上 下
4 / 12
本編

第1話 雪の妖精と氷の髪飾り

しおりを挟む
アモルが建てたアトリエは、通りの表側がお店、裏がアトリエになっている。裏のアトリエは、商業地区の一等地とは思えないほど、畑や巨木、どこから引っ張ったのか分からない川が流れており、一見するとまるで森の中の魔女の家ような佇まい。

このアトリエの周辺だけ周りの景観と違っていた。もちろん、店側は一等地らしく立派な門構えに、店内は広々で綺麗で大きく、品揃えも豊富な商品棚がある立派なお店だが。

魔女の家のような外観が特徴のアトリエだが、中は広く錬成陣の上に置かれた釜が6つ。壁際には鍵のかかった棚がいくつもあり、貴重な薬草や鉱石が保管されていた。魔法によって、仕舞われた時のまま状態保存され、決まった人でしか引き出せない仕様になっている。

その他の棚には、よく取れる薬草やよく使う薬草類が置かれていた。これらの薬草はアトリエの錬金術師なら誰でも扱える物であったが、ただ一人……カイムという少女だけは、使ってはならないとアトリエの現最高責任者に言われていた。

アトリエの隅っこには他とは違い小さな釜が1つあり、カイムは自分が取ってきた薬草を使い、釜の中の液体を混ぜていた。その隣には、小さな雪の妖精が2人いて妖精達の話に耳を傾けながら、カイムはゆっくりと釜の中を混ぜる。

「雪の無い場所でも、寒くない土地でも生きられるようなアクセサリーね」
「フルフルルフル(うん!違う所行く!)」
「フルフルフルルル(ここ嫌、違う所行きたい)」

妖精は、基本的に生まれた場所を離れることはない。離れないと言うよりも離れられないが正解だ。自然界で生まれた妖精は、その土地の特性を持っている。寒い場所で生まれた妖精は、暖かい場所に行くと溶けて消えるし、熱い場所で生まれた妖精は、寒い場所に行くと凍って砕けてしまう。

だから、そうならないよう妖精達は、カイムを頼ってアトリエに来たのだ。カイムは、特殊な錬金術師だから。

「妖精さんが持ってきてくれた氷輝石ひょうきせきは、氷の力を持ってるから…これと、これを合わせて……」

混ぜていた釜の中には既に氷輝石が入っており、追加に雪の花の花弁と氷炎草が入れられた。

「フルルルル(変わらずへん!)」
「フル、フルル(うん!へん!)」

2人の妖精が口を合わせて同時に「変!」と言った。妖精達が変だと言ったのは、この組み合わせの事だと思う。他の錬金術師なら、この組み合わせで作れるのは、氷結や火傷を治す治療薬になるはず。

「あはは。私も変だとは思うけど、仕方ないじゃない?どうやっても、氷結を治す薬にはならないんだもの…」

でも、私が作ると……
何故か、普通の錬金術師と同じものにはならない。師匠も、不思議がってた…

『う~ん。キミ、相変わらず、よく分からないよねぇ。薬草と薬草で、癒し草が出来るはずなのに……なんで服が出来てるの?』

って。

私にも、理由は分からないんだけど……
でも、師匠が言ってた。

『まぁ、理由なんかどうでも良いよぉ。それが、キミの特徴なんだろうから。それより、既存のレシピは当てにならないだろうから、自分で書いたら?ほら』

そう言って、真っ白い本を私に渡してきた。作った物を……材料、投入の順番、出来上がった物の特性……その全てを書きなさいって。きっと、将来役に立つからって。

師匠……気だるげで、眠たそうで、普段からやる気ない癖に、面倒見は良くてアドバイスもくれて……寂しいな。

今はいない師匠に思いを馳せていたら、横から髪を引っ張られた。

「フル(釜!)」
「フルフル(よそ見ダメ!)」
「……ぁ」

いっけない!調合中だった!

師匠にも、調合中は考え事するな、寝るな、ボーッとするなって言われてたのに……
でも、師匠はよく寝てた気がするけど、それ言ったら『僕は寝てるんじゃない、目を瞑ってるだけだ~』って言われたっけ。

2人の妖精に咎められ、調合に集中したカイムは直ぐに、氷の髪飾りを2つ作った。妖精に渡すと、普通の大きさだった髪飾りが、妖精サイズに変わり2人とも自分の髪に飾った。1人は、ツインテールの右側に、もう1人はツインテールの左側に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】転生?いいえ違うわ……なぜなら…

紫宛
恋愛
※全5話※ 転生? わたし空は、車に轢かれて死にました。 でも、気がつくと銀色の綺麗な髪をした女性の体に入っていました。 ゲームの世界? 小説の世界? ラノベ的な展開? ……と期待していた部分は確かにありました。 けれど、そんな甘いものは無かったのです。 ※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定※

(完結)(続編)カトレーネ・トマス前々公爵夫人の事件簿その2ーアナスタシヤ伯爵家の姉妹の場合ー婚約破棄を目論む妹

青空一夏
恋愛
アナスタシヤ伯爵家の姉妹は、お互いが、お互いのものをとても欲しがる。まだ、それが、物だったから良かったものの・・・今度はお互いの婚約者をうらやましがるようになって・・・妹は姉に嫉妬し、姉の婚約者を誘惑しようとするが、なかなか、うまくいかず、自分の婚約者と協力して姉を脅し、婚約破棄させようとする。 道を誤った人間に、正しい道を気がつかせるヒューマンドラマ的物語。いろいろな人生が見られます。 ざまぁ、というよりは、迷える子羊を正しい道に導くという感じかもしれません。 運営に問い合わせ済み・・・続編を投稿するにあたっては、内容が独立していれば問題ないとの許可済み。 #カトレーネ・トマス前々公爵夫人シリーズ さて、今回は、どんな解決へと導くのでしょうか?   10話ほどの予定です。

何がどうしてこうなった!?

かのう
恋愛
トリクセン王国第二王子・セドリック=トリクセンの婚約者である公爵令嬢リリーディア=ローゼは、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢だと気が付いた。しかし時すでに遅し、そのことに気が付いたのは断罪の場で――――…… もう取り返しはつかない。ええい、ままよ!もうなるようになるしかない!!リリーディアは覚悟を決めて婚約者と対峙する! 初投稿です。ふわっとした設定の相当拙い文章になりますが、ご容赦ください。 レイミナ視点は完結。 セドリック視点始めました。2話で終わ……らなかった…… 次で終われるといいなと思っています。 ※小説家になろう様でも公開しています。 展開には変わりありませんが、言葉不足箇所の加筆、変更があるため、なろう版と若干異なります。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

処理中です...