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本編
第1話 雪の妖精と氷の髪飾り
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アモルが建てたアトリエは、通りの表側がお店、裏がアトリエになっている。裏のアトリエは、商業地区の一等地とは思えないほど、畑や巨木、どこから引っ張ったのか分からない川が流れており、一見するとまるで森の中の魔女の家ような佇まい。
このアトリエの周辺だけ周りの景観と違っていた。もちろん、店側は一等地らしく立派な門構えに、店内は広々で綺麗で大きく、品揃えも豊富な商品棚がある立派なお店だが。
魔女の家のような外観が特徴のアトリエだが、中は広く錬成陣の上に置かれた釜が6つ。壁際には鍵のかかった棚がいくつもあり、貴重な薬草や鉱石が保管されていた。魔法によって、仕舞われた時のまま状態保存され、決まった人でしか引き出せない仕様になっている。
その他の棚には、よく取れる薬草やよく使う薬草類が置かれていた。これらの薬草はアトリエの錬金術師なら誰でも扱える物であったが、ただ一人……カイムという少女だけは、使ってはならないとアトリエの現最高責任者に言われていた。
アトリエの隅っこには他とは違い小さな釜が1つあり、カイムは自分が取ってきた薬草を使い、釜の中の液体を混ぜていた。その隣には、小さな雪の妖精が2人いて妖精達の話に耳を傾けながら、カイムはゆっくりと釜の中を混ぜる。
「雪の無い場所でも、寒くない土地でも生きられるようなアクセサリーね」
「フルフルルフル(うん!違う所行く!)」
「フルフルフルルル(ここ嫌、違う所行きたい)」
妖精は、基本的に生まれた場所を離れることはない。離れないと言うよりも離れられないが正解だ。自然界で生まれた妖精は、その土地の特性を持っている。寒い場所で生まれた妖精は、暖かい場所に行くと溶けて消えるし、熱い場所で生まれた妖精は、寒い場所に行くと凍って砕けてしまう。
だから、そうならないよう妖精達は、カイムを頼ってアトリエに来たのだ。カイムは、特殊な錬金術師だから。
「妖精さんが持ってきてくれた氷輝石は、氷の力を持ってるから…これと、これを合わせて……」
混ぜていた釜の中には既に氷輝石が入っており、追加に雪の花の花弁と氷炎草が入れられた。
「フルルルル(変わらずへん!)」
「フル、フルル(うん!へん!)」
2人の妖精が口を合わせて同時に「変!」と言った。妖精達が変だと言ったのは、この組み合わせの事だと思う。他の錬金術師なら、この組み合わせで作れるのは、氷結や火傷を治す治療薬になるはず。
「あはは。私も変だとは思うけど、仕方ないじゃない?どうやっても、氷結を治す薬にはならないんだもの…」
でも、私が作ると……
何故か、普通の錬金術師と同じものにはならない。師匠も、不思議がってた…
『う~ん。キミ、相変わらず、よく分からないよねぇ。薬草と薬草で、癒し草が出来るはずなのに……なんで服が出来てるの?』
って。
私にも、理由は分からないんだけど……
でも、師匠が言ってた。
『まぁ、理由なんかどうでも良いよぉ。それが、キミの特徴なんだろうから。それより、既存のレシピは当てにならないだろうから、自分で書いたら?ほら』
そう言って、真っ白い本を私に渡してきた。作った物を……材料、投入の順番、出来上がった物の特性……その全てを書きなさいって。きっと、将来役に立つからって。
師匠……気だるげで、眠たそうで、普段からやる気ない癖に、面倒見は良くてアドバイスもくれて……寂しいな。
今はいない師匠に思いを馳せていたら、横から髪を引っ張られた。
「フル(釜!)」
「フルフル(よそ見ダメ!)」
「……ぁ」
いっけない!調合中だった!
