引き摺って、ナターシャの実家スタリオン伯爵家に向かったが、そこにはもう誰もいなかった。伯爵も夫人も使用人ひとりいなかった。
「アギ、エルさま……」
「…………」
ナターシャの呼び掛けに、アギエルは答えない。
砕けた足が痛い、殴られた箇所も痛い、ナターシャに構ってる余裕なんてあるわけがなかった。
スラム街の廃屋に身を寄せた2人は、身につけていた少ない宝石を売り、薬や治療を受けた。
働いたことがないナターシャは、それでも働き口を探したが性格の悪さが原因ですぐにクビになった。
アギエルは治療を受けたが、切断するしか方法がないと言われ両足を膝まで切断する事になった。
車椅子を手に入れる余裕などなく、廃屋でナターシャと二人惨めな生活を送ることとなった。
✾✾✾
かつて、リシアの友人だった者達は……
辺境伯家に嫁ぎ幸せになったリシアは、社交界にレオンと参加し始めた。リシアが怪我を負って離れた元友人達は……王族と楽しそうに話すリシアに、媚びを売ろうと近寄った………が、リシアはにこやかに対応し、彼女達とそれ以上親交を深めることはなかった。
リシアの不興を買った元友人達は、社交界での立場を無くした。社交界に出入り出来なくなった彼女達は、婚約者や夫から冷たく接されて一生を泣いて過ごしたそうだ。
~完~
─────
これで、完結になります(*ᴗˬᴗ)⁾
ありがとうございました!!
また、新作を出しましたので、もしお時間があればお読み頂けると嬉しく思います。
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今日発見して拝読しました(o⌒∇⌒o)スッキリです😃妹と元婚約者は貴族位を残してラブラブ幸せな二人を羨ましげに見せても楽・・・良かったかも(* ̄∇ ̄*)。
ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾
返事が遅くなりまして、ごめんなさい!!
そういう展開でも、楽しめたかも知れませんね。悔しがる2人を尻目にイチャラブを見せつけるのも((*´艸`))
最後まで読んで頂きありがとうございました"(ノ*>∀<)ノ
『ふふふ、気付いてない、気付いてないわね。。。私もリシアさんが大好きだということを!』
レオン「口に出てますよ」
そんな感じですね(*≧艸≦)
リシアの周りは、こんな感じで賑やかになり、笑顔が絶えない日々になるんでしょうね。
退会済ユーザのコメントです
この作品を読んで頂きありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾
そうですね……
辺境伯家は、裏とも繋がりのある家ですから……
敵に対して責める姿勢は怖かったですよね(._.`)
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。