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【イケメンが目当てですが~】
シュリ&シルヴァン(夏)
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初めに、『イケメンが目当てですが……』を読んでない方々の為に…。
この物語は、一妻多夫が認められているという設定です。主人公は転生者。乙女ゲーの設定あり。主人公は、複数の男性と関係あり。苦手な方は御遠慮下さい(*ᴗˬᴗ)⁾
─────
不満です……
はっきり言って不満です。
「なんだ?シュリ。不満か?」
「……いいえ」
「顔に出てるが?不満か?」
後ろから「ククク」と笑う声が響く。
いま私は、シルヴァン様と一緒にある町に向かっている……シルヴァン様の馬で、2人で……。
シルヴァン様は、海に出たという魔物の詳細を調べるために。
私は、その町にしかないという珊瑚の髪飾りを買いに……アーリア様のわがままで。
昨日の夜、侍女頭のゼルダさんに呼び出され話を聞けば……聖女アーリア様が純白の珊瑚の髪飾りが欲しいと駄々をこねたそうです。
桃色珊瑚や白珊瑚はとても希少で、中でも純白の珊瑚はかなり希少で手に入りにくいそうですが……これから向かう町には、海に愛された少女がいたそうで、珊瑚や真珠が他の町より多く入手出来るそうです。
半日かけて町に行き、2日滞在、翌半日かけて帰るという日程です。
『海が綺麗だから、楽しんでおいで』
髪飾りの件は既に店に連絡してあるそうで、受け取るだけでいいと、折角の休み楽しんでおいでとゼルダさんは言ってくれました。
魔物の件は、その時にゼルダさんから聞きました。ジークベルト様が向かうから、一緒に連れて行ってあげるよう頼んだと。
アーリアの我儘め~!って思ってたら、思わぬ言葉に我を忘れて「よっしゃー」と叫びそうになりましたよ。
なのに……
当日、待ち合わせの場所に現れたのは……
ジト目でシルヴァン様を見つめ、溜息をつく。
「俺の顔を見てため息をつくな。仕方ないだろ。団長は、直前でアーリアに捕まったんだから……」
そうなんです……アーリアの我儘で!直前で!ジーク様がぁ~
「はぁ」
「おい」
「仕方ないじゃないですか……ジーク様と、デート出来ると思ったのに…」
「俺が、デートしてやるって」
「え~」
シルヴァン様が、「俺じゃ不満かよ」と言いながら私の頭を顎でグリグリする。
シルヴァン様は本当は、大の女性嫌いです。何故かヒロインでもない私に普通に接するし、触れてくるし、好意も抱いてくれてるし……ホント何で?って感じだったけど…まぁ色々あって、私もシルヴァン様の事、結構好きになっちゃったんだよねぇ。
ジーク様やルーファス様の方が断然好きだけど!
「まぁ、1日目は無理だと思うが…2日目は海でも行くか!」
「仕方ないなぁ、付き合ってあげます」
「そうかよ」
シルヴァン様は仕方なさそうに笑うと、私から顎を離し前を向く。
昼過ぎに王都を出て、日が沈む頃にフィフニール王国南東の海辺の街コラレに辿り着いた。
「じゃ、明後日な宿まで迎えに来てやる」
「分かりました」
「何も無いとは思うが、明日は海に来るなよ」
「分かってますよ」
「……なら良いが…」
私が泊まる宿に着き手続きを済ませると、シルヴァン様は何度も念を押して「海に行くな」と言った。そのシルヴァン様は、町の警備の詰所に泊まるんだって。
翌日、髪飾りを受け取り町を散策していた私は、微かに香る美味しそうな匂いに誘われて……海沿いに建つ海の家ぽい建物に入った。
中では、お肉や魚の焼けるいい匂いが充満していて、お客さんも沢山だ。
「美味しそうっ!」
カウンターに近付いて、注文しようとした所で気が付いた。
(あれ?)
こっちに背中を向けて調理している人……イグニスさんに似ている気がする。でも王都の酒場のマスターが、こんな所にいるとも思えない…似てるだけで違う人かも?
私が、あーでもないこーでもないと考えてる内に隣に人が来て「店主!ソーンバードの串焼き5本くれ!」と注文し、振り返った彼は紛れもなくイグニスだった。
「おうよ!ちょっと待ってろっ」
お客の声に答えて彼はまた鉄板に向き直り、ソーンバードの串焼きを5本用意して焼き始めた。
ソーンバードと言うのは、この世界に存在する魔獣ですね。体中に刺がある中型の鳥型魔獣です。……飛べないけど。
比較的捕まえやすく、個体数も多いので庶民には慣れ親しんだ味です。日本で言えば鶏みたいなもので、ソーンバードの串焼きは言わば焼き鳥ですね!
