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オマケ

伯爵夫妻(伯爵目線) 注R15

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残虐なシーンがあります。
苦手な方はご遠慮願います(*ᴗˬᴗ)

─────

これは、何かの間違いだ。
間違いに決まっている……

バレるはずがないんだ……っ!

わしは、隣国の王とある取り引きをしていた……この国の情報とある薬の実験だ……それらを渡す代わりに金銭を寄越すという。

奴とのやり取りは常に、人気のない場所で行っていたし、誰かに見つかっても奴が処理していたっ!

だから、バレているはずがないんだっ!
なのに何故だ!?なぜ……っ!

そもそも、窃盗とはなんだ!
アンジェラのやつ、まさか……他家に行った時に盗んでたということかっ?!

くそっ!

わしの計画を台無しにしおって、これだから女というのは馬鹿ばっかりなんだっ!

「どうする……?いや…まて、……」

バルセスが必ず接触してくるはずだ…奴を脅せば良い。わしを助けなければ、貴様らの秘密を全て王にばらすとなっ!
もし、奴が助けなくても、奴らの秘密を王に報告すれば、わしだけは助けてくれるだろうっ!

ふふふ、ふははははは!

メルフィが、思いの外役立たずだったのが痛かったな……あれほど手にかけて、世話してやったというのに……。
まぁ……あの夜は、楽しめたがな……ふっ

ウォルターは夫人の居ない日を狙い、使用人を下がらせメルフィと楽しい夜を過ごした日々があった。


グリゴッツ監獄

馬車が、黒塗りの頑丈な門を通り過ぎていく。鉄格子の向こう側は、薄暗く気味悪さを醸し出していた。

「あんなもんは、ただの噂だ……化け物なぞ、居るはずがないわ」

そう、居るはずが無いんだ。
人間を好んで食す、化け物……

※1

飼い慣らす事も殺す事もほぼ不可能で、もし現れたなら死を覚悟せよ。と言われるほどの化け物……その巨体からは信じられぬほど俊敏に動き、走る速度は風の精霊の力を借りても逃げる事が不可能なほどに早いと言われている。

そんな化け物が、この監獄に住み着いているという噂がある。ただの噂だろうがなっ

後ろ手に縛られ牢の中に突き飛ばされる。

くそっ!わしがここから出られた暁には、バルセスを使い皆殺しにしてやるっ!


それから数時間後、隣の独房から小さなつぶやきが聞こえてきた。そらは、わしがよく知る声だった……

「アンジェラかっ?」
「あなたっ!あなたなの?!」

やはり、アンジェラだったようだ……
アイツは、「何故自分が」とか「虐待じゃない」とか叫んでいたが、どうでも良いっ!

あの女が騒ぎ立て、目立ってしまえば逃げる事も出来ぬっ!

「落ち着きなさい、アンジェラ」
「あなた?」
「大丈夫だ、助けは来る。わしを信じなさい」

そう言えば、アンジェラは落ち着きを取り戻し静かになった。

必ず奴は来る。
それまでの辛抱だ……

だが……

なんとも耐え難いっ!
カビ臭い空間に、時折流れてくる血生臭い匂い……そして叫び声。

「おい!看守!黙らせろっ!煩くて寝れやしないっ!」

ウォルターは、自分のことを棚に上げ文句ばかり言っていた。自分も殴られ蹴られた時は煩く喚く癖に、他人の事は平気で文句を言う…自分本位な男だった。


殴られ蹴られて怪我しても、治療はされない。放置され、膿んで蛆虫うじむしが湧いても治療はされなかった。

湧いてくる蛆虫を、毟っては鉄格子に向けて投げつけた。

クソがっ

さらに面倒臭い事に、アンジェラは不気味な声に怯え、毎回声をかけてくる始末。

何時になったら来るんだっ!バルセスはっ!

何日もたったある日の夜、やっと待ち望んだ男がやって来た。

「生きてるかい?旦那」
「バルセス……キサマ…来るのが遅いっ」
「そう言うなよ、これでも急いだんだぜ?」

バルセスから、ある薬を受け取った。
人間の心臓と呼吸を一時的に止める薬……

モルテの妙薬※2

猛毒と言われている……モルテス草を使った薬だ。この薬を使って、色々と実験を行ってきたのだ。出来上がるまでに多くの死者を出したが、そんなものはどうでもいい、隣国に恩を売る事が出来たんだからな。

