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第3話(ルーファス)

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「セラフィー・シャリオンか……」
「陛下……が来ました」
「通せ」

今日セイレーン国から、龍神の巫女セラフィー・シャリオンが、サンドリア王国国王である俺ルーファス・サンドリアに嫁いできた。

久しぶりに見た彼女は少し痩せているように見え、更には俺の事を覚えていないと言う。



初めて会ったのは何時だったか……

確か……


✾✾✾

契約には至らなかったが、龍神王を呼んだ事が評価され龍神の巫女と言われ始めた。
彼女の存在を知った俺は、直ぐに会いに行きたかったが、側が断ってきた。

まぁ、蛮族と言われる俺たちを、向こうが受け入れるとは思わなかったが……な一応、言ってみたんだ。

それから数年後……

セラフィー嬢は未だ契約出来ていない様だが、雨を降らす事が出来るらしく、力も安定してきたようで大掛かりな式典を催す、と俺の元に招待状が届いた。

側近と行ってみれば、セラフィー嬢が祭壇で龍神を呼ぶものだった。

彼女が舞い祈りを乞うと、空に龍神が現れ雨を降らせた。更にその雨には癒しの力があるらしく、傷ついた者、病で苦しむ者を癒していったのだ。

俺はこの時本物だと思った。その力を是非とも我が国に貸して欲しいと思った。

我が国は、今よりはマシだったが、それでも水不足には悩まされていたからな。

だから、彼女に挨拶に行った。
その力を貸して欲しいと、頼みに……


まさか……あんな言葉を聞かされるとは思わなかったがな。




『はぁ?!あんな蛮族の国に行けって?!嫌なんですけどっ!それに、何あの格好!私には、全然釣り合わないわよ!』
『セラフィー様!そのようなことを言ってはいけません!』
『セラフィー、外見で人を判断しちゃダメだよ』
『お姉さまは黙ってて!無能の癖に!
とにかく絶対に行かないわよ、私は!蛮族の国に行くなんて!どうしてもって言うなら、お姉さまが行けば?!』
『セラフィー様!!』
『セラフィー!』

セラフィー嬢に挨拶をして、俺の頼みは丁寧に断られた……だが、まさか部屋を出た途端に、あんな言葉を聞かされるなんてな……。
俺がまだ、部屋の前に居るのに気が付いてないのか……?そこに頭がまわないのか?

まぁ、あんな事を言われたら、力を乞う気も無くなったがな。いや、民のためなら頭を下げてでも力を乞うが……それは、今じゃない。もう少し足掻いてみるか。

✾✾✾

この出来事が5年前だ。

にしても、あんな事を言っておいて、俺の元に嫁ぐとは思えない。

ならば、あの娘は……


すると、扉をノックする音が部屋に響く。

「陛下、失礼します」
、どうした?今回の件が片付くまで、接触はしないんじゃなかったのか?」
「その予定でしたが、狂いましたので……急ぎ報告に来た次第です」
「何があった?」

は、俺のだ。

龍神の巫女を嫁にと望んだ時、何かあるといけないから、密かにを頼んでおいた。

カラム達、表の護衛と、ザインの裏の護衛……龍神の巫女を守る為、万全を期していた。

シャリオン家が、ザインを雇えば万々歳。
たとえ雇わなくても、カラムが雇うという形にすれば問題は無いと。

だからザインは、元々はこの国の、俺の側近の一人だ。

「実は、陛下に頼みがありまして」
「頼み?」
「陛下達の事です。もう気付いてますよね?」
「セラフィーではなく、その姉ニィナという事か?」

ザインは答えなかった。
その代わり、微笑み言葉を紡ぐ。

「実は、シャリオン家当主に命じられた事がありまして…もちろん書面での契約なので、破ろうと思えば破れますけれど…」
「内容は?」
「『ニィナが失敗したら、殺せ。ルーファス国王を謀った事が知られれば、国際問題に発展する。その前に、罪を全て被せて殺せ』と」

ザインが語った言葉に、息が止まる。
流石のカラムも驚いて言葉にならないようだった。

「もし陛下が、様に言及なさいましたら、殺すよう命じられました。彼女も、その場に居合わせていますので知っています」
「もしかして、彼女があんなにもビクビクしていたのは……」
「ええ。バレてるのでは?と思ったのでしょうね」
「なので、出来たら言及しないで頂きたいのです。結婚式がある一月後までは」
「分かった」

なんて奴らだ……自分の娘の命をなんだと思っている?!ましてや龍神様と契約してるんだぞ!?


「そういう事か…」
「誰だ!?」

俺たち以外誰もいなかったはずだ!
俺が気配に気づかないとは……カラムもザインも気付いてなかったようだし……何者だ?

