聖女に永遠の愛を(R15指定⚠)

紫宛

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本編

永遠に君と(狂化)※R15指定※

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『力が欲しいか?』

そう言われ、正直 欲しいと思った。
復讐するだけの力が欲しいと望んだ時、闇の声が頭に響き黒いモヤが体を包み込んだ。

だが……、同時にレティを思い出した。

『アルト、闇の声に心を傾けてはダメじゃぞ。
何があっても、必ずじゃ……
         よいな?』
レティの声が頭の中に響く。


力は、欲しい。
レティを傷つけた者達に復讐するだけの力が……

レティをおとりにして、自分達だけ逃げようとした愚王や聖女。

愚王だけを殺せば良いものを、レティにも手を下した愚民共を、皆殺しにするだけの力が……

でも、レティが、止める。
レティの声が、闇の声を退ける。

俺は意識を保ったまま、半分を狂気に支配された。力が溢れて制御が効かない…

(行かなければ……レティの……仇を…)

扉の方に向かって進めば、誰かが何かを言っていたが聞き取れない。
誰かを無視して、先に進めば、一瞬声が聞こえた。


懐かしい……友の声が…


「っ!…アルト!丘の上だ!待っているぞ!本懐を遂げて気が済んだら、必ず丘の上に来い!良いな!必ずだぞ!」

その声に耳を傾け振り向けば、俺が刺した男が叫んでいた。誰かは分からないが、『懐かしい』と、そう思った。

その男を一瞥いちべつした後、前に向き直り、向かって来た人間を情け容赦なく斬り捨てた。


城内の廊下を滑るように突き進む。
走る速度が常識を外れている、これが、狂気に支配される事なんだろう……筋組織が異常な力を発揮しているようだ。

謁見室のあるフロアまで辿り着くと、大きな扉の前で立ち止まる。
扉の向こうから、尋常じゃない殺気と魔力を感じる……

ニタリと口の端が上がり、扉に手をかけた。

「待っていたぞ、愚弟っ」

謁見室の中にいたのは、アルトの実兄で上位魔道士のアベルだった。

先程まで騒がしかった場所が、シーンと静まり返り、コツ、コツっと床を鳴らす靴の音が響いた。

アベルが、俺の顔を見て、一瞬顔を顰めた。
そして、俺の後ろに目線を移し、目を見開いた。

何かあるのだろうか?

後ろを振り返るが、何も無い……、否、何も無くはない。 

何か…、
キラキラした何かが、ある。

「………狂気に支配されるとは、愚か者が…
 あの方の為にも、俺が直々に倒し正してやろう」

「殺ス、邪魔スル者ハ、誰ダロウト」
「やってみろ!お前に殺される程、俺は容易たやすくはないぞ!」

アベルが何か呟くと、空中に炎、水、風、岩、光、闇の玉が出現し、アルトに投げつけていく。
アルトは、それらを剣で弾きアベルに斬り掛かる。アルトの動きを予測出来ていたのだろうアベルは、その剣戟けんげきを難なく避ける。

「いい加減、目を覚ませ!これをあの方が!レティレリア様が望んでいると思っているのか!?」

一瞬、アルトの動きが止まる。
その目に、一瞬色が宿る。

それを見逃さず、アベルは属性全てを合わせた光弾を作り出す。

『力を与えよう』

声が響く、赤黒い模様が体を蝕んでいく。
模様が体を蝕む度に、自分の力が増していく。一瞬動きを止めたアルトだったが、虚ろな目に戻りアベルに向かい、目に見えぬ早さでアベルの首を跳ねた。 

向かって来るアルトに、本気で光弾を撃てなかった。アベルの頭上で作られていた光弾は、霧散し消えた。

「ぐっ……」

(くそっ!情が邪魔したか……申し訳ありません、レティレリア様。我が聖女)

アルトは、はねた首に見向きもせず奥に続く扉に向かった。

(おれは……だれ、の……くび…を?あ……れは、だ、れだ?たい……せ、つな?)

アルトの中に疑問が湧き上がるが、それも一瞬で、すぐに王へと意識が移る。


あぁぁぁ!コロス……おぉれの!…ダ、イジなぁ…?



