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おまけ(新婚旅行②)
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サブマリン国は、海に囲まれた孤島だ。
俺の国の港から、サブマリン国への乗り合い船が出ている。
「ルース様」
「ニィナ、大丈夫か?船酔いとかはしてないか?」
「大丈夫ですよ。それよりルース様、海って凄いですね。どこ見ても一面水溜まりです!空も晴れてて、空と海の境界線が分かりません」
船に乗ってからニィナは、終始笑顔だった。
「さっき、イルカを見たんです!本で見たよりも可愛かったです」
「そうか、良かったな」
「はい!」
海の生物を見る度に、報告しては目に焼き付けるようにじっと見つめていた。
『ニィナ、こっちへ来るのだ。ルースお主も来るが良い』
「ハイル様?」
「俺もか?」
『昨日話しただろう?我が友を紹介しよう』
昨日……
海竜王アウス殿だったか……
俺たちの世界には、龍神王と呼ばれる存在がハイル殿を含め3人いる。
水と天候を操る天龍王ハイル。
大海原を治める海竜王アウス殿。
大地に恵みを与える地竜王イクバール殿。
基本は、契約者の前にしか姿を見せないと言われている……
ハイル殿達、天の龍神は気に入った人物に。
海の龍神は、海に面した国々の王に。
地の龍神は、誰とも契約をしていない。
甲板に移動し、ハイル殿は本来の姿に戻った。船よりも大きな体に立派な角を生やし、水色の鱗が太陽の光を反射しキラキラと輝いていた。
隣から「綺麗」という声が聞こえた。
ニィナに視線を移すと、俺が見ていることに気付いたニィナが、恥ずかしそうに
「本来の姿は、子供の頃に一度見たきりで、今まで見たこと無かったんです」と言った。
ニィナは、再びハイル殿を見つめた。
すると、ハイル殿の体が金色に光ると同時にその光が天を貫き海面に落ちた。
瞬間、海が鼓動するかのように中央から波打った。次第に海が割れ中から、海色の美しい曲線をした竜が現れた。
左右に魚のヒレがあり、額にはハイル殿と似た文様が描かれていた。
『久しぶりだと言うのに、相変わらず容赦がないなお前は。海の生物に悪影響が出るだろうが』
『この方法が手っ取り早いのでな』
船の乗組員や、船に乗せてくれ案内してくれたサブマリン国の王族が驚いた顔で龍神達を見ていた。海の龍神は、王族の前でしか姿を現さないため、今回の出現には大層驚いたそうだ。
実は、今回の作戦はサブマリン国の王族にも話してある。流石に王族の船で問題を起こすわけだから、話さない訳にはいかなかったのだ。
それから海の龍神は人の姿を取り、俺とサディーク、サブマリン国の王族、海の龍神で話し合った。
ハイル殿は、基本ニィナの傍を長く離れることは出来ないそうだから、念話での参加だ。
『天の、から話は聞いている。お前と、ニィナという娘の分身を作り出せば良いんだろ?』
「頼めるか?」
『天の、の頼みは珍しいからな。貸しひとつで手を打ってやった』
「ハイル殿、すまん」
『よい、気にするでない。ニィナの為よ』
2人は名前で呼ぶ訳では無いらしい。
海の龍神にも名前はあるが、本当に気に入った者にしか呼ばせないそうだ。天の龍神は、契約者に名前を貰うが、認めたものにしか呼ばせないのだそうだ。
そのためお互いの呼び名が、天のや海のと呼び合うそうだ。
海の龍神が海の力で、俺とニィナにそっくりの水分身を作ってくれた。
力を込めるため、多少の人間味は出るそうだ。海の龍神が離れると、力を失うため事件が解決するまでは船に残ってくれると言っていた。