「ほら、5ルートだ」
そして、値段も安い。一串1ルートだもんね……1ルートは日本円で10円なんだよ。10円で買える焼き鳥……しかも美味い。
「ん?…なんだよ、シュリじゃねぇか!来てたんなら声掛けろよ」
豪快に笑って、カウンターの向こう側から手を伸ばして頭を撫でてきた。
「なんで、イグニスさんがこんな所にいるんですか?!」
「ん?知り合いが倒れてな、これは手伝いだ」
こうして話してる間にも注文は入って来て「ちょっと待ってろ」と叫ぶイグニスさん。とても忙しそうだ……
「売り子さんていうか、店員さんは?」
「いねぇよ……って、お、いるじゃねぇか」
「……じゃ、私もう行くね」
嫌な予感がしたから離れようとしたら、後ろから伸ばされた手に腕を掴まれた。
(やな予感的中!!)
「よぅ、シュリ。暇だよな?」
「ひ、暇じゃ……暇です」
振り向いて見た彼の顔は、悪そうな笑顔だった。
こ、断れないっ!
イグニスは、シュバルツ王国の騎士でノクトの護衛を務める強者……私のスキルで投げ飛ばすことも出来ない!ってか、そもそも頼まれたら断れないのよ私ぃっ!
仕方ないので、海の家(勝手に命名)を手伝う事になりました。
「いらっしゃいませ!こちらのお席にどうぞ」
「4名頼む」
「はぁい!」
次々と来るお客さんの注文や、出来た料理を運んだりと対応している内に太陽が沈み始めていた。落ち着いてくる店内の客層は、若い子から少し年齢が上がり大人なお客さんが増えてくる。
そうすると自然とお酒の注文が増え、……出てくるのは、こういう客だ。
私のおしりに手を伸ばす……酔っ払い客。
もちろん、ちゃんと躱しますよ!前の人生で経験積みですっ!
「嬢ちゃん、俺と一緒に飲もうよ~」
「ダメです」
「じゃあさ、俺ならァ?」
「無理ですね」
曖昧な言葉を使わず、ハッキリと断るのも大事です。特に酔っ払い客は、ハッキリと言わないと分からないからね!まぁ、行き過ぎた酔っ払いもいたけど……
「イグニスさん、注文です」
「おう。最後の客帰ったら終わるか、飯くらい食わせてやるぞ」
「やった!ありがとうございますっ」
外が暗くなり始め、客も今いるお客さんだけとなった。出来上がった料理を持ってテーブルに行き、並べ終わった時……
「なぁ、嬢ちゃん。可愛いなぁ、俺と一緒に飲もうぜぇ」
「お断り…っ」
顔を真っ赤に染めた水着姿の男性が、私の手を掴み引いた。後ろに引かれ膝の上に乗っかってしまうと、男性は私の体を抱き締めるように腕を回した。
「ちょっ!」
「あー、嬢ちゃん。柔らけーなぁ」
イグニスさんを呼ぼうと顔を上げたけど、鉄板の傍から離れてるのか見える所に居なかった…
(殴る?!ってダメだ……一応お客さんっ)
男性の抱き締める手が腰から上に移動し、胸に触れる…
「っ……ゃめ」
「すっげいい匂い…」
助けを求めようと周りを見渡すけど、私を抱き締める男のガタイが良いからか誰も目を合わせようとしない。
胸に触れる手とは反対の手が、私の太腿から摩るように撫でながら上がってくる。
(もう無理、イグニスさんごめん!)
「っ!」
投げ飛ばす覚悟で、男の腕を掴んだ私の手に……触れる誰かの手……顔を上げると、そこに居たのは昨日別れたシルヴァン様だった。
「シ、シルヴァン様?」
「…………」
なんで?ここに居るの?!
って、投げ飛ばそうとした腕掴まれちゃったしっどうする?!
シルヴァン様は私の腕から手を離し、私を捕まえている男の手を引き剥がした。そして、私を背中に庇いガタイのいい男性を睨みつけた。
「あぁ?何しやがる、てめぇ」
「それは、こっちのセリフだな。嫌がる女性に無理やり触れるのは…クズのする事だ」
「あぁ?!何だと、この野郎…表に出ろやっ!」
「良いだろう」
「ちょっ、ちょっと!シルヴァン様?!」
なに普通に相手の挑発に乗ってんですか!
