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カタストロフィ編

43話 伏見青と書いてロリコンと読む。

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「よう……ロリッ娘連れてお出ましかよ、俺への当てつけだろ?羽生」
「……伏見はロリコンだったな、そういえば」

 そう、自他共に認めるロリコンである伏見青からするとペノーはドストライクで間違いないだろう。

「俺を殴ったのはそれが原因か?」
「……半分はな、もう半分は“俺たちをはめた”ことに対してだ」

「ったく……」

 俺が呆れて口を閉じると、隣にいたペノーが珍しく怒った口調で言う。

「太一さんを責めるのは間違ってます!あなた方が太一さんの装備を借りて勝手に出て行った!つまりは自業自得です!って柚夏奈さんも言ってましたし私もそう思います!」

 正論を言っても伏見には逆効果だと思うけどな。

「……全くその通りだな……くそっ」
「う、嘘だろ(伏見が認めるなんて)」

 伏見の印象は基本他人の意見に文句を言う、それを除けばロリコンしか残らないような奴だ。

「俺たちは俺たちだけで行けるって思い上がって、その結果、羽生に貰った装備が普通の装備に戻っただけで盗賊団に敗北してしまったんだ」

 唐突に始まった身の上話などより、まだ伏見が己の非を認めたことが驚きにおいて勝り過ぎていた。

「三人で捕まって、服や装備は奪われ下っ端に成り下がって、俺はかずと尚やんを置いて逃げちまって……盗賊と思って知らないおっさんを殺したんだ……」

 伏見……そんなことがあったんだな。

「そうして犯罪者になった後はずっとビクビクしながら王都を目指して、王様……いや、羽生や委員長に保護してもらおうって考えて移動してたんだ。でも、王都に着いた頃にはお前たち二人はいなくなってて、俺は途方に暮れたよ」

「柚夏奈、委員長が貴族に眼を付けられたんだ……だから王都から逃げた」

「そうかよ、アイテム鑑定士のくせに騎士みたいじゃないか、チクショウ……俺とは大きな違いだぜ。……その後は元の世界に帰りたい一心であの山のように高い場所へ向かったんだ、でも帰れるはずもなく数時間が経った。そして俺は疲れて寝たんだ、空を見上げながら死んでもいいとさえ思っていた」

 そうか、その時に召喚されたわけだ。

「もう気付いてるだろうけど、その時にこの国に召喚されたんだ。無理矢理こんな場所に呼び出され、騎士様呼ばわりされ、契約の紋ってやつを付けようと女がしたけど、俺にはこの鋼の首輪が現れたんだ。その後はエレオノーラが俺を押さえつけて数日間牢屋に入れられ、事情を説明したらエレオノーラのやつに罪人騎士としてこき使われるようになった」

 ペノーや柚夏奈も自業自得と言うだろうけど、俺にはやっぱり俺の責任ってものを感じてしまう。たとえ嫌いなやつでも。

「なのに!お前はそんなカワイイロリッ娘と一緒に現れて!ロリッ娘に抱き付いて目の前でイチャイチャしてたら腹が立ってだな!」

 そんな理由で殴ったのかよ。

「そんな理由で殴ったんですか!許せません!」
「ち、違うんだよ、だってさ、あんなに魔法使われても無傷なんだぜ?俺のグーパンなんてくらわないだろうって考えもあったんだよ~ペノーちゃん」

「……主、どうしてあの時この人の攻撃が当たったんですか?」
「あ~あの時はちょうど俺が反射を除けようとアビリティを外していたからな、無防備なところに丁度だったんだよ」

 俺も別に当たりたいわけではなかったんだよ、普通に伏見の攻撃が不意打ち過ぎたのとタイミングがドンビシャだっただけ。その結果伏見は壁画のようにぺちゃんこにされたけどな。

「だからさ羽生!謝るからエレオノーラのブスに俺のこの鎖解いてくれるように説得してくれよ」
「……エレオノーラのブスって……幼女にしか興味ないってまじでロリコンの極みだな」

 ちなみにエレオノーラさんは普通に美人です。

「ペノーちゃんもそんなに睨まないでよ~、あと、俺にペノーちゃんみたいな人紹介してくれない?」
「……クリーシュさんなら紹介しますよ(私の母の義姉の母ですけど、70代にもなって若い男遊びが好きな人ですけど)」

 ドワーフが死ぬまでロリっ子ってことを知らないであろう伏見には、あえてその事実を隠したままにしておくことにした。ほら、やっぱり夢ってのは壊しちゃ可哀想だしさ、儚いものであってもね。