その日の夜、ニィナと二人で……(いや小さくなった蛇と魚が一緒だが)船内にあるレストランに来ていた。
船はサブマリン国の周囲を回っており、島の明かりが幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「ルース様、サブマリン国の料理は美味しいし、外の景色もとっても素敵ですね」
「そうだな。気に入ったか?」
「はい!また、来たいですね」
「そうだな、来年もまた来るか?」
「良いのですか?」
「ああ。だが、今度はサブマリン国の島も行こう」
『……良い雰囲気だな。お前さ、あの娘の魂の伴侶だろ?』
『うむ』
『あれは、良いのか?』
『構わぬ。ニィナが幸せである事が、我の幸せである故な』
『寛大だな、おい』
『長く生きて居れば、お前も何時かそう思えるだろうよ』
割と仲の良い2人だが、年齢で言えば海の龍神は若い。3人の龍神の中でも1番若いのが海、その次が大地で、1番歳を取っているのが天の龍神だ。
年寄りと言うと怒るので、誰も歳については言及しないけれど。
気が付けば、男と娘は既に席を離れ甲板に出ていた。海の龍神は、本当に幸せそうに2人を眺めているハイルに、仕方なさそうに溜息をつき、全力で力を貸すと決めたのだった。
✾✾✾
夜中……
船内の中でも特に豪華な客室に、忍び足で近づく影があった。客室の前には兵士が2人立っていたが、何故か眠っていた。
影は、兵士が立ったままいびきも無く眠っている事に、違和感を感じることも無く静かに扉を開けて中に入った。
(ふふ、私が先程渡したワインには、眠り薬が入ってたのよ。馬鹿な兵士ね)
兵士は本当は眠ってなどいなかった。彼女が用意したワインは、こっそりと捨てられていたのだ。そして、寝たフリをしていたに過ぎなかった。
(さて、ザインが居ないのが不思議だけれど……でも、陛下が一緒だから問題無いと、判断したのかしらね)
ベッドの脇まで行くと、憎きニィナは安心しているのか熟睡だった。
「本当に憎たらしいっ!お前などが王妃なんて…私は認めないっ!」
女が両手を振り上げると、真っ逆さまに振り下ろした。その手には鈍く光るナイフが握られており、ニィナの胸に突き刺さった。
「死ねっ!死んでしまえっ」
何度も何度も振り下ろされ、シーツや布団は真っ赤に染まっていった。
なのに、ニィナも、隣に寝ていたルーファスも、ハイルも全く起きる気配が無かった。
彼女は、その事にも気付かないまま、ナイフを振り下ろし続ける。
ニィナの体には、無数の刺し傷で原型が分からなくなりつつあった。
何十回と刺した女は、ようやく気が済んだのかナイフを振り下ろすのをやめた。
その時だ
『良くもまぁ、ここまでやったもんだな、お前』
「だれ?!」
『俺か?俺はまぁ、お前が刺した少女の友人の友人だ』
「はぁ?」
彼女は、自分の犯行を見られていた事に気付き、声がした方に歩き出そうとした。
最悪、そいつも殺せばいい……そう思って。
『俺を殺すのは諦めた方が良い、無理だからな』
けれど、声がするのは真下。
今自分が、何度も刺した女から発せられていた。
「どういうことよ?!」
「やっと、捕まえられるな」
「っ?!」
女が振り返ると同時に、部屋の明かりがついた。扉の前には、先程の兵士と、さっきまでベッドに寝ていた筈のルーファス、そして宙に浮いた魚がいた。
「久しいな、ルゥルゥよ」
「へい……か」
「お前がした行為は、犯罪だ」
「ふ、ふふ」
「何がおかしい」
「貴方が愛した女は、もう居ない!ねぇ、私は貴方を愛してるの、もう良いでしょう?
