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第2話 ヴェルグ&ブラッド視点
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「...あれから、13年か...」
私の名前は、ヴェルグ...メリーズ公爵家で王家の宰相を務めている。
妻が亡くなって13年...あの子は元気にしているだろうか?
妻にそっくりな我が娘...会うと悲しくなるから、会わなかった。そもそも家に帰らなかった。仕事も立て込んでいたから、それを理由にして...
息子も帰ってないと聞く。
だから、まさかあんな事になってるなんて、知らなかったんだ……
息子と話し、13年振りに家に帰った。
すると、屋敷の人間は驚いた顔をして、何故?と聞く。
自分の家に帰るのに、理由がいるのか?
まぁ、帰ってなかったからな。驚かせたのは悪かったが……だが、何かおかしい。
「...?」
息子も、気付いたようだ。
奥から、ネリスの為に雇った女性が出てきた。彼女はネリスの為に用意した未亡人だ。子供を育てた経験があり、ネリスを任せていた。
「旦那様、お帰りなさいませ」
私に頭を下げる彼女の所作は美しい。
彼女が育てたならば、ネリスもきっと公爵家に相応しい令嬢に育っているだろう...と、本気で思っていた。
だが……
「旦那様!!坊っちゃま!!大変です!お嬢様が居りません!!」
「「なんだと?!」」
家中を探したが、ネリスは見つからなかった。地下...に居るはずが無いとは思ったが、一応探した。
すると、……生活した後が...ある?
ブラッドを見ると、驚いて言葉がないようだった。
「サーシャ!これは、どういう事だ!!ネリスは、どうした!」
「サーシャ様!ネリスはどこ?!」
息子と二人で責めたてれば、サーシャは顔を青くさせ、使用人が連れ去ったと言った。
※※※
その言葉を信じた訳じゃないけれど、父上と話して、取り敢えず泳がせる事にした。
久しぶりに帰ってきた家は、様変わりしていた。ネリスの為に雇ったサーシャ様は、何故か使用人達に、夫人のような扱いを受けていた。
俺は、母上が亡くなってから、家に帰れなかった。だって、ネリスは、母上にそっくりだったから...顔を見ると涙が止まらなくなるから。
でも、やっと心に余裕が出来たから、帰ってきたんだ...学生寮から。
母上が亡くなった直後は、父に付いていき、学園に通えるようになったら寮に住み...屋敷には近寄らなかった。
でも、帰ってきたら、ネリスは居ないし、屋敷の使用人は何処かおかしいし、嫌な感じだ……。
※※※
夜、サーシャに動きがあった。私はブラッドに屋敷に残るように言い、サーシャの後を追った。
そこで見たものは……
ガリガリに痩せ細り、髪はボサボサで、服...では無いな、布?を被せたような格好をした、少女?だった。
疑問系だったのは、髪は短く遠目では女の子に見えなかったからだ。
まさか、それが、ネリスだなんて...気付かなかった。
馬車に乗り込んだサーシャは、森に向かったようだ。私は馬に跨り、気付かれないよう後をつけた。
馬車が止まり、御者台に乗っていた男が少女を持ち上げ地面に投げ捨てた。
そのまま、再び御者台に乗り込み、去って行くのを影に命じて捕らえさせた。
投げ捨てられた少女の元に向かう。
酷く汚れ、腕や足、顔にも痣があった。
髪はベタベタで、体の臭いもキツイ。
手は変な方向に曲がってたり、所々血が出ている。
髪色は、灰色っぽくなっているが、私と同じアイスブルーだった。
よく見なくても分かる...ケイナそっくりの顔、私の娘だ……!
「ネリスっ!ネリスっ!」
何度呼んでも返事がない。
優しく抱き起こし、ぎゅっと抱き締め涙が零れ落ちる。ネリスの顔を濡らす。
泣いてる場合じゃない!
