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本編
永遠に君と (過去)
しおりを挟む「では、此方でお待ち下さい。直ぐに担当聖女候補様をお連れします」
丁寧に腰を折り、部屋を出ていく神官を見送る。
暫く待つが、神官がやってくる気配はない。
(……?)
バタバタバタと走り回る足音が聞こえ始め、『レティ様は何処です?!』『見張りは、どうしました?!』と、声も聞こえて来た。
「行方不明……ですか」
私も探した方がいいかも知れませね。
『ラルフ達は?!』『既に探しに出ております!』声は、絶え間なく聞こえて来る。
廊下に出て、取り敢えず中庭の方に向かって歩き出す。
耳を澄ませば、鳥の囀りが聞こえ……、「シャー!」「いたっ」猫と少女の声も聞こえた。
まさか……
声のした方に足を向ければ、大木の枝にぶら下がった少女がいた。
金の髪に空色の目をした可愛らしい少女だった。
「たたた、引っかかれてしもうた」
「こんな所で、何をしているんですか?」
「見てわからぬのか?」
「分かりませんね」
「子猫が降りられなくなっておっての、助けようと思ったのじゃ」
「子猫は、居ませんが?」
「先程逃げられたのじゃ…」
「それで、貴方は?」
「……足を掛けていた枝が折れてのぉ…、降りられなくなったのじゃ……」
「はぁ、何してるんですか…全く。貴方は聖女候補でしょう、怪我でもしたらどうするですか」
大木に近寄り、降りられなくなった聖女候補を抱き上げ助けた。
それが、彼女、聖女候補レティレリア様との出会いだった。
レティ様と出会って数ヶ月後
「アルト!」
聖堂の警備の事で、チームを組んでいる元近衛騎士団隊長のラルフと話しながら歩いていると、後ろからレティ様の声が響いた。
正直、嫌な予感しかなしないので振り返りたくない。
「アルト、呼ばれてるぞ」
なのに、余計な気を利かせたラルフが足を止め振り返る。
仕方なく振り返れば、満面の笑顔で手を振りながら駆けてくるレティ様がいた。
「アルト!ラルフ!久しぶりじゃな!」
最近、聖女候補達は聖堂の祈りの間にて、大地に、空に、海に祝福を頂けるよう神に祈りを捧げていた。
その為、レティ様に会ったのは、2週間ほど振りだった。
「お久しぶりです、レティ様。嬉しそうですね、何かあったんですか?」
「うむ!良い事を聞いたのじゃ!」
嫌な予感しかしない。
「近々、祭りがあるそうじゃな!」
やはり……。
「それでの……「却下」」
「まだ、何も言うとらん!」
「言いたい事は、分かります。ダメです」
「おいおい、アルト。少しは構わんだろ」
「ダメに決まってるでしょう、レティ様に何かあったらどうするんですか。ただでさえ、危なっかしいのに」
「むむむ、仕方ないのぉ……(お忍びで行くかの)」
「……(はぁ、お忍びで行くつもりですね)」
『レティ様~、どちらにいらっしゃるんですか~?』『レティ様~!』
「はは、また抜け出してきたのかい?」
「祈りを捧げても、無駄なのじゃ。国王や為政者がアレでは、祈りを捧げても大地は廃れていく一方じゃ。国民の飢えは、補えん」
「……」
「いずれ、滅びの道を辿るじゃろう」
言葉は大人びていても、彼女は15歳の少女だ。この国に存在する聖女候補はレティ様を入れて5人、平均19歳で、彼女が最年少だ。
そして、彼女が聖女候補の中で1番力を持っている。
だが、周りの大人達は彼女の力を信じず、言葉も信じない。常に不遜な態度を取っているから、我儘な聖女と思われているようだ。
俺は、それを変えてやりたい。
彼女は本当に、この国が大好きで護りたいと思ってるのに、それが伝わらないのが悲しくて仕方がない。
ラルフも、グレンも、ラティルも同じ思いだ。3人は俺と一緒にレティ様を、護衛する仲間。ただ、俺が従属騎士で彼らは護衛騎士だった。
「はぁ、仕方ないのぉ。戻るのじゃ、お主らも警護 頼むぞ」
「レティ様!」
「なんじゃ、もう見つかったのか。早いのぉ」
その日も、いつもの如く脱走したレティ様を探していた。
彼女は、王都の裏の小高い丘の上にいた。
大木の根元に腰を下ろし、街を見下ろしているようだ。
ラルフ達と散々探し回り……、聖剣に聞いても、『街を見下ろせる丘の上』としか言わないから、行き方が分からず探し回った……もし万が一があったらと思うと、気が気じゃなかった。最近は街も物騒で、とても出歩ける雰囲気じゃない。
「アルトよ、こっちに来るのじゃ。ラルフ達もじゃ」
レティ様に呼ばれ、近寄る。
「見よ。ここからの眺めが最高じゃ」
物思いに耽った横顔を、盗み見る。
何故か無性に、怖くなった。
俺の前から消えてしまうんじゃないかと…何故か怖くなった。
「どうした?アルト。泣きそうな顔をしておるぞ」
「何でもありません」
「そうか……」
「のぉ、アルト。この時間が、ずっと続けば良いのになぁ」
俺よりも、ずっと悲しそうな、泣きそうな顔をしている彼女。
まるで、この時間が長く続かない事を予感しているようで。
「続きますよ」
俺は、何も根拠など無いのに、答えていた。
「俺が護りますから」
「「「勿論、俺達もいます!」」」
「約束か?」
「ええ、約束します」
「そうか」
そう言って、嬉しそうに笑った。
だが、彼女の笑顔を見たのは、この日で最後になった。
その日から、王宮が慌ただしくなり、レティ様や他の聖女候補は祈りの間に篭る日が続いた。
ある日、レティ様は王宮に呼ばれ俺は彼女の護衛として共に登城した。
謁見室に入って行く彼女を扉前で見送った。
本来なら、俺もついて行くのだが、とても大切な話しだと言うことで、外で待つこととなった。
数十分ほどで、レティ様は出てきた。
だが、聖堂まで彼女はずっと、何かを考え込んでいて、俺が話しかけても上の空だった。
事件は、国王の謁見から、数日後に起きた。
その日の朝、俺は、国王に呼ばれ王宮に赴いていた。
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