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第3話

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「旦那様!!」
「どうした?!」

夕食を食べ風呂から出た頃、使用人が俺の私室に駆け込んで来た。

何事かと問えば、クロード家のルヴィア嬢と名乗る者が屋敷を訪れた……と。
こんな夜更けに訪れるとは、何を考えている?!

やはり、噂通りの人物なのかと物思いに耽っていたら、使用人が言いづらそうに口篭りながらルヴィア嬢の詳細を伝えてきた。

それを聞いた瞬間、俺はいてもたってもいられず玄関へと走った。

『ルヴィア様と名乗られる方ですが、服は薄汚れ、腕や足に怪我を負っているご様子で……、更に屋敷に入られた瞬間に座り込んでしまわれて…だいぶお疲れのようでして……』

俺の後ろをアルフレートが追いかけてくる。

「旦那様……!本当にルヴィア様でしょうか?!ご令嬢が先触れもなく馬車もなく訪れるとは思えませんが!!」
「分からん!!が、無視できる状況でもないだろう!怪我してるんだぞ!」
「怪我の方は、使用人が治療していると!」
「分かっている!」

分かっているが、心配なんだ!!
アルフレートと言い合いながら駆けつければ、玄関には数人の使用人が集まっており、その中央には黒髪の美しい女性が座り込んでいた。



----

まさか乗合馬車が近くの村までだったなんて……そこからは、特別な馬車でないと行けないなんて、知らなかったわ……。

確かに、雪道だし、魔物も出るし……

簡単な魔法でも扱えて良かったわ……じゃないとここまで辿り着けなかったもの…。

何とかスノウリリーにある、ギルフォード様の屋敷にも着いたわ……ただ、先触れなんて出してないし…、最悪不審者扱いね。

でも、乗合馬車で路銀は尽きてしまったし…と、取り敢えず取り合って貰えなくても行くしかないわ!

屋敷の扉を叩けば、使用人の方が対応してくれて、不審者扱いされてもおかしくないのに、優しく介抱してくれるなんて……きっとギルフォード様ができた方なのね。

水を頂き一息ついていたら、慌ただしい足音が響いた。

足音がした方を向けば、使用人の方達が頭を下げた。急いで立ち上がり、私も同じように頭を下げた。

ああ、この方が……


(ギルフォード……様)


かつて、この国が隣国から攻め込まれた際、先陣切って敵陣に切り込み勝利に導いた英雄。国王も無視出来ぬ王族の血を引く英雄。 

ギルフォード様が、国境の領地を治め守って下さるから、隣国は手を出せず友好関係に出ざるを得なかったほど。

そんな御方を、野獣などと蔑称で呼ぶのは、王太子や妹と、着飾ることしかしない令嬢と嫡男以外の令息ばかり。

分別を持つ貴族なら、絶対にそんな蔑称で彼を呼ばない。




ギルフォード様の背はとても高く、2mはありそう……私は158cmしかないから、かなり見上げる感じね。城の騎士と違って、体格もがっしりしてるわ。鍛え方が違うのね……

その方が私の前まで来ると、膝を折り跪いた。

「貴方が、ルヴィア・クロード嬢か?」
「は、はい……と言っても、身分を証明するものは何一つ持ち合わせてはいませんが…」
「間違いはないでしょう、私はルヴィア様を王都でお見かけした事がありますから」

ギルフォード様のそばに居た方が、断言して下さり、私の身元は証明されたみたいです。

「ここでは、ゆっくり話せないな……」

立ち上がり私を見下ろしたギルフォード様は、しゃがみ私の背に手を添えて……

「嫌かもしれないが、少し我慢してくれ」
「え?」

足の裏に手を添えると、一気に抱き上げた。

「ええ?!」
「すまないが、このまま移動するぞ」
「……っ!」

心臓がバクバクと脈打っている。

こんな事、グザル様にもされた事ないわっ!

「怪我してる君を歩かせる訳にはいかない」


ルヴィアは、応接室のソファに下ろされて、事の顛末を聞かれた。

グザル王太子に婚約を破棄され、そのまま王都を追い出された事。

王太子と妹は、情事に耽り。両親や使用人さえも私に無関心、その為馬車を出して頂けなかった事。

お金を一切頂けなかったので、持っていた少ない宝石を売り路銀にし乗合馬車に乗ってきたこと。

その乗合馬車がスノーリリーの町の手前の村までしか行かないらしく、そこからは、歩くしか無かったことなど全て話しました。

所々傷だらけなのは、道中魔物に襲われて戦ったから……そこまで伝えると、ギルフォード様の顔色が青白くなっていた。

「…………」
「だ、大丈夫ですか?ギルフォード様」
「……あぁ、大丈夫だ。アルフレート、ルヴィア嬢を部屋へと案内してやってくれ」
「畏まりました」
「今日は遅い、ゆっくり休んでくれ」
「は、はい。お言葉に甘えさせて頂きます」

ゆっくり立ち上がると、アルフレートさんが肩を支えてくれる。
ギルフォード様に一礼し部屋を後にした。



与えられた部屋は、とても可愛らしく、ギルフォード様が悩みに悩んで整えていたと、アルフレートさんが言っていた。

「流石に、このまま寝る訳には……いかないわよね……こんなに汚れてるんですもの……あふっ」

ベッドに腰かけて思いながらも、欠伸が漏れて瞼は落ちてくる。 

パタッと、腰かけた状態で横に倒れた。

(だ……め、ベッド……が、汚……れ)



私の意識は、そこで途絶えた。



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