「我が名は、ハイル。この場にいる者だけ、我が名を呼ぶことを許そう。ザインは、われが分かるな?」
「……!まさか……ニィナ様が契約なさった……」
「そうだ、龍神ハイルだ」

窓辺からゆっくりと俺たちの元にくるのは、ハイルと名乗った龍神。

龍神と言うのは人型になれるのか!?

俺達が言葉をなくしている間も、龍神ハイルは興味深そうに俺達を見ている。

薄い青色の髪は地面に着くほどに長く、耳は少し尖り、その先に鮮やかな青の宝石がついた耳飾りが揺れている。

服装はこの辺りでは見かけない物だった。
上部は布を右上で合わせ、下まで垂れているもので、下はゆったりとしたズボンを足首の辺りで緩く搾った格好だ。
どこかの国の民族衣装だと何かの本で読んだ気がするな。

「まさか、ザインがこの国の者だったとはな」
「っ!!」
「あぁ、怯えるでない。この事をニィナに言う気は無いのでな」
「何故?…ですか?」
「……我は、あの娘の幸せを望んでおる。言ったところで、悲しませるだけだ。ましてや、お主には殺されるかもと言う恐怖を持っておる。そんな時に言ったところで、猜疑心を強めるだけだ」
「……確かにそうですね」

ザインの正体を知るために姿を現したのか?

俺は龍神ハイルとザインの会話をカラムと共に聞いていた。
にしても、この龍神……かなり高位なんじゃないのか?人型になれるなんて聞いたことがないが……

「あぁ、我が姿を現したのは、ザインが理由ではないぞ」

俺の考えを読み取ったのか!?

「我は心も読めるゆえな、お主らの考えてる事は筒抜けだぞ?まぁ良い、我もニィナについてお主に話したいと思ってな」
「……」
「お主は気付いておろう?我が高位であると」
「やはり、そうでしたか…なら、ニィナ嬢は何故あのような扱いを?」 


龍神ハイルは、一つ息を吐くと呼び出された日の出来事を思い出す。

✾✾

「汝が負わし傷を我が祈りで癒し……」

あぁ、なんて清らなかな魂の輝き…澄んだ心の持ち主なのだ……

地上に満ちた負のエネルギーを清め続け、逆に負に染まりかけた我を癒す輝き……

あぁ、この娘ならば我は……

「我らが王よ…彼女ならば、貴方様も我らも救われますっ!」

仲間の龍神に言われ、ほぼ何も考えず美しい心に惹かれるように下に降りていく……

龍神の中でも最も力を強く持つ王……ハイルは、ニィナの清く美しい心に惹かれ降り立ったのだった。


✾✾

途中で力尽き、本来の姿を保てなくなって消えるように縮んでしまったが……

無事に契約も済ませたのに、何故かもう片方の娘の方が我を呼び出したと思われている。

まさか、途中で消えたのがもう片方の前で、ニィナは我と契約した事で馬鹿にされるとは思わなんだ。

そのせいで、ニィナはこの8年、馬鹿にされ、メイドの様な扱いを受けてきた。自信も無くし、自分の力を何一つ信じられなくなっている。


龍神ハイルは、そう言った。

「では、龍神ハイルは、ニィナの自信を取り戻し幸せになって欲しいと?」
「そうだ、我はお主を気に入った。あの男の傍には戻したくないゆえ、ニィナが願えば幾らでもお主に力を貸そう。だから、お主も……ニィナを好いてはくれぬか?幸せにしてやってはくれぬか?」

龍神ハイルは、静かに頭を下げた。

「!、頭を上げてくれ!」
「出来ぬ、我は頼む側ゆえ。ニィナにも言われておる。お願いする時は、こうするのだと」

ニィナ嬢……
確かに人間同士なら、当たり前なのだろうが……相手は龍神様なのだから…

そう思いながらも……

ニィナ嬢に言われたからと、素直に頭を下げる龍神に親近感がわいた。

「問題ありませんよ、龍神様。既に我が王ルーファス陛下は、ニィナ嬢を気に入っておりますから」
「おい」
「でなければ、あんな言葉を言うはずがありませんからね」
「そうなのか?ならば良い。では、我はもう行くぞ…ニィナの傍を、長く離れる訳にはゆかぬのでな」

龍神は一際光り輝くと、蛇より少し大きい姿に変わった。

『ニィナは、セラフィーを演じておるゆえ、我は姿を消しておる。何かあれば、心で語りかけるが良い。念話で答えてやろう』


そこまで言うと、窓辺からするりと外に出て行った。

龍神が出て行くと、一瞬で静けさが戻る。


「ザイン、ニィナ嬢を頼んだぞ?奴の契約は無視し、必ず何かあっても守ってやってくれ」
「はっ!」

俺はザインに指示し、今後の予定をカラムと確認する事にした。

龍神と話していて気づかなかったが、だいぶ話し込んでいたようだ…空が白け始めていた。
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