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第二部
72.31 ファントム・ホライズン
しおりを挟む31 ファントム・ホライズン
第9エリアには、シトリーという街が最南にあり、北へ向かうほど森林地帯が広がる。
そして、本来ならプレイヤーの最初の難関になるであろう、ハイド――忍んでは進めないフルエンカウントの平原エリアが南に広がっている。
だが、現状は中盤で現れるはずのモンスターがゾロゾロと徘徊し、プレイヤーにとっては1対4になったり、場合によっては5対35強になったりする可能性のあるデンジャーゾーンになってしまっていた。
レベリングの効率だけなら、別のエリアの方が格段にし易い。
そのため、シトリーに拠点を置く幻影の地平線のサブマスターナナでさえ、初めてエリア内へと足を踏み入れたぐらいだ。フルエンカウントだけあって、敵の認識範囲に入ってしまうとタゲは絶対に離れない。
しかし、ナナの通る場所は、エリア内で唯一モンスターの認識範囲外にあるモンスターの死角。隣接する第10エリアとの境界、そこをナナは移動しているのだ。
そこは地上と空の交わった地平線のような場所。
この移動方法は、アスランが見つけたもので、ギルドの名前の由来でもある。
もしかするとヤトもこの方法で移動しているのかもしれない、そう考えるナナは、ヤトがどう移動しているかは今は問題ではないと頭を振った。
ナナが急ぐ理由は、前回との条件の違いである。
ヤトがいなくなってすでに時間が経ちすぎている上に、ボスのフィールドがどの辺りにあるのかも見当すらついていない。
境界の上を移動していて、それが見つかる可能性も低い、だが、今回平原ということが幸いし、遠くまで見渡せるため、フィールドの波さえ視認できれば問題はなかった。
駆けるナナの視界に潮の満ち引きの様な波が映る。
境界上から出てそこへ一目散のナナは、敵に視認されないよう最速で平原を駆け抜けた。
ボスのフィールド内側に人影が見え、他には一切何もいない様子で、フィールドの前で立ち止まったナナ。
彼女の存在にヤトは気付かない様子で、ウィンドウに目線を止めている。その光景から分かること、それは既に彼がボスを倒しているという事実。
ナナは、フィールドへと入ると、自身のAGIの最大を出し切ってヤトへと体当たりした。
「この~バカァァアア!!」
「――がぁ!!」
不意打ちだったからか、ヤトは避けることなく、その体当たりを受けた。
倒れた彼はナナを視界に入れると言う。
「……いきなり――何するんだ」
ヤトは驚きですぐには立ち上がれなかった。ナナはヤトの倒れる彼の上に腰を下ろすと、無言で右手と左手を交互に振り下ろした。
「……ちょっ、待て、どうしたんだ――落ち着け!」
堪らずヤトはその両手を受け止め、受け止めた瞬間にナナは叫ぶ。
「心配した!!」
ナナは目から止め処なく涙を流しながらヤトに叫び続ける。
「1人で戦って!1人で死のうなんて!!絶対にさせないんだから!!」
ヤトは黙って彼女の言葉を聞く。
「人は!1人じゃなんにもできないのよ!1人で悩んでそれで解決しようなんて無理なの!」
「……」
「私を頼ってよ!今度こそ助けてみせるから!必ず力になってみせるから!!」
その言葉は、ナナが親友を救えなかった痛みから出た言葉だ。
ヤトは、ただただ泣く彼女を支え続けた。
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