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過去と闇

第16話 13年前

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13年前  アルベルト 17歳

夜も更けた頃、王城の図書室で勉強していたアルベルトに……

コト

っと、何かが机の上に置かれた。
ロウソクの光に照らされたそれは、少しくすんだ緑色をした液体が入った瓶だった。

(またか)

小さな溜息をつき、被りを振る。

「イレーネ、要らないよ。昨日の約束、忘れたのかい?配るのはダメだと言ったはずだよね?」

「ぅ……」

口調が少し厳しくなる。
それは仕方ない事だった。

ひと月ほど前妹のイレーネが、水晶の間で受けた職業診断で、特殊職業、錬金術師と判断された。
その為か、
ずっとポーションを作っては周りに配っていた。

だがそのポーションは、出来がいいとは言えず、1週間前に渡されたポーションは、1日トイレから出れないほどに腹を下し、4日前に渡されたポーションは、何故か1日笑いが止まらなくなり、2日前は、全身が痒くなった。

私だけでなく、国王たる父上、母上、弟も同じ目にあったそうだ。
その為、昨日さくじつポーションを作るなとは言わないが、人に配るのを禁止したはずだった。

「イレーネ、約束は守らないとダメだ。いいね」
「……はい」
「明日は早いのだろう?行きなさい」

多少強い言い方になってしまったため、イレーネが落ち込みながら図書室を出ていった。 


俺が、イレーネを見た最後だった。


※※※

イレーネ 5歳

アルベルトに怒られた次の日の早朝、頑張って早起きしたイレーネは、錬金釜の前に行く。これは、錬金術師と判明した時に、父である国王が買い与えた物。

「ぜったい、ちゃんとしたポーション作るの!それで、にぃさま達にあげるんだ!」

薬草と薬草を入れて、魔力水を注ぐ。
グルグル掻き混ぜて、少しづつ馴染ませるように魔力を注ぎながら混ぜる。
すると、徐々に錬金釜の中が光り始める。

「もうすこし、まぜまぜ」

ヴォン!

嫌な感じの音と、黒い煙、そして、匂いで失敗だと分かる。

でも、もしかしたら見た目がダメなだけで効果はあるかもと思い、家族に配ってたら皆が辛い目にあったそうで禁止されちゃったし、怒られたし、メイドさんやとうさまを支える人達に睨まれてしまった。

「ダメだった……うううん、もう1回!」


そして、4回目の挑戦で、ぽんっといい音と共に、綺麗な透き通った緑色の液体が出来た。

「できた!これなら、にぃさまも怒らないよね!帰ってきたら、わたそう!」

メイドが部屋に来る前までに、完成して良かった!

今日、とうさま達が隣国に行くのです。
どうめいこくかいぎ?に参加するのです。

とうさま達と一緒に私も隣国に行くのです。

でも、とうさまも、にぃさまも忙しいから、私は護衛の騎士と一緒に先に行くことになったのです。 


でも、にぃさまに、このポーションを渡す事は出来ませんでした。



※※※

レオハルト 15歳

早朝から、庭で鍛錬していたら、ヴォンという音が上の方から聞こえてきた。

「イレーネ、また作ってるのか?」

チラッと上を向けば、黒い煙がもくもくと空に消えていた。

共に鍛錬の相手をしてくれていた騎士に視線を向けると、苦笑いが帰ってきた。
もしかしたら、彼らもイレーネの被害者なのかも知れない。

「はぁ。まったく、今日は隣国に行く日だと言うのに何をしてるんだ」

レオハルトは、若干イライラしながら、剣を振るう。

俺達家族は、とても仲がいい。たが、ひと月ほど前からのイレーネのポーションには困らされていた。俺も兄上も、父も母も、騎士やメイド達もだ。だから、家族や皆で少しお説教したんだ。

その時は、「ごめんなさい、とぅさま、かぁさま、にぃさま……みんな」と謝っていたが、ちゃんと、反省してるんだろうな?

可愛い妹だが、ちゃんと悪い事は悪いと教えないとっ!