あの女の妹に、ほんの少し知恵を与えただけで勝手に動いてくれて……龍紋を血で汚し契約が切れれば、別れると思ったのにっ!あわよくば死んでくれればっ!でも……ふふふ、死んだ…あの女は死んだ!私が刺して殺したっ!あははは」
「……お前は何を勘違いしている?ニィナは死んでいない」
顎で後ろのベッドを指し示すと、ルゥルゥは振り返った。そこには、血だらけで立ち上がるニィナがいた。
「っ?!!」
ぎこちない動きで、ルゥルゥに向かって歩いてくるニィナ。
「なん……ぁ、やっ、来ないでよっ」
ルゥルゥは、手に持っていたナイフを再び振り下ろそうとしたが、ルーファスによって止められた。
ルゥルゥの前まで来ると、ニィナはパンッと小気味いい音を響かせて弾け飛んだ。
辺りには、真っ赤に染った水だけが残っていたのだ。
ルーファスがルゥルゥを見ると、彼女は失禁し気を失っていた。
それを兵士に預け、サブマリン国の兵士と、俺の国の兵士に後は任せ、自分は本物のニィナが眠る部屋に帰った。
『解決して良かったな』
「ありがとうございます。貴方の協力のおかげだ」
『天のの、大事な娘だからな……お前は知っているのか?天の契約の事は…』
「魂の伴侶なら、聞いた。だが……ハイル殿は、ニィナだけじゃなく、俺や仲間も愛し大切にしてくれている。たまに、邪魔してくるがな」
『そうかよ』
魂の伴侶とは、ニィナが死んで魂になった後、ハイル殿の傍にずっといる事なのだそうだ。
ハイル殿が言うには、
『我は1人しか愛さぬ……が、他の天の龍神は、飽きたら解放し、他の娘と契約すると聞いたな』だそうだ。
それ以上、海の龍神が何かを言うことは無かった。
翌日、サブマリン国の王子が来て、あの女の処罰はどうするのか?と聞いてきたので、場所を移動した。
ニィナは、ハイル殿と、海の龍神と遊ぶそうで船の後方に向かって歩いて行った。ザインに目配せし、俺も王子と共に移動した。
結論としては、ルゥルゥは海の龍神の力で、ここからかなり遠い島国に島流しに決定した。
『俺が、遠い島国に捨ててきてやろうか?』
この一言で、決定した。
海の龍神にも、サブマリン国にも借りが出来てしまったが、王子が「今回の件は、僕達は何もしてませんよ。龍神様が友達の為にした事ですから」とあまり外交の問題にはならないと言った。……が、俺の気持ちが収まらないので、いつか何かの形で返せたらと思う。
ルゥルゥの味方が、もしくわ雇った何かがいるかと思ったが、それは無かったらしい。
俺や、ニィナの連れている龍神が怖く、力を貸そうとする者は居なかったそうだ。
「ハイル様、楽しかったですね!海の龍神様ともお話出来て嬉しかったです。っね?ルース様!」
「ああ、正直助かったし、その後の釣りやクジラという大きい生物を見れたのも、楽しかったな」
俺の国の港町で船を降りて、いま海の龍神やサブマリン国の王子と最後の別れをしている。
「また行きたいですね」
「そうだな、じゃあ、結婚記念日は毎年サブマリン国に行くか?」
『ほぅ、お前達の結婚記念日は何時だ?』
『お主、まさか来るつもりではなかろうな』
『さぁな』
「その時は、是非城にも顔を出して下さいね。父上達も会いたがっていましたから」
サブマリン国は、確か結婚式には来れなかったのだったか……
「そうだな」
遠ざかる船に向かって、ニィナは一生懸命に手を振っている。
こうして、無事に新婚旅行を終えた2人は、仲良く帰って行きました。
次の年も、その次の年も、サブマリン国に行き船で旅行をしたり、浜辺で過ごしたりしたそうです。
傍らには、蛇と魚が常に傍におり、楽しく過ごしたそうです。