自身のマントをネリスに巻き、抱き上げ振動を与えないよう気を付けながら屋敷に戻った。
ネリスを見た使用人が、増悪に満ちていた事から、彼らがネリスをこんな目に合わせたのだろうと、直ぐに分かった。
だから、全員をクビにした。
ネリスを私のもう1つの屋敷に連れて行き、ベッドの上に下ろした。
執事のゼトに、ネリスの世話をするメイドを選出してもらう。
ネリスが目を開けた。
私と息子は駆け寄り、ネリスに話しかけるが、ネリスは何も反応しなかった。
ただ、一点を見つめるだけだ。
「ネリス、服を変えような」
息子と共に離れると、ゼトが数人のメイドを連れて部屋に入ってきた。
1枚の布に穴を開けて、首に通しただけの質素なもの。服とも呼べない粗末な格好。
メイドは優しい手つきで布を脱がし、ぬるめに温めたタオルで、ネリスの身体を拭き始めた。
ネリスの体は、傷や痣だらけで見るのも辛かった。変な方向に曲がってしまった指は、至急王に連絡相談し、王城医師を派遣して下さる事になった。
そうして、毎日毎日ネリスに話しかけ続けた。
※※※
父上が、ネリスを連れて帰って来てから数日が経った。
体中にあった傷や痣は、王城医師により少しずつ回復している。指も...ネリスが寝ている間に、手術で...治してもらった。
ネリスは少しずつ、俺達の声に振り向くようになり、少しずつ話すようになった。
体の臭いは、まだ取れきれていないけれど、ベタつきは無くなり、髪も本来の色を取り戻した。...父上と同じ氷のような色だ。
そんな時...執事のゼトから聞いた言葉に、俺達は言葉を失った。
だって……
ネリスが、自分が死んだら皆嬉しいと言ったと...自分は俺達や使用人に嫌われていると。
母上を、殺した自分を嫌っている、と言っていたと……!!
ああ、違う。
嫌ってなど……
だが、言った所で俺達が帰ってなかったのは事実。ゼトが否定してくれたそうだが、ネリスは信じてなかったと…。
俺は最低な兄だ……
だから、これからは大切に...愛し慈しむ。それが、母上の最後の願いでもあるのだから。
※※※
ある日の夜、家に帰るとネリスはまだ寝ている、とゼトが言っていた。
ネリスの部屋に行き、顔を覗き込めば穏やかな寝顔が見れた。
あの日から、サーシャとサーシャの娘、前の屋敷の使用人全てをクビにし、ネリスが味わった13年の痛みと苦しみを...同じだけ味あわせる事にした。
影に命じて……人知れず。
国王が疑いの目を向けてくるが、何も知らないと答えた。私の罪滅ぼしなのだ、ただの自己満足なのだ。
国王は、結局何も言わなかった。
ただ、『何かあったら、頼れ』と言ってくれた。
暫く息子と、ネリスの寝顔を堪能していたが、緩く瞼が震えた。
静かに瞼が開く、私たちが声を掛けると、片言だが、言葉が返ってきた。
一緒に夕飯を食べて、少し話をした。
私やブラッド、ゼトやメイド長のハンナと毎日会話をしていると、ネリスの言葉が、流暢になってきた。
傷や痣が目立たなくなってきた頃、風呂を使うようメイドに指示をだした。医師も、短時間であれば問題ないと言ってくれたからだ。
初めて風呂に入ったと、ネリスも喜んでいた。温かくて、気持ちいいと。
※※※
ネリスは、ずっと地下で生活をしていたし、解放されてもベッドの上での生活を強いられていたから、筋力が衰えていた。
だから、俺と一緒に部屋の中で少しずつ歩く訓練をした。1人ではまだ無理だが...屋敷の中を自由に歩けるようになると、地下に行きたいと言い出した!!
何故だ?!
また、あの生活に戻ると言うのか!
動揺しながらネリスに聞くと、気になっただけと言った。
だから、ここは前とは違うお屋敷なんだと教えた。
ネリスは、色々聞いてくるようになった。
父上の仕事、俺の立場、自分は何をすれば良いの?と
だから……
「自由に過ごしたらいい」
父上とも話したが、ネリスに貴族の義務を押し付けるのは止めようと。あくまで、自由に...自分の意思で。
無理やり婚約者を作る必要は無いと。
ある日、夕食の席でネリスは自由が分からないと言った。
「自由?分からない。何する?」
「分からない...か、なら一緒に知っていこうな」
「...私の仕事場に遊びに来るか?」
と父上が言った。
いや、ダメだろ?!父上の職場って言ったら、王城じゃないか!
