短編集

紫宛

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【イケメンが目当てですが~】

シュリ&イグニス(夏祭り)

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今日は、フィフニール王国王都フリューゲルでお祭りが開かれている。

夏祭りは、疫病退散を目的としたり害虫や台風を追い払う事が由来だと、前世の日本では言いましたが……実はこの世界でも一緒です!

当たり前か……日本で作ったゲームが元の世界だもんね。

私は今日は、お城での務めは休みです。
前世とは違い、この世界でのお祭りは大体3日ほど続きます。

その3日間、私達お城務めの人間は交代でお休みを頂けるんです!

しかも2日も!嬉しいですよね?!
前世じゃ、夏祭りだからって休みなんか貰えなかったけど……この世界じゃ、祭りやイベントがある日は普通に休みが貰えるんだよね~

そんで、私は1日目と3日目に貰いました!
お祭りの初日と最終日に貰えるなんて、超ラッキーじゃない?

「待って!シュリ様!」
「え?シンシア様?」

振り向くと、聖女のシンシア様とライラシア様がいました。2人は真剣な顔で「そんな格好で行きますの?!」と言いました。

「そうですけど、何か問題ですかね?」

自分の姿を見下ろした。

お城に来る前に来ていた一張羅のワンピース。長袖タイプで膝下丈。色はクリーム色……住んでた村で購入した結構気に入っている服だ。

「折角のお祭りなのよ?シュリ様」
「そうだぞ、シュリ。折角のお祭り、可愛い格好をするべきだ」

と言われても、持ってる服で1番可愛いのがこの服なのだけど……?

「こっちにいらして……私達がシュリ様を可愛くしてあげるわ」
「任せろ、シュリ」

え?
2人は言うが早く、私の両腕に絡みつき後ろに引っ張った…

「……え?」

引き摺られるように連れて行かれた場所は、シンシア様に宛てがわれた部屋…東の離れスズランの間でした。

「皆さん、準備は出来てますね!」
「「勿論ですわ!シンシア様、ライラシア様!」」

部屋の中には、シンシア様とライラシア様の侍女の方々が勢揃いで、各々の手には櫛や石鹸、香油などが握られている。

それからの時間は、あっという間だった……

「可愛いですわ!シュリ様」
「うむ!会心の出来だな」

2人は、満面の笑顔で満足そうに頷いたり、次はあの服をとか話しアクセサリーはとか話し始めた。

私は……と言うと…………

「えっ…と、これがわたし?」
「そうですわ!シュリ様も大変可愛らしいお姿をしてますのに、全く着飾る気配がないんですもの…」

と、侍女の方々が残念そうに言った。

いやいやいや、着飾っても汚れるだけじゃん?
私は侍女ではなく下女なんだし……いや、最近は聖女としても活動してるけどさ。

「パーティにもお出になりませんし……」

ねーー?って、他の侍女の方と頷きあってますが、改めて言いますけど、私は下女です。
聖女としても活動してますけど、基本は下女!舞踏会やパーティに参加する訳ないじゃないですか!

誘われても行きませんよ!
ドレスなんてありませんから!
プレゼントされても、行きませんからね!ホント!
……って声を大にして言いますからね。

ジーク様やルーファス様が誘ってくるなら、まぁ、行っても良いですけど?って言いたいけど、着てくドレスが本当に無いからなぁ。

残念……って事にしておこう。

まぁ、それよりも私の姿だよね。
改めて自分の姿を、上から下まで穴が空くほど見た。

何の変哲もない亜麻色の髪は、編み込まれハーフアップにされた。更にリボンや花で飾りこまれ、何とも女の子らしい髪型になっていた。

ワンピースドレスは、淡い藤色のミモレ丈。
お腹?腰?の辺りから下にかけてスリット?が入ってて、中のペチコートと合わさって大人可愛らしいさを演出。そして、腰にも大きめのリボンがあり、可愛さに拍車がかかっている。

一瞬、誰?!
って思った私は悪くないっ

「よし!では楽しんでくるのだぞ!」
「素敵な男性を捕まえたら、教えて下さいませね!」
「シュリの休みは把握している次も楽しみにしていろ!」
「良い男を捕まえてくださいませね~!」

……シンシア様、なんか、違うと思いますっ!
それと…ライラシア様、次の休みも着飾らせる気ですか?!