もう、アルトの中にあった、レティの存在が薄く消えつつあった。




※※※※

「申……し、わけ、あり…ません」

-良いのじゃ、其方そなたの責では無い-

アルトの周りでキラキラと光っていた光がアベルの周りに輝いていた。その光が、静かに眠りにつくアベルに労いの言葉をかける。

-其方そなたにも、あ奴にも、理不尽な事を言ってしまった……すまぬ-

「あ、やまら……ない、で…くだ、さい。わた、しの……い……し」

言葉が続かない。
当たり前だ、首と胴が繋がってないうえに、今も生きて話せてるのが不思議なのだ。

-其方そなたの魂が、無事に天に召される事を祈っておる-

光が一際強く輝くと、アベルの顔は安らかなものに変わった。
それを確認した光は、アルトの後を追うように消えた……。


※※※


謁見室で兄を倒し、地下通路を見つけ国王を追いかけていたアルトは、そこに倒れている国民を見つけた。恐らくは、自分と同じように国王を探し騎士に敗れ死んだ者達だ。

キィィーン

そこに、剣がぶつかり合うような金属音が響いてきた。

「チカイ…!」

騎士と国民が地下通路の中で剣や桑を合わせ戦っていた。奥の方に視線をやれば、だいぶ先だが国王や聖女が見えた。
その前を、屈強な騎士と思える人物が仁王立ちして、部下に指示を出していた。


アイツさえ、タオセバ……オレの、モクテきは……!


ニヤリと笑い、舌なめずりする。


タオス、コロス、アノ人ヲ、コロしタ、ぜン員二……じ獄ノ、苦シミ…ヲ!


先ずは、邪魔な愚民共を切り伏せていく。
飛び散る血飛沫に目もくれず、顔にかかった血は手の甲で軽く拭う。
邪魔だった愚民を殺せば、国王が嬉々として駆け寄ってきた。

「おお、戻ったか!アルト。だが、先程の裏切りは決して許されるものでは無いぞ!覚悟せよ!」
「お待ち下さい!陛下!何かおかしい!」
「何を言っておる、お主の息子であろう」
「だから申しておるのです!あれは、危険だ!」
「何を馬鹿なことを、さっ、逃げるぞえ」

「ふっ」

背中を見せた国王を、後ろから刺す。

「が、がはっ!」
「陛下!!」
「アルト!貴様!」

「ふ……ハハハ!シネ!」

国王を庇って前に出た騎士と対峙する。

「オレ……の、ジャま、…する、のか!」
「貴様は、もはや私の息子ではない!あの方の思いを!お前は無に返すのか!」

アノカタ……?

あの方とは誰のことを指すのか、アルトにはもう分からなかった。

「愚かな……愚かな!アルト!」

『力を与えよう』

「グゥ……アアあ!」

再び闇の声が響く、俺の理性が壊れる……



その刹那、この場に光が満ちる。



「あ、あ、あ…レ……ティ?」

-アルト!しっかりするのじゃ!-

呆然としていたアルトに、彼の父ジュードが剣を振り下ろした。

「狂気に支配された者は、もはや人には戻れぬ!私の手で引導を渡してくれるわ!」
「ああああ!レティーーー!」

……が、アルトの剣が受け止め、払い、薙ぎ払った。ジュードの体が鎧ごと真っ二つに切られた。

「ア……ル…ト……がっ…は」

「……ちち…う、え?」

「はは、少し…は、正…気に、もど、たか」

この場に国王はいない。
騎士も聖女も、既に逃げたあと……

今この場にいるのは、オレと光と消えゆく父上だけだ。

「レティ、レリア様……が、わし…らに、託して、行った。お、前の、こと…を」
「レ…ティ……ガ?」
「そ、うだ、自分…の死、を予…感し」

「ナラバ!ナゼ!ワタシに話シテ」

「逃げ……られぬ、から、だ」
「!!」
「あの、方は…この、く……にに、縛、られて……ぃ…………」
「ちち……う…え?」

もう話せなくなったのか、父上は笑顔で俺の頬に手を当てて落ちた。

兄上は、俺が殺した。
父上も、俺が殺した。

ああ、ラルフもグレンもラティルも切った。

『…丘の上だ!……待っているぞ』

友が、切られてもなお俺の名を呼んだ。
狂気に支配された俺を、誰一人見捨てなかった。

体を蝕んでいた狂気の力が、抑えらている。
兄上の思いが、父上の思いが、俺を包んでいる気がする。

「レティ?いる、のか?」

-アルト、わらわは、ここじゃ-

アルトにレティの声は聞こえない。
狂気に支配された体では、清らかなる彼女の声は届かない。それでも、光がアルトの周りを飛び交う。


手を伸ばし光に触れ、アルトは微笑む。

(なくしても、なくしても、貴方は取り戻してくれるんですね…俺のレティ……)
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