でも、ネリスが行くと言ったから...俺も付き添いで一緒に行く事になった。
ネリスは、仕事の邪魔にならないよう、父上達には話しかけなかったし、俺に話しかける時も、小声で邪魔にならないように気を使っていた。
※※※
ある日の昼下がり、ネリスの放った言葉に、私達は...ネリスの心はまだ、完全に癒えてはないと気付かされた。
「愛してる?なぜ?私がお母さんを殺したのに」
っ!!!!
違う!
ケイナは...ケイナは、ネリスを守りたかったんだ!自分の命よりも……!
「違う!ケイナは...ネリスを守ったんだ」
ケイナは……本当なら出産に耐えられる体じゃなかった...ブラッドを産んだ時だって、死線をさまよったんだ。
私は、止めたんだ...まだ、大きくなる前に。でも、ケイナは、産むことを選んだ...
けれど……出産時、母子ともに危険な状態だった。このままじゃ、2人とも死ぬと...
だから……わたしは、ケイナに言った。子は、諦めよう...と。
『嫌よ!この子は、私の大切な子!死なせない!絶対に!!』
ネリスが生まれ、少し会話をして……亡くなった。
悲しくて辛くて、家に帰れなくなった。ネリスの事は、雇ったサーシャが育ててくれる。
家庭教師を雇う金も、必要なドレスを買うお金も、サーシャに渡していた。
だから、これで良いんだと自分に言い聞かせ、サーシャの事も家の事も調べなかった。
親の務めは、果たせているのだ……と
※※※
「違うよ!母上は...ネリスを助けたんだ」
お医者様が...父上が...、子を諦めようと言った時、母上は絶対に嫌だと断った。
自分の命よりも、娘の命の方が大切よ...!と。
生まれてきたネリスを抱き締め額にキスを落とし言った
『ネリス、私の大切な娘...貴方が生きている事が私の幸せよ』と。
『ヴェルグ、ブラッド...この子をお願いね。私の代わりに沢山愛してあげて、沢山話してあげて.....』
母上は、その数分後に亡くなった。
俺は、一瞬恨んでしまった...ネリスを。
母上と同じ顔の小さな女の子を。
大きくなって、言葉を理解するようになったら俺は……酷い事を言ってしまう。
そう思ったから、離れたんだ。
ネリスの事は、父上が雇った女の人が育ててくれると思ったから…俺たちの代わりに愛情を注いでくれると信じたから。
※※※
「わたし、生きてて、良いの?」
「「っ!!」」
「すまない!!すまないっ!生きて良いんだ!生きてて...良いんだっ……すまない……っ!」
「ごめん!生きてて欲しい!死なないでっくれ!」
涙が溢れて止まらない私たちに、ネリスはずっと頭を撫でてくれた。
「私もして貰って、嬉しかったから」
嬉しくない?と聞かれ、嬉しいよと答えた。
泣き疲れたネリスが、私達に抱き着き寝てしまった。離れなかったし、私達も離れたくなかったので3人で川の字になって寝た。
あれから、数年が経ち...
ネリスは、沢山勉強をしだした……無理しなくていいと言っても、お父様の役に立ちたいのと言って止めなかった。
ネリスが行く場所には、必ず私かブラッド...ゼトが付いて行くようにした。何かあってはいけないからだが...ネリスに過保護と言われてしまったな。
ネリスが勉強に励み、社交界に顔を出すと...途端に婚約の申し込みが殺到した。全部破り捨ててやったがな。
国王にも、過保護と親バカと言われた。
そんな時だ……一番関わりたくない第2王子に話しかけられたのは...
「メリーズ公爵、君の所のネリス...可愛いよね?」
「いくら王子でも、娘はやらんぞ」
国王、王太子、第2王子と話し合い...ネリスに選んでもらう事になった。
ネリスが嫌がったら、諦めろと伝えて。
でも、ネリスは承諾するだろう。
『夜会で会った時に、痣を見て皆が離れていくのにレンフォード様だけは近寄って来たの。打算だとしても嬉しかったわ』
と嬉しそうにわらっていたから。
ケイナよ……
私は娘離れが出来そうにないぞ……
どうしたらいいんだ……?
2人の結婚式の日は、雲一つない晴れ渡った空だった。きっと、天にいる母上が祝福してくれてるんだろう。
俺は...祝福出来そうに無いがな!