「シュリ、こういうのは痛い目に合わせた方が効果的です」
そう言ったシルヴァン様の顔は、笑ってるのに全くもって笑ってませんでした、はい。
当然勝敗は、シルヴァン様が勝ちました……副騎士団長相手に、ガタイがいいとはいえ一般人が勝てるわけないからね。
そして当然、騒ぎを聞き付けてイグニスさんが駆けてくるし。事情を話したのはシルヴァン様で、彼の話を聞いたイグニスさんも怒り相手を殴って「二度と来るな」と言ってのけた。
良いのか?!そんな事言ってっ?客商売じゃないの?!という私の心配を他所に、「あんな奴、客じゃねぇ!それより大丈夫か?!」と逆に心配されまして…片付けはいいから、もう帰るように言われてしまいました。
シルヴァン様が当然のように、宿まで送り届けてくれお別れと思いきや…受付を済ませ自分も泊まるとか言った。
「詰所に帰らなくて良いんですか?」
「今のお前を残してく方が心配なんだよ」
「私なら平気ですよ!」
握り拳を作り、大丈夫だとアピールするも……
シルヴァン様には見抜かれているみたいで、私の手に自分の手を重ね優しく包んでくれる。
「無理するな、そばに居てやるから」
「わたし、シルヴァン様の事、そんなに好きじゃないですよ」
「おまっ、それを今言うのかよ?!」
「へへ、すみません」
「たく、仕方ねぇな」
私を抱き寄せ、背中をポンポンと優しく叩く……規則正しいリズムに安心したのか、私の瞳から涙が零れ落ちた。シルヴァン様の胸に顔を預け、背中に手を回し泣いた。
「……」
シルヴァン様は嫌がる様子もなく受け入れて、ずっと背中を撫でてくれた。……やっぱりちょっと、怖かったみたいで……涙は止まらなかった…
涙が止まり落ち着いた頃、「もう大丈夫だから」と私はシルヴァン様の腕の中から離れ
「抱きしめてくれるのが、ジーク様だったらなぁ」
「おまえ……言うに事欠いて」
(ありがとう)
小さく、感謝の気持ちを伝えた。
面と向かって言うのは、どうしても恥ずかしかったから……
「たく、明日は俺の傍離れんなよ」
「……えー」
「変なのにまた絡まれるぞ」
「それは、やだ」
その日の夜、私が寝るまでシルヴァン様はそばに居てくれ、次の日もずっと離れることなくそばにいてくれた。
~完~
この物語は、一妻多夫が認められているという設定です。主人公は転生者。乙女ゲーの設定あり。主人公は、複数の男性と関係あり。苦手な方は御遠慮下さい(*ᴗˬᴗ)⁾
─────
不満です……
はっきり言って不満です。
「なんだ?シュリ。不満か?」
「……いいえ」
「顔に出てるが?不満か?」
後ろから「ククク」と笑う声が響く。
いま私は、シルヴァン様と一緒にある町に向かっている……シルヴァン様の馬で、2人で……。
シルヴァン様は、海に出たという魔物の詳細を調べるために。
私は、その町にしかないという珊瑚の髪飾りを買いに……アーリア様のわがままで。
昨日の夜、侍女頭のゼルダさんに呼び出され話を聞けば……聖女アーリア様が純白の珊瑚の髪飾りが欲しいと駄々をこねたそうです。
桃色珊瑚や白珊瑚はとても希少で、中でも純白の珊瑚はかなり希少で手に入りにくいそうですが……これから向かう町には、海に愛された少女がいたそうで、珊瑚や真珠が他の町より多く入手出来るそうです。
半日かけて町に行き、2日滞在、翌半日かけて帰るという日程です。
『海が綺麗だから、楽しんでおいで』
髪飾りの件は既に店に連絡してあるそうで、受け取るだけでいいと、折角の休み楽しんでおいでとゼルダさんは言ってくれました。
魔物の件は、その時にゼルダさんから聞きました。ジークベルト様が向かうから、一緒に連れて行ってあげるよう頼んだと。
アーリアの我儘め~!って思ってたら、思わぬ言葉に我を忘れて「よっしゃー」と叫びそうになりましたよ。
なのに……
当日、待ち合わせの場所に現れたのは……
ジト目でシルヴァン様を見つめ、溜息をつく。
「俺の顔を見てため息をつくな。仕方ないだろ。団長は、直前でアーリアに捕まったんだから……」
そうなんです……アーリアの我儘で!直前で!ジーク様がぁ~
「はぁ」
「おい」
「仕方ないじゃないですか……ジーク様と、デート出来ると思ったのに…」
「俺が、デートしてやるって」
「え~」
シルヴァン様が、「俺じゃ不満かよ」と言いながら私の頭を顎でグリグリする。
シルヴァン様は本当は、大の女性嫌いです。何故かヒロインでもない私に普通に接するし、触れてくるし、好意も抱いてくれてるし……ホント何で?って感じだったけど…まぁ色々あって、私もシルヴァン様の事、結構好きになっちゃったんだよねぇ。
ジーク様やルーファス様の方が断然好きだけど!
