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第一部

28.

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 第5エリア――

 ――ボスフィールド――

「私が前に出る!」

 ケージェイは叫んだ。

 目の前にいるモンスター、デスシザーは大きなカマキリの腕を持った二足歩行の大トカゲ。 

 ヘルスがすでに赤いのそれは、瀕死時の強力スキルの発動兆候が見て取れる。

 前線メンバーの前に楯を持って出る彼は、受け止めた複数回の大カマによる攻撃でHPバーを削られる。

 攻撃に耐え切ったケージェイは、右手の剣を低く構えた。白いエフェクトが剣の先から全体に行き渡ると、右手を起点に体が前に飛び出す。剣先がデスシザーの胴体を突き抜けて彼の体が止まると、軌道にはLIGHTNINGの文字が浮かぶ。

 魔法のようなそのスキルは310のダメージを叩き出し、さらに右からナナのダガー系の高速攻撃が加わり、背後から幻影の地平線のギルドマスターのアスランが大刀を振り下ろした。

 デスシザーは、ノイズの混じった音声を響かせ、黒系統のエフェクトを放ちながら消失し、虹色のエフェクトの球体を地面に撒き散らして飛散した。

「やった!倒した!」
「当然の結果だ」
「やったぞ!」
「本当、虫とか一部でも無理だ」

 互いに勝利の確認をする面々。

 RESULT
 F:7300
 E:430
 D:

 その表示は前回のボス攻略となんら変化なし、肩を落とすメンバーの中でナナが声を上げる。

「レア……ドロップした」

 その言葉に暑苦しい男どもが、ナナの周囲に集まり、彼女のウィンドウを覗き込む。

「ちょっ」

 仮想の体とはいえ、自身の体に男が擦り寄るのを彼女は良しとしない。ダガーを構えた彼女に、男たちは悲鳴を上げて離れた。


「で、一体どういったものがドロップしたんだ?」

 ケージェイの言葉に、彼女はウィンドウのそれを読み上げる。

「カマキリの大鎌……鎌?」

 結果は、STR200オーバー要求の鈍足脳筋武器。

 このシステムアシストのないBCOで鎌は、SWA:Storage Worthless Article、ストレージ・ワースレス・アーティクル、〝倉庫の持て余し物〟となる。

「なんだ~スワーかよ」
「鎌って誰得」
「STR200って極振りかよ」

 使えないアイテムだと落胆する男たちに、ナナは「私のなんだけど」と呟くものの、おそらくは彼女自身もスワーになると分かっていた。

「とにかく、確実にボスのレアドロップが存在することが分かった」

 ケージェイの言葉にオーダーのメンバーは笑顔で頷いた。

 アイテムストレージから、CONTINENTのMAPアイテムを選択するケージェイ。

 手元にマップが現れ、今いる一つの大陸を映し出すと、最南部のエリアにさらに小さく区分されたエリアの中に、NEWの文字が表示されている。

「どうやらキーボスだったらしい、第8エリアが開放されたようだ」

 マジッすか?ヒャッホーっと、オーダーのメンバーは喜びを表した。

 幻影の地平線のギルドマスターであるアスランも笑みを浮かべる。

 戦闘後の勝利の余韻と、新たなるエリアの開拓。第6エリアを攻略しているギルドの面々が知ったら、悔しがること間違い無しの話題だった。

 ナナとケージェイ、オーダーのメンバー数人にアスランが戦闘フィールドから出て行く。

 1人また1人とラインを跨いで、フィールドから人数が減った時だった。

 白いラインが赤く光りだし、フィールドが再びアクティブになるとそいつが現れた。

『DDDDDッデデ――デスゲームを始めましょう!』

 その高い声は間違いなくあのピエロ。

「ジョーカーだと!」

 赤いローブ、顔の部分は虚無、宙に浮いているその手には木製の長い棒にいくつかの釘が打ってある。所謂〝釘バット〟を持った死神のようなモンスターは、〝デスピエロ一号〟と表示される。

 外に出たのはナナ、ケージェイを含むオーダーの6名とアスランの仲間1人。

 内に取り残されたのは、オーダー14名にアスランとその仲間2人。

「おいおいおい!嘘だろ!」
「こっちはアンプルがもう無いんだぞ!」

 唐突に訪れた理不尽に恐怖するオーダーのメンバー。

 もちろんアスランとその仲間も顔に焦りを浮かべる。

「みんな!」

 ナナが再びフィールドへと進む、がケージェイがそれを止めた。

「今はまだだめだ!設定上勝利できない強さなら外に出た者たちだけでも命を優先すべきだ」

 オーダーのメンバーが内から出ようとしているが、それを戦闘フィールドが阻んでいる。

 つまり、外へは出られない、内側へはどうやら入れる様子で、アスランの仲間の1人が一度外に出ていたのに、すでに入り直したことから分かったことだ。

「そんなこと言っても!」
「皆落ち着け!一度敵の強さを把握してからもう一度フィールドに入る!アスラン!」

 名前を呼ばれたアスランが肯くと、戦闘の指揮を執り始める。

『レレレレレレツゥゥゥゥ――――レッツ!キリング!』

 甲高いピエロの声が低く響くと、その場の空気が一層ピリ付いた。
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