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第二部

68.

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「なんだよ……なんなんだよそれは!!」

 明らかに異様なその武器に男は焦る。

「お前ら早く起きろよ!あいつを拘束しろ――」

 倒れた二人はそのままピクリとも動かない。そして、遅れてログアウトの表記が現れた。

 その一瞬、男が目を離した隙に俺は視界から消える。いや、実際には目の前で動いているが、視覚の処理が間に合わない。

 次に男が俺を捉えた時には、3人の女の子を拘束していたアイテムは消失していた。

「な!なんなんだぁぁあ!なんなんだよお前!!」

 男は右手の剣を向ける。男を見ながら俺は小さく呟いた。

「あんたは悪くない、誰も悪くない、悪いのは――」

 男の体を黒い剣がサクっと通り抜ける。

 男の全身から力が抜け、剣が手元からポロリと落ちるとその場で倒れてしまった。

 ビージェイは呆然として倒れた男を見つめる。拘束から逃れたファミリアのメンバーが駆け寄って、ビージェイの体を拘束しているアイテムを剣で破壊した。

 そして、他ギルドのメンバーが倒れている女の子たちを介抱する。

 カイトとマリシャはその時に転移ポートから現れて、おそらくは、フレンドの項目で俺の居場所を確認して来たのだろう。

 拘束から自由になったビージェイは、立ち上がって俺に言う。

「どうして……こいつら――死んじまったのか?」
「あぁ――」

 その言葉に胸倉を掴んだビージェイは怒鳴った。

「どうしてだ!俺のことは構うなって言ったじゃねーか!こいつらだって悪い奴じゃなかった!ただ、ただ……苦しんでいただけだ」

「あのままにしていたら、ビージェイが死んでいた」
「俺なんて死んでも構わなかったんだ!!」

 その言葉に俺は右手でビージェイを殴る、が、その威力というものは一切なく、ただ触れただけだった。

 そして俺は、今までしたことのない表情を浮かべてビージェイに言う。

「お前が死んだら……悲しいだろうが――――」

 いつものように眉はキリとしているのに、どこか悲しげな。

「ヤト……」

 ビージェイの手を解いた俺は、ただただ彼に背を向けた。

 ビージェイは俺の背中に向けて小さく、「すまねぇ」と呟く。

 その後、ビージェイに駆け寄る女の子たちが猫の手というギルドの面々で、どうして彼女らの話でビージェイが微妙な反応だったのかは見れば分かった。

 3人ともが中学生くらいで体も小さく、ビージェイにとっては可愛い妹分にしか思えないのだろう。泣いてすがり付く1人にビージェイは困惑気味で、もう1人は他のメンバーに頭を下げ、もう一人は俺の方を見ていた。

 俺は自身の斬った3人を見つめていた。駆け寄ったカイトはすぐに状況を理解して、俺に話しかける。

「ヤト……チートを使ったんだね」
「……仕方なかった――」

「相手がチートアイテムを使ってたのかい?」
「いいや、普通のプレイヤーに普通の装備だった」

「それって、……チートを使ってしまってもいいものなのかい?」
「良いわけがないだろ、チートに対する抑止だったんだぞ、これはただの人殺しだ」

「……どうしてだい?普通に戦ってもヤトなら――」

 カイトの言葉に俺は小さく呟いた。

「俺を買い被り過ぎだ」

 俺は初めて弱弱しい姿で、カイトとマリシャの横を俯いて転移ポートへ向かった。

 カイトもマリシャも後を追うことができず、ただただその場で立ち止まっていた。

 俺の言葉が何度も繰り返し頭に流れるカイト。

 初めて俺という存在が、それほど特別ではないと理解した瞬間だったろう。しかし、俺になんと声をかけていいのか、その言葉が見つからなかった。その事件は始まりし街、特に非テスターたちにとって大きな話題になった。

 現実へ帰りたいという願い、その果てにクエストを強行する者がいた事実。

 その者たちに抗ったビージェイたち、その者たちをログアウトさせた黒い剣使いのヤトというプレイヤーの存在。かつてそのヤトが、ブラックプレイヤーとして一時噂になったことも再び噂が広まってしまった。
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