【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛

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第1話 ネリス視点

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「お前がケイナの命を奪ったのよ。お前が生まれたから、ケイナは死んだの」

そう言って、鞭を振るうのは私のお義母様。

「お父様とお兄様がお前を嫌うのは、大切な人を奪ったからよ。お前が生まれなければ!死ななかったのだから」

そう言って、蹴り飛ばすのは私の義妹。

「お前が!ケイナ様を殺した!私達の大切な主を!旦那様達の大切なお方を!お前が!」

そう言って、増悪に顔を歪ませながら殴り飛ばすのは、この家の使用人。


そう、お母様が死んだのは、私が生まれて数分後だと聞きました。

私の父は、兄は私を嫌っています。
新しく母と妹になった人も、私を嫌っています。
家の使用人も、私を嫌っています。



父と兄は、屋敷に帰らなくなりました。

父は、お城で宰相と言われる仕事をしています。
兄は、学園に通っているそうです。長期のお休みになっても帰って来ません。

母と妹は、屋敷の人間は、私を殴ります。
私は要らない人間だからです。

私は、父や兄、母の顔を知りません。
私は、自分の顔を知りません。
私は、自分の歳を知りません。

私は地下から出る事は無いからです。

私の目は、殆ど何も映しません。
私の口は、殆ど何も話せません。
私の耳は、殆ど何も聞こえません。
私の鼻は...



そんな毎日を過ごしていたら、上が騒がしくなった。誰かが、地下に駆け込んできて、私を更に奥に閉じ込めました。


そして、私を閉じ込めた人が、外の様子を伺っているようでした。

すると、微かに足音が響いて来た...
誰かが地下室に来たみたいだった。

「───、──」
「──、─?──」

何かを話しているのだろうか、私を閉じ込めた人が震えています。

その人たちが立ち去ったのでしょうか、私を閉じ込めた人が私を殴りました。

「お前のせいだ!消えろ!死ね!」

そう言って、殴り続けます。

暫くして、母と妹も来ました。

「お前のせいで、私が責められました!お前さえ死ねば!...夜になったら、コレを森に捨てに行きますよ!」
「はい!!」
「まさか、旦那様が屋敷に戻って来るなんて...しかもブラッド様まで...どういう事なの?!」
「お母様...」
「知られる訳には行かないわ」

母も妹も、私を鞭や棒で殴ります。
痛みはありません。

もう、慣れました...



私は、何故生きているのでしょうか?





何時間殴れたのか分かりませんが、気が付いたら殴り終わってました。
いつの間にか寝ていたようです。

何かの上に乗っていて、それは動いているようです。近くで母の声がしました。

「この辺でいいわ!」

それは、止まりました。

そして、私は持ち上げられ、地面に投げ捨てられました。





でも、何故か抱き起こされました。
顔に何かが落ちて来ます…水のような...?
暖かい何かに包まれて、優しく持ち上げられました。

母でないのは分かります。

何も映さない瞳に、明るい光が入り込みました。優しく触れる手が大きいので、男の人だと思います。

ふわふわした何かの上に、下ろされました。
地下ではないのは分かります。

明るくて暖かくて、ふわふわで柔らかいので。

その人が何かを話します。
でも、私の耳は殆ど機能しません。

するとその人は離れて、違う人達?が側に来た。

私の着ていた布を脱がせて、ふわふわした何かで体を拭いてくれた。

私の鼻は何も感じないけれど、臭かったと思う。何かをした事はなかったから...

なのに、私も抱き締めた人は、何も思わなかったのだろうか……



ふわふわした何かの上で何日か過ぎた頃...


私の目は、少しだけ物を映すようになった。
私の口は、声が出るようになった。
私の耳は、近くの音を拾うようになった。



私を抱き締めた人は、父親だと言った。
私に触れた人は、兄だと言った。
私の体を拭いた人達は、使用人だと言った。



私を嫌っている人達だった。



でも、優しい人達だった。

なぜ?

