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第4話(騎士ハーヴェイ目線)
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俺が、ジュリアお嬢様に付いてもう一週間になる。
こうして過去に戻る前……俺は、ジュリアお嬢様の護衛でありながら、お嬢様が部屋から出ることは殆ど一切無かったため、邸宅の警備の者に任せケイナ様に付くことが多かった。
ケイナ様が、
「ジュリアお姉様が、私の大事なネックレスを持ってったの」
「ジュリアお姉様が、私のドレスを破いたの」
「ジュリアお姉様が、私の事嫌いって……」
泣きながら訴えるケイナ様の言葉に俺は、お嬢様の事を誤解した。酷い事を言ってしまい、余計にお傍に行かなくなった。
だが、それらが全て嘘だと後々に気が付いた。
ジュリアお嬢様は、奥様から命じられ勉強を終わらせるまで部屋から出る事を禁止されていた。俺がその事を知ったのは、奥様に用があり紅薔薇と呼ばれる別邸に向かった時だった。
紅薔薇邸は、本邸と違い紅を基調とした建物だ。青を基調とした本邸は落ち着かないと、奥様が旦那様に言い増築したと聞きます。
奥様の部屋の前
「ジュリアは?」
「部屋にて勉強をさせています」
……勉強をさせている?
奥様の話し相手は本邸の使用人のようだった…だがしかし、公爵家の令嬢に対し、使用人の言葉とは思えん言葉だったからよく覚えている。
「使用人にもよく言っておきなさい。あの子の世話は最低限で良い、と。それから、シュテルとケイナに近付かせないように」
「畏まりました」
「では行きなさい、ここに来た事を知られないように」
「はい、失礼致します」
廊下の角に身を潜ませ、使用人の男が出て行くのを待った。その時に俺は、知ったんだ。
お嬢様は、ケイナ様に対し何もしていない事と、そもそもケイナ様に対しなんの感情も持っていないことに。
ケイナ様に接して無ければ、彼女に嫌な感情を持つはずがない。嫌な感情を持ってないなら、嫌がらせをする必要も無いことに。
俺は、その時に気付いた。
しかし、気付いた所で何もかも遅かった…
……ジュリア様は、あのお方は、彼らの言葉で死を選んでしまったのだから……
タンザナイト家は時間を操る力があるのは知っていた……有名だし。
当主になると更に力は強くなり、数年巻き戻ることが可能ということも……
そして、それぞれが守る家には強大な魔宝石が存在する事も……
旦那様なら、きっと……
そう思って、旦那様の動きに注視していたらシュテル様から話しかけられた。
「父上を張ってるのか?」
「……」
「付いてこい。父上なら、今夜行動すると思うから……一緒に、姉様を救おう?」
その時のシュテル様の表情が忘れられない。
悲しく辛そうに話す彼は、どんな思いでジュリア様の死を受け止めたのだろうか……
これから救えると分かっていても、一度体験した事は忘れられない。彼女が受けた傷を、もしかしたら……もう一度味合わせることになるんじゃないかと考えてしまう。
それでも、彼女が歩んだ苦しい道のりを少しでも救ってみせると、坊っちゃまの瞳からは伺えた。もちろん、俺も同じ気持ちだ。
必ず、お嬢様を笑顔に幸せにしてみせると。
・
・
・
(過去に思いを馳せ感傷に浸っている場合じゃないな)
俺は頭を切りかえて、お嬢様の部屋へと向かった。
お嬢様の部屋は、三階の旦那様の前でシュテル様の隣に移された。
使用人は、旦那様が一人一人尋問しかなりの数がクビになり料理人も何人か減った。ザシュトも当然クビとなった。