「まぁ、1日目は無理だと思うが…2日目は海でも行くか!」
「仕方ないなぁ、付き合ってあげます」
「そうかよ」
シルヴァン様は仕方なさそうに笑うと、私から顎を離し前を向く。
昼過ぎに王都を出て、日が沈む頃にフィフニール王国南東の海辺の街コラレに辿り着いた。
「じゃ、明後日な宿まで迎えに来てやる」
「分かりました」
「何も無いとは思うが、明日は海に来るなよ」
「分かってますよ」
「……なら良いが…」
私が泊まる宿に着き手続きを済ませると、シルヴァン様は何度も念を押して「海に行くな」と言った。そのシルヴァン様は、町の警備の詰所に泊まるんだって。
翌日、髪飾りを受け取り町を散策していた私は、微かに香る美味しそうな匂いに誘われて……海沿いに建つ海の家ぽい建物に入った。
中では、お肉や魚の焼けるいい匂いが充満していて、お客さんも沢山だ。
「美味しそうっ!」
カウンターに近付いて、注文しようとした所で気が付いた。
(あれ?)
こっちに背中を向けて調理している人……イグニスさんに似ている気がする。でも王都の酒場のマスターが、こんな所にいるとも思えない…似てるだけで違う人かも?
私が、あーでもないこーでもないと考えてる内に隣に人が来て「店主!ソーンバードの串焼き5本くれ!」と注文し、振り返った彼は紛れもなくイグニスだった。
「おうよ!ちょっと待ってろっ」
お客の声に答えて彼はまた鉄板に向き直り、ソーンバードの串焼きを5本用意して焼き始めた。
ソーンバードと言うのは、この世界に存在する魔獣ですね。体中に刺がある中型の鳥型魔獣です。……飛べないけど。
比較的捕まえやすく、個体数も多いので庶民には慣れ親しんだ味です。日本で言えば鶏みたいなもので、ソーンバードの串焼きは言わば焼き鳥ですね!
「ほら、5ルートだ」
そして、値段も安い。一串1ルートだもんね……1ルートは日本円で10円なんだよ。10円で買える焼き鳥……しかも美味い。
「ん?…なんだよ、シュリじゃねぇか!来てたんなら声掛けろよ」
豪快に笑って、カウンターの向こう側から手を伸ばして頭を撫でてきた。
「なんで、イグニスさんがこんな所にいるんですか?!」
「ん?知り合いが倒れてな、これは手伝いだ」
こうして話してる間にも注文は入って来て「ちょっと待ってろ」と叫ぶイグニスさん。とても忙しそうだ……
「売り子さんていうか、店員さんは?」
「いねぇよ……って、お、いるじゃねぇか」
「……じゃ、私もう行くね」
嫌な予感がしたから離れようとしたら、後ろから伸ばされた手に腕を掴まれた。
(やな予感的中!!)
「よぅ、シュリ。暇だよな?」
「ひ、暇じゃ……暇です」
振り向いて見た彼の顔は、悪そうな笑顔だった。
こ、断れないっ!
イグニスは、シュバルツ王国の騎士でノクトの護衛を務める強者……私のスキルで投げ飛ばすことも出来ない!ってか、そもそも頼まれたら断れないのよ私ぃっ!
仕方ないので、海の家(勝手に命名)を手伝う事になりました。
「いらっしゃいませ!こちらのお席にどうぞ」
「4名頼む」
「はぁい!」
次々と来るお客さんの注文や、出来た料理を運んだりと対応している内に太陽が沈み始めていた。落ち着いてくる店内の客層は、若い子から少し年齢が上がり大人なお客さんが増えてくる。
そうすると自然とお酒の注文が増え、……出てくるのは、こういう客だ。
私のおしりに手を伸ばす……酔っ払い客。
もちろん、ちゃんと躱しますよ!前の人生で経験積みですっ!
