【完結】うさぎの精霊さんに選ばれたのは、姉の私でした。

本編

第5話

温かい食事の後は、アンナさんがお風呂にいれてくれました。

「あの、この子も一緒に入れてもいいですか？」

アンナさんが、丁寧な言葉を使わなくてもいいって言ったけど……私はこの話し方しか出来ないし、どうしようか悩んでいたら、アンナさんが慣れるまではこのままで良いと言ってくれました。

「精霊様ですか？セラフィ様が望むなら、そのように行動すれば良いのですよ。私に確認をとる必要はありません。私達は、セラフィ様の望むことをお手伝いするのですから」

(私が、望むこと……？)

卵を大事に胸に抱き、部屋に備え付けられているお風呂場に向かう。アンナさんが用意してくれたカゴの中に卵を入れて、私が服を脱いでいると扉の方から叫び声が聞こえた。

「え？」
「セ、セラフィ様っ！！！！」


アンナさんが、手に持っていたタオルや服を落として叫びながら私に近寄ってきました。

「「っ！？、どうした！？」」

その声に反応して、ジークとフェリクスも血相を変えて風呂場に入って来た。ここが、風呂場という事も、セラフィが下着姿という事も忘れて駆け寄った。

「その……傷はなんですか！お嬢様っ！」
「きず？」

セラフィは、自分の体を見下ろした。そこには、歴戦の騎士にも劣らない程の無数の傷や跡が残されていた。腕や足だけじゃなく、胸元や背中にも、少女の体に似つかわしくない沢山の傷跡……

その傷は全て、伯爵やメルフィ達に振るわれた暴力が原因だった。彼らに暴力を振るわれるのはいつもの事で日常だったから、セラフィは特別気にしていなかった。

「これは……一体誰にやられたのですか！」
「大変…！ジーク様、私は陛下にご報告して参ります！直ぐにお医者様の派遣をお願いして参りますから、それまでセラフィ様をお願いします！」

私がボーッとしてる間に、アンナさんはさっさと部屋を出ていきました。

「セラフィ様、この怪我は一体誰に負わされたのですか？！」
「こんな状態で、普通に接していたなんて……」

フェリクス様もジーク様も大袈裟な気がします。でも、瞳が凄く真剣で、私は何も言えなかった。



フェリクス様が自分のマントを私に被せて、片手で持ち上げました。

「セラフィ様、軽すぎます。ご飯はしっかりと沢山食べて下さい」
「は、はい」

そのままベッドに連れて行かれて……
凄くふわふわの柔らかいお布団の上に寝かせられました。

それから……アンナさんが、お医者様と団長さんと、あとすごく綺麗な男の人と一緒に戻ってきて…

「イザーク様っ？」

フェリクス様とジーク様が、その場で膝をついたから、もしかしたら偉い人なのかも知れません。

「2人とも立って。父上に報告をしていたらアンナが来てね…事情は聞いたよ」

イザーク様と呼ばれた方が私のそばまで来て、「もう大丈夫だからね」といった。何が大丈夫なのか分からなかったけれど、頭に乗せられた手が温かくて何故だか涙が零れた。

「直ぐ治しますからね、大丈夫ですよ。痛い事はしませんからね」

お医者様の手から水色の光が溢れ出て、私を包み込むと、私の体にあった傷や跡が跡形もなく消えていった。

「きずが……」

その様子に、お医者様の後ろにいたアンナさん達がホットした顔をした。
お医者様の光が収まる頃、私は凄く眠くなって……寝ちゃダメなのに、瞼が落ちてきて

「大丈夫ですよ。お休みなさい、セラフィ様」
「……おゃすみなさ…ぃ」



✾✾✾✾✾

「寝たか？」
「そのようです」

セラフィが眠ったあと、何があったのかイザークは騎士やアンナに問いかけた。

「セラフィ様は、伯爵様に虐待されていたのではないでしょうか？食事も満足に与えられていなかったようです…」
「ふむ、伯爵か……分かった、私が調べておこう」
「王太子殿下自らですか？」
「うむ、今回の精霊妃の選出で、人手不足だからな。お前達は、セラフィ嬢を頼むぞ」

そう言ってイザークは、部屋を出ていった。

「彼女が精霊妃に選ばれたら……ふっ、彼らは地獄を見る事になるな」

口元に手を当てて、イザークは微かに笑った。

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翌朝、セラフィは、自分の頬に触れる柔らかな感触に目が覚めた。

「？」

何度か瞬きを繰り返し起き上がったセラフィは、目の前の光景に驚きを隠せなかった。

「うさぎ…さん？」
『目が覚めましたか？我が主』

そこには、夜空のような濃い青色の体と赤い目をした小さなうさぎが鎮座していたからだった。