~新婚旅行編完~
────
新婚旅行やクルーズ、豪華客船について調べた事をほとんど使わなかったな……(✽︎´ཫ`✽︎)
新婚旅行編は、これで完結です。
ありがとうございました(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)
俺の国の港から、サブマリン国への乗り合い船が出ている。
「ルース様」
「ニィナ、大丈夫か?船酔いとかはしてないか?」
「大丈夫ですよ。それよりルース様、海って凄いですね。どこ見ても一面水溜まりです!空も晴れてて、空と海の境界線が分かりません」
船に乗ってからニィナは、終始笑顔だった。
「さっき、イルカを見たんです!本で見たよりも可愛かったです」
「そうか、良かったな」
「はい!」
海の生物を見る度に、報告しては目に焼き付けるようにじっと見つめていた。
『ニィナ、こっちへ来るのだ。ルースお主も来るが良い』
「ハイル様?」
「俺もか?」
『昨日話しただろう?我が友を紹介しよう』
昨日……
海竜王アウス殿だったか……
俺たちの世界には、龍神王と呼ばれる存在がハイル殿を含め3人いる。
水と天候を操る天龍王ハイル。
大海原を治める海竜王アウス殿。
大地に恵みを与える地竜王イクバール殿。
基本は、契約者の前にしか姿を見せないと言われている……
ハイル殿達、天の龍神は気に入った人物に。
海の龍神は、海に面した国々の王に。
地の龍神は、誰とも契約をしていない。
甲板に移動し、ハイル殿は本来の姿に戻った。船よりも大きな体に立派な角を生やし、水色の鱗が太陽の光を反射しキラキラと輝いていた。
隣から「綺麗」という声が聞こえた。
ニィナに視線を移すと、俺が見ていることに気付いたニィナが、恥ずかしそうに
「本来の姿は、子供の頃に一度見たきりで、今まで見たこと無かったんです」と言った。
ニィナは、再びハイル殿を見つめた。
すると、ハイル殿の体が金色に光ると同時にその光が天を貫き海面に落ちた。
瞬間、海が鼓動するかのように中央から波打った。次第に海が割れ中から、海色の美しい曲線をした竜が現れた。
左右に魚のヒレがあり、額にはハイル殿と似た文様が描かれていた。
『久しぶりだと言うのに、相変わらず容赦がないなお前は。海の生物に悪影響が出るだろうが』
『この方法が手っ取り早いのでな』
船の乗組員や、船に乗せてくれ案内してくれたサブマリン国の王族が驚いた顔で龍神達を見ていた。海の龍神は、王族の前でしか姿を現さないため、今回の出現には大層驚いたそうだ。
実は、今回の作戦はサブマリン国の王族にも話してある。流石に王族の船で問題を起こすわけだから、話さない訳にはいかなかったのだ。
それから海の龍神は人の姿を取り、俺とサディーク、サブマリン国の王族、海の龍神で話し合った。
ハイル殿は、基本ニィナの傍を長く離れることは出来ないそうだから、念話での参加だ。
『天の、から話は聞いている。お前と、ニィナという娘の分身を作り出せば良いんだろ?』
「頼めるか?」
『天の、の頼みは珍しいからな。貸しひとつで手を打ってやった』
「ハイル殿、すまん」
『よい、気にするでない。ニィナの為よ』
2人は名前で呼ぶ訳では無いらしい。
海の龍神にも名前はあるが、本当に気に入った者にしか呼ばせないそうだ。天の龍神は、契約者に名前を貰うが、認めたものにしか呼ばせないのだそうだ。
そのためお互いの呼び名が、天のや海のと呼び合うそうだ。
海の龍神が海の力で、俺とニィナにそっくりの水分身を作ってくれた。
力を込めるため、多少の人間味は出るそうだ。海の龍神が離れると、力を失うため事件が解決するまでは船に残ってくれると言っていた。
