【完結】妹を庇って怪我をしたら、婚約破棄されました

紫宛

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第2話 騎士と合流

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王都にある、スタリオン家を離れてから七日ほど過ぎました。
旅路は順調で、ディルグバーグ辺境伯様の屋敷がある街まであと1週間で着くそうです。

「お嬢様、もうすぐ町に着きますよ」

御者の方が、声を上げて教えてくださいます。

辺境伯領まで馬車の御者を務めてくれるこの方は、スタリオン家の使用人ですが私に優しくして下さる数少ないお方です。

「良かった、今日はずっと馬車でしたから、疲れたでしょう?お嬢様」
「大丈夫よ」

これくらいなら、なんて事ないから。

でも、町に着くと少し様子がおかしかった。
何だか物々しい雰囲気で、傭兵と思しき方々が出入りしている。

「何かあったのかしら?」
「分かりません、確認してきましょうか?」
「いえ、危ないわ」

何かあったとしたら、馬車から出るのは危険かも……そう思っていたら、その中の一人が私達の馬車に気付き駆け寄ってきた。

腰の辺りに立派な剣を携え、青緑の髪が印象的な人だった。

「すみません、もしかして…スタリオン家の方ですか?」
「ええ、リシアと申します…貴方様は?」
「あ、すみません。申し遅れました、オレ スワードって言います!ディルグバーグ家に仕えてる騎士です」

もう、ディルグバーグ辺境伯様の騎士さんが来てくださってるんですか?!
もっと、街に近くなってから来ると思っていたのですが……

「こんな遠くまで、ありがとうございます」
「あの、すみません。馬車を乗り換えて頂くことは可能ですか?」
「え?馬車を……ですか?」

スワード様が、馬車を乗り換えて欲しいと言いました。何故か聞いたら、今私が乗っている馬車は簡素な作りのため、万が一が合った時に守れないのだそうです。
作りがしっかりした馬車を、ディルグバーグ辺境伯様が用意して下さったそうで、そっちに乗り換えて欲しいと言ってきました。

「ですが……」
「あの……?」

私が難色を示すと、スワード様が落ち込みました。何だか子犬のようです…垂れ下がった耳が見える気がします……いえ、スワード様に失礼ですね。

「いえ、分かりました」
「お嬢様っ!!」
「仕方ありません。ペル、頼めるかしら?」
「…っ、畏まりました」

ユリアには、荷物を任せる事にしました。私は帽子をかぶり、馬車の扉が開くのを待ちました。

御者のペルが、中に入ってきて私をゆっくりと抱き上げます。
馬車の外に出ると、多くの人が私を見ている事に気付きました。

コソコソと話してる声は、騎士の方でしょうか…ディルグバーグ辺境伯様と結婚するのに、他の男性に抱き上げられてるのが問題なんですよね……きっと。

「えっと……?」
「申し訳ありません。私は……体に障害があって、歩く事が出来ません……。このような格好で失礼しますわ」
「っ?!」

帽子のつばを持って、顔を隠すように伏せて言うと、スワード様が息を飲むのが分かりました。他の方達も何も言葉を発しません。更にユリアが車椅子を出すから、余計に何も言わなくなりました。

あぁ、知らなかったのですね……やはり。
お父様が何も伝えてないのですね……だから、ディルグバーグ辺境伯様は何も言ってこなかったのですね。

「申し訳ありません。知らなかったのですね……今からでも、辺境伯様にお伝え下さい。立つことも歩く事も出来ない私を、妻に迎えるかどうか…」
「と、とにかく…馬車にお乗り下さいっ!」

スワード様が急いで、馬車の止まる場所に案内してくれました。
他の騎士の方も、直ぐに色々と対応して下さいました。

「ごめんなさい、ありがとうございます」
「い、いえっ」

凄く立派な馬車に案内され、ふかふかの椅子に下ろされました。とても座り心地が良いです。更に騎士の方がブランケットまで用意して下さいました。

「それで、どうしましょうか?」
「どうする……とは?」
「暫くここに留まりましょうか?私との結婚を拒否なさる……」
「いえっ!大丈夫です!」

私の言葉に被せるように、スワード様は言いました。そして、自分の態度のせいで気に病ませて申し訳ないと謝って下さいました。

ですが……ディルグバーグ辺境伯様はきっと私を娶りはしないでしょう。こんな女を抱く気は起きないでしょうし、何より……子供が出来るか分からない。

娶ったところで……跡継ぎは望めないでしょう…

もし辺境伯様が、私の事情を知った上で結婚して下さると言うのなら、私は大人しくしていましょう。辺境伯様が他の方を抱いても、愛人を作っても、私に文句を言う資格は無いのですから。

私は、スカートを握り俯き泣かないよう気を付けていた。

(ダメよ、リシア。私が泣くのは間違ってる。辛いのは、私なんかを娶る事になった辺境伯様なのだから!)

私は顔を上げて窓の外に目を向けると、御者のペルと目が合った。


ペルとは、ここでお別れになります。
ここからは、ディルグバーグ辺境伯様が用意して下さった馬車で、騎士の方が護衛して下さるそうです。

「それでは、お嬢様……お気を付けて」
「ペル……ありがとうございます。屋敷まで気を付けて帰って下さいね」

ペルは、帽子を取ってお辞儀をすると乗ってきた馬車に乗って来た道を引き返して行きました。

これで、私の事情を知る人はユリアだけになりました。

「リシア様、何か必要な物はありますか?」
「いいえ、大丈夫ですわ」
「遠慮しないで下さいね!」

スワード様は人懐っこい笑顔で言うと、馬に跨りました。他の騎士の皆さんも馬に乗り、馬車が動き始めました。

でも、揺れが全然感じないのです。椅子が違うだけでこんなにも変わるんでしょうか?!
ユリアの表情も、柔らかいわ。


それから、七日ほどかけて辺境伯様が住む街ルグバにやって来ました。
日が暮れる前に必ず町や村により、部屋まではスワード様や他の騎士の方が抱き上げ運んで下さいました。

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