「ペノーちゃんのお友だちかな?だったら可愛いんだろうな~うらやましいな」

 何度かこうなった伏見を見たことはあったけど、半分演技とかキャラ作ってるんだろうって思ってたけど、ガチなんだな……。

 俺は少しだけ伏見の印象に変化を持ったところで、次はあの話をしなくちゃならない。

「そうだ、木下に会ったんだこのまえ」
「……そうか、俺を恨んでただろうなかずも尚やんもさ……」

「木下は恨んでそうだった、ただ……ケモミミロリッ娘とケモミミ美女を連れててあれはどっちもとやってた感じだった」
「死ね!かずなんて死んじまえ!くそ~!俺だって!俺だってな~!」

「……それで尚斗は死んだって木下が言ってたよ」

 青ざめていく伏見の顔色を見て、不謹慎ながらに名が体を表しているなと思ってしまう。

 その反応は当然の反応だろう、友人が死んだんだ、それも自分が逃げたことがきっかけかもしれないと思えばなおさらだ。

「……尚やん……あれだけ腐った食べ物は食べるなって言ったのに!くそ!」

 そ、そんな理由!は?は!?

「き、木下には死因は聞いてないんだけどさ、尚斗は腐ったものを食べて死んだのか?」
「そうだよ!間違いない!錯乱するキノコを喰ってヘラヘラ笑いながら“ははは!俺は神だ!”って言ってたのが尚やんを見た最後だったんだぜ?俺は怖くなっちまって逃げた先でモンスターに襲われ、盗賊の追手と思って知らないおっさんにナイフ刺して……逃げたんだ」

 尚斗ならやりかねない、前に賞味期限切れのパンを明らかにカビが生えてるのに食べてたくらいだし。

「くそ!尚やん!せめて最後に食いたいって言ってた購買のコロッケパンを食わせてやりたかった!」

 俺が思っていたよりも、コミカルな最期だったんだな尚斗は。

 思った以上に湿っぽくはならなかったこともあって、俺は伏見の首に付けられた鋼の首輪を外した。

「羽生!これお前が外してくれたのか?」
「ま、故意ではなかったにせよ人を殺してしまったことは何かしらの形で償わなきゃいけないだろうけどさ、俺はお前は償えばまともに生きていけるって分かったしな」

「お前……俺の事嫌いだっただろ?なのになんで」
「嫌いだけど、でもこの世界では数少ない同郷の同級生だからな」

「に、羽生!」

 抱き付こうとしたのかガッと前に出た伏見だったけど、その足に付けられた鎖に阻まれ寸前で止まる。

 危うく抱き付かれるところだった、せっかくのペノーの匂いが掻き消えちゃうだろ。

「ペノーちゃん!俺の嫁になって~!」
「あ、主!助けてください」

「……うちのペノーは!やらん!」
「ならクリーシュちゃんを紹介してくれ~!」

 幼女なら何でもいいんだなおい。

 この後、伏見の足枷を解いてエレオノーラが戻るまではこの部屋に留まるようにとだけ言って俺は牢屋を出た。

 魔法学院はいつもどおり、召喚の魔法陣やら召喚の詠唱の練習の声が響いている。

 召喚魔法師を育成しているこの国唯一の魔法学院にしては男がいない。

「この学校男の生徒がいないな、召喚騎士は男ばかりだし」
「聞いてないんですか主、この国の男は魔王領に働きに出ているのですよ」

「ふ~ん、魔王領ね~……ん?魔王領?」
「はい、ルミアリス、武将の魔王という方がいて、その方はアルマヘクトと呼ばれる影の姿をした敵を倒すためにこの国とは同盟関係にあるらしいのです」

 アルマヘクト、忌まわしき影の意味だったような気がするけど、本で読んだ限りじゃゲームに出てくるような敵に似ていてリポップするモンスターらしい。

「エンドちゃんがアレは死霊騎士なるモンスターで、それを操る存在が昔はいたそうです。今では最果ての地の影から産まれているんじゃって言ってました」
「なるほどな……共通の敵がいるこの地ならではの世情ってわけだな」

「しかも、エンドちゃんが言うには……北側の最果ての地にカタストロフィがいるらしいです」
「……まじ?」

 コクコクと頷くペノーに俺は空を見上げて思い浮かべる。

 あ~これ絶対巻き込まれるやつや~。
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