【完結】国に勝利を齎して『お前とは結婚しない! 』と告げられるが、私は既に結婚しています

紫宛

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中編

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謁見室。

この場には今、皇帝陛下と皇妃陛下、皇太子殿下と第2皇子殿下、宰相そして、私達5将軍と有力貴族がいた。

両陛下は玉座に、皇帝の隣に皇太子。皇子殿下は、玉座を下りた右側に立っていた。見知らぬ女を侍らせて。
入口付近と、陛下の近くには近衛兵が控え、赤絨毯の左右には有力貴族が控えていた。

そして陛下の前に、私達5将軍がひざまずいていた。

謁見室に入った時から、気になっていた。

ここは、皇族と戦争の立役者たてやくしゃ、皇帝を補佐する宰相、侯爵以上の有力貴族、近衛兵しかいない筈。

こっそりと、皇子殿下をみやる。

見知らぬ女が、いるはずが無かった。
なのに、皇子殿下の隣に見知らぬ女がいた。
女の肩に手を置き抱き寄せ、耳に何かを囁き顔を赤くする女。周りが見えていないのか、はっきり言って「何しに来た!」と言ってやりたかった。

仲間を見ると、彼らも「ん?」といった顔をしていた。

「よい、顔を上げよ」

そこに陛下の声がかかった。
私達は、顔を上げる。
両陛下は、皇子殿下を見ようとはせず、私達に労いの言葉を贈った。

此度こたびの戦、大儀であった」
「勿体なきお言葉にございます」
「黎明のティルセリアよ、其方そなたのお陰で、戦死者の数を減らすことが出来、敵将の首を取る事も出来た。褒賞を贈ろう」
「皆の力があってこそでございます。よって褒賞ならば、私達よりも、全力で戦っくれた兵達、そして、国のために亡くなった兵の家族へ贈って下さることを願います」

皆を代表して、私が言葉を返す。
褒賞の事は、将軍達と話し合って決めていた。誰のものでも無い。
敢えて云うならば、命の限り戦ってくれた兵と、国のために命を落とした兵達の家族に贈るべきだと。

私達の思いを正しく理解した両陛下は、ひとつ頷くと「あいわかった」と言ってくれた。

「だが、此度の戦争の立役者に、何も贈らぬという訳にもいくまい。何かないのか?」

再び仲間を見渡すと、頷きが返ってきた。私も頷く。

「ならば、勝…「いけませんわ!」」

続く言葉は告げれなかった。
見知らぬ女が、私の言葉を遮ったからだった。

「この女は人殺しですのよ!そんな女に褒賞なんて与えてはなりません!陛下!」

(っ!)

周りに立ちこめるのは、将軍から発せられる殺気だった。

(人殺し……か、事実だが、改めて言われると辛いものがあるな)

将軍だけじゃなく、両陛下、近衛、皇太子からも殺気が発せられていた。
だが、女は殺気に気付かず話を進める。

「敵兵を殺すだけではなく、味方をも見殺しにした方ですのよ!」
「…………」
「反論なんて、ありませんわよね?本当のことですものね」
「そうだな、殺戮を楽しむ女に褒賞は良くありません、父上」
「黙れ」
「父上?」
「もう良い、お前は下がれ。その女を連れて」