答えを、白い髪をした黒い服を着た男の人が教えてくれた。

「旦那様は、お嬢様を嫌っていませんよ」

このお嬢様というのは、私のことらしい。

「ミンナ、イッタ、ワタシ、キライ」

上手く話せないけれど、今の私の傍にいる人達には伝わってるらしい。離れずに、よく話を聞いてくれる。

「違いますよ。奥様が亡くなられてから、旦那様は仕事に没頭し寂しさを紛らわしていました。坊っちゃまもです。ですが、そのせいでお嬢様を蔑ろにしていい訳じゃありませんが」

「ワタシ、イラナイ、シヌ、ウレシイ」

この人の言う旦那様が、私のお父さんらしい。この人の言う坊っちゃまが私のお兄さんらしい。

「ダメです。お嬢様まで亡くなられては、皆が悲しみに暮れます」 

私が死んだら、みんな喜ぶと言ったら、悲しむからダメと言われた。なぜ?

「ワタシ、コロシタ、ワタシ、ウマレタ、ハハ、シンダ」

私が殺した。お母さんを...

「違います...ダメです...」

「ナク?ワタシ、ワルイ、ゴメン」

「いいえ、いいえ、お嬢様のせいでは、ありません!本日の夜は、旦那様と坊っちゃんが一緒にお食事をとるそうですよ」

ご飯...

最近のご飯は、温かくて美味しい。

前までは味が分からなかったから、何を食べても同じだったけど。少しずつ、美味しいと美味しくないが、分かるようになった。

「ゴハン、オイシイ」

「それは、ようございました。本日の夕飯も、シェフがお嬢様の為に作りますから楽しみにしていて下さいね」

私は、頷いた。
少しだけ眠くなって、瞼を擦ると男の人が私の肩に手を置いて、横にした。

この、大きくてふわふわの布の束はお布団と言うらしいです。私が寝ているのは、ベッドという物だと初めて知りました。

暖かいお布団を掛けて、男の人が「お休みなさいませ」と言ったのを最後に私は眠った。



目が覚めると、2人の男の人が私を覗き込んでいた。

1人は、氷のような色の髪に...緑色の目をしたお父さん。

1人は、お父さんより、少し濃いめの髪に緑に青をさしたような色の目をしたお兄さん。

私は、お父さんと同じ氷のような色の髪に青色の目をしていた。

「起きたか?」

私の事を嫌っていると思ってたのに、とても優しい目と悲しそうな顔で私を見ていた。

「オキタ、トウサン、ニイサン、カエッタ?」

「ただいま、──」

「ナマエ、ワタシ」

聞き慣れない、言葉を聞いた

ネリス

何度聞いても慣れない、私の名前。

「そうだ、お前の名前だ。ケイナが名付けた」

お母さんが付けてくれた名前。

私の名前。

「ご飯にしよう」

「ゴハン、タベル、オイシイ、アッタカイ」

「ネリス、美味しいか?」

お兄さんが、聞いてくる。
私は最初、何も食べられなかった。
でも、少しだけ固いの食べれるようになった。

「ウン、オイシイ」

「よかったな」

「ウン」



また暫くして、体の臭いが消えた頃...

私の目は、ハッキリと見えるようになった。
私の口は、少しだけ言葉を話せるようになった。
私の耳は、よく聞こえるようになった。
私の体は、臭いが無くなり、いい匂いがするようになった。



「おはようございます。お嬢様」
「おはよう、ございます」
「本日から、少しずつ体を動かしていきましょうね」

ベッドから降りて、歩くようになった。

動けるようになって、私は地下に行こうとしたら、このお家には地下はないと聞きました。

前のお家とは違うそうです。

お父さんは、偉い人なんだと聞きました。
お兄さんは、お父さんの後を継ぐのだと聞きました。

私は、自由にしていいと言いました。

自由ってなんだろう?って思いました。

白い髪をした人が、好きな事をすれば良いと言いました。

この人は執事と呼ばれる人で、この家の人たちを束ねているそうです。
私の傍にいる女の人は、メイドと聞きました。

私の好きな事...分からなかった。

「分からないなら、これから知れば良い」

と、お兄さんが言いました。

「仕事場に遊びに来るか?」

と、お父さんが言いました。

「「愛してるよ、私の大切な娘(妹)」」


愛してる

大切な娘(妹)

愛してる...?