「「ネリスゥゥゥゥッ!!」」
~完~
私の名前は、ヴェルグ...メリーズ公爵家で王家の宰相を務めている。
妻が亡くなって13年...あの子は元気にしているだろうか?
妻にそっくりな我が娘...会うと悲しくなるから、会わなかった。そもそも家に帰らなかった。仕事も立て込んでいたから、それを理由にして...
息子も帰ってないと聞く。
だから、まさかあんな事になってるなんて、知らなかったんだ……
息子と話し、13年振りに家に帰った。
すると、屋敷の人間は驚いた顔をして、何故?と聞く。
自分の家に帰るのに、理由がいるのか?
まぁ、帰ってなかったからな。驚かせたのは悪かったが……だが、何かおかしい。
「...?」
息子も、気付いたようだ。
奥から、ネリスの為に雇った女性が出てきた。彼女はネリスの為に用意した未亡人だ。子供を育てた経験があり、ネリスを任せていた。
「旦那様、お帰りなさいませ」
私に頭を下げる彼女の所作は美しい。
彼女が育てたならば、ネリスもきっと公爵家に相応しい令嬢に育っているだろう...と、本気で思っていた。
だが……
「旦那様!!坊っちゃま!!大変です!お嬢様が居りません!!」
「「なんだと?!」」
家中を探したが、ネリスは見つからなかった。地下...に居るはずが無いとは思ったが、一応探した。
すると、……生活した後が...ある?
ブラッドを見ると、驚いて言葉がないようだった。
「サーシャ!これは、どういう事だ!!ネリスは、どうした!」
「サーシャ様!ネリスはどこ?!」
息子と二人で責めたてれば、サーシャは顔を青くさせ、使用人が連れ去ったと言った。
※※※
その言葉を信じた訳じゃないけれど、父上と話して、取り敢えず泳がせる事にした。
久しぶりに帰ってきた家は、様変わりしていた。ネリスの為に雇ったサーシャ様は、何故か使用人達に、夫人のような扱いを受けていた。
俺は、母上が亡くなってから、家に帰れなかった。だって、ネリスは、母上にそっくりだったから...顔を見ると涙が止まらなくなるから。
でも、やっと心に余裕が出来たから、帰ってきたんだ...学生寮から。
母上が亡くなった直後は、父に付いていき、学園に通えるようになったら寮に住み...屋敷には近寄らなかった。
でも、帰ってきたら、ネリスは居ないし、屋敷の使用人は何処かおかしいし、嫌な感じだ……。
※※※
夜、サーシャに動きがあった。私はブラッドに屋敷に残るように言い、サーシャの後を追った。
そこで見たものは……
ガリガリに痩せ細り、髪はボサボサで、服...では無いな、布?を被せたような格好をした、少女?だった。
疑問系だったのは、髪は短く遠目では女の子に見えなかったからだ。
まさか、それが、ネリスだなんて...気付かなかった。
馬車に乗り込んだサーシャは、森に向かったようだ。私は馬に跨り、気付かれないよう後をつけた。
馬車が止まり、御者台に乗っていた男が少女を持ち上げ地面に投げ捨てた。
そのまま、再び御者台に乗り込み、去って行くのを影に命じて捕らえさせた。
投げ捨てられた少女の元に向かう。
酷く汚れ、腕や足、顔にも痣があった。
髪はベタベタで、体の臭いもキツイ。
手は変な方向に曲がってたり、所々血が出ている。
髪色は、灰色っぽくなっているが、私と同じアイスブルーだった。
よく見なくても分かる...ケイナそっくりの顔、私の娘だ……!
「ネリスっ!ネリスっ!」
何度呼んでも返事がない。
優しく抱き起こし、ぎゅっと抱き締め涙が零れ落ちる。ネリスの顔を濡らす。
泣いてる場合じゃない!