その日の夜、ニィナと二人で……(いや小さくなった蛇と魚が一緒だが)船内にあるレストランに来ていた。
船はサブマリン国の周囲を回っており、島の明かりが幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「ルース様、サブマリン国の料理は美味しいし、外の景色もとっても素敵ですね」
「そうだな。気に入ったか?」
「はい!また、来たいですね」
「そうだな、来年もまた来るか?」
「良いのですか?」
「ああ。だが、今度はサブマリン国の島も行こう」
『……良い雰囲気だな。お前さ、あの娘の魂の伴侶だろ?』
『うむ』
『あれは、良いのか?』
『構わぬ。ニィナが幸せである事が、我の幸せである故な』
『寛大だな、おい』
『長く生きて居れば、お前も何時かそう思えるだろうよ』
割と仲の良い2人だが、年齢で言えば海の龍神は若い。3人の龍神の中でも1番若いのが海、その次が大地で、1番歳を取っているのが天の龍神だ。
年寄りと言うと怒るので、誰も歳については言及しないけれど。
気が付けば、男と娘は既に席を離れ甲板に出ていた。海の龍神は、本当に幸せそうに2人を眺めているハイルに、仕方なさそうに溜息をつき、全力で力を貸すと決めたのだった。
✾✾✾
夜中……
船内の中でも特に豪華な客室に、忍び足で近づく影があった。客室の前には兵士が2人立っていたが、何故か眠っていた。
影は、兵士が立ったままいびきも無く眠っている事に、違和感を感じることも無く静かに扉を開けて中に入った。
(ふふ、私が先程渡したワインには、眠り薬が入ってたのよ。馬鹿な兵士ね)
兵士は本当は眠ってなどいなかった。彼女が用意したワインは、こっそりと捨てられていたのだ。そして、寝たフリをしていたに過ぎなかった。
(さて、ザインが居ないのが不思議だけれど……でも、陛下が一緒だから問題無いと、判断したのかしらね)
ベッドの脇まで行くと、憎きニィナは安心しているのか熟睡だった。
「本当に憎たらしいっ!お前などが王妃なんて…私は認めないっ!」
女が両手を振り上げると、真っ逆さまに振り下ろした。その手には鈍く光るナイフが握られており、ニィナの胸に突き刺さった。
「死ねっ!死んでしまえっ」
何度も何度も振り下ろされ、シーツや布団は真っ赤に染まっていった。
なのに、ニィナも、隣に寝ていたルーファスも、ハイルも全く起きる気配が無かった。
彼女は、その事にも気付かないまま、ナイフを振り下ろし続ける。
ニィナの体には、無数の刺し傷で原型が分からなくなりつつあった。
何十回と刺した女は、ようやく気が済んだのかナイフを振り下ろすのをやめた。
その時だ
『良くもまぁ、ここまでやったもんだな、お前』
「だれ?!」
『俺か?俺はまぁ、お前が刺した少女の友人の友人だ』
「はぁ?」
彼女は、自分の犯行を見られていた事に気付き、声がした方に歩き出そうとした。
最悪、そいつも殺せばいい……そう思って。
『俺を殺すのは諦めた方が良い、無理だからな』
けれど、声がするのは真下。
今自分が、何度も刺した女から発せられていた。
「どういうことよ?!」
「やっと、捕まえられるな」
「っ?!」
女が振り返ると同時に、部屋の明かりがついた。扉の前には、先程の兵士と、さっきまでベッドに寝ていた筈のルーファス、そして宙に浮いた魚がいた。
「久しいな、ルゥルゥよ」
「へい……か」
「お前がした行為は、犯罪だ」
「ふ、ふふ」
「何がおかしい」
「貴方が愛した女は、もう居ない!ねぇ、私は貴方を愛してるの、もう良いでしょう?