私を?

本当に?

だって、お母さんを殺したのは私なのに...

「違う。ケイナは、ネリスを守ったんだ」
「違うよ。母上は、ネリスを助けたんだ」

守る?

助ける?

「ケイナは、自分の命よりも、生まれてくるネリスを優先して欲しいと言った。

ケイナの体は、本当は出産に耐えられるものじゃなかった...それでも、産むことを決めたのはケイナだ。

私は、それを尊重する。

しかし、いざ直面すれば、悲しみが溢れ、お前を見る事が出来なくなった。だから、母親を...私はケイナ以外を妻に迎えるつもりは無かったから

家に帰るのも辛くて、仕事に集中した。
気が付けば、ケイナが亡くなって13年の月日が経っていた」

と、お父さんは言った。

「母上は、俺に言ったんだ。生まれてきた子を愛して慈しんであげてねって...
自分の代わりに、沢山愛情を注いであげてねって...

でも、無理だった...
ネリスが生まれて、少し言葉を交わして亡くなった...

涙が溢れて止まらなくて、家に帰るのを止めた...悲しみが溢れて来るから。

ネリスの存在を忘れた訳じゃない。でも、会えなかった...ネリスは、母上にそっくりだったから」

とお兄さんが言った。

私はお母さんに、そっくりなんだ。

「……私は、生きても、良いの?」

「「っ!!」」

2人はとても驚いた顔をして、涙を流して、「すまない」「ごめん」と言い続けた。

なぜ、謝るのか分からないけれど、私は落ち着くまで2人の頭を撫でてあげた。

2人が私にそうしてくれたように。

気が付いたら3人で一緒に眠っていた。
私を真ん中にして...



母だと思った人は、雇われていたベビーシッターだそうです。子育ての経験がある未亡人だそうです。住み込みで働くため、子供も連れてきたんだそうです。

お父さんは...お兄さんも、知らなかったそうです。

お母さんが亡くなった事で、使用人の方が私に危害を加えている事を。
お父さんやお兄さんがいない事で、女の人と女の子が私に危害を加えている事を。




あれから更に5年...
私は18歳になりましたわ。

勉強をして歴史やマナーを知り、ダンスや武を習い、私は、少しは公爵家の令嬢に近づけたでしょうか?

私は、メリーズ公爵家長女ネリス・メリー・メリーズと言うのが正式名だそうです。

お父様は、メリーズ公爵ヴェルグ・メリー・メリーズ。
お兄様は、メリーズ公爵家嫡男ブラッド・メリー・メリーズ。


5年前、私は長年受けていた虐待から解放された。お父様達に助け出され、介抱され、沢山愛情を注いでくれています。

過保護な程に……


最近、婚約者が出来ました。

お父様が泣きながら、断れなかったと言っていました。
お兄様も泣きながら、あの腹黒王子がぁ!!と叫んでました。

あの方は、私の過去を知っても、消えない痣があっても、私に愛情を注いでくれます。




お母様……私は今、幸せです。

産んでくれて、ありがとう。

白いドレスに身を包み、天を仰ぎ隣に立つ人に寄り添う。

「ケイナ様に伝えられたか?」
「はい」
「そうか...、愛してるよ。私のネリス」
「私も、愛しております。私のレンフォード様」

「「ネリスゥゥゥゥ!!」」

~完~
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