自身のマントをネリスに巻き、抱き上げ振動を与えないよう気を付けながら屋敷に戻った。
ネリスを見た使用人が、増悪に満ちていた事から、彼らがネリスをこんな目に合わせたのだろうと、直ぐに分かった。
だから、全員をクビにした。
ネリスを私のもう1つの屋敷に連れて行き、ベッドの上に下ろした。
執事のゼトに、ネリスの世話をするメイドを選出してもらう。
ネリスが目を開けた。
私と息子は駆け寄り、ネリスに話しかけるが、ネリスは何も反応しなかった。
ただ、一点を見つめるだけだ。
「ネリス、服を変えような」
息子と共に離れると、ゼトが数人のメイドを連れて部屋に入ってきた。
1枚の布に穴を開けて、首に通しただけの質素なもの。服とも呼べない粗末な格好。
メイドは優しい手つきで布を脱がし、ぬるめに温めたタオルで、ネリスの身体を拭き始めた。
ネリスの体は、傷や痣だらけで見るのも辛かった。変な方向に曲がってしまった指は、至急王に連絡相談し、王城医師を派遣して下さる事になった。
そうして、毎日毎日ネリスに話しかけ続けた。
※※※
父上が、ネリスを連れて帰って来てから数日が経った。
体中にあった傷や痣は、王城医師により少しずつ回復している。指も...ネリスが寝ている間に、手術で...治してもらった。
ネリスは少しずつ、俺達の声に振り向くようになり、少しずつ話すようになった。
体の臭いは、まだ取れきれていないけれど、ベタつきは無くなり、髪も本来の色を取り戻した。...父上と同じ氷のような色だ。
そんな時...執事のゼトから聞いた言葉に、俺達は言葉を失った。
だって……
ネリスが、自分が死んだら皆嬉しいと言ったと...自分は俺達や使用人に嫌われていると。
母上を、殺した自分を嫌っている、と言っていたと……!!
ああ、違う。
嫌ってなど……
だが、言った所で俺達が帰ってなかったのは事実。ゼトが否定してくれたそうだが、ネリスは信じてなかったと…。
俺は最低な兄だ……
だから、これからは大切に...愛し慈しむ。それが、母上の最後の願いでもあるのだから。
※※※
ある日の夜、家に帰るとネリスはまだ寝ている、とゼトが言っていた。
ネリスの部屋に行き、顔を覗き込めば穏やかな寝顔が見れた。
あの日から、サーシャとサーシャの娘、前の屋敷の使用人全てをクビにし、ネリスが味わった13年の痛みと苦しみを...同じだけ味あわせる事にした。
影に命じて……人知れず。
国王が疑いの目を向けてくるが、何も知らないと答えた。私の罪滅ぼしなのだ、ただの自己満足なのだ。
国王は、結局何も言わなかった。
ただ、『何かあったら、頼れ』と言ってくれた。
暫く息子と、ネリスの寝顔を堪能していたが、緩く瞼が震えた。
静かに瞼が開く、私たちが声を掛けると、片言だが、言葉が返ってきた。
一緒に夕飯を食べて、少し話をした。
私やブラッド、ゼトやメイド長のハンナと毎日会話をしていると、ネリスの言葉が、流暢になってきた。
傷や痣が目立たなくなってきた頃、風呂を使うようメイドに指示をだした。医師も、短時間であれば問題ないと言ってくれたからだ。
初めて風呂に入ったと、ネリスも喜んでいた。温かくて、気持ちいいと。
※※※
ネリスは、ずっと地下で生活をしていたし、解放されてもベッドの上での生活を強いられていたから、筋力が衰えていた。
だから、俺と一緒に部屋の中で少しずつ歩く訓練をした。1人ではまだ無理だが...屋敷の中を自由に歩けるようになると、地下に行きたいと言い出した!!
何故だ?!
また、あの生活に戻ると言うのか!
動揺しながらネリスに聞くと、気になっただけと言った。
だから、ここは前とは違うお屋敷なんだと教えた。
ネリスは、色々聞いてくるようになった。
父上の仕事、俺の立場、自分は何をすれば良いの?と
だから……
「自由に過ごしたらいい」
父上とも話したが、ネリスに貴族の義務を押し付けるのは止めようと。あくまで、自由に...自分の意思で。
無理やり婚約者を作る必要は無いと。
ある日、夕食の席でネリスは自由が分からないと言った。
「自由?分からない。何する?」
「分からない...か、なら一緒に知っていこうな」
「...私の仕事場に遊びに来るか?」
と父上が言った。
いや、ダメだろ?!父上の職場って言ったら、王城じゃないか!
