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本編
永遠に君と(狂気)(改変)※R15指定※
しおりを挟むどれくらい、そうしてただろうか。
泣き叫び、声が枯れ、心の中に黒い何かが生まれた。ゆらりと立ち上がり剣を抜き取る。
「………コ…ロ…ス……」
「アル……ト?」
静かに近付く俺に、怪訝な様子で声を掛けてくる。グレンとラティルは、まだ泣いている。心の中を黒いモヤが増殖していく。侵されていく。
「うぁ……ぁ、…………コ、ロ、ス」
気が付けば、目の前にラルフがいて
「ガハッ!……アルト!てめぇ!」
俺は、剣を突き刺していた。
「アルト……さん?」
驚き目を見開いた、グレン達が俺を凝視していた。涙は、止まったようだ。
そのまま、流れるような動作でグレンとラティルを斬り付けた。
「……な、んで?」
「バカヤロウ!殺すなら最後にしろ!」
ラルフが怒鳴っている。
だけど、上手く聞き取れない。
黒いモヤに邪魔されて、心はどんどん落ちていく。
「ぅぐ……ぐぁ…………ぁ」
身体に赤黒い紋様が浮かび上がる。
隊服の隙間から、浮かび上がる紋様が見て取れる。前に見た事がある。
(ああ、レティが見せてくれた…狂化の)
『力が欲しいか?欲しいなら、俺の力をやるぞ?狂化の力をな』
(……力?)
『その代わり、本懐を遂げた暁には、その体を貰い受けるがな…アッハッハ』
(……レティ)
俺の体が黒いモヤに巻かれた。
「アルトさん!!」
「近づくんじゃねぇ!」
「!!」
「狂化だ……」
モヤが晴れると、赤黒い紋様が左半分を覆い尽くしてた。
「アルト」
誰かが俺を呼ぶが、無視して扉に向かう。
「コロス、コロス、コロス、コォォロォォスゥゥゥゥァァァAAAaaa」
「アルト!」
ラルフは、アルトを追って廊下に出たが、アルトは既に遠くに行っていた。
スピードが、尋常じゃない。
「狂化の力か……!」
だが、アルトを見る限り、完全に狂気化では無さそうだ。
紋様は、半分だった。
もし、闇の声に答えていたら、全身に紋様が現れ、理性が吹き飛び、誰彼構わず殺し回るはず!俺達は今も生きてない筈だ!
だから!
「っ!…アルト!丘の上だ!待っているぞ!本懐を遂げて気が済んだら、必ず丘の上に来い!良いな!必ずだぞ!」
俺の声は、アルトに届く!
一瞬だけ、アルトが振り返った。
だが、何も無かったかのように前を向いて、向かってくる人間を容赦なく斬り捨てて進んでいった。
残ったラルフは、グレンとラティルを交互に見やった。
「動けるな?」
「「はい!」」
「グレンは、レティ様を担げ!丘の上に連れて行く!俺が露払いするから、お前はレティ様を護る事に専念しろ!」
「分かった」
「ラティルは、爆弾を集めてくれ!城内と丘の上に続く入口に仕掛るんだ!」
「分かったっス」
(アルトの事が心配だが…っ、……チィ!アイツ……致命傷では無いが、長くは持たんぞ…)
「急ぐぞ!ラティル、無茶はすんじゃねぇぞ!無理だと思ったら、引くんだ!良いな!」
「了解っ……ス!」
グレンもラティルも、浅くねぇ傷だ、丘の上までは…………持ってくれ!
ドタドタドタッと廊下を走る。
民衆からなる反乱軍共が、行く手を遮ってくるが躊躇なく切り伏せて行く。
(悪いが、俺達にも余裕はねぇ。苦しませずに逝かせる……てぇのは、無理だぜ…)
グレンに奴らを近づかせる訳には行かねぇんだ!
「邪魔だ!」
目の前の男の首を切り落とす……その勢いで、後ろに迫って来た男の胴体を両断する。
グレンに切りかかる男の首を後ろに引き倒し、頭を踏み潰す。
奴らは、斬っても、倒しても、何処からともなく湧いてきやがる。
「チィッ!」
キリがねぇ!
このままじゃ、いずれ押し潰されるぞ
仕方ねぇ!此処で俺が食い止める!
「グレン!先行け!」
「はい!」
背後で隊長が仁王立ちしたのを確認し、レティ様を抱え直し走る。
背後の心配はしなくていい、隊長が絶対に奴らを通すことは無い!
前方の敵だけに気を付けるんだ!
「レティ様!すみません、揺れますけど……ッ、我慢して下さい!」
亡くなってるのは知ってる!
だけど、生きてたら、きっと『もっと、静かに走らぬか!妾が、落ちるッ』と、怒ってただろうから……!
城門を突破してきた国民が、俺たちを見つけて、弓矢や石を投げてくる。レティ様に当たらないよう気を付けながら、王城の廊下を裏庭に向かって走る。
前方から斧や桑を持った敵が、襲ってくるが戦わない……戦ったら、レティ様に傷がつく。隊長にも、戦うなって言われた……ッ
逃げる事に専念するんだ!
「カハッ」
血反吐を吐き出す。
(クソッタレ……まだ……だ!まだ走れる!)
グレンは、1人でレティを背負い丘の上に向かって、ひたすら走る。
仲間を信じて、アルトさんを信じて、約束の丘の上へ!
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