短編集

紫宛

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【捨てられた少女は、神々に愛される】

ルリ&ノエル(バレンタイン)

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「ノエルさまぁ!!聞いて下さい!!」
「ルリか?どうした」

蛇神ノエルは、人型に姿を変えた。
まだ少し苦手ではあるが、数時間だけならば完全な人型を得られるまでになっていた。

駆け寄ってきたルリを抱き上げ、胡座をかいた膝の上にルリを乗せた。

「今日は、バレンタインなんだって聞きました!」
「バレンタイン?」
「はい!!」

ニコニコと笑うルリに、俺は地上の出来事に疎いから素直に「分からん」と言った。

「あのね、感謝を伝える日だって朱雀シュカ様が教えてくれました!それで、チョコを渡すんだって!」
「そうか」
「だから、外界に行く許可を下さい!」



「ダメだ」
「どうしても……ダメですか?」

ルリは、瞳をうるうると潤ませ、蛇神ノエルを見つめると、蛇神ノエル
は「うっ」と言葉を詰まらせ……逡巡し…

「どうしてもというなら、蜘蛛神クディル緑蛇リョクガを連れて行け。それが条件だ」
「本当?!」

ルリは、先程と打って変わって瞳を輝かせ蛇神ノエルの頬に唇を寄せた。

「ありがとう!!ノエル様!大好き!」
「っ!?…ルリ?!」

じゃ行ってきます!と言ってルリは蛇神ノエルの膝からぴょんと飛び降り走り去って行った。
蛇神ノエルの伸ばした手が、虚しく宙を切った。



蛇神ノエルの神域から外界に出るためには、神域の扉を開かねばならない。
半神のルリには扉を開く力が備わっているため、1人でも出れるのだが、如何せん蛇神ノエルが許可を出さなかった。

なので、蛇神の神使、緑蛇リョクガと神々の王の神使、蜘蛛神クディルを呼んで共に外界のニホン※1という国に降り立った。

「すごぉい!!大きぃ!」

初めて見る大きな建物に、沢山の人に、ルリは視線を彷徨わせながら大はしゃぎしていた。

「ルリ様、前を見て下さい。危ないですから」
「おうよ、転ぶぞ」

そう言って、黒髪短髪の背の高い男性がルリの手を取った。そして、フワッと抱き上げ片手で支える。  

黒髪短髪で背の高い男性は、蜘蛛神クディルが人型になった姿。瞳は赤。
緑蛇リョクガは、翡翠色の髪を1つに括り横に流している。瞳は金。

人の世界に降りるという事で、人型を取っている。ルリを1人で歩かせない為だ。

「ありがとうございます!クディル様!」
「では行きましょうか。ルリ様、決して私たちの傍から離れてはいけませんよ」
「はい!」

ルリは、蜘蛛神クディルの腕の上から街の中や人を見た。何故かみんな、私たちをチラチラと見ている。

聞こえてくる声は…
「やだ、可愛い!お嬢様かな?」「見てみて!ちょーイケメン何ですけどぉ!」「声掛けてみる?!」


「クディル様、どうして皆、ルリ達を見てるの?」
「ん?そういや、視線を感じるな……まぁ、変な視線じゃねぇ。気にすんな」
「気にする必要はありませんよ、ルリ様。さ、あちらのお店です。お金は主様から預かってますから何でも買えますよ!」
「お!マジか!俺もなんか買おう」
「ダメです」
「チッ」

お店に入る前に、蜘蛛神クディルに下ろして貰ったルリは、2人と手を繋いだ。

店の中には宝石の様なお菓子が、いっぱい並んであって、ルリは2人の手を離して走ってしまった。

「わぁ!凄い綺麗~!ねっ!クディル様、リョクガさん!……あれ?」

ショーケースに夢中になって見ていたルリは、一緒に居たであろう2人を振り返る。
だが、後ろを向いても2人は何処にもいなかった。

「クディルさま?……リョクガさん?……どこぉ?」
「おや?お嬢ちゃん、迷子かい?」


※※※※※

その頃……

緑蛇リョクガ蜘蛛神クディルは、手が離れてしまったルリを探していた。

「くそ!ルリ?!どこだ!」
「ルリさま!!どこですか?!」

二手に別れて探すも、何処にも見当たらないため、最悪な状況を想像してしまう。

店内を一通り探し、2人は落ち合った。

「いたか?!」
「ダメです!いません!」

その時、脳裏にルリの声が響いた。ルリが思念を飛ばしてきたのだ。恐らく本人に、その自覚はない。ただただ強く思ったため、2人に声が届いたのだ。

『やだ、怖い!クディル様、リョクガさん、助けて…!!』

「っ!!ルリっ!」
「ルリ様!!」

2人は、声が聞こえる方に走った。




「あの!離して下さい!知らない人について行ったら駄目って、リョクガさんが!」
「大丈夫、俺がその人の元に連れて行ってあげるから。さっ、おいで」
「やだぁ!」

ルリは、泣きたい気持ちを何とか堪えていた。2人と手を離した事を後悔しながら。

クディルさま、リョクガさん……!

「ルリっ!」
「ルリ様!」
「クディルさま、リョクガさぁん」

そして、ルリは2人を見た瞬間に大声で泣いた。滅多に泣かないルリが泣いた事で、混乱した2人はルリを助け早々に神域に帰還した。

「ん?早かった……な」

水鏡から出ると蛇神ノエルとかち合った。蜘蛛神クディルの腕に乗り、帰ってきたルリを見た蛇神ノエルは、固まった。

「ルリ?!!何があった?!」
「……ノエルさま…ごめんなさぁい」
「謝らなくていい!」

蜘蛛神クディル緑蛇リョクガに事情を聞いた蛇神ノエルは、ルリを受け取り自室に戻った。

まだ泣き止まないルリを抱き締め頭を撫でてやる蛇神ノエル

「ごめんなさい、ノエルさま。バレンタインなのに……ひっく」
「いい、気にするな。バレンタインとやらは、来年もあるのだろう?来年は、一緒に行くか?」
「でも……」
「俺が一緒だから、危ないことは無い」
「手、離しちゃったの……わたし、クディルさまにも、リョクガさんにも迷…惑……」

ルリは、バレンタインがダメになった事に泣いてる訳じゃなかった。勿論、それもあったが…でも1番は、無理について来てもらった2人に、迷惑をかけた事に泣いていたのだ。
言いつけを守らなかったから、嫌われたと思ったのだ。

コンコン

「失礼します。ルリ様…これから、お菓子を作るのですが、一緒に作りませんか?」
「俺も作るぜ、何ならノエルも参加しろよ。みんなで作って食べようぜ」
「行くか……、アイツらより美味いもの作って感謝を伝えればいい。きっと許してくれるぞ」
「うん!!」

この日、お菓子を沢山作って、近所の神々を呼んで、遅くまでお茶会をして過ごしました。

「ノエルさま、ごめんなさい…大好き」


~完~

※1
ニホンと表記しましたが、現実のニホンとは違いますので、ご了承ください。





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