短編集

紫宛

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【捨てられた少女は、神々に愛される】

ルリ&ノエル(花火大会)

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ルリは、蛇神ノエル蜘蛛神クディル緑蛇リョクガ赤蛇セキガ青蛇ソウガと一緒に、外界に出て来ていた。
 
地上の遠い島国を守護する炎の朱雀シュカが、また何かをルリに話し、ルリが興味を持った為にやって来たのだ。

なんでも、朱雀シュカが護る島国では、夏はお祭りがあるらしく、夜には空に大輪の花が咲くとルリに語っていた。

(全く、アイツは暇があると直ぐにルリに会いに来たがる……っ)

蛇神ノエルは、悪態つきながらも嬉しそうに頬を綻ばせるルリに、何も言えなかったのだった。

「ノエル様、楽しみですね!シュカ様に聞いたのですが……なんでも、お祭りには屋台が出るそうです!とても美味しいと言ってました!」
「お?そりゃ楽しみだな、ルリ」
「はい!」
「…………」

楽しみなのは蜘蛛神クディルお前じゃないのか?とノエルは思った。もちろん、ルリも楽しそうではあるが…


「ルリ様、絶対に、絶対に私達の手を離さないように」

真剣な顔をして、緑蛇リョクガはルリに言い聞かせていた。前に手を離した事で、迷子になった事があるからだろう。

今回は俺も居るし、神使も全員連れて来た。
まぁ、全員人型にはなっているが……

それに……

「今回は、俺の子分をルリに付けた。問題ねぇよ。何かあったら、子分が守るし連絡も直ぐに来る」
「しかし……前回の時よりも人が多いのですから、念には念を入れるべきです!」

緑蛇リョクガの言い分も分かる。前回の時は、凄く取り乱し反省していたようだったからな。

「リョクガ、俺も居る。クディルも、お前もセキガもソウガも居る。ルリとて、余程の事がない限り手を離すまい」

その証拠にルリは、俺の手を強く握り締めていた。

「……」
「リョクガさん……」
「……分かりました。ルリ様、もし手を離し迷子になった時は、必ず念話を飛ばして下さいね。直ぐに駆け付けますから」
「うん!」

緑蛇リョクガの言葉に頷いたルリは、俺の手を離し緑蛇リョクガの手を取り駆けだした。

「!!、待て、ルリっ」

ルリの後を追うように俺達も、花火大会が行われるという河川敷に向かった。



会場と思われる場所に向かう道は、既に多くの人間がひしめき合っていた。

「すげぇ人だな、おい」
「ルリ嬢を歩かせるのは酷じゃないか?」
「確かに。ルリ様に何かあれば、リョクガの過保護に拍車がかかりそうだ」
「だな、たまにあるじよりも過保護なんじゃないか、と思う時があるしな」
「そんな事は……」

いや、あるだろう。

と、みんなが思った。
当然、俺も思った。

最初の頃は、人間に世話を焼くなど……と愚痴を零していたとは思えないほどの過保護ぶりだとな。

「リョクガさん?」
「いえ、行きましょうか」

不安げな顔を緑蛇リョクガに向けたルリだったが、その視線に気が付いた緑蛇リョクガが直ぐに表情を柔らかいものに変え、手を繋ぎ直した。



たこ焼き、焼きそば、イカ焼き……
綿あめ、かき氷、チョコバナナ……

聞いた事もない食べ物だったが、屋台の前に行くととてもいい匂いで食欲をそそった。青蛇ソウガ赤蛇セキガが買っている時ルリは、近くの屋台を目を輝かせ見つめては遊んでいた。

仮面を買ったり、金魚を掬ったり……

射的は……慌てて全員で止めたな。
人間が、危なくないと説明しても、だ。
例えルリが半分神でも、見た目は幼く中身もまだ幼い、何も無いとは言いきれんのだからな。




気が付けば俺達の手には、大量の食べ物で溢れていた。

「……いつの間にこんなに買ったんだ?」
「……さぁ?ルリと遊んでる間に、お前の神使共が買ってきたんじゃねぇか?」
「ノエル様、クー様!かきごおり、冷たくて甘くて美味しいよ!はぃ、あーん」
「「…………」」


蜘蛛神クディルと顔を見合わせ、しゃがみ口を開けると、ルリが俺達の口にかき氷を突っ込んできた。

「甘ぇな」
「あぁ」

ルリは、俺達だけじゃなく緑蛇リョクガ達の口の中にもかき氷を突っ込んでいた。

そして、花火が始まる時刻が近付いてきた。

……が、ここはうるさすぎる。

「静かなところに行くか……」
「ノエル様?」
「背中に乗れ、ルリ」

俺は本来の姿である大蛇になり、背中にルリを乗せるつもりだった。

……

ルリを乗せるつもりだった……のだ。

「お前達は飛べるだろう……」
「いや……飛ぶだけなら、ルリだって飛べるだろ?まぁ、細かい事は気にすんなっ!本来の姿に戻ってるからよ」
「ルリ様1人では、落ちる可能性もありますから……」
「あー言ってるけど、俺達だって本来の姿に戻るんだ。庇えねぇと思うぜ?」
「ですね。まぁ、あるじ様が落とすとは思えませんが…」
「みんな一緒、楽しいね!」

はぁ、まさか全員乗ってくるとはな……仕方あるまい。

俺は、蜘蛛と蛇3匹とルリを背中に乗せて空を飛んだ。当然、人間に姿を見られる訳にはいかないからな、姿を隠す術を全員に掛けたさ。

地上からだいぶ離れ、空中停止した所でドォンという大きな音が響いた。
音に導かれるように視線を向ければ、目の前に色とりどりの光り輝く花が現れた。

「……!!!!」

一瞬目を奪われ、釘付けになる。
重く響く音と共に咲き乱れる花は、今まで見た事など無かった……俺たちは言葉も無く、只只夜空に咲く花に見惚れていた。



時に花ではなく、星や顔と言った物も打ち上げられた。暫く眺めていたら……

「あ!そうだっ!」

楽しそうな声を上げて、ルリが立ち上がった。

「ルリ、危ないから立つな」
「ルリ様?」
「だぃじょ~ぶ」

ルリは片手を上げて「えへへ」と笑い、クルクルとその手を動かしていた。ルリの右手に光が集まると、彼女は前方に集まった光の玉を放り投げた。

ルリが投げた光の玉は、先程まで上がっていた花火の位置で弾け、形を作った。
それは、蛇や蜘蛛と言った形で、楽しそうに笑ったものだった。

「やったぁ!成功」

そう言って笑うルリに、俺も笑顔を返そうとしたが……その前に

しっぽに光を集め、ルリがしたように前方に投げた。蛇や蜘蛛の近くにルリの顔を作り、俺は満足し笑顔を返した。

先程ルリが上げた花火には、俺達は居てもルリが居なかったのだ。

「うむ、これでよい」

中々消えぬ上に、突然現れた花火に地上の人間がザワつく。だが、その周りで打ち上がる花火と相まって、更に輝きは増し美しくなる光景に人々は感嘆したのだった。

俺達もまた先程買った食べ物を食しながら……その美しい光景を目に焼きつけるようにずっと眺めていた。

ずっと……


~完~
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