短編集

紫宛

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【国に勝利を齎して~】

ティルセリア&アルヴィス(バレンタイン)

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「こんのぉ~!!今日が大事な日だと分かってて、問題起こしてんでしょうねぇ!!」

口が悪くなるのは仕方がない。
だって今日は、2月14日!世間一般で言えばバレンタイン!恋人同士のイベント!

なのに、なのにぃ!
私はどうしてこんな所で、盗賊を相手しなきゃいけないのよぉ!!!!

「あーぁ、セリアがめちゃくちゃ荒れてるよ」
「仕方ありませんね、今日までかかる予定では無かったですから」

僕とアルフィ、それからセリアは、ゼファード帝国に現れた盗賊退治にやって来ていた。元々は別々の場所に出没した盗賊退治だったんだけど……こいつら、結託してたんだよねぇ。だから、僕らも情報交換しながら、追い詰めてたんだけど……意外とすばしっこいんだよ。

「逃げるなぁ!!いい加減捕まりなさいよぉ!」

1番前を馬で駆けているのがセリアだ。
その後ろを僕とアルフィ、さらに後ろに兵達の順番で森を駆けてるんだけど……流石に、兵達に遅れが出てる。

森を駆けるのは、難しいからね。

「セリア!兵に遅れが出ています!これ以上の追跡は危険です!」
「なら、お前達は戻っていろ!この先は、野原だ!私は行く!」
「ああもう!こうなったら、セリアは聞かないよっ!」
「仕方ありませんね、副団長以外は戻りなさい!連絡を待て!」
「はっ!!」



暫く森を駆け抜け、抜けると視界が開けた。
セリアの馬がスピードを上げて追い上げるのを、後ろから眺めていると…何か悪寒が走った。

(あれ?この感じ……どこかで…)

隣のアルフィを見ると、同じように顔色を悪くさせていた。
そして、アルフィは上を指した。

(あぁ……やばい。僕たちに、とばっちりが来ませんように……)




その頃セリアは……

盗賊の首領と思われる人物を追い詰めていた。隣を並走し、飛び移る。

「はっ!!…っ!」

男を突き飛ばし、地面を転がり、馬乗りになって捕まえた。

「捕まえたぞ!!」
「うん。おめでとう」
「あぁ!ありがと……ぅ?」

拍手と羽音が後ろの方から聞こえた。
その瞬間、ゾワッとした何かが全身を駆け巡った。

(この感じ……前にも…っ)

「セリア」
「うぇ……?!」 

名前を呼ばれ、浮遊感に襲われる。
盗賊に馬乗りになって押さえていた私の体は、今はアルの腕の中……

「あ、……アル?!何でここにっ!!?」
「うん。会いたくなって来ちゃった」

そう言ってニコッと笑うが、ティルセリアは気付いていた。目が笑っていないことに。

「あ、アル?」
「ん?」
「何か、怒ってる?」
「なぜ?」
「い、いや……」

怒ってないよ。彼はそう言うが……ティルセリアも、同僚や部下も彼から発せられる怒気に戦々恐々とした。

「怒ってはいないけど……。セリア?どうして、俺以外の男に馬乗りになっているの?」
「ひっ!」

アルのバカ!
滅茶苦茶怒ってるじゃないの!

殺気にも似た気配が場を支配するけれど……

「殿下、話はコレをどうにかした後に城でした方が……」

勇気を出したアルフィが、アルに進言した事で殿下のまわりの空気が変わった。

「そうだね。ここじゃ、セリアへのお仕置も満足に出来ないし……ね?」
「ひぃ!」

ニコッと私に笑いかける顔が、鬼のようになってますっ!

逃げ……れる訳ないよねっ。
行動読まれてるもんねっ!
抱き上げられている上に、彼の飛竜オニキスに乗せられてしまったもの……。

……部下への指示……は……?
アルが、クルトとミクトに何やら指示していた。

これは、覚悟しなきゃダメか……な?

「じゃあ、フェイドにアルフィ。後は頼んだよ」
「「はっ」」




彼らを置いて、オニキスは力強く羽ばたくと、一気に空に舞い上がった。
城へは、数分で着いたわ。

そのまま、陛下に報告もしないで部屋に連れて行かれた。

「あ、アル?報告……」
「キースにさせる」
「あ、……」

私が言葉を紡ぐ前に唇にキスされた。
アルの行動は性急で、焦っているように感じられた。

「アル」
「なに?」

唇にキスを落とした後は、頬に額に首筋に胸に……次々にキスを落としていくアルヴィス。

「今日、なん、ん……のひか、…知ってる……は……ぁ」
「……」
「はや、く……帰り、たかった、の」
「その為に、男に馬乗りになったの?」
「ごめ……んむ……なさ、い」

アルのキスが止んだので、ゆっくりと体を起こして、アルヴィスに向き直り話し始めた。

「今日、バレンタイン、だって……聞いたの。大切、な人に、愛を伝え、る日だって」
「……」
「アルに、渡し、たくて……コレ」

そう言って私が差し出したのは、任務に出かける前に一生懸命作ったチョコケーキだった。

「……」
「いら、ない?」
「はぁ、貰うよ。……本当に、セリアに怒ってた訳じゃないんだ。俺だって、今日という日を一緒に過ごしたかったのに……誰かさんは任務に行ったし、迎えに行ってみれば、男の上に馬乗りになって、距離だって近かったし……ちょっとイライラしてただけだよ」

そう言ったアルの顔は赤く、隠すようにそっぽを向いてしまったけど、耳まで真っ赤だった。

そんなアルを後ろから抱き締め……想いを伝えた。

「愛してるわ」
「……俺の方が愛してる」
「ふふ、そうね」

~完~
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