2人の声を後にして、私は街に出ました。

貴族街を抜け、民が行き交う大通りも抜け、少し路地に入った所にある食堂兼酒場「黒羽くろは」に私は今向かう途中……

シンシア様とライラシア様の見立てが良いのか、数人の男性がチラチラと私を見てきた!普段は見ない癖に!

……ってか、私がシュリだって誰も気付いてなくない?通りの屋台のおじさんも、顔見知りのおばさんに声掛けても、私がシュリだって言っても信じてくれなかったんだけど……化粧ひとつでここまで分からないものなの?……いや、私も最初は、鏡に映った自分に対して「誰?!」って思ったけどさっ!

チラチラ見てくる男達を無視して歩き続けると、前方に会いに行こうとしてた人が歩いている。

食堂兼酒場「黒羽」のマスター、イグニスさんだ。
今日のお祭りに誘おうと思ってる人なんだけど……

「う~ん、今日も店を開けるのかな?」

そうなると、誘われてくれないかも?
そしたら、誰か他の人を誘うべきなのかなぁ……?っと考えていると急に目の前が陰る。

「……?」

何かと思って顔を上げると、目の前には強面の男の人が立っていた。

「よう、姉ちゃん」
「……私に何か用ですか?」

下卑た笑みで全身を舐めまわすように見つめた男は、いきなり肩に手を伸ばしてきた。その手をけて、私は毅然とした態度で男を睨む。

しかし男は、それさえもそそると言わんばかりに嫌な笑みを深め、ジリジリと距離を詰めくる。その度に私は1歩ずつ後ろに下がり、気が付くと壁に背が当たって……距離を詰めてきた男の手が私を閉じ込めるように左右の壁に手をついた。

(うげ……)

イケメンの壁ドンはキュン死に案件のシチュだけど、今回は無理!キュンも何も無いよ!

「なぁ姉ちゃん、俺に付き合えよ」
「お断りします」

間近で覗き込んでくる男に顔を背けながら拒否するが、男には通じない。しかも、酒臭い……

(あぁ、もう!どうすれば離れるの?!)

いっそ、自分を閉じこめる男の腕を掴んで投げ飛ばそうとしたが、その前に男の手を捕まえる他の誰かの手…

「ぅ、イテテテテテテッ!」
「嫌がる女に無理やり迫るのは、感心しねぇな」

男よりも頭一つ分背の高く、精悍な顔つきをした男性は、さっきまで私が追いかけていた……

「イグニスさん!」
「よう、シュリ。一丁前に可愛い格好してどこ行くんだ?」

私に詰め寄った男の腕を片手で捻りあげながらイグニスさんは、涼しい顔で私に問いかけた。捻りあげた男が悲鳴をあげてもお構い無しに。

……ってかイグニスさん……普通に私の名前呼びましたよね?他の人は気付かなかったのに……

うぅ、嬉しい……

……まさか、こんな直ぐに気が付いてくれるなんて……

「……黒羽に行く途中だったんです」
「ん?俺の店に用…いや、俺に用か?」

男を締め上げながらも、私から視線を外さずニヤリと笑って俺に用か?と聞いてくる。

あの笑み……絶対に分かってて聞いてるよね?
もう!相変わらず、人をからかうのが好きなんだからっ!

「知ってて聞いてますよね?」
「ん?なんの事だ?」

とぼけた顔をしてるけど、ニヤけた顔が隠せてませんよイグニスさん?