でも、ネリスが行くと言ったから...俺も付き添いで一緒に行く事になった。
ネリスは、仕事の邪魔にならないよう、父上達には話しかけなかったし、俺に話しかける時も、小声で邪魔にならないように気を使っていた。
※※※
ある日の昼下がり、ネリスの放った言葉に、私達は...ネリスの心はまだ、完全に癒えてはないと気付かされた。
「愛してる?なぜ?私がお母さんを殺したのに」
っ!!!!
違う!
ケイナは...ケイナは、ネリスを守りたかったんだ!自分の命よりも……!
「違う!ケイナは...ネリスを守ったんだ」
ケイナは……本当なら出産に耐えられる体じゃなかった...ブラッドを産んだ時だって、死線をさまよったんだ。
私は、止めたんだ...まだ、大きくなる前に。でも、ケイナは、産むことを選んだ...
けれど……出産時、母子ともに危険な状態だった。このままじゃ、2人とも死ぬと...
だから……わたしは、ケイナに言った。子は、諦めよう...と。
『嫌よ!この子は、私の大切な子!死なせない!絶対に!!』
ネリスが生まれ、少し会話をして……亡くなった。
悲しくて辛くて、家に帰れなくなった。ネリスの事は、雇ったサーシャが育ててくれる。
家庭教師を雇う金も、必要なドレスを買うお金も、サーシャに渡していた。
だから、これで良いんだと自分に言い聞かせ、サーシャの事も家の事も調べなかった。
親の務めは、果たせているのだ……と
※※※
「違うよ!母上は...ネリスを助けたんだ」
お医者様が...父上が...、子を諦めようと言った時、母上は絶対に嫌だと断った。
自分の命よりも、娘の命の方が大切よ...!と。
生まれてきたネリスを抱き締め額にキスを落とし言った
『ネリス、私の大切な娘...貴方が生きている事が私の幸せよ』と。
『ヴェルグ、ブラッド...この子をお願いね。私の代わりに沢山愛してあげて、沢山話してあげて.....』
母上は、その数分後に亡くなった。
俺は、一瞬恨んでしまった...ネリスを。
母上と同じ顔の小さな女の子を。
大きくなって、言葉を理解するようになったら俺は……酷い事を言ってしまう。
そう思ったから、離れたんだ。
ネリスの事は、父上が雇った女の人が育ててくれると思ったから…俺たちの代わりに愛情を注いでくれると信じたから。
※※※
「わたし、生きてて、良いの?」
「「っ!!」」
「すまない!!すまないっ!生きて良いんだ!生きてて...良いんだっ……すまない……っ!」
「ごめん!生きてて欲しい!死なないでっくれ!」
涙が溢れて止まらない私たちに、ネリスはずっと頭を撫でてくれた。
「私もして貰って、嬉しかったから」
嬉しくない?と聞かれ、嬉しいよと答えた。
泣き疲れたネリスが、私達に抱き着き寝てしまった。離れなかったし、私達も離れたくなかったので3人で川の字になって寝た。
あれから、数年が経ち...
ネリスは、沢山勉強をしだした……無理しなくていいと言っても、お父様の役に立ちたいのと言って止めなかった。
ネリスが行く場所には、必ず私かブラッド...ゼトが付いて行くようにした。何かあってはいけないからだが...ネリスに過保護と言われてしまったな。
ネリスが勉強に励み、社交界に顔を出すと...途端に婚約の申し込みが殺到した。全部破り捨ててやったがな。
国王にも、過保護と親バカと言われた。
そんな時だ……一番関わりたくない第2王子に話しかけられたのは...
「メリーズ公爵、君の所のネリス...可愛いよね?」
「いくら王子でも、娘はやらんぞ」
国王、王太子、第2王子と話し合い...ネリスに選んでもらう事になった。
ネリスが嫌がったら、諦めろと伝えて。
でも、ネリスは承諾するだろう。
『夜会で会った時に、痣を見て皆が離れていくのにレンフォード様だけは近寄って来たの。打算だとしても嬉しかったわ』
と嬉しそうにわらっていたから。
ケイナよ……
私は娘離れが出来そうにないぞ……
どうしたらいいんだ……?
2人の結婚式の日は、雲一つない晴れ渡った空だった。きっと、天にいる母上が祝福してくれてるんだろう。
俺は...祝福出来そうに無いがな!
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