冷たく、底冷えするような声だった。背筋がゾワっとなった。皇太子も、冷たい眼差しを皇子に向けていて、皇妃様は、青白い顔を手で覆っていた。 

「つっ!分かり……ました。行くぞマリア」

陛下の発する威圧力に負けたゲイリオ様は、マリアと呼ばれた女性に声をかけ出ていく。
2人して、キッと私を睨みつけるように。

「ですが!ゲイル様!」
「だめだ。失礼しました」
「……っつ!」

「なんだったの……?」
「さぁ?」

仲間に視線を向けるも、3年も一緒に戦場にいたため、みな世情が疎かった。

「愚息が、悪かったな……」
「ごめんなさいね、国のために戦ってくれた貴方に、あの様な言葉を投げつけるなんて……」
「いえ……」

両陛下が揃って、頭を下げる。皇太子も下げる。左側にいた宰相も、頭を下げている。

「あ、あああの!頭をあげて下さい!」
「すまなかったな」
「……本当に大丈夫ですから」

両陛下、皇太子に頭を下げられたら居た堪れない。

「では、話を戻そう。褒賞はどうする?ティルセリア嬢」
「勝利を祝したパーティを開いて下さいませんか?多少羽目を外しても大丈夫な、フランクな感じのパーティを」
「俺達。生きて帰れた事を実感したく仲間達と飲み明かしたくてな」
「仲間全員集まれる場所、皇宮しか思いつかない」
「3年も禁酒してたので、そろそろ我慢が限界です」
「僕は、甘いスイーツが食べたいです。皇宮の料理人のスイーツ楽しみ」

口々に、欲求を述べだした仲間たち。
呆気にとられる皇族や貴族たち。
流石に不敬だろうと、貴族達がザワザワと騒ぎ出すが、それを手で制した皇帝陛下は笑いながら言った。

「そうかそうか、あいわかった。近々、勝利のパーティを開こう!招待客は、戦争に参加した兵士達とその家族、同行した治癒士とする!」

そう声高に宣言した陛下は、皇妃と皇太子に目を配り頷く。

「では、準備をしなくてはいけませんね。アルヴィス招待客に手紙を書いてちょうだい。わたくしは、料理人や給仕を手配しますわ」
「分かりました」






そして迎えた、勝利を祝したパーティの日。

有り得ない人物が目の前にいて、私は何故か有り得ない言葉を聞いていた。



「お前とは結婚しないからな!俺は、聖女マリアリアと結婚する!」



シーン


場に静寂がおりる。

「はい?」

「お前のような、殺戮を楽しむ女とは結婚しない!と言ってるんだ!」
「そうですわよね、人殺しを妻にしたら皆に恨まれてしまいますもの」
「別に楽しんではいませんが……」

どこをどう勘違いしたら、私が殺しを楽しんでいると思ったのよ……っ

「嘘をつけ!しかも、野蛮で粗野で美しくない!それに比べて、マリアは心が美しく聡明で、治癒魔法を得意とする聖女だ、今度の戦でも心を相当痛めていたんだ」

痛めていたのなら、戦争に参加して、傷付いた兵士を癒して下さいよ。
それもしないで聖女とか、笑ってしまうわ。

(はぁ、陛下達まだなの……)

まだ、皇帝陛下達は会場に到着していない。
仲間の将軍達も用事があるからと、遅れてくると言っていた。だから私は部下達と談笑しながら飲んで皆が揃うのを待っていたというのに……なぜ、こんな騒動に巻き込まれたの……?

「私が参加していたら、兵士の皆さんも死ななかったのかと思うと……辛いわ殿下」

ゲイリオ第2皇子殿下の腕に撓垂しなだれ掛かる。

(うわぁ~あれで、淑女?ただの娼婦なだけじゃない)

「ならば、戦争に参加して下されば良かったじゃないですか、なぜ、参加しなかったのですか?」

教会に属していた神官や、聖女と呼ばれた女性達は戦争に参加していた。
でも、この女性を見た事は無かった。
私も、彼らと共に治療にたずさわってたこともあるのだから……私が知らないなら、彼女は来てない事になる。

「貴方を見た事はなかったのですが……?」
「まぁ、わたくしに、そんな危険な所に行けと言うのですか?恐ろしい人」
「マリアは聖女だぞ!」
「だからなんだと言うのですか、教会に属していた聖女は、例外なく皆参加して下さっていました」

参加してなかったのは、この人だけ。
まだ年若く戦場に慣れていない者も、年老いた者も例外なく参加してくれていた。

「ぐっ!兎に角!お前とは絶対に結婚しないからな!」
「そもそも、そこも間違っています。私は、既に結婚していますから」
「……は?」
「……え?」

2人がポカンと、あほ面を晒してるわ。
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