料理人が辞めさせられた理由は……、まぁ簡単に言えばお嬢様に食事を出さなかったこと。お嬢様の食事をザシュトに任せていたこと。その為、ろくな物を食べさせてなかったことが原因だ。
ザシュトは、奥様の言いなりだったそうだ……俺が過去に聞いたあのやり取りは、ザシュトと奥様だったんだ…。
ジュリアお嬢様の部屋の前に辿り着き、入室の許可を貰い中に入る。
前の部屋とは違い、急遽お嬢様に合わせたとは思えないほど、可愛らしい仕上がりの部屋だった。
タンザナイト家らしく青を基調としたものだが…装飾や調度品などは、シュテル様や旦那様とはまた違った趣だ。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「お父様が?」
「はい、恐らく明日からの勉強についてだと思います」
ジュリアお嬢様は、ひとつ頷くとソファから立ち上がり、こちらに向かってきた。
そう言えば、お嬢様のお洋服も全然なくてデザイナーを呼び直ぐに仕立てたんだったな。
「お嬢様、今日はこちらの道から行きましょう」
「?、うん」
ジュリアお嬢様は、疑問に思いながらも俺の言った方に歩き出した。
俺は、レッドスピネル家の力を持っている。
額に宝石レッドスピネルを持って生まれた俺には、遠くまで見通せる力を持っている。
その力で、ジュリアお嬢様と奥様やケイナ様が鉢合わせないように誘導したんだ。
もし出会って、ジュリアお嬢様に手を出されるなんて事はあってはならないから。
ジュリアお嬢様の頭を見つめる。
10年前に戻ったから、俺も今は12歳だ。
力は戻ってしまったかもしれないが、未来で身につけた技術や経験は無くならない。
これから……お嬢様を守るための力をつけつつ、お嬢様を悪意に晒されないようケイナ達の動向もこのレッドスピネルで探ると決めた。
公爵様に報告し、シュテル様やクロード様と話をし対策をとる。
そして、信頼出来る仲間を見つけること。
それが今後の課題だ。
「お父様…勉強増やすのかな……」
「お嬢様?」
「今度は、どんなお勉強かな……」
お嬢様は、公爵様に勉強を増やされると思っているようだが……実際は違う。
かなり、減らされる筈だ……
だいたい、子供に8つの勉強って……王太子妃になる訳でも無いのに、やらせすぎだろ…
兎に角!
明日からは、少しは自由に過ごせるはずだ!
ジュリアお嬢様に趣味を見つけて頂いて、これから笑って貰えるように尽力せねば!
剣でも刺繍でも、料理でも何でも、お嬢様の好きなことを好きなだけ。
やらせて差し上げたい…
それが俺の、ジュリアお嬢様に対する、今の気持ちだ。
こうして過去に戻る前……俺は、ジュリアお嬢様の護衛でありながら、お嬢様が部屋から出ることは殆ど一切無かったため、邸宅の警備の者に任せケイナ様に付くことが多かった。
ケイナ様が、
「ジュリアお姉様が、私の大事なネックレスを持ってったの」
「ジュリアお姉様が、私のドレスを破いたの」
「ジュリアお姉様が、私の事嫌いって……」
泣きながら訴えるケイナ様の言葉に俺は、お嬢様の事を誤解した。酷い事を言ってしまい、余計にお傍に行かなくなった。
だが、それらが全て嘘だと後々に気が付いた。
ジュリアお嬢様は、奥様から命じられ勉強を終わらせるまで部屋から出る事を禁止されていた。俺がその事を知ったのは、奥様に用があり紅薔薇と呼ばれる別邸に向かった時だった。
紅薔薇邸は、本邸と違い紅を基調とした建物だ。青を基調とした本邸は落ち着かないと、奥様が旦那様に言い増築したと聞きます。
奥様の部屋の前
「ジュリアは?」
「部屋にて勉強をさせています」
……勉強をさせている?
