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第三部

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 タカキヤミ、彼がナタリアの仲間に怒りを向けるのはそれらの想いからだ。

 彼ほどではないが、俺も今ではラビットの行動に敬意を持っている、と同時に軽蔑もしてはいる。一人で戦って、一人で死のうなんて――ってのはナナの言葉だったが、ラビットのそれにはナナの言葉が一番俺の中で響いていた。

「ごめんなさい、私の仲間が軽率なことを言って――」
「いや、こちらこそ……怒りを抑えられなかった、自身の未熟さを恥じる」

 ナタリアもタカキヤミもそう言うと、特超級レイドモンスターの話はそこで終わりとなる。

 そうなると、ナタリアが俺たちにそれを聞くのは必然だったのかもしれない。

「私たちは討伐で帰還しようと考えていたんだけど、あなたたちはどう考えているの?」
「俺たちは、とりあえず対策としてしかまだ何も決まっていない」

 これは嘘ではなく表面的事実で、ヘイザーもアスランもクリア目標に対してあまり行動に出ていない。低レベルのプレイヤーの帰還から、フィールド上のモンスターの出現が無くなったこともあり、レベリングがダンジョン内のみに絞られているのも原因ではある。

「他のみんなはそれで納得してるの?」
「……理解しているだろ、納得しているかは知らんが――」

 俺の言葉にナタリアは不満そうな表情を浮かべる。その不満の表情が期待との比例であることは察することができる、が、その気持ちは彼女が勝手に持っているものでしかない。

「俺たちとしては、他のユニオンにこれ以上暴れられたくないというのが現状の意見だ」

 俺の言葉にナナが、「私たちは戦いで帰るなんて仕組まれていることはしたくないの」と言う。ナタリアが少し目を閉じて何かを考えていると、不意に低い男の声が彼女に話しかける。

「ナタリアァァ嬢ちゃん、どうするつもりか聞いてもいいかぁぁ?嬢ちゃんが選ぶならどことだって一戦交えないこともないぜぇぇ」

 白髭に短い髪も白く、口元の葉巻はアイテムなのか装備なのか分からない。

 歳は40とも50とも見えるその男は、ナタリアに、「ダヴィード!」と呼ばれ、男は右手に葉巻を持ち直し煙を口の端から吐いた。

「ダヴィードだぁぁ、よろしくなぁぁJPプレイヤー諸君」

「彼はダヴィード、私のギルドで一番強いプレイヤーだよ」
「一応RUのフルダイブゲームのプロプレイヤーだぁ、ところでぇぇ、JPはどのくらいプロがいるんだぁぁ?」

 JPにもプロプレイヤーはいる、アスランのギルドに一名だけだが、そこまで有名ではないのはJPならではなのだろう。

「1人だけど、私と同じギルドにプロの子がいるわ」

 ダヴィードは、「1人だけかぁぁそりゃ気の毒に――」と葉巻を口元へと運ぶ。

「止めてダヴィード、確かにJPにプロはいないのかもしれない、でもそこにいるヤトはプロより強いわ、たぶんあなたよりね」

 ナタリアの言葉にダヴィードは視線を俺に向けると、「……随分ヒョロイガキに見えるがな」と言う。

 確かに、ダヴィードのアバターの見た目は筋肉が隆起して迫力がある。が、アバターの筋力数値なんてものはないし、STRで力の高さが比べられるBCOでは外見の細さなど関係ない。

「信じる必要はないし、それに関して意見はないが、組むのかどうかを話し合ってもらいたいものだな」

 俺がそう言うと、ナタリアもダヴィードの肩を叩き、ダヴィードは跋が悪そうに煙を吐くと頷いた。

「そうだ、ナタリア、もう一つ聞きたいことがあるんだ」
「なに?」

 俺はようやく、最近BCOに起きている異変について口を開く。

「最近圏内、ホーム内、どこにでもモンスターが出現する時がある。それも、とても弱いモンスターがだ。それについて何か知っていることはないか?」

 その話題にナタリアは知らない様子ではないものの、「ごめんなさい」と一言謝ると口を閉じた。

「いや、俺たちだってまだ何が起きているか分からないのが現状だからな、自分の無知を棚に上げて責め立てたりしないさ」
「……棚がどうしたの?」

 和訳のミスはこういうところにダイレクトに出てくる。

 重たい話の最中に言い回しがちゃんと伝わらなければ、一歩間違えば争いになりかねない。

「すまんな、日本的な言い回しを使っただけだ」
「へ~とても興味あるわ!教えてヤト!」

 近寄ってくるナタリアの前にナナが割り込むと、「話し合いはもういいでしょ?」と威圧的にナタリアを阻んだ。

「……私はヤトと話がしたいんだけど」
「だめ、それは機密上できない事って考えておいて」

 ナナの言葉に、タカキヤミはヤトに耳打ちする。

「機密って?」
「……さぁ」

 この時の俺には、ナナがどうしてそんな態度なのか分からないでいた。

 ただ、嫌がらせというよりは、ナナ個人の感情が関係しているのだと考えると、彼女を止めようとは思えなかった。
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