「嬢ちゃん、俺と一緒に飲もうよ~」
「ダメです」
「じゃあさ、俺ならァ?」
「無理ですね」
曖昧な言葉を使わず、ハッキリと断るのも大事です。特に酔っ払い客は、ハッキリと言わないと分からないからね!まぁ、行き過ぎた酔っ払いもいたけど……
「イグニスさん、注文です」
「おう。最後の客帰ったら終わるか、飯くらい食わせてやるぞ」
「やった!ありがとうございますっ」
外が暗くなり始め、客も今いるお客さんだけとなった。出来上がった料理を持ってテーブルに行き、並べ終わった時……
「なぁ、嬢ちゃん。可愛いなぁ、俺と一緒に飲もうぜぇ」
「お断り…っ」
顔を真っ赤に染めた水着姿の男性が、私の手を掴み引いた。後ろに引かれ膝の上に乗っかってしまうと、男性は私の体を抱き締めるように腕を回した。
「ちょっ!」
「あー、嬢ちゃん。柔らけーなぁ」
イグニスさんを呼ぼうと顔を上げたけど、鉄板の傍から離れてるのか見える所に居なかった…
(殴る?!ってダメだ……一応お客さんっ)
男性の抱き締める手が腰から上に移動し、胸に触れる…
「っ……ゃめ」
「すっげいい匂い…」
助けを求めようと周りを見渡すけど、私を抱き締める男のガタイが良いからか誰も目を合わせようとしない。
胸に触れる手とは反対の手が、私の太腿から摩るように撫でながら上がってくる。
(もう無理、イグニスさんごめん!)
「っ!」
投げ飛ばす覚悟で、男の腕を掴んだ私の手に……触れる誰かの手……顔を上げると、そこに居たのは昨日別れたシルヴァン様だった。
「シ、シルヴァン様?」
「…………」
なんで?ここに居るの?!
って、投げ飛ばそうとした腕掴まれちゃったしっどうする?!
シルヴァン様は私の腕から手を離し、私を捕まえている男の手を引き剥がした。そして、私を背中に庇いガタイのいい男性を睨みつけた。
「あぁ?何しやがる、てめぇ」
「それは、こっちのセリフだな。嫌がる女性に無理やり触れるのは…クズのする事だ」
「あぁ?!何だと、この野郎…表に出ろやっ!」
「良いだろう」
「ちょっ、ちょっと!シルヴァン様?!」
なに普通に相手の挑発に乗ってんですか!
「シュリ、こういうのは痛い目に合わせた方が効果的です」
そう言ったシルヴァン様の顔は、笑ってるのに全くもって笑ってませんでした、はい。
当然勝敗は、シルヴァン様が勝ちました……副騎士団長相手に、ガタイがいいとはいえ一般人が勝てるわけないからね。
そして当然、騒ぎを聞き付けてイグニスさんが駆けてくるし。事情を話したのはシルヴァン様で、彼の話を聞いたイグニスさんも怒り相手を殴って「二度と来るな」と言ってのけた。
良いのか?!そんな事言ってっ?客商売じゃないの?!という私の心配を他所に、「あんな奴、客じゃねぇ!それより大丈夫か?!」と逆に心配されまして…片付けはいいから、もう帰るように言われてしまいました。
シルヴァン様が当然のように、宿まで送り届けてくれお別れと思いきや…受付を済ませ自分も泊まるとか言った。
「詰所に帰らなくて良いんですか?」
「今のお前を残してく方が心配なんだよ」
「私なら平気ですよ!」
握り拳を作り、大丈夫だとアピールするも……
シルヴァン様には見抜かれているみたいで、私の手に自分の手を重ね優しく包んでくれる。
「無理するな、そばに居てやるから」
「わたし、シルヴァン様の事、そんなに好きじゃないですよ」
「おまっ、それを今言うのかよ?!」
「へへ、すみません」
「たく、仕方ねぇな」
私を抱き寄せ、背中をポンポンと優しく叩く……規則正しいリズムに安心したのか、私の瞳から涙が零れ落ちた。シルヴァン様の胸に顔を預け、背中に手を回し泣いた。
「……」
シルヴァン様は嫌がる様子もなく受け入れて、ずっと背中を撫でてくれた。……やっぱりちょっと、怖かったみたいで……涙は止まらなかった…
涙が止まり落ち着いた頃、「もう大丈夫だから」と私はシルヴァン様の腕の中から離れ
「抱きしめてくれるのが、ジーク様だったらなぁ」
「おまえ……言うに事欠いて」
(ありがとう)
小さく、感謝の気持ちを伝えた。
面と向かって言うのは、どうしても恥ずかしかったから……
「たく、明日は俺の傍離れんなよ」
「……えー」
「変なのにまた絡まれるぞ」
「それは、やだ」
その日の夜、私が寝るまでシルヴァン様はそばに居てくれ、次の日もずっと離れることなくそばにいてくれた。
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