これでわしは、隣国に逃げて……悠々自適に過ごせるぞっ

「ふ、ははは」
「じゃ、また明日迎えに来るよ」
「うむ、頼んだぞ」
「あぁ」

バルセスは、ウォルターに背を向けてマントの下でニヤリと笑った。

その後バルセスは、アンジェラの独房に寄って同じ薬を渡した。

わしは飲むつもりは無いがアンジェラに飲ませるには、わしも受け取っておかねばな。

案の定、アンジェラは薬を見て不安がってるようだったから……わしも薬を受け取ったと証拠を見せて、明日の夜に一緒に飲もうと言ってやった。すると、アイツは、頷きわしを信じるとほざきおった。

相変わらず、馬鹿な女だ


翌日の夜中、アイツは薬を飲み倒れた。
わしは、それを確認するとバルセスを呼び牢を開けさせ出ていく。

「これで、自由だ……ふ、ふはははは」
「旦那っ、急いで下さい」
「チッ、分かってるおるわ」

バルセスを先頭に、薄暗い廊下を突き進んでいく。看守が居ない道を進むため、左に曲がったり右に曲がったり、階段を下ったり……

自分が今どこを歩いているのかさえ、分からなくなってきた……

「おい、本当に外に出られるんだろうな」
「勿論です、私が今まで嘘ついた事がありますか?貴方の命令に背いた事は?」
「いや良い、お前の信を疑うつもりは無い」

だが……

先程から地下に行く道ばかり進んでいる気がするのも事実……
いや…だが、わしを殺す事は無いだろう。
わしは、これでも隣国の為に力を尽くしてきてやったんだからな。



しかし、ウォルターのその思いは裏切られる事になる。この先に待っているものの存在によって……

「よし、この扉の先だ……」
「ようやくか……やっと、この空間から出られるのか…」

この、埃臭くてかび臭い空間からようやく出られるようだな。

グォガォアアァァ

……なんだ?……いま……?

「おいっ」
「じゃあな、旦那。これでさよならだ」
「なにっ?!」

トンッと、背中を押され扉の先に足を踏み出せば、そこには何も無く……

わしは、真っ逆さまに落ちた。

「うわぁぁぁあ!」
「悪いな。俺は、あんたを処理するよう命じられててな。……俺達は敵同士なんだ、少しは疑った方がいいぜ?旦那。まぁ、聞こえてないだろうが…」

フードから除く金の目を細め、落ちていくウォルターに「じゃあな」と声をかけ、扉を閉め鍵をかけて離れた。

この扉は魔法具で、特別な鍵がなければ開かれない……

「助かったよ。これは約束の金だ……」

門番と思しき男に金と鍵を渡し、男は足音を響かせず走り去って行った。



その頃、落とされたウォルターは……

「くそっ!バルセスめっ!わしをこんな目に合わせおってっ!」

立ち上がったものの、落とされた時に足を怪我したのか満足に歩けず張って移動する。

「ここは、どこだ?かなりの広さがあるようだが……」

グゥルグゥ

「っ?!」

また、だ……

何だこの声は……まるで獣のような……

音のする方に視線を移す……そこには、大きな2つの金色の光……それは、少しづつわしの方に近づいてくる。

「なっ……嘘だ……」

居るはずない……

あれは、凶暴で人の手に負えるような獣じゃない……っ!

グルルゥガゥアアアアアア

「ヒッ」

まるで咆哮のような鳴き声に、腰が抜けてしまう。

逃げなければ、殺されるっ!

無理やりに立ち上がり、足を引きずるようにしてその場を離れた。

だが、獣相手に背中を見せては行けなかった……スィムバグロースは、ウォルターの背中に目掛けて飛びかかったのだから。

背中目掛けて、爪を振り下ろす。

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

スィムバグロースは、ウォルターの背中に乗り腕に噛み付く。

骨が碎ける音が響く、ウォルターの叫びも響く……。

スィムバグロースは、まるで楽しむかのように、腕、足、腹と順に噛み付いていく。時にはわざと逃がし、追いかけ噛み付くを繰り返す。ウォルターが事切れるまで、それは続いた……

この場所は……スィムバグロースの住処だった……人間とスィムバグロースは、1つの契約をしていた。定期的に人間を食わせる代わりに、町や村を襲わない……と。

こうして、スィムバグロースに食われたウォルターは、自殺と処理され国に報告されたのだった。



~完~

─────
※1
スィムバグロース
スィムバ→ライオン(獅子)(スワヒリ語)
グロース→大きい(ドイツ語)
という意味だそうです(*ᴗˬᴗ)⁾
※2
モルテの妙薬
モルテ→死(イタリア語)
と言う意味だそうです。

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