「んな事より、俺に用ならさっさとコイツを巡回の騎士に引き渡してくるか!」

既に気を失っている男を肩に担ぎ上げ、見回り中の騎士に声をかけ男を引き渡したイグニスさんは、急ぎ足で私の元まで駆け寄ってきた。

そして、私の肩を抱き耳に顔を寄せ……

「それで?俺に何の用なんだ?早く言わないと、俺に都合のいい様に解釈するぞ?」

と、囁いた。

「……分かってて言ってますよね?」
「さぁな……フッ」
「ぅひゃあっ!」

イグニスさんの息が、私の耳を掠める。
何時ものイグニスさんの冗談だと分かってるのに、ワザとやっていると分かっているのに…顔が赤くなっていくのを止められない。その上、耳に息を吹きかけられた事で変な声が出てしまった。

「ガキの癖に、一丁前に赤くなるのか?クク」

(むっ)

「そのガキに本気になる大人が居ますけど?」
「!…はは、確かにな!こりゃ1本取られたな!」
「……今日の……」
「ん?」
「……最後の光雪灯花こうせつとうか、一緒に見れないかな?って……」

光雪灯花は、日本で言うところの花火。
この世界では、スキルを使って夜空に花を作るの。
雪と光を組み合わせたり、火や風を使って花を作り出すの。灯花師という職業があって、彼らが日々研鑽を積んで、毎年色々な花を夜空に咲かすのよ。

でも、なんで光雪灯花というのかは知らない。昔は雪に光を反射して……って、ダイヤモンドダストみたいなのかな?それが花みたいに見えたから、光雪灯花?って呼ぶようになったのかな?分かんないや。

とにかく、凄くロマンチックで恋人と見るのが若い恋人達の楽しみでもあって……つまり、その、私もイグニスさんと行きたかったのよ。

まぁ、忙しいかな?とも思ったけど……

「…………」
「………」

この沈黙が耐えられないんだけど!

「……やっぱり、なんでもない、です」

そう言って、イグニスさんの手から離れようとしたのだけど……
何故かイグニスさんは、肩を抱いていた手を私の腰に回して強く引き寄せた。私は背中からイグニスさんに倒れ込む。

「ちょっ……!」

危ないじゃないですか!って言おうとしたけど……

「行くんじゃねぇよ」

頭の上からかかる切ない声が、私の鼓膜を貫いた。

「い、グニスさん……」
「行くな、シュリ」

その切ない声に、私は暫く動けなかった。

……でも、落ち着いてくると、行き交う人の目が気になってくる。恥ずかしくなってきて、身動ぎするとイグニスさんの手の力が一瞬強められ離れた。

「……荷物置いてくるから、行くか?」
「……」

さっきまで、抱きしめられていたせいだ。
名残惜しくて、離れて欲しくないって思うのは……
恥ずかしいのに、まだ抱きしめていて欲しいと思うのは……

荷物を置きに店に行くイグニスさんを追いかけて、その手を掴んでしまうのは……

「……!ふっ、仕方ないな」
「……嫌なら、離せば良いじゃないですか」

素直じゃない言葉が口をついて出てしまうけど、イグニスさんは分かってると言わんばかりに、握った手を恋人繋ぎに握り直してくれた。

一緒に、手を繋いだまま、店に荷物を置いて……
私達は人気のない丘に行って、2人で光雪灯花を見た。イグニスさんの手が私の肩を抱いて、2人寄り添いあって……

光雪灯花が終わってからも……
暫くはずっと、一緒に寄り添って過ごした。
その日はお城に帰らず、黒羽の3階……イグニスさんの部屋に泊まった。

「3日目も休みなんだろ?」
「なんで知って……まさかっ」

イグニスさんは、ニヤッと笑って隣で寝てる私の頭を優しく撫でた。

……イグニスさんの手回しかっ!最初から私と一緒に過ごしてくれる気だったのか!なのにあんな意地悪を言ったのか!

「イグニスさんと過ごすなんて言ってませんけど?」

なんか腹が立つから、イグニスさんの思い通りに返事してやんないんだから!でも、私の考えなんてお見通しと言わんばかりに笑って……

「シュリなら、過ごしてくれるよ。俺の愛した女だからな」

なんて言うから、絆されてあげることにした。

「……仕方ないなぁ」
「まだ、時間はあるから寝てろ……時間になったら起こしてやる」

優しい手つきに瞼がおりてくる。

「おやすみ、俺の愛しいシュリ」

額に頬に唇に、イグニスさんがキスをして私は眠りに落ちた。

~完~
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