鍛錬が終わり、イレーネが隣国に向かった。
また直ぐに会えると思ったから、見送りに出なかった。


でも、俺は知らなかった。
これから先、11年もの間、イレーネに会えなくなるなんて。お説教した時のイレーネの泣き顔が頭にこびりつき、離れなくなるなんて。


※※※

国王ヴァン37歳 

「さて、リシア。アルベルト、レオハルトくぞ」
「ええ、あなた」
「父上、急ぎましょう。イレーネが、寂しがってますよ。きっと」

仕事の都合上で、私とリシアは昼前に行く予定だったが、中々仕事が片付かず昼をだいぶ過ぎてしまった。

イレーネが城を出たのは朝だった。
風魔石ふうませきを車輪に埋め込んでるから、数時間で隣国には着いているだろう。

私達も急がねばな。
皆で、馬車に乗り込もうとした所……

「陛下!国王陛下!御前失礼します!最重要伝達です!」

1人の兵士と騎士が、馬で駆け付けてきた。
見た事の無い兵士が、我が騎士と共に国王の前に跪く。

「どうした!何があった!?」

息を切らした兵士が語った言葉が、頭に入ってこない。一瞬、頭が真っ白になった。
「う……そ」リシアが、口元に手を当てて、震えていた。

「うそだ!何かの間違いじゃないのか!」
「ちゃんと確認したのか!」

息子達が兵士に詰め寄っていた。
私も信じられん……娘が、イレーネが亡くなったなど。


『イレーネ様が乗った馬車が、崖下にて発見されました!王家の紋章を確認しましたので間違いないかと!イレーネ様は、残念ながら確認できておりません、もしかしたら川に…!騎士ですが、崖下にて遺体で発見されました……』


なんという……
隣国がイレーネが来ていない事に疑問を感じ、兵士を派遣してくれたらしい。そこで崖下に馬車を発見、確認したところ、我がティルセリア王国の紋章が入っていたと。

本当に……イレーネは、亡くなったのか?
私の大切な……娘……


※※※

王妃フェリシア 35歳


わたくしの大切な娘が亡くなったと、昼に聞かされ直ぐに隣国に向かいました。

あの子が通った道を私達も通り、事故にあった場所に着きました。
崖下を覗き込めば、確かに私達の国の馬車がありました。

「ああぁ、イレーネ……」

馬車の残骸が、動かない馬や騎士が崖下に居るのが遠目でも分かります。
そして、イレーネの生存が絶望的なのも、見れば分かりました。

あの子に会った最後が、
昨日の夕飯時、会話は無く黙々と終わらせた食事だったなんて……




イレーネが亡くなったと、聞かされてから数日経ったある日。
私たちの元に、バンデール伯爵がやってきた。服がはち切れんばかりの巨体で、ドスドスと歩いてきました。

「この度は、王女殿下の訃報ふほう、真に残念でなりません」

この者は守旧派で、会議で私達とよく対立していた者。本当に残念と思っているのかはなはだ疑問だわ!

「しかも、ていたなどと……残念ですなぁ」


(っ!なんですって!?)


夫も子供達も驚いた顔をしていた。
当たり前だわ、事故としか言ってないのに、何故車輪に問題があったと知ってるの?
私達も知らないのに!

バンデール伯爵は、ニタニタ顔が隠しきれていなかった。

「なぜ、に問題があると知っているのです?バンデール伯爵?」

わたくしは務めて冷静に顔に出さずに聞き返す。

彼は守旧派。

私達、改革派と対立する者達。

まさか……!

「いやいや、たまたまですよ。そんな気がしただけですよ」
「あなた……!」
「イレーネは、まだ死んでない!」
「遺体は、まだ見つかってないんだ、生きてる可能性だって充分にある」

ギリッと歯を食いしばり、夫や息子達とバンデールを睨みつける。

「おー、怖い顔ですなぁ、王妃殿下。信じるのは勝手ですが、現実を受け止めた方が良いのでは無いですかな?では、儂は失礼しますぞ」

ドスッドスっと、来た時と同じように巨体を揺らしこの場を離れていく。


「あの男が……!」
「許せん!」
「父上、証拠を探しましょう!アイツを突き落とせるだけの証拠を」
「イレーネも、探しましょう!絶対に生きてます!」
「あなた、私達だけでも信じましょう、あの子は生きてるわ」
「そうだな……王位は、アルベルトに譲り、私達が探そう。イレーネと守旧派を追い詰める証拠を」


こうして、私達の戦いが始まり。
イレーネが見つかるまでの11年、探し続けたわ。



そして




勇者王決定戦で……

『東の勇者メンバー!錬金術師のイレーネ!』

と紹介された時、私達は自分の目と耳を疑った。
目の前に、大きくなった、私達のイレーネがいたのだから。
そして、その瞳に私達と同じ王家の紋章が浮かびあがっていたのだから。
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