奥様の話し相手は本邸の使用人のようだった…だがしかし、公爵家の令嬢に対し、使用人の言葉とは思えん言葉だったからよく覚えている。
「使用人にもよく言っておきなさい。あの子の世話は最低限で良い、と。それから、シュテルとケイナに近付かせないように」
「畏まりました」
「では行きなさい、ここに来た事を知られないように」
「はい、失礼致します」
廊下の角に身を潜ませ、使用人の男が出て行くのを待った。その時に俺は、知ったんだ。
お嬢様は、ケイナ様に対し何もしていない事と、そもそもケイナ様に対しなんの感情も持っていないことに。
ケイナ様に接して無ければ、彼女に嫌な感情を持つはずがない。嫌な感情を持ってないなら、嫌がらせをする必要も無いことに。
俺は、その時に気付いた。
しかし、気付いた所で何もかも遅かった…
……ジュリア様は、あのお方は、彼らの言葉で死を選んでしまったのだから……
タンザナイト家は時間を操る力があるのは知っていた……有名だし。
当主になると更に力は強くなり、数年巻き戻ることが可能ということも……
そして、それぞれが守る家には強大な魔宝石が存在する事も……
旦那様なら、きっと……
そう思って、旦那様の動きに注視していたらシュテル様から話しかけられた。
「父上を張ってるのか?」
「……」
「付いてこい。父上なら、今夜行動すると思うから……一緒に、姉様を救おう?」
その時のシュテル様の表情が忘れられない。
悲しく辛そうに話す彼は、どんな思いでジュリア様の死を受け止めたのだろうか……
これから救えると分かっていても、一度体験した事は忘れられない。彼女が受けた傷を、もしかしたら……もう一度味合わせることになるんじゃないかと考えてしまう。
それでも、彼女が歩んだ苦しい道のりを少しでも救ってみせると、坊っちゃまの瞳からは伺えた。もちろん、俺も同じ気持ちだ。
必ず、お嬢様を笑顔に幸せにしてみせると。
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(過去に思いを馳せ感傷に浸っている場合じゃないな)
俺は頭を切りかえて、お嬢様の部屋へと向かった。
お嬢様の部屋は、三階の旦那様の前でシュテル様の隣に移された。
使用人は、旦那様が一人一人尋問しかなりの数がクビになり料理人も何人か減った。ザシュトも当然クビとなった。
料理人が辞めさせられた理由は……、まぁ簡単に言えばお嬢様に食事を出さなかったこと。お嬢様の食事をザシュトに任せていたこと。その為、ろくな物を食べさせてなかったことが原因だ。
ザシュトは、奥様の言いなりだったそうだ……俺が過去に聞いたあのやり取りは、ザシュトと奥様だったんだ…。
ジュリアお嬢様の部屋の前に辿り着き、入室の許可を貰い中に入る。
前の部屋とは違い、急遽お嬢様に合わせたとは思えないほど、可愛らしい仕上がりの部屋だった。
タンザナイト家らしく青を基調としたものだが…装飾や調度品などは、シュテル様や旦那様とはまた違った趣だ。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「お父様が?」
「はい、恐らく明日からの勉強についてだと思います」
ジュリアお嬢様は、ひとつ頷くとソファから立ち上がり、こちらに向かってきた。
そう言えば、お嬢様のお洋服も全然なくてデザイナーを呼び直ぐに仕立てたんだったな。
「お嬢様、今日はこちらの道から行きましょう」
「?、うん」
ジュリアお嬢様は、疑問に思いながらも俺の言った方に歩き出した。
俺は、レッドスピネル家の力を持っている。
額に宝石レッドスピネルを持って生まれた俺には、遠くまで見通せる力を持っている。
その力で、ジュリアお嬢様と奥様やケイナ様が鉢合わせないように誘導したんだ。
もし出会って、ジュリアお嬢様に手を出されるなんて事はあってはならないから。
ジュリアお嬢様の頭を見つめる。
10年前に戻ったから、俺も今は12歳だ。
力は戻ってしまったかもしれないが、未来で身につけた技術や経験は無くならない。
これから……お嬢様を守るための力をつけつつ、お嬢様を悪意に晒されないようケイナ達の動向もこのレッドスピネルで探ると決めた。
公爵様に報告し、シュテル様やクロード様と話をし対策をとる。
そして、信頼出来る仲間を見つけること。
それが今後の課題だ。
「お父様…勉強増やすのかな……」
「お嬢様?」
「今度は、どんなお勉強かな……」
お嬢様は、公爵様に勉強を増やされると思っているようだが……実際は違う。
かなり、減らされる筈だ……
だいたい、子供に8つの勉強って……王太子妃になる訳でも無いのに、やらせすぎだろ…
兎に角!
明日からは、少しは自由に過ごせるはずだ!
ジュリアお嬢様に趣味を見つけて頂いて、これから笑って貰えるように尽力せねば!
剣でも刺繍でも、料理でも何でも、お嬢様の好きなことを好きなだけ。
やらせて差し上げたい…
それが俺の、ジュリアお嬢様に対する、今の気持ちだ。
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