あの女の妹に、ほんの少し知恵を与えただけで勝手に動いてくれて……龍紋を血で汚し契約が切れれば、別れると思ったのにっ!あわよくば死んでくれればっ!でも……ふふふ、死んだ…あの女は死んだ!私が刺して殺したっ!あははは」
「……お前は何を勘違いしている?ニィナは死んでいない」
顎で後ろのベッドを指し示すと、ルゥルゥは振り返った。そこには、血だらけで立ち上がるニィナがいた。
「っ?!!」
ぎこちない動きで、ルゥルゥに向かって歩いてくるニィナ。
「なん……ぁ、やっ、来ないでよっ」
ルゥルゥは、手に持っていたナイフを再び振り下ろそうとしたが、ルーファスによって止められた。
ルゥルゥの前まで来ると、ニィナはパンッと小気味いい音を響かせて弾け飛んだ。
辺りには、真っ赤に染った水だけが残っていたのだ。
ルーファスがルゥルゥを見ると、彼女は失禁し気を失っていた。
それを兵士に預け、サブマリン国の兵士と、俺の国の兵士に後は任せ、自分は本物のニィナが眠る部屋に帰った。
『解決して良かったな』
「ありがとうございます。貴方の協力のおかげだ」
『天のの、大事な娘だからな……お前は知っているのか?天の契約の事は…』
「魂の伴侶なら、聞いた。だが……ハイル殿は、ニィナだけじゃなく、俺や仲間も愛し大切にしてくれている。たまに、邪魔してくるがな」
『そうかよ』
魂の伴侶とは、ニィナが死んで魂になった後、ハイル殿の傍にずっといる事なのだそうだ。
ハイル殿が言うには、
『我は1人しか愛さぬ……が、他の天の龍神は、飽きたら解放し、他の娘と契約すると聞いたな』だそうだ。
それ以上、海の龍神が何かを言うことは無かった。
翌日、サブマリン国の王子が来て、あの女の処罰はどうするのか?と聞いてきたので、場所を移動した。
ニィナは、ハイル殿と、海の龍神と遊ぶそうで船の後方に向かって歩いて行った。ザインに目配せし、俺も王子と共に移動した。
結論としては、ルゥルゥは海の龍神の力で、ここからかなり遠い島国に島流しに決定した。
『俺が、遠い島国に捨ててきてやろうか?』
この一言で、決定した。
海の龍神にも、サブマリン国にも借りが出来てしまったが、王子が「今回の件は、僕達は何もしてませんよ。龍神様が友達の為にした事ですから」とあまり外交の問題にはならないと言った。……が、俺の気持ちが収まらないので、いつか何かの形で返せたらと思う。
ルゥルゥの味方が、もしくわ雇った何かがいるかと思ったが、それは無かったらしい。
俺や、ニィナの連れている龍神が怖く、力を貸そうとする者は居なかったそうだ。
「ハイル様、楽しかったですね!海の龍神様ともお話出来て嬉しかったです。っね?ルース様!」
「ああ、正直助かったし、その後の釣りやクジラという大きい生物を見れたのも、楽しかったな」
俺の国の港町で船を降りて、いま海の龍神やサブマリン国の王子と最後の別れをしている。
「また行きたいですね」
「そうだな、じゃあ、結婚記念日は毎年サブマリン国に行くか?」
『ほぅ、お前達の結婚記念日は何時だ?』
『お主、まさか来るつもりではなかろうな』
『さぁな』
「その時は、是非城にも顔を出して下さいね。父上達も会いたがっていましたから」
サブマリン国は、確か結婚式には来れなかったのだったか……
「そうだな」
遠ざかる船に向かって、ニィナは一生懸命に手を振っている。
こうして、無事に新婚旅行を終えた2人は、仲良く帰って行きました。
次の年も、その次の年も、サブマリン国に行き船で旅行をしたり、浜辺で過ごしたりしたそうです。
傍らには、蛇と魚が常に傍におり、楽しく過ごしたそうです。
~新婚旅行編完~
────
新婚旅行やクルーズ、豪華客船について調べた事をほとんど使わなかったな……(✽︎´ཫ`✽︎)
新婚旅行編は、これで完結です。
ありがとうございました(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)
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