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本編

ディーネ&フィールの悪戯

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誘拐から救出されたセシリアは、安心したのか気絶するように寝てしまった。
ディオーネ家に着いた時、陽は既に昇り始めていた。

『ねぇ、それで何をするつもりなのさ』
『う~ん、あの人達に手を出したら怒られたって、ヴァル言ってたわよね……』
『暫く口聞いて貰えなかったってさ……』
『それは、イヤ!……だから、お城に居る人達にしよっ』

風のフィールと水のディーネは、セシリアが屋敷の中に入るのを確認してお城に飛んで行った。

『で?ターゲットは?』
『そうだなぁ、あっ!あそこで戦ってる人達は?』

ディーネが目を付けたのは、訓練場で模擬戦をしている騎士達だった。

ディーネ達は気付かなかったが、セシリアを送ったアインス皇帝が、ついでにと訓練場を訪れていた。

『あそこで偉そうにしてる人は?』
『う~ん、どっかで見た気がするけど……まぁいっか!良いよ、何するのさ』
『頭に水落とす』
『その後、僕が吹き飛ばす?』

そう!と、ディーネが力強く頷くと、2人はアインス皇帝に近付いていく。

ディーネは皇帝の真上に、フィールは少し離れて力を使った。



その瞬間、騎士達の真上に大きな水玉が出現し落ちる。

騎士達はいきなり現れた大きな水玉に為す術もなく、バシャンという音と共に水を頭から被ることになった。
そして直後に起きた暴風に煽られ、転がる騎士が数人……

古参の実力のある騎士は踏みとどまり、アインス皇帝を案じたが……

「っ?!陛下っ!無事ですか!?」

アインス皇帝は目の前で起きた惨劇に、もしかして?と思っていた。

何となく、理由はセシリア……精霊が関係してるのでは?と。そして、なぜ自分に被害は無かったのか考えていた。

そして、その答えはすぐに判明した。

『ディーも、フィーもやりすぎ……だし。』
「この声は……ヴァル殿?」
『ん』
『あれ?ヴァルじゃない!何でその男を庇うのよっ!』
『あー、ヴァルだっ』

ヴァルが、アインス皇帝を守る為の結界を貼ってくれていたため、2人から与えられる被害を免れたようだった。

「ヴァル殿、これは……」
『ん、ディーは、水の最高位で……フィーは、風の最高位』
「やはり……」
『リアが好き、だから……みんな、警告くる…』

セシリアを溺愛するが故に、我々に警告という名の悪戯及び災害を与えるのだそうだ。…しかし、精霊は人に手を出すと良くないんじゃなかったか…?

『……。最、高位の精霊は、人に手を出しても…問題無い…。ただ、精霊界に、影響出る…だけ』

…顔に出ていたか?ヴァル殿が説明してくれ、下位~上位の精霊は制約を受けても、最高位は基本何しても問題は無いらしい……精霊界に影響が出るだけだそうだ。

……そうなのか、ふむ。

『でも、もう来ない……と思う。来ても、ディー……ほどじゃ、ない……たぶん?』

水のディーネ様は、精霊の中で最も過激な精霊だそうだ。

炎のファルク様よりも……

『むー、どうしてヴァルが止めるのよっ』
『この人、は…リアを、守って……くれる人。怪我させたら……だめ』
『あー!』
『ちょっ……びっくりさせないでよっフィー!』
『思い出した!さっき、リアを救いに来てた人だよっ!』
『えー、そうなの?』

そこで漸く、水の精霊様は俺を見た。
俺の前まで飛んで来て凝視すると、俺の横、後ろ、反対側の横と見て、再び正面を見つめると『覚えてないわ』と言った。

何のことを言ってるのか、俺にはさっぱりなんだが……

アインスは、小屋にいた二人を見ていないため、このやり取りの意味が分からなかった。

『気にしなくても、大丈……夫』

とヴァル殿が言うので、気にしないでおくか…

『それより、二人……とも、謝罪……は?』
『はぁ?なんで言わなきゃいけないのよ!』
『リア……に嫌わ、れても…良いなら、言わなくても……良いよ』
『うっ……』
『ボクは謝るよ』

緑色の髪をした精霊様が、ポンという小気味いい音を響かせて小さな姿になり、俺の前に来ると『ごめんね』と謝罪をしてきた。

『ボクの名は、フィール・ラファーガ。風の最高位だよっ♪フィールって、気軽に呼んでくれて構わないよっ』

楽しそうに空中でクルクル回りながら、自己紹介をする。そして、ちょっとした警告という名の悪戯なんだ、殺す気はなかったよ…ごめんねと、再度謝罪をしたフィール殿。

俺に謝罪したフィール殿は、ふわりと飛んで水の精霊様の元に行くと、無言で精霊様の瞳を見つめた。ヴァル殿も、精霊様の方をジッと見つめる。

『『…………』』

『……わ、悪かったわよっ!』
『……でぃー、ね』
『そ、その…悪かったわ、ごめんなさい……』

ヴァル殿が諭すように精霊様の名前を呼ぶと、気まずそうに俺の元に飛んできて謝った。

「いや、問題ない。それだけ、セシリア嬢を思ってのことなんだろう?」

『……うん、あなた良い人ね。私の名前は、ディーネ・アクア、水の最高位。迷惑をかけたお詫びに、私の事は好きに呼んで良いわよ。敬称も要らないわ』

そして、2人の最高位精霊殿は『何かあったら、何時でも呼んで』と言って消えていった。

『大丈夫……?けが、して…ない?』
「ああ、俺は大丈夫だ。ヴァル殿のお陰で、お前達も大丈夫だな!?」
「問題ありません!」

訓練場に響くように大きな声で呼びかければ、団長を始めとした多くの騎士が答える。まぁ、多少怪我はしたかも知れんが擦り傷程度だろう。精霊ヴァル殿を気に病ませる程じゃないのは確かだ。

『そっ……か、良かった。じゃ、ぼくも……帰る、ね』

安心したように微笑むと、ヴァル殿も帰っていった。

後に残されたのは、最高位精霊を始めてみた騎士達の感激と賞賛の言葉だった。

あれほどの目に合わされても、やはり最高位精霊は特別なんだな。

「あれが、最高位精霊ですか……」
「初めてではないだろう?」

近衛騎士団団長のヴォルド・ハルジオンは、セシリア嬢との謁見の際に、俺の護衛として傍で控えていたからな。
炎の最高位精霊ファルク様と、会ってるはずだ。

「やはり、最高位様は存在感が凄いですね。本来の姿でなくとも、目の前にすると体が動きません」
「ああ、それは俺も同じだ。……だが、セシリア嬢の前だと、その気が弱まる。普通に家族のように見えるから不思議だ」
「はい」

さてと、何時までもここにいる訳にもいかないな。

執務が滞る前に、行くとするか!
……それにしても、徹夜した割には体が軽い気がするな…まぁ、良いか。


アインス皇帝は、軽い足取りで皇城の中に入って行った。

彼は気付いていなかったが……聖の精霊ヴァルが、迷惑をかけたお詫びにと彼の疲れを癒したのが理由だった。
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