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第一部

34.

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 目の前のエネミーは、間違いなく呼吸している。

「プレイヤーになった、とはどういうことだ?」

 ケージェイの言葉に、俺はどう説明するか考えた、が、今はそんな暇はない。

 のん気に会話しながら戦闘ができる状況じゃない。

「それより、今は戦闘に集中するべきだ」

 自分で言っておきながら、こんなことを言うのは本当は間違っているのかもしれない。

 だが、そう呟いてしまうほどに現状は危うい。できればただのプログラムされたCPUの敵の方がまだマシだった。

 俺の焦りを知ってか知らずか、周りも攻撃に踏み出せずにいる。

『あ!本当にいる!これ本物?本物かな?』

 訳の分からない事を言い出すデスピエロ一号に、その場にいる者たちは困惑する。

 戦闘中に、突然会話をし始めるモンスターなんて、まずありえないのだから無理もない。

『ヤトさん?ねぇ聞こえてるんでしょ?本物?』

 俺の名前を呼ぶその目の前のモンスターは、間違いなく完全に油断していた。

 チャンスだ――と俺が思うのも必然なほどだ。

 装備を投剣〝アサルトダーツ〟に変更して、最速の奇襲、その攻撃が剣で切り落とされることは想定済みだ。だが、二刀流といえど、間隙を狙えばダメージは与えられる。

 駆け出して、最後の投剣が弾かれる瞬間に、再度レイブンソードに持ち替え腰の柄を握る。

 側面を衝くためにトップスピードのまま、側宙からの後方宙返り中にデスピエロ一号の横腹に逆さのまま斬り付ける。

 斬り付けた勢いのまま体を回転させて着地すると、勢いを殺さずに遠心力で背中へ剣を振る。

 隙があったはずのデスピエロ一号は、その最後の一撃を二刀で受け止めると再び話し出した。

『やべー、これ本物だわ~、マジでヤトだ!パネ~』
「……」

 左手で操作して装備を変更する。防がれた長剣が手元から消え、次に装備した〝バーバリアンの大剣〟でガードごと斬り伏せる、が、少しだけ刃が当たっただけで防がれてしまう。

 STRが高いだけあって、剣によるガードがしっかりとしている。

 もしNPCなら完全に通っていただろに、と舌打ちした俺の視界には、ケージェイの姿とアスランの姿が入る。

 二人のその背後からの攻撃がいいダメージを与えると、デスピエロ一号がケラケラと笑う。

『やベー、体大き過ぎて戦いにくいやー、これどうやって調節すんの?』

 このモンスターを操っているやつは遊びのつもりだ。

 そう分かった瞬間に俺は叫んでいた。

「総攻撃だ!スキルを使え!!」

「お、おう!!」
「やってやらー!」
「ふざけやがって!!」

 それぞれ思い思いのタイミングで一斉攻撃をする。

『え!うそ!ちょっと待ってよ!まだ設定の途中な――』

 俺の思惑通り、全く反撃のないまま、二人ほどのスキルが防がれただけで攻撃が成功する。 

 HPバーを完全に削り切られたデスピエロ一号は、『あ~あ、やられちゃった~』と呟いてポリゴンにノイズが入りながら、いつもの鮮やかなエフェクトなしに消失した。

 こうして俺たちはデスピエロ一号を倒した。

 だが、その代償は多くて、多すぎて、誰も歓喜の声は上げなかった。

 ケージェイも、アスランも、ナナも、全員がその場に座り呼吸を荒くしている。

 数秒すると、すぐに平常な呼吸に戻るも、脳内は未だに戦闘の余韻から抜け出せない様子だった。

 俺は大剣を消すと、フィールド内を外へと歩きながら忠告する。

「早くここを出たほうがいい、また何が出てくるか分からないからな」

 俺の言葉に、全員が駆け足で戦闘フィールドを後にした。
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