師匠にも、調合中は考え事するな、寝るな、ボーッとするなって言われてたのに……
でも、師匠はよく寝てた気がするけど、それ言ったら『僕は寝てるんじゃない、目を瞑ってるだけだ~』って言われたっけ。
2人の妖精に咎められ、調合に集中したカイムは直ぐに、氷の髪飾りを2つ作った。妖精に渡すと、普通の大きさだった髪飾りが、妖精サイズに変わり2人とも自分の髪に飾った。1人は、ツインテールの右側に、もう1人はツインテールの左側に。
このアトリエの周辺だけ周りの景観と違っていた。もちろん、店側は一等地らしく立派な門構えに、店内は広々で綺麗で大きく、品揃えも豊富な商品棚がある立派なお店だが。
魔女の家のような外観が特徴のアトリエだが、中は広く錬成陣の上に置かれた釜が6つ。壁際には鍵のかかった棚がいくつもあり、貴重な薬草や鉱石が保管されていた。魔法によって、仕舞われた時のまま状態保存され、決まった人でしか引き出せない仕様になっている。
その他の棚には、よく取れる薬草やよく使う薬草類が置かれていた。これらの薬草はアトリエの錬金術師なら誰でも扱える物であったが、ただ一人……カイムという少女だけは、使ってはならないとアトリエの現最高責任者に言われていた。
アトリエの隅っこには他とは違い小さな釜が1つあり、カイムは自分が取ってきた薬草を使い、釜の中の液体を混ぜていた。その隣には、小さな雪の妖精が2人いて妖精達の話に耳を傾けながら、カイムはゆっくりと釜の中を混ぜる。
「雪の無い場所でも、寒くない土地でも生きられるようなアクセサリーね」
「フルフルルフル(うん!違う所行く!)」
「フルフルフルルル(ここ嫌、違う所行きたい)」
妖精は、基本的に生まれた場所を離れることはない。離れないと言うよりも離れられないが正解だ。自然界で生まれた妖精は、その土地の特性を持っている。寒い場所で生まれた妖精は、暖かい場所に行くと溶けて消えるし、熱い場所で生まれた妖精は、寒い場所に行くと凍って砕けてしまう。
だから、そうならないよう妖精達は、カイムを頼ってアトリエに来たのだ。カイムは、特殊な錬金術師だから。
「妖精さんが持ってきてくれた氷輝石は、氷の力を持ってるから…これと、これを合わせて……」
混ぜていた釜の中には既に氷輝石が入っており、追加に雪の花の花弁と氷炎草が入れられた。
「フルルルル(変わらずへん!)」
「フル、フルル(うん!へん!)」
2人の妖精が口を合わせて同時に「変!」と言った。妖精達が変だと言ったのは、この組み合わせの事だと思う。他の錬金術師なら、この組み合わせで作れるのは、氷結や火傷を治す治療薬になるはず。
「あはは。私も変だとは思うけど、仕方ないじゃない?どうやっても、氷結を治す薬にはならないんだもの…」
でも、私が作ると……
何故か、普通の錬金術師と同じものにはならない。師匠も、不思議がってた…
『う~ん。キミ、相変わらず、よく分からないよねぇ。薬草と薬草で、癒し草が出来るはずなのに……なんで服が出来てるの?』
って。
私にも、理由は分からないんだけど……
でも、師匠が言ってた。
『まぁ、理由なんかどうでも良いよぉ。それが、キミの特徴なんだろうから。それより、既存のレシピは当てにならないだろうから、自分で書いたら?ほら』
そう言って、真っ白い本を私に渡してきた。作った物を……材料、投入の順番、出来上がった物の特性……その全てを書きなさいって。きっと、将来役に立つからって。
師匠……気だるげで、眠たそうで、普段からやる気ない癖に、面倒見は良くてアドバイスもくれて……寂しいな。
今はいない師匠に思いを馳せていたら、横から髪を引っ張られた。
「フル(釜!)」
「フルフル(よそ見ダメ!)」
「……ぁ」
いっけない!調合中だった!
師匠にも、調合中は考え事するな、寝るな、ボーッとするなって言われてたのに……
でも、師匠はよく寝てた気がするけど、それ言ったら『僕は寝てるんじゃない、目を瞑ってるだけだ~』って言われたっけ。
2人の妖精に咎められ、調合に集中したカイムは直ぐに、氷の髪飾りを2つ作った。妖精に渡すと、普通の大きさだった髪飾りが、妖精サイズに変わり2人とも自分の髪に飾った。1人は、ツインテールの右側に、もう1人はツインテールの左側に。
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