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1話

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「胸に石が埋め込まれているなんて不気味だ!」
「もう何年もその姿じゃないか!!」
「化け物よ!どこかに行って!消えてよっ!」

そう言って、石を投げるのは友達だった人。
不気味だと私に言い放った方は、婚約者だった人です。既に婚約破棄も言い渡されました。

学園で一緒に勉強した方々も、汚いものを見るような目で私を睨みつけてきます。



私の名はティアナ。
侯爵家の婚外子だそうです。母は……とても美しい人だったらしく、父に見初められ私を産んだと聞きました。

ですが……


令嬢らしい生活は最初だけでした……母が生きていた頃までです。母が生きていた時は、侯爵家の離れに住まわせて貰っていました。父は、ひと月に何度も離れにやってきては、母を独り占めしました。

奥様がよく思わないだろうから、と母は遠慮していたのに、父は「気にするな。私はお前だけを愛してる」とか言って傍を離れないんです。

父は、母の娘であっても私を愛しはしませんでした。私の体に人間には無いものがあったからです。

私を人として接し愛してくれたのは、母だけでした。

母は死ぬ前に、父に頼み込み私に婚約者を見つけてくれました……が、それだけです。
父は、私と目を合わせたことは1度もありません。

父の本妻である奥様は、母を嫌っていました。当然、その娘である私も嫌われていました。

当たり前ですよね?
自分の旦那が、他の女にうつつを抜かし子供を作れば……嫌うのは当然です。

でも奥様は、母が生きている時は何も行動を起こしませんでした。理由は分かりません。
ただ、母は何かに守られているかのように悪意を寄せ付けませんでした。

盛られた毒は、いつの間にか無害な物にすり変わり。
ナイフ持った暗殺者は、母を殺す前に転び自分の心臓を刺しました……

母が生きている間は、私にも何も起きませんでした。奥様のお子が意地悪をしてきても、いつも寸前で何かが起きて、私にまで害がおよぶことはなかったのです。


でも……私が6歳の時に、優しかった母は死にました。



……私は信じていました。
母がついた小さな嘘を、ずぅっと……

……知らずに、ずっと信じていました。
でも、母が死に、父から聞いた言葉は信じられないものでした。

『貴様は俺の子ではない。フィーネリアと、何処かの馬の骨との間に出来た餓鬼だ』

……そして父は、父だと思っていた侯爵様は言いました。

『貴様を追い出すのだけは許して欲しいと、フィーネリアが言うから仕方なく置いてやるのだ!この俺に感謝するんだな!』

と……

けれど……タダで置くつもりは無い働け、と言ったので……12年、働き続けてきました。


その間、

『成長しない化け物』とか『魔力が高すぎる、魔物の類いじゃないか?』とか、他にも『胸に薄気味悪い石を持つ化け物』と言われ続け……



そして今日、私は家だけじゃなく国からも追い出される事となりました。

家から何も持ち出すことは許されず、身一つで外に出された私に待っていたものは……

石を片手に、恐ろしい形相で睨む街の人々でした…

「…………」

私が、ちゃんと成長していたら……石を胸に持っていなければ…こんな目に会うことは無かったでしょうに……

いや…母が、ちゃんと説明してくれていたら……こんな家、自分から出て行ったのに。

ボロボロの服に、母の形見の首飾りをポケットに押し込み私は……投げられる石の雨の中、街を国を出て行った。





___無我夢中で歩き続け……気が付けば、何ヶ月も過ぎていました。

深い森を抜け、険しい山を超え、海を渡った先には……白や青を基調とした家々や、水路の道に奥には水に囲まれた綺麗なお城が建っていました…

「ここ、どこの国なのかな……」

私にはもう、歩き続ける力が残ってはいませんでした。意識がフッと遠くなる感覚と、冷たい地面に倒れ体が軽くなるような感覚に陥りました。

気が付くと体は軽くなり、体力は回復、空腹感も無くなっていました。この様な出来事が、今までにも何回か起きていて……気を失っている間、私は一体何をしていたのでしょうか?

寝て体力が回復したなら分かります。
でも、空腹感が収まってるなんてことは……私は気を失っている間、誰かを襲ってはいないですよね?

ちょっと不安です……

……なんて言ったって、私は……ですから。

胸に宝石があって、人より成長が遅いですけど……至って普通の……普通の人間のつもりです。

なんかじゃない…

(そうですよね?……お母さん)

私は、亡くなった母に心で問いかけました。



街の中に入ると不思議な光景でした……
ジュモーグス国では、1度として見た事がない人達が街の中を歩いていたんです。

犬の顔をした人間?や猫や馬の顔をした人間?、頭から角が生えた人まで歩いているんです。
彼らは獣族や獣人、竜族や竜人と呼ばれる種族だと思います。

その方達が、私をチラチラと見てきます。
多くの獣人は、人間を毛嫌いしていると聞きます……この視線は、そういったたぐいでしょうね。


でも、その中の一人、猫の顔をした女の人が私の元に駆けてきて「これ、お食べ!」と言って何かを押し付け去って行きました。

袋の中身は、美味しそうなリンゴでした。

私が袋の中を覗き込んでいると今度は、ライオン顔の怖そうなお兄さんが「お前……これも食っておけ」と怖い顔をさらに険しくさせて置いて行きました。

中身は、美味しそうな匂いと湯気を出す、ホットチキンサンドでした。それも、お肉が沢山挟まれたとても大きなサンドイッチでした。

(どうして……)


_____

「お前は顔が怖すぎるんだよ!」
「馬鹿言え!お前ほどじゃねぇっ!」

先程ティアナに、お肉が大量に挟まれたサンドイッチを渡したライオン顔のお兄さんが、オオカミ顔のお兄さんと話していた。

「……全く、どう生活すればあんなになるんだ?」

ライオン顔のお兄さんが、少女を横目にチラリと見た。

「だな。流石に人間嫌いでも、あの子に何かをする気にはならんな」
「ああ」

ライオン顔のお兄さんは、オオカミ顔のお兄さんの言葉に頷